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第六十ニ話 呪いと骨の魔術師

 その奥には急ごしらえで作られたと思われる祭壇が祀られていた。

 それだけをみれば、こんなところにも随分と信心深い者がいるのだなと感心してしまいそうだが、立てられた十字架にかけられている、ヤギの頭に螺旋状の角が生えたオブジェを見ると、その気持は一変し、何か不気味な物をみているような気持ちに襲われてしまう。


 そしてそれに輪をかけるように異様なのは、そこの地面に多量の骨が敷き詰められていたことだ。


 骨は獣から魔物、更に人間の者と思われるものも混じっていた。その空間内の怖気の走る光景に、ミャウも思わず眉を顰めてしまう。


 ヒカルに関しては顔は青ざめ完全に目を背けてしまっていた。全く本当に冒険者なのか? と疑ってしまうほど肝が座っていない。

 これならば顔を引き攣らせながらも、相手の姿をしっかり視界に収めているプリキアの方がよっぽど冒険者らしいといえるだろう。


「ようこそ皆様お揃いで。いやいやこのヘドスキン皆様を歓迎いたしますぞ。ところでどうかなここは? 最初見た時はあまりに殺風景だったのでつい自分好みに改良してしまってな。どうだ? いい部屋だろう?」


 浅黒い肌のスキムヘッドが両手を差し広げるようにしながら何気に自慢した。が、ミャウは一つため息をつき、

「はっきりって悪趣味ね」

と否定の言葉を返し腕を組む。


「ふふっ、なるほどなるほど。まぁいつだって信仰の厚い人間に理解を示さないものは存在するものだ。嘆かわしいことだがね」


「……信仰といったってどうせ暗黒神でしょう」


 その質問に、愚問だ、と応え。


「我々闇ギルドのメンバーが崇拝するのは暗黒神以外ありえん。もっとも自由で優れた神なのだからな」


 ヘドスキンは更に両手を大きく広げ、恍惚とした表情で述べる。見開いた双眸でその三白眼がより際立ち不気味さを増した。


 彼の手に持たれた悪魔を形容した杖も、その身に纏われたローブと肩から掛けられたショールにも暗黒神を崇拝するものが好む意匠が施されている。


 それだけを見ても彼の信仰の厚さは本物といえるだろう。尤も一般の人間からしてみたら暗黒神というのは悪の象徴以外の何物でもないのだが。


「それでその信仰のあらわれがこの大量の骨ってわけ?」

 嫌悪感を露わにしミャウが問う。


「これは只のオブジェだよお嬢さん。まぁ全て本物ではあるがな」


「あの、そういうのはオブジェって言わないのでは?」

 ミャウの横に立つプリキアがそう返し眉を顰めた。


 ちなみにヒカルはその骨の後ろで小刻みに肩を震わせている。この中では唯一の男性のくせに情けない限りだ。


「可愛らしいお嬢ちゃん。私に取って骨と呪いはハイ・ボコールとしての象徴でもあるのだ。ご存じないとしたら不勉強ですな」


 ヘドスキンは軽く瞼を閉じ、教えを説くように述べる。


「まぁなんにせよ到底貴方とは分かり合えそうにないわね――」

 言ってミャウが瞳を尖らすと、それは残念だ、と剃り上げた頭を傾けため息を吐く。


「先に聞いておきたいんだけど、ここには……まぁみればなんとなく判るけどあんたらが連れ去った女の子はいないのよね? オオイ・ヨイという名だけど」


「おかしな事を言われるものだ。話ではあの娘はパートナーが約束を破った事で、その契約に従い頂いたとの話だが。連れ去ったというのは少々乱暴ではないか?」


「あのね。そもそも人を掛けにするような契約が有効なはずないでしょう? とにかく返してもらわないとね」


 ミャウの言葉にヘドスキンは再度、大きく嘆息をつく。


「闇ギルドに取ってはそれとて立派な契約。ここにはその娘はいないが、そのような事を言われたのでは、このまま黙って見過ごすわけにはいかないな」


 褐色の男はその厚い唇を結び、その瞬間から、纏う空気がどこかどす黒いものに変化した。


「こっちは三人もいるのよ? 一人で相手するなんて正気じゃないわね」

 そう言いながらもミャウの額には微かに汗が滲み出てきていた。

 プリキアも眉を寄せ真剣な表情で相対するが、どことなく表情が固い。その両隣ではブルーウルフがグルルと唸り臨戦体勢を取りノームが木槌を構えた。


「まさか貴方がたは数で有利だから勝てると思われてるのかな? だとしたらそれこそ不勉強だ! ハイ・ボコールの私に数の差など無意味!」


「ブックマン。彼のレベルは!?」

「……48だよプリキア」


 ブックマンの応えにプリキアが目を見張った。


「4、48だって!? じょ、冗談だろ?」

 後ろのヒカルが明らかな動揺を見せた。が、ミャウが振り返り。


「びびってないでさっさと詠唱して! 何かやってくる気よ!」


 声を尖らせると、は、はい! と言ってヒカルが詠唱を始めた。いくら魔力の量が多いと言っても魔法の行使には詠唱が必要だ。

 しかも強力であればあるほど、詠唱にかかる時間も長くなる。ぼーっと見ている暇などないのだ。


 ミャウはヒカルに命じた後、再び視線をヘドスキンに戻した。すると彼はゆっくりとその逞しい腕を伸ばし握っている杖を掲げた。


「心汚れし竜骨よ――わが魔力を喰らいたまへ――その力、黒き魂と換え――我が命に従いし傀儡と成れ――【ボーンドール・ドラゴン()スカル()ウォー()リア()】!」


 ヘドスキンが叫びあげると地面に敷き詰められた骨が次々と集まりだし、何体もの骨の化け物を作り上げていく。


「こ、これは?」


「ははっ。これは私のとっておきの竜骨と人骨を組み合わせた骨人形。とはいえその実力は折り紙つきだ」

 

 得々とヘドスキンが話した。彼とミャウ達の間には、竜の頭骨を持ったスケルトンが八体作り上げられた。


 生気の感じられない暗い穴がじっと三人を見やりカタカタと骨を揺らしている。

 その右手には同じく骨で作り上げられた剣と左手にも骨の盾が握られていた。


「ヒカル! 早く呪文!」


「だ、駄目だ……」


「はぁ!? なんでよ!」


 思わずミャウが怒りを露わにするが。


「ごめん氷の系統詠唱していた……相手が骨じゃ――す、すぐやり直す!」


 ミャウが額を抑え天を仰いだ。


「あははは。中々頼りになる仲間だ。だが私は容赦はせぬ。さぁ行け!」


 ヘドスキンの命で骨の竜戦士達が動き出した。


「くっ! だったら【ホーリーブレード】!」


 剣を抜きミャウがスキルによる付与を込める。すると刃が目に見えて輝きを増した。


「ほう、聖なる付与を与えたか。確かにそれなら骨達には有効だろう――勿論当たればの話だが」


 やぁああ! と気合を込めミャウが骨戦士に斬りかかった。が、その一撃は盾で受け流され泳いだ身体に骨の剣が振るわれる。


「くそ!」

 ミャウは瞬時に身体を捻りその回転をいかしながら間合いの外に飛び退いた。敵の一撃は空を斬るが、かと思えばすぐに体勢を直し、元の構えに戻った。


 その動きは骨とは思えないほど精錬されたものである。


 一方プリキアの側では彼女の召喚した下僕達が、少女に近づけまいと必死に竜の骨戦士達と戦いを繰り広げていた。


 まずブルーウルフが一体目掛け二匹同時に骨の首に食らいつく。だが相手は命をもたない骨戦士である。その攻撃は意味をなさず動きを阻害することも叶わない。

 

 そこに鎚を振り上げたノームが飛び上がり、頭蓋目掛けてそれを振り下ろした。が、その一撃は盾により防がれ、さらに骨戦士の振るった横薙ぎにより斬り裂かれ、そして消失した。


「ノーム! そ、そんな」


 プリキアが両手を口に添え嘆きの言葉を吐き出した。だがその間に骨戦士三体の強襲を受け、ブルーウルフ二匹も消え去ってしまう。


「あ、あ――」


 三体の窪んだ闇穴が彼女の姿を捉えた。反対側の壁際で戦っていたミャウも彼女のピンチを察し叫ぶ。が、

「プリキアちゃん! ミャウ! 離れて!」

とヒカルの声が空間内に木霊した。


 その声に反応し、ミャウは敵から距離を取るようにバックステップで後退し、プリキアもヒカルの背中側に潜り込んだ。


「――集約されし業炎よ。その力開放し弾け飛べ! 【エクスプロージョン】」


 ヒカルガ呪文を唱えあげると、空間の中心に炎の球が出現し、それが一気に膨張し、弾け、爆炎が広がった。劈くような轟音と衝撃波は三人の身にも訪れるが、ヒカルの宣言により距離を離していた為、巻き添えを喰らうことはなかった。


 爆発が止み視界も顕になった時、三人の視界にドラゴンスカルウォーリアの姿は無かった。


 どうやらヒカルの爆発の魔法の力で粉々に砕け散ったようだ。

 ホッと胸を撫で下ろす一行。だがあのハイ・ボコールが立っていた場所にはあの爆発から守るように、巨大な白い壁が出来上がっていた。


「流石に本体は簡単にはやられてくれないわね……」

 ミャウがそう呟くと、厳かな声が洞窟内に響き渡る。


「【ボーンドール・ドラゴン()スカル()ウォー()リア()】」


 白い壁の向こう側から発せられた声で、再び彼等の目の前に八体の竜骨戦士が姿を現した。


「じょ、冗談だろう……」

 げんなりした声でヒカルが呟き、プリキアも、そ、そんな~、と細い声を発す。


「どうやら……本体を叩かないとダメそうね――」

 眉を引き締め、奥歯を噛み締めながら、ミャウが壁の向こう側にいるであろう人物を睨めつけた――。

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