表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/258

第七十二話 神聖都市オダムド

 一行は途中一夜を明かしながらもコウレイ山脈を無事抜け、その後は途中にある宿場で一泊を過ごした。


 宿ではこれまでの道程の疲れが出たのか、流石のゼンカイもはしゃぐこともなく、簡単な食事を終え、ベッドに入り込むなり、鼾をかいて爆睡した。


 結局は皆に起こされ、再び馬車に乗り込み、更に揺られる事数時間。


「皆様、もうすぐ神聖都市オダムドに到着です」

という御者の声が皆の耳に響いた。





 オダムドを囲むように見事なまでの純白の外壁がそびえ立っていた。見上げる程高いソレの末端は少し丸みを帯びたデザインがされている。両端には物見の塔も設置され常に見張りの兵が注意を払っているらしい。


 入り口の巨大な門の前では、十字のマークが刻まれた鎧と盾を持った門番数名と一人の神官が立っていた。

 どうやら街に入ろうとするものは、厳重なチェックを受ける事になるらしい。


 これには貴族も王族も関係がない。ジョブによっては変装を得意とする輩もいるためだ。

 王都ネンキンではこの確認に魔道具も併用していたが、オダムドでは目視と神官によっての魔法によって行われている。


 門の前でゼンカイ含めた冒険者一行、そして王族であるラオンとエルミールも一緒になってチェックを受けた。

 手持ちの荷物から馬車の荷物、更に魔法によってアイテムボックスの中身まで細かくチェックされるのだ。


 勿論これだけチェックが徹底されているのにも理由がある。神聖都市オダムドでは、闇ギルドや裏ギルドなど犯罪に関わるギルドに所属するものは、王都ネンキン以上に厳しくみられ、一切都市への侵入を許されない。

 過去の犯罪履歴あるなしに関わらずである。

 これは一度でも過去にそういったものに所属してる事があれば、例え今が真っ当であっても立ち入りを禁じられる。


 そして、このチェックに引っかかったものが彼等の中にも一人おり――。


「プルームヘッド! お前はアルカトライズ出身で盗賊ギルドへの登録履歴もある! よってオダムドへの立ち入りは禁ずる!」


 彼を除き、皆はチェックを終え門の中に入る事が出来たのだが、最後にチェックを受けたプルームに物言いが入った。


「そういえばあいつ、そういう過去があったわね」


 ミャウが腕を組み、眉を広げる。


「そ、そんな。あ、あの、プルームさんは、わ、悪い人じゃ、な、ないんです! わ、私の事も助けてくれましたし、な、なんとか、な、なりませんか?」


「駄目だ! 規則は絶対である!」


 ヨイが懇願するも門番の意志は頑なであり、とても願いを聞いてくれそうにない。


「まぁしゃあないわな。ヨイちゃんは皆と楽しんでくればえぇで。わいはこの辺ブラブラしとるやさかい」


「で、でも」


「わいの事はきにせんでえぇ。何となくそんな予感はしとったんや。さぁいったいった」


 プルームがそう言って手を振った。ヨイの表情はかなり淋しげである。


「ヨイちゃんや。奴もこういっておるし、好意に甘えようではないかのう。な~に、今生の別れというわけでもないんじゃ。またすぐあえるしのう」


「まぁそういうこっちゃ。どうせすぐ会えるわ。ほな、わいは行くで。皆はヨイちゃんの事宜しくたのんだで」


 そう言ってプルームは、手を振りながら飄々とした歩き方でその場を去って行った。





「それにしても街に入るのも一苦労じゃのう」


 人数も多かったせいか、結局門から街に入るまで1時間も掛かってしまった。

 おかげでゼンカイも辟易とした様子を見せる。


 一行は皆入り口を入ってすぐ馬車から降ろされる事になった。街なかでは馬車を走らす事が出来ないらしい。

 近くに預かり所があるとの事なので、そっちは御者に任せて一行は街なかに脚を進めた。


 プルームが入れなかった事でヨイは今も寂しそうだが、

「彼も外で待ってるのだし、今は楽しみましょう」

というミャウの励ましに、は、はい、と応え笑顔を覗かせた。


「しかしすごい教会の数じゃのう」


 ゼンカイが天を仰ぐように見上げながら、感嘆の声を上げる。プリキアとヨイも初めて入るという事で、かなり感動してるようだ。

 両目をキラキラさせてその立派な佇まいに目を奪われている。


 この神聖都市オダムドは、その名の示すように、神の集まる都市としても有名との事であった。


 幸運を呼ぶ神から正義の神、戦の神、愛の女神など、多種多様な神を崇拝する教会や神殿が多数存在する。


 更にゼンカイが、しっかし白いのう、眩しいぐらいじゃ、と思わず片目を瞑ってしまうぐらい、街全体は白で統一されていた。


 地面に敷き詰められたタイルも白。周囲の建物も白である。


 そしてどの建物も丸みを帯びた作りをしている。この街では敢えて角を持つ作りは禁止してるらしい。だから壁も末端は半円状になってるのか、とゼンカイは納得を示した。


「しかし本当に教会ばっかりじゃのう。お店とかはないのかい?」


「ゼンカイ様。この街では教会がお店も兼任してる事があるのです。例えば武器や防具は戦の神を崇拝してる教会で売られておりますし、野菜なども収穫の神を崇拝する神殿で取り扱っております」

 

 因みに売却に関しては商売の神を崇拝する神殿で、宿に関しては休息の神など、本当に一体どれだけ神がいるんだという感じではある。


「さて、皆の者、大聖堂に急ぐのじゃ! わらわは、そのために来たのじゃからのう」


 王女の言葉に皆が、そういえば、と言った顔を見せた。

 確かに今回の旅はそれが一番の目的である。のんびり観光してる場合でもない。


 ジンの話では宿の手配は御者のほうで行うらしい。

 なのでこちらは、エルミール王女とラオン王子を先頭に、大聖堂までぞろぞろと付いていく形となった。


 まるで大名行列のようである。





「それにしても大聖堂って結構距離があるんだねぇ」

 ある程度歩き進んだところで、ヒカルは息も切れぎれに零した。


「ユーはスタミナが足りないザマス」


 マンサが呆れたように言った。そして皆はすっかりこのザマス口調にもなれていた。聴き続けていると普通に似合ってるなと思うようになってきていたからである。


「まぁ入り口から大聖堂までは5㎞あるから距離はある方よね。ちょっと高台の方になるし」


「我が言葉に歩く事こそ旅の醍醐味なりとあり!」


「兄様の言うとおりじゃ。この街の風景を眺めながら歩くのもオツなものなのじゃ。文句をいうなら死刑なのじゃぁああ~~~~!」


 両手を振り回す姫様に、やれやれまたか、といった顔をジンはみせる。そしてそれは皆も一緒であった。

 全く、一体どれだけ死刑宣告されたか判ったものではない。そして誰も死刑には至っていない。





「さあ着いたのじゃ~~~~!」


 エルミールが大聖堂の前で叫び上げる。

 そして後ろを付いてきていたヨイもプリキアも、どこかうっとりした様子でソレを見上げていた。


 古代の四大勇者が祀られているという大聖堂。そしてこの神聖都市オダムドにおいて尤も巨大で威厳の感じられる建造物でもある。


 作りは他の教会や神殿と同じように角のない施工がなされており、中央の石造りの建物は、天井はドーム状の円蓋が施され、そこから太陽の光を取り入れているようだ。

 そして、その豪奢な建造物を中心に周囲に四本の塔が建てられている。


 得々と話す王女によると、この四つの塔の地下にそれぞれ古代の勇者が祀られており、その魂が中央の聖所に集まると信じられているそうだ。


「よぉ皆遅かったのう。待ちくたびれたやんけ」


 ふと横から掛けられた声に皆が目を丸くさせた。


「プ、プルームさん!」


「プルーム! あんた一体なんでここにいるのよ!?」


「入り口で止められてたはずだよね」「そうだよね不思議だよね」


 皆から何故? という疑問が発せられる中。ほうき頭をゆらゆらと左右に振りながら、なんでもない事のように彼が答える。


「別になんてことはないで。実際前も入った事あるしのう。ただ普通に壁をよじ登って入り込んだだけや。ここは外のチェックは厳しいんやが、中に入ってもうたら、よっぽど不審な行動でもせんかったら気にもされへんからな」


「か、壁って……この壁を?」

 言ってヒカルが遠目に見える壁に目をやった。

 高さは優に20mを超える分厚い壁である。こんなものをのぼり、見張りの目を掻い潜って入りこむなど、どんなに優れたシーフであっても不可能に思えるが。


「まるで忍者みたいな奴じゃのう」


 ゼンカイが素直な感想を述べた。


「いや、こんなのニンジャのジョブを持ってても無理よ。全く呆れるわね」


 どうやらこの国にはニンジャというジョブもあるらしい。なんともレパートリーの多いことである。


「だけどあんた、こんなのバレたら流石に捕まっちまうだろ?」


 ミルクが眉を潜めながら尋ねるも、プルームはヘラヘラと、平気や平気、と返す。


「別に泥棒でもしよう思うとるわけやないし、問題あらへん」


「……気に入った! わらわは気に入ったぞ! お前を家来として雇うのじゃ! わらわの為に働くのじゃ!」


 突然エルミール王女が叫びだし、プルームを臣下に指名しだした。どうやらその身体能力を相当かってるようだ。


「家来? そんなんまっぴらごめんや。わいは王族とかに使われるのはすかんでのう。まぁ堪忍や」

といいつつも、断ることに関して、全く悪いとは思ってないようだ。


「な!? わらわに向かってなんで言い草じゃ! 死刑じゃ! 死刑なのじゃ!」


「我が言葉にさっさと大聖堂に入るべしとあり!」


 エルミールが相変わらずの我儘を爆発させてるなか、ラオンも一人叫んだ。

 いい加減しびれを切らしていたようだ。

 だがそれも当然か。折角聖堂の前まで来ておきながら、さっぱり入ろうとしないのだから。


「むむ、兄様もこういってるし仕方ないのじゃ。入るとするのじゃ!」


 いや、そもそもそれがメインの目的だろうに……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ