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第六十九話 変態VS変体

 注射摂取後、倒れた頭は動かない。

 その姿に、一体何だったんだ? と皆が頭に疑問符を浮かべていた。


「死んでしもうたのかのう?」


 ゼンカイが遠目に見つめながら、誰にともなく言った。


「い、生きてるのでしたら、な、なんとか、した方が、よ、良いでしょうか?」


「うぬが?」

 ヨイの言葉にラオンが首をひねった。何故自分を攫った相手にそのような施しをする必要があるのか判らないといったところか。


「ヨイちゃんや悪は滅びるものじゃよ。しかしのう、本当に優しいのう。わしがめんこめんこしてあげるのじゃ。もしくはわしの胸に飛び込んでくるのじゃ」


 ヨイが再びラオンの影に隠れた。


「なんでじゃい!」

 自分の胸にきけ。


 まぁ何はともあれ、山賊の頭は自滅という結果で終わり――。


「うぬが?」


「うん王子よ。どうかしたのかのう?」


「……我が言葉に殺気あり!」


 ……どうやらそう上手くはいかないようだ。ラオンが瞬時に表情を厳しくさせ、覇王の風格でソレをみた。


 ゼンカイとヨイもラオンに倣いみやる。すると倒れていた頭の身がびくんびくんとリズムよく跳ねていた。


「な、何じゃアレは! ラップか! ラップなのかのう!」


 マンサじゃあるまいし、YO! YO! とは言ってこないだろう。

 そして、時とともにその動きは少しずつ治まっていき、やたらと辺りに響き渡る心音のみがその場を支配した。


「うぉおおぉおおおぉお!」


 突如の頭のハウリング。大気が振動し、洞窟全体もまるで地震が起きたが如く揺れ動く。


「ぐふぅ。ぐふぅ、来たぜ! すげぇぜ! パワーが、パワーが溢れてくるようだぁあぁあ!」


 頭が蹶然と起き上がり、そして蛮声を張り上げる。


 そして頭は平時の二倍ほどまで膨れ上がった目玉を彼等に向けた。

 それだけをみても今の頭が尋常でない状態なのが判るが、更にその身体は筋骨が一気に肥大かしたかのように膨れ上がり、まるで血液が煮えたぎっているかの如く体中が真っ赤に変色してしまっている。


 浮き上がる血管は皮膚の中に直に鎖でも仕込んだのではないか、と思えるほど有り有りと浮かび上がり、ビクン、ビクンと波打っていた。


「ちょっとこれはヤバイのう。ヤバイ匂いがプンプンするのじゃ」

 

 流石のゼンカイもこれには狼狽した様子を見せた。それほど頭の変化が悍ましいのである。


「ヨイちゃん。ちょっと離れておれ!」

「……うぬがぁあ!」


 ゼンカイとラオンがそう命じるように言うと、表情に焦りを見せつつも、ヨイがそれに従い距離を離す。


「うぬが……」

 一つ呟きラオンが数歩前に出た。まるで敵の注意を自分に引きつけるかのごとく――。


 すると、頭とラオンの視線が交差し互いが互いを視認する。


「さぁあってっと。それじゃあ」

 言って頭が首を擦りぐるりと回す。そして――。


「お返しといくかなぁあ!」


 刹那、頭の身が一つの黒い影となり、地面を刳りながら、人間離れした速度でラオンへと迫る。


「よぉ。お前こんなにトロかったっけ?」


 ラオンの目が見開いた。そのすぐ正面に頭がいた。右手に持たれた仰々しい大刀は既に差し上げられ、そして荒々しい刃がラオンの身に降り注ぐ。


「我が言葉に猛孔剛鋼身とあり!」


 磨き上げられた逞しい豪腕を振り上げ、斬撃を防ぐように頭の上でクロスされた。その瞬間、ガキィイン! と頭蓋を打つ鈍音を奏で、折れた刃が宙を舞う。


「んぁ?」

 頭が不可思議そうに首を撚る。


「さ、流石王子なのじゃ!」

 その頼りがいのある背中にゼンカイは覇者をみた。そう、相手がどんな手でその力を上げようと所詮は山賊。鍛えあげられた王子の身体には傷一つ付ける事敵わない。


 そう、思われたが。


「あぁ、そうか、こりゃこれが鈍なだけだな、と!」


 語気を強め繰り出された拳がラオンの脇腹にめり込んだ。その強烈な一撃に、ぐふぅ、という呻きが漏れ、そして口から赤い鮮血が迸る。


「やっぱりなぁ。どうやら下手な武器なんかより俺の拳の方が強そうだな、っと!」


 頭が二度目の拳をラオンの顎目掛け突き上げる。刹那、ラオンの身が消え去り、そして天井からパラパラと土の雨を零す。


「あ~あ、こりゃひでぇシャンデリアが出来ちまったなぁ」


 天井を見上げながら頭が顔を眇めた。ゼンカイも同じように頭を擡げ、その姿を確認する。


 ラオンは見事に土と岩の天井にめり込んでしまっていた。ゴファ! と咳き込むと今度は血の雨がその場に降り注ぐ。


「チッ、きたねぇなぁ」

 頭が不快そうに述べる。その直後ゆっくりとラオンの体躯が天井から剥がれ、そして地面に落下した。


「だ、大丈夫か! 王子! 大丈夫かい!」


 ゼンカイが心配そうに駆け寄った。その声掛けに応えるようにラオンが反転し仰向けになり親指を立てた。

 だが息が荒く、とてもすぐに立ち上がれるようにも思えない。


「いやぁ流石レベル45。タフだなあ。まぁ死なれてもこまるがな」


 そう言って、さてっと、と誰にともなくいうと頭が瞼を閉じる。


「おおすげぇ! レベル66だってよ。ぎゃはは、こりゃ負けねぇわ」


 愉快そうに肩を揺らしながら再び巨大化した双眸を見張る。


「さてっと――」


 首をコキコキと鳴らし、頭がゼンカイに振り返った。


「な、なんじゃ! やる気か! ど、どんとこいじゃ!」

 

「ふむ、とりあえずお前。あぁあれだ。眠ってろ」


 余裕の表情でそう述べた瞬間――頭の姿はヨイの前にいた。

 ヨイが、え? と疑問の声を発した瞬間には右の拳が鋭い曲線を描きながらその震える頬に放り込まれる。


 ミシリッ、と鈍い音がした。直後二つの影が、頭から離れていき、地面に転がった。


「なんだぁ? あの爺ぃ……」

 言いながら頭が右手を振った。その視界にはヨイの身に覆いかぶさるゼンカイの姿。


「ひょ、ひょいひゃん、らいひょうふきゃのう」


 ゼンカイの右手には入れ歯が握られていた。どうやら『(善海)(入れ歯)(ガード)』で何とか防いだようである。


 だが、それを持ってしても全ての衝撃を受けきることは叶わず、ヨイごと吹き飛ばされてしまった。目の前の敵の能力は、それほどまでに高い。


「あ、あたしは、だ、大丈夫です! で、でも、お、お二人が……」

 右の拳を口に添え、心配そうに述べるヨイ。いつもならこの幼気な姿にゼンカイも飛びつきそうなものだが、流石に今回はそんな余裕を持てそうにない。


「わひゃ、わひゃあひゃいじょうひゅ……」

「大丈夫じゃねぇよ、糞爺ぃ」


 何時の間にか距離を詰めていた頭が、今度はローキックをゼンカイ向け繰り放つ。身長差があるため、このままではその胸部を捉えられてしまう。


「しぇいぎゃひゃ!」


 入れ歯がないため、かなり言葉が乱れているが、迫り来る蹴りに合わせるように入れ歯を両手で構えた。その衝撃をどこまで防げるかといったところだが、まともにくらってはまず命がない。


「あめぇんだよ!」


 猛り、頭が脚を跳ね上げるようにして軌道をかえた。胸から顔に目標が切り替わるが、ゼンカイの反応は間に合いそうにない。


「『ビッグ』!」


 ヨイが唱えた瞬間、ゼンカイの入れ歯が巨大化した。


「ふんぬぉん?」

 ゼンカイが驚き、思わず入れ歯に押しつぶされそうになるが。


「こ、堪えてく、ください!」


 ヨイの必死な叫びにゼンカイの瞳が光る。そう幼女の声はゼンカイにとって活力! 狂気と化した蹴り足がその歯を捉えたが、ゼンカイは巨大化した入れ歯を両手で押さえつけ完全に防ぎきった。


「チッ!」


 自らが放った蹴り足が、巨大化した入れ歯に防がれた事によって、頭の口から思わず舌打ちが零れる。


「だったら、そのわけのわかんねぇ物ごとふっ飛ばしてやるよ!」

 

 怒りの形相で頭がゼンカイの入れ歯に拳や蹴りを乱打する。だが、ゼンカイは必死に堪え、けっして退こうとしない。


「クッ! なんだこれはぁあ! こっちはレベル66もあるんだ! こんなものが! こんなものがああぁ!」


「我が言葉に猛孔剛拳波とあり!」


 ラオンが叫び、そしてスキルが発動された。衝撃波が頭の横腹を直撃し、そして軽く吹き飛んだ。完全にゼンカイに集中しきっていたため、思いがけない攻撃に虚をつかれたのだ。


 だがダメージはあまり受けてないようで、空中で一回転し、何事もなかったかのように着地する。


「くそが! どういうことだ! なんでてめぇもう回復して……」


 そこまで言って頭が瞳を滑らせた。そして何時の間にかラオンの側に移動していたヨイの姿を認識し、悔しそうに歯噛みする。


「そうか、てめぇのジョブ、さてはプリーストだな。チッ、やっぱりとっとと気絶させとくんだったぜ」


 額の血管がより激しく蠢いた。どうやら彼の怒りは更に深まったようである……。

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