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第五十六話 山賊のアジトへ

「わが言葉に山賊のアジトあり……」


 木々の隙間から洞窟を覗きみ、ラオンが囁いた。先ほどまでの声音は流石に抑えられている。


「プルームの地図の通りだったわね」


「だけど何かおかしいね。随分と見張りが多いみたいだけど」

 

 ミルクもラオンと同じように木々の隙間から、洞窟の入り口をみやり怪訝そうに眉を顰める。


 確かに彼女の言うように入り口の前には五人の見張りが立ち、おまけにどこか緊張感のある面持ちで左右を見回している。


「全く。やっと来てくれたんか。待ちくたびれたでぇ」


 ふと一行の側面から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 そしてその頭が彼等の目に入る。プルーム・ヘッドである。


「ちょ、あんたがどうしてここにいんのよ?」

 ミャウが驚いたようにそう尋ねると、プルームは後頭部を掻きながら、罰が悪そうに事情を話してきた。


「呆れた。それじゃあヨイちゃんを残したまま逃げてきたってわけ?」


「それは聞き捨てならんのう。一旦体勢を整えようとあんたらを待ってたんやで」


「お前が逃げたことにかわらんだろうが。情けない男だ」


「全くじゃ! 幼気な幼女に何かあったらどうするのじゃ!」

 

 皆からの非難の声を浴びるも、プルームは開き直ったようにへらへらした態度で返す。


「大丈夫やろ。あいつらはトリッパーの事を貴重な人材と考えとる。そんな無茶な事はせぇへんよ」


 なんて事はないという雰囲気を滲ませるプルームに、だからって、と返そうとするミャウ。だがそこに彼が言葉を重ねる。


「それになぁ。あのままいたらわいは間違いなく死んでおった。それぐらいの相手や。あんたらかて油断したら……いや本気でもどうなるか判らへんで」


 その言葉に皆の顔つきが変わる。


「そ、そんなに強いのかい?」

 ヒカルが恐る恐る聞いた。


「あぁ。強いでぇ。わいの見立てじゃ、ゲスイって馬鹿はともかく、ヘドスキンというおっさんと、イロエっちゅう姉ちゃんは最低でもレベル40以上ある――」


 その言葉に、4,40だって! と歯牙をむき出しにヒカルが驚く。


「まさかそこまでなんてね」


「うぬが!」


 ミャウも動揺の色を覗かせ、ラオンは意味もなく声を発した。


「だからジンのおっちゃんにも来て欲しかったところじゃがのう。あのおっちゃんもレベル40ぐらいは超えてたはずじゃからのう」

 

「え? そんなはずはないわよ。確か19だって言ってたわよ」


「アホかいな。そんなんまだ信じとったんかい。あんなバケモン一人で相手出来るのにそんな筈ないやろ。敵に本当のレベルが知れないよう魔道具で誤魔化してたんじゃ」


 その言葉に、そ、そうだったんだ、と返すミャウだが、表情は合点がいったという感じである。


「そういうことやから、ヒカルいうたな。あんさんもその腕輪もう外してえぇで。もう誤魔化していてもしゃあないからのう」


 プルームがヒカルにそう告げると、え? と彼は驚いたように右手の腕輪をみやった。


「何だ。お前もそんな小細工してたのかよ」


 ミルクが顔を眇め言うと、ヒカルは慌てながら、

「いや。そんなの知らなかったんだ。出発の前日に師匠のとこにいったらこれをくれて――」


 ヒカルの話を聞くにどうやら師匠のスガモンはこの作戦の事を知っていたようだ。


 そしてヒカルもその腕輪を外しアイテムボックスへと送った。


「ところで……あの、やっぱりラオン王子殿下はこのまま残って様子見をしてもらったほうがいいような――」


 ミャウが恐る恐るそう聞くが、ラオンは首を横に振るばかりである。


「その王子様は強情やで。今回の作戦も王子自らが行くんは反対されてたらしいんやけど、頑固として聞かんかったらしいわ。まぁ王国の武官が下を巻くほど腕が立つっちゅう話や。好きにさせとくといいやろ」


「うぬが!」


 プルームの説明に同調するように、ラオンが頷く。その瞳からは確かに頑固たる決意が見て取れた。


「まぁそう言われちゃしょうがないんじゃないかい?」

 ミルクの問うような確認に、ミャウはため息を吐いて同意した。表情を見るに仕方なしといったところではあるが。


「ほな、まずはあの見張り共からちゃっちゃと倒してしまおうかのう。準備はえぇか?」


「あ、ちょっと待って下さい。その前にブックマンお願い!」

 プリキアが命じると、待ってましたと言わんばかりにブックマンが前にでて木陰から、敵達を観察する。


 プリキアの傍には他にも先ほどの戦いと同じ、ノーム、ブルーウルフがいた。召喚は、アジトに到着する手前で済ませていたのである。

 そして、今の彼女のレベルでいえばこれがベストメンバーらしい。


「判ったよ」

 ブックマンが戻り、プリキアに敵の能力を伝えた。そのレベルは多少の差異はあれど、皆12~13程度である。


「それだったら楽勝だね」


「でも待って。倒し方はちょっと考えないと。ここはヒカルの魔法で目立たないように――」

「アホかい。こんなとこで無駄なMP使うほうがもったいないわ。それにどう倒そうがわいらの事はすぐ知れるでぇ。あそこに五人も見張りおいてるのも、わいらがやってくることを想定しての事や。そんなんやったら詠唱する手間よりさっさと飛び出して一気に倒した方が早いやろ」


 正直ヒカルのMPに関してはチートのこともあるのでそれ程心配もいらないのだが、それ以外の点に関しては同意出来る部分もあった。


「それじゃあ、まずわいがこれを投げつけるから後は一気にいくでぇ」

 そう言ってプルームは以前見せたことのある、【ホーミングブーメラン】を取り出した。


「ほないくでぇ!」

 言ってプルームがブーメランを見張りの集団目掛け投げつける。と、同時に皆が一斉に見張り立ち目掛けて飛び出す。


 プルームの放ったブーメランは追尾の能力が付与されており、仲間たちにあたることなく、まず敵を怯ませ、直後一行による一斉攻撃で見はり達はパニックに陥った。


「うぬが!」

 ラオンが叫ぶと同時に敵の一人を殴り飛ばした。相手はレザーアーマーを装備していたが、彼の一撃の前では紙切れを纏ってるのとかわらなかった。

  

 敵は放物線を描きながら数メートル先の大木にぶち当たり、そのまま意識を失ったようであった。その鎧にはしっかりと拳の跡が刻み込まれている。


 そしてその間にも、ミャウが一人、ミルクが二人と片付け、最後の一体は双子の兄弟が同時に剣を振るい切り捨てた。


「なんじゃわしの出番ななかったのう」

 どこかつまらなさそうに言うゼンカイだが、ミルクが近づき。


「ゼンカイ様は秘密兵器ですわ。今のうちに力を蓄えておいて頂きませんと」


 にっこり微笑みながら言うミルクに、ゼンカイは両拳を握りしめ、おお! と興奮する。


「秘密兵器か! かっこいいのう! ナウいのう!」


「全く単純な爺さんやなぁ」


 秘密兵器と称され浮かれる爺さんに、プルームが呆れたように言った。


 そしてプルームは徐ろに洞窟の横穴を覗き込み、鼻をひくつかせる。


「……なるほどなぁ。ほなここからはわいが先導するでぇ。皆はしっかり付いてきてなぁ」


 プルームは顔だけで振り返り、皆にそう伝えた。


 そして洞窟の中へ進んでいくプルームの後を皆が付いて行くのだった。





 洞窟の中はヒカリゴケやストロボゴブリンという魔物のおかげで、ランタンなどを用意する必要がない程度には明るかった。


 よくよく見ると、洞窟の壁の所々には松明が掛けられているが、使われている様子はない。あくまで補助的な意味合いが強いのだろう。


 一行は細長い通路を、一列に並びながら突き進んでいく。先頭はプルームで殿はミルクである。ラオンはミルクのすぐ前に付いていた。


「ストップや」


 プルームがそう言って脚をとめた。その先では道が少し左右に膨らんでいる。


「なんじゃ? どうしたんじゃ?」

 

 ゼンカイが尋ねるも、プルームは直立し返事はせず再び鼻をひくつかせた。


「……【アイテム:バウンドボール】」

 プルームが右手にアイテムを出現させた。黒鉄色の球が四つ。それを指に挟み持っている。


「何なのそれ?」

 ミャウが物珍しげな物をみるような顔で尋ねる。


「わいはなぁ。珍しいアイテムとかが好きでなぁ。これも以前見つけたものでのう。鉄並に硬いくせに弾力性が強いんや」


「で、それをどうする気なんだい?」

 今度はヒカルが質問する。


「それはなぁ。こうするんや!」

 言ってプルームは斜め下の地面に向かってバウンドボールを投げつけた。


 そしてボールが当たった瞬間、壁から弓矢が飛び出し、更にバウンドするボールの動きに合わせるように、爆発や天井からの落石等が続く。


「な、何ですかこれ!?」

 後方にいたプリキアがトラップの発動する音に驚いて声を上げた。


「これは」「きっと」「誰かが」「仕掛けた」「トラップ」「だね」


 ウンジュ、ウンシルの兄弟がリズミカルに述べると、プルームがそうや、と返答し手元に戻ってきたボール四つを見事キャッチした。


「まぁ言うても仕掛けた奴がヘボやからのう。こんなんあからさま過ぎてバレバレやでぇ」


 プルームが後手を回し、皆を振り返った。白い歯を覗かせ楽しそうに言うが、トラップに気付けるようなものは、この中では彼だけであろう。


 そしてトラップを破った一行は更に歩みを進めるが、罠はそれだけでは収まらず、一定間隔ごとに何箇所も仕掛けられていた。

 だが、それらは全てプルームの手によって解除されていく。


 そのプルームの手腕に、この時ばかりは皆も彼が仲間であった事に感謝したという――。


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