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第七十九話 白衣と四人

 自らを【七つの大罪】のチートを持つ男だと称し、【魔薬中毒】のアスガ リョーだと名乗った黒ずくめの男。


そして一行はその男のアスガの言葉に眼を丸くさせていた。


「【魔薬中毒】? 七つの大罪――それって一体……ねぇヒカル。あいつはどんな力を持ってるっていうの?」


「え!?」


 ミャウから振られた質問に、ヒカルが驚いて振り返る。その表情からは少し戸惑いの様子も窺えた。


「そうだヒカル。確か判ったようなことをいってたよな? 一体なんだんだ?」


 ジンまでもが乗っかって質問してくる。


「ちょ、ちょ……」


「ヒカルさん! 教えてください! あのアスガって人の能力は一体――」

 

 握りしめた両拳を前に突き出し、プリキアも真剣な眼差しで聞いてくる。


「え? あ、いや」


「ふむ。流石大魔導師の弟子じゃな! わしにも判らんことを知っとるとは! さぁ教えるのじゃ!」


 いよいよゼンカイまでもが興味を持ちだしたぞ。ピンチだヒカル!


「そ、そうだ! 僕なんかより、きっと勇者ヒロシ様の方が詳しいに決まってる! さぁ――」


「いや。僕の思ってたのとは残念ながら違ったみたいだ。教えてくれないかい? ヒカル」


 ヒカルはクッ――と唇を噛んだ。そんな返し方が――そのような手があったとは、と言わんばかりの悔しげな表情である。


「ゆ、ゆうひゃひろひゅひゃまが、おしゅえてきゅりぇというとるのりゃ。ひゃやく、りゅうのじゃ~」


 姫様までそんな事を言い出し今更あとに引けない雰囲気が漂っている。

 仕方ないとヒカルは意を決したように説明を始めた。


「ま、魔薬中毒の力っていうのは! そう! すごい魔法なんだ! それはもう! もんのすごい魔法なんだよ!」


「そ、そうなんだ……ヒカルがいうぐらいだから相当なのね――」


「油断できませんね! 魔法防御もしっかりしないと!」


「わしの入れ歯もムズムズ疼くぞい!」


「姫様。今すぐにでも魔法が飛んでくるかもしれません。ご注意を」


「わりゃわは、ひゅひゃしゃまに、みゃもられていりゅので、りゃいじょうぶにゃのりゃ」


「どんな魔法だろうと、勇者の力で打ち砕いてみせる!」


 ヒカルの導き出した答えに皆の表情が変わった。これならば、どんな強力な魔法がこようと堪えられそうである。


「いや。俺は別に魔法なんか使わないけどな」


「………………」


 皆の冷たい視線がヒカルに注がれたのは言うまでもない。


 ちなみに、その後ろで一生懸命ジェスチャーで彼の言う七つの大罪について説明しようとした男が一人いたことなど、誰一人知る由もなかった。


「別に能力のことにそんな興味ないわ。まぁ仲間が全部で七人、更にその上に一人いたというのは収穫やけどな」


 ブルームは一人冷静に内容を考察し、それを言に変えた。


「しかしまぁやっぱ今わいらの街を牛耳るエビスっちゅうのも味方だったんやな。見たところおまんがその薬を創りだして、エビスのやつに売らしてるってとこかい」


「その通りだ。よくそこまで辿り着いたな。まぁだったらもうちょっと詳しく教えてやる。エビスに卸し、あの単細胞に渡したものこそが【魔薬】そして俺の能力は多種多様な【魔薬】を創りだすのさ。元々は自分で使うためだったチートだがな」


「なんじゃと! ならお主も使ったらあの頭とかいうのみたいに、出目金見たく目が飛び出るんかい! キモいのう!」


 ゼンカイは自分の目を飛び出るぐらいに見開かせながら言う。そしてその顔もとにかくキモい。


「い~や。俺はそんな事にはならないぜ。そうだな……その証明にそろそろ試してやろうか。もう十分俺からは教えてやったしな。次は俺が遊ぶ番だ」


 獣の目が怪しく光った。


「クッ……やっぱやる気かいな――」


 プルームが吐き捨てるように言いながら身構える。

 それとほぼ同時に、勇者を含めた一行も武器を取った。


「ククッ……」


 不気味な笑いを一つ発し、アスガは注射を持った手を広げ、針を自分の身へ向けた。が――。


「……チッ。少々喋りの方に夢中になりすぎたか」


 アスガが口惜しそうに述べると、今度は五人、アスガの横に並ぶように大地に降り立った。


「え?」


「うそ……」


「そんな――これは……」


 現れたソレに皆が驚愕といった具合に瞳を見開いた。特に勇者ヒロシに関してはワナワナと身体を震わせ、脅威とも感動とも取れる表情を醸し出している。


「意外と早かったな」


「まぁな。折角勇者とやらが来てるんだ。実験にはこれほど良い相手はいまい」


 五人の内、丈の長い白衣に身を包まれた男がアスガに応えた。汚れ一つない白衣がこの場所においては逆に不気味さを感じさせる。


 短めの黒髪はきっちりと左右に分けられ、素朴なメガネを顔に掛けている。一見生真面目な雰囲気も感じられる男だ。

 だがレンズの奥に宿る爬虫類を思わせるジトついた瞳は、彼が決して光溢れる側にいる人間ではないことを証明しているようであった。


「しっかし見事に復活しやがったな。本当、大したもんだ」


「私の能力は完璧だ。こんな事で失敗はないさ」


 眼鏡の真ん中を押し上げながら、自信に満ちた表情で白衣の男が返す。


「勇者様!」


 すろと突如、ヒロシが右手を胸の前に差し上げ、前に歩み出た。


「私の記憶に間違いがなければ、皆様方こそは、かつて民に崇められし四大勇者。雷帝ラムゥール様・武王ガッツ様・魔神ロキ様・聖姫ジャンヌ様ではありませんか!」


 ヒロシは声を張り上げ、どこか嬉々とした表情で訴えかける。


 だが四人の勇者は何も応えず黙ったままだ。が、その代わりに白衣の男が呟くように言葉を発す。


「……この暑苦しいのがそうなのかアスガ?」


「あぁそうだ。ちょっとオツムは弱そうだが、腕は確かなようだぜ」


「お、おみゃいりゃ! ゆうしゅやひろしゅしゃまににゃんてきょとを! しゅけいじゃ! しゅけいなのじゃ!」


 アスガが頭の上で指をくるくる回す仕草を見せたため、エルミールも切れて文句を口にしながら前に出てしまう。


 すると白衣の男が、レンズ越しの黒目を若干広げた。


「ほう。エルミール王女じゃないか。こんなところで会えるなんてな」


「あん? なんだこいつ王女だったのか?」

 

 意外そうにアスガが顔を眇める。


「……全くそれぐらい知っておけ」


 二人は勇者に顔を向けたまま、互いに会話を交わしていた。すると、その隣の巨体が白衣の男に顔を向け、野太い声を発す。


「主よ。この者達が我が相手となるものなのか?」


「あぁそうだガッツ。ついでに言えばその目の前の暑苦しい男は、今この国で勇者を名乗ってる男だ。皆も挨拶しておくといい」


 白衣の男が眼鏡を指で押し上げながら四人の勇者に命じるように言った。


 すると四大勇者は一つ頷き、その声に従うように四人が一斉に勇者へ顔を向ける。が、彼らが何かを言う前に、表情を歪ませながら、一足早くヒロシが口を開いた。

 


「主? 今主と言われましたか? 一体どういう事ですか! それに……何故今になって復活を?」


 そこまで言って、ヒロシは何かを考えるように顎に手を添える。


「きゃんがえる、ひろしゅしゃま。しゅ・てゅえ・き」


 状況も考えず、頬に両手を添えウットリするエルミール王女。


 そして、姫様! そのような事を言っている場合では……、と眉を落とすジン。


 そうこうしてると、勇者が、ハッ! とした表情を見せ。


「もしや! 魔王を打ち倒すためですか!」


 等と勝手な解釈で話を進めようとする勇者ヒロシであった。が、彼らの回答はヒロシの予想とは異なるものであり、先ず金色の髪を持つその一人が一歩前に歩み出て、その口を開くのだった――。


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