第七十五話 ゼンカイ第二のジョブへ
勇者ヒロシの話によると、遺体が消えた頃と同時期、ここから北に向かった場所に位置する森の中でアンデッドが目撃されているらしい。
森のなかには今は使われていない古い墓地があるようで、恐らくはそこが発生源ではないかと、街なかでは噂されているようだ。
「時期的に見ても相当に怪しいと思うしね。塔をみたらすぐにでも向かおうと思っていたのさ」
得意気に勇者は話してみせるが。
「いい意味で調べたのはわたし」
なるほど。どうやら情報収集は主にこのメイドの仕事なようだ。まぁ確かにヒロシにはそういった調査は向いてなさそうである。
「奪われたのが遺体で、直後にアンデッドが発生か。確かに怪しいわね」
「おまけに北の森かいな。あそこの墓地近くには古代の神殿もあったはずやな。中々きな臭い感じやで」
プルームが顎をさすりながら細目を見開く。
「ゆ、勇者ヒロュ様ぁ、わ、わりゃわはアンデッド相手みゃら、やくりゃってみせましゅう~」
王女は勇者の側に近づくだけでもうメロメロである。この状態で本当に役立つのか? と若干の不安を覚えるが。
「でもアンデッドが絡むとなると、ネクロマンサーの仕業になるかしらね……それにしてもまたアンデッドが相手になるなんてね」
ミャウは山賊退治の際にハイ・ボコールのジョブを持つものを相手にした。その時にスケルトンを相手にしている。
ネクロマンサーもそれと同系統のジョブである。ただ違いとしてはハイ・ボコールは骨からスケルトンを生み出すのに対し、ネクロマンサーは死体そのものを操る力を有しているらしい。
「なるほどのう。つまり勇者の遺体を持ち去ったのも、最強のアンデッドを作り出すつもりじゃからというわけじゃな」
ゼンカイは一人納得したように頷いた。
「でも、それって何か意味がありますかね? 基本能力が高ければそれなりには強いアンデッドも出来ますが、それでも限界があります。知識まで蘇ることはないですし……」
プリキアが瞳を横に逸らすようにしながら、疑問を発する。
「確かにね。それに司教は遺体にも悪用されないよう魔法の力を施していると言っていたしね」
これはミャウ達が塔を案内してもらっている時に聞いた話であった。
まぁどっちにしても、こんなとこでボヤボヤしていてもしゃあないなぁ」
「その通り! 早速でも森に向かわないと!」
「でも、そこの森って距離はどのぐらいあるんだい?」
ヒカルが誰にともなく質問を述べると、プルームが右手をさし上げながら応えた。
「馬車で一日掛かりってとこやな」
「結構時間が」「かかるんだね」
双子がそう述べると、タンショウが確かに、と数度頷いた。
「まぁでもアンデッド退治ならこのメンバーは中々優秀よね。特にエルミール王女のホーリープリンセスは頼りになるし、ヨイちゃんはプリースト、プリキアちゃんもエンジェルがいるものね」
「しょ、しょうにゃのじゃ、ゆうひゃしゃま。わりゃわは、きっとやきゅだててみせりゅのじゃぁあ~~~~」
舌っ足らずな王女の口調にミャウも苦笑いである。
「まぁでも出発するにも準備は必要だな。それと念のため全員の実力も知っておきたいとこだ」
ジンの発言に皆が同調し、其々のレベルを確認した。
すると、大方が前回の激闘で、4~5程度レベルが上がっていることが判明した。
但し元々レベルの高かった、ジン、ミルク、ヒカルは1~2程度の上昇に留まっている。
しかしそんな中、ゼンカイに関してはレベルが15に達している事が判明した。それでもこのメンバーの中では尤も低レベルだが、ネンキンを出た際にはレベル5の転職を終えたばかりだったので、他の皆の倍程度の伸び率である。
「ゼンカイ様おめでとうございます! レベル15なら次の二次職に転職可能ですわ」
ミルクが嬉しそうにゼンカイを湛えた。そしてゼンカイ本人も、おお! とうかれて妙なダンスを披露したのち、ヒロシにむかってドヤ顔をしてみせた。
「どうじゃい! これでお主も、いよいよわしを認めんわけにはいかんのう!」
ゼンカイに指を突きつけられるも、言ってる意味がヒロシには理解できないようである。
「いい意味でボケガ様、ゼンリンが二次職に付けたら認めるといっていたのです」
「ああそういえば、あんた……勇者ヒロシ様はそんな事を言ってたわね」
むむぅっ、とヒロシが表情を歪め。
「でもダンジョンもクリアーしないと、ともいったはずだよね。二次職ってだけじゃあ真の勇者と認めるわけにはいかないなぁ」
ヒロシは中々往生際が悪い。
「ミャウちゃんや。あの山賊のアジトはダンジョンじゃったのう?」
ゼンカイの発言にミャウは小首を捻りつつも、
「まぁ、入り組んでたしそう言えなくもないかな……」
とかなりオマケしてって感じではあるが、同意してみせた。
「というわけなのじゃ!」
「くっ……流石に認めねばならぬか――」
「てか、あんたらの勇者感ってどうなってんの?」
半分呆れたようにミャウが言いのける。
そしてコレ以上そんな話を続けていてもしょうがないと、ミャウ達が切り上げ、一時間後に門のところで集まる事とし、各々は準備の為街に繰り出す事となった。
「わしもついに二次職なのじゃ! 楽しみじゃのう」
ゼンカイはミャウ、ミルクと共にオダムドの街に建てられている転職の神殿にやってきていた。
そして前と同じように神官の前に立ち、転職の儀式を執り行う。
「おお! すごいのじゃ! 何かパワーが溢れるようなのじゃ! これはきっと今のジョブは勇者に間違いないのじゃぁあぁ!」
と叫び上げ、期待の表情でステータスを表示するゼンカイだが。
「勇者じゃなかったわね」
「で、でもあたしもこのようなジョブは初めてみましたわゼンカイ様!」
体育座りで黄昏れるゼンカイをミルクが励ます。
「それにしてもお爺ちゃんのジョブって本当変わってるわね」
「ナウいかのう?」
「え、いやそれは知らないけど」
「素晴らしくかっこいいですわ! ゼンカイ様!」
因みにゼンカイの新しいジョブ名はファンガラルであった。某機動戦士にでも出てきそうな名前である。
「新しいスキルは、入れ歯150%に……ダブルファング? また妙なのが増えたわね」
「そういえばミャウ。前にゼンカイ様の能力で何かに気づいたような事言っていなかった?」
ミルクの問いかけに、あぁ、と思い出したように発し。
「うん。おそらくなんだけどね。お爺ちゃんのその入れ歯~%て、その数値分を防御力無視で相手にダメージを与えるスキルだと思うのよね」
ミャウの発言に、ほぅ、とゼンカイが返し。
「それって凄いのかのう?」
と問い返した。
「凄いですわゼンカイ様! タンショウの力とは逆の形かと……ゼンカイ様の入れ歯は相手に確実にダメージを与える事が可能ですわ!」
ミルクが尊敬の眼差しでゼンカイを見つめる。
ゼンカイも意味が判っているかは定かではないが、再び喜びの踊りを披露した。
こうして転職も無事終えゼンカイ達は必要な道具を揃え、更に装備品も新たに整える。
今回はアンデッドを相手にする可能性も高いとあって、聖の属性が付与された物を選び――そうこうしている間にあっという間に約束の時間はやってきた。
「皆揃ったみたいだね」
「そういえばプルームは?」
「プ、プルームさんは、さ、先に外に出て、ま、待っています」
ヨイの言葉に、あぁそっか、とミュウが納得を示した。
「それでは姫様、馬車を出してまいり……」
「いや、馬車は必要ないですよ」
ジンが王女に言いかけたところで、ヒロシが、言を重ねた。
「ゆ、勇者ヒロシェしゃま。しょれは一体?」
エルミールがポワンとした表情で問いかけると、勇者は爽やかスマイルを見せつけ。
「僕専用の乗り物があるからね。皆もそれに乗って行ったほうが早いよ」
勇者の応えに皆は不思議そうな表情を見せるも、先頭を歩く彼について街を出た。
「やってきたのう。ところで馬車はどうしたんや?」
外で一行を待っていたプルームも疑問の言葉を投げかける。
するとヒロシが、フフン、と鼻を奏で。
そして空に向かって叫んだ――。
「いざ我がもとへ参られよ! マスタードラゴン!」
と――。




