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第六十五話 ほうき頭とメガネ女

「このへんが怪しい思うんじゃがなぁ」


 プルームはゲスイとの戦いを終え、道を戻りながら、壁を探って回っていた。


「うん? ここが怪しいのう」


 ある程度目星を付けていた為、プルームがソレを見つけるのはそれほど大変ではなかった。


 彼は壁の一部に掌を置き、そしてゆっくりと押していく。するとその一部がゴゴゴッ――という重苦しい音を奏でながらその力に従って押し込まれていった。


 そして再びの重い音。隣の壁が真上へ持ち上がり、そこに丁度人が一人はいれるぐらいの穴を作り上げた。


「さて何が潜んでおるんかのう」


 独りごち、プルームは穴の中に脚を踏み入れた。すると再び背後で、ゴゴゴッ、と音がなり、壁が閉じられた。


 プルームの目の前には細長い道が続いていた。ご丁寧に魔灯が設置されているため中は明るい。蛇のようにぐねぐねしてはいるが、分岐のようなものはなく、一本道を暫く歩き続けた。


「なんや。わりと殺風景なとこやのう」


 細長い一本道を抜け、プルームが辿り着いたのはドーム状の空洞であった。天井が高く、件の巨人が数体ぐらいは余裕で収まりそうである。


「で、時折こそこそ動き回ってたのはあんたかいのう」


 木製の机を前に、同じく木製の椅子に座っている人物にプルームは声を掛けた。

 奥の壁際にいるため距離は離れていたが、声が良く通るため聞こえてないということは無いだろう。


 この空洞には現在プルームとその椅子にすわる人物しかいない。また目立って目につくのも床の文字と、奥の机や椅子が一つずつぐらいなものである。


 プルームが声を掛けたその人物は暫くは背中を見せていたが、徐ろに立ち上がると、彼を振り返った。


「なんや。女だったのかい」


 プルームが少し驚いたようにそう述べると、彼女はかけている丸メガネの縁をくいっと押し上げる仕草を見せ、そのレンズの奥の大きな瞳を彼に向けた。


 黒髪の女で髪は後ろで一つに縛り垂れ下げている。着衣はローブにも似た白衣。ただ材質はプルームの知っているものとは少し違う。


 白衣の前を開け広げ、ボタン付きのシャツが顕になっていた。地味めなパンツを腰で履いている。脚はスラリと長い。スタイルは中々のものだろう。


「アポもなしに入ってくるなんて失礼な人ね」


 女は高音で綺麗な声を発した。ただ、どこか刺々しい雰囲気もある。


「……アポ? なんやよう判らんが、どうも気になってしまってのう。こっそりおじゃまさしてもろうたわ」


「悪いけど私、貴方みたいなのは趣味じゃないわね」


「まあそう邪険にせんでぇなぁ」


 プルームはいつものように、ヘラヘラとした物言いで述べる。


「ふん。まぁでもここを見つけられたのは褒めてあげるわ」


「あんがとさん。まぁわいは鼻が聞くからのう」


 女はレンズの奥からプルームを値踏みするように見つめた。そしてプクッとした桃色の唇を開く。


「で? 貴方は私を倒しにきたのかしら?」


「う~ん否定はせんがのう。その前にニ、三聞きたいことがあるんじゃ」


「……何かしら?」


「おまん、闇ギルドの上の方の奴の事は知っとるかのう? ……いや、知っとるよな?」


 ヘラヘラしていた表情を一変させ、どこか殺意めいたものを感じる声音で問い詰める。


「……中々怖いわね。まぁ知ってるといえば知ってるかな。でも応える気はないわ」


 そう言って、女はフフッっと不敵な笑みをこぼす。


「じゃったら多少強引な手でいかせて貰うことになるで? わいは女だからって容赦はせんでのう」


「あら。それは無理よ。だって貴方弱いじゃない」


「……随分と自信があるようじゃのう。わいの鼻はあんたはそこまでじゃ無いと言っとるで」


 女は左手を胸の前に置き、右手でメガネを押し上げながら応える。


「確かに私自身はそうでもないわ。でも子供達は中々のものよ。貴方もみたんじゃない?」


 その言葉に、成る程のう、とプルームが返し。


「やっぱりあの化け物達はお前の仕業やったか。しかし妙な力持っとるようやのう。これは予想じゃが、あんたもトリッパーやろ?」


 瞼を軽く閉じ顎を引きながら女が応える。


「そうね。確かにトリッパーと言われてる存在ね。そして私達は大きな罪を背負ったもの、とも言えるかしら。だから持ってるチートもかなり強力よ」


「……やっぱりそうかい。しかし、ちゅう事は仲間が色々いるっちゅう事かい。つまりわいの予想通りおまんらはそっちの関係者って事やな」


 女は閉じた瞼を開け大きな瞳を再び覗かせる。


「……さぁ? ご想像にお任せするわ。ところであなた折角きたのはいいけど、本当にこんなところで油打ってていいの? お仲間の事は心配しないで?」


「……まぁあいつらは上手くやるやろ。それにヨイちゃん捕まえとる頭は大したことあらへん」


「そんな高をくくってていいのかしら?」


「あんさんが何も知らんだけや。あの爺さんも中々じゃが、一緒に付いてる王子さんもそうとうな手練やからな」


「……そう思うのは勝手だけどね。まぁでもかなりここの連中もやられちゃってるみたいだしね。こっちは色々試せたからいいけど、でももうここには要はないし、立ち去らせてもらうわ」


「……何言うとんじゃ。そんな簡単に行かせはせんで。大体こんなどん詰まりでどう逃げる言うねん?」


 プルームがそう問うと、女が薄い笑みを浮かべ言を返す。


「逃げる? 私はただ去るだけよ。それに出口は貴方の足元にあるじゃない」


 言われてプルームは視線を落とし床の文字と印をみた。


「成る程のう。転移の陣かい。つまりこれであの魔物達を送っとったちゅう事か」


「そのとおりよ。ついでに言えば今さっき最後の実験体を送ったところね」


「さっき? 一体どこに……」

「もう時間切れよ。私ももうこんな息苦しいところに痛くないし。帰らせてもらうわ」


 プルームは床にペッと唾を吐き捨て女を睨めつける。


「そうはさせん言うとるやろ」


「いえ。貴方は何も出来ないわ」

 言って女が懐から何かを出した。透明な細長い筒で、その上部を彼女は人差し指と親指で摘んでいる。

 その中には緑色の液体が注がれていた。


「さぁ生まれなさい」

 言って女が床にソレを零した。すると緑色の液体が床に広がり、そして膨れ上がったかと思ったら何かの形を形成していった。


 そして……その出来上がった者を見て、プルームが後方に飛び退く。背には空洞と繋がる細長い道。その息は荒く、ほうき頭を揺らしながら滲んだ汗を拭っている。


「あら? どうかしたかしら?」


「クッ! 流石にソレは卑怯やな。わいでも流石にソレを相手にする気にはなれんわ」


「あら? 鼻が効くってのは本当みたいね。でも安心して。そのまま消えるなら殺さないでおいてあげる」


「チッ、しゃあない引き下がったるわ。じゃが、そうじゃのう、せめて名前ぐらい教えといてくれんかのう?」


「……まぁいいわ。特別よ? ハルミ。それが私の名前」


「……よう覚えとくわ」


 プルームはそう言い残すと、瞬時にその身を消した。気配も完全に断ち切っている。元シーフである彼ならではの能力と言えるだろう。


 そんなプルームを見送った後、ハルミは深く息を吐き呟く。


「やっぱりコレは強力ね。あとはもうちょっと時間が持つようになれば……」


 そしてハルミは再びソレを筒に戻し、陣の真ん中に立った。


 そして女が詠唱を行うと、地面に魔法陣が浮かび上がり、青白く発光したかと思えば、ハルミの身体を粒子状に変えそしてその身体は消え去った。


 直後、空洞内が激しく揺れ、そして轟音と共に天井が崩れ魔法陣ごと全てを飲み込んでいく――。

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