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第五十五話 王子様とお姫様

 幌馬車から降り立ち、今度は金髪におなじく金色の目を有した少女が皆の前に姿をさらした。


 その、いかにもお姫様といったキラキラの髪はくるくると根本まで巻かれている。

 ぱっちりとした大きな双眸はまるでフランス人形のようでもあり、小柄な身体とあいまってとても可愛らしい。


「て、こっちは本当に王女様だったのね……」

 流石に先に王子の姿を見せられているので、それに比べれば皆も驚きは少ないが、それでも動揺の色はそこはかとなくあらわれている。


「はっ!」

 ミャウが何かに気づいたようにそれを見た。そこには妙なオーラーを纏ったゼンカイの姿。


 その顔が引きつる。口端もぴくぴくうごめいている。そう、これはまずい。ミャウもいつも通り止めに入りたいとこだが怪我があって動きが鈍い。


「こ、今度こそお姫様じゃ――」


 そう! ミャウの不安が的中し、今まさにゼンカイが暴走モードに突入しようとしたその時! 剣先がその鼻に突きつけられた。


「姫様に近づくな!」

 瞬時にゼンカイの前に立ち、剣を抜いたのはジンであった。その身のこなし流石である。


 それをみたミャウがほっと胸を撫で下ろした。そして今回ばかりはミルクも安堵の表情を浮かべている。


「の、のう――」

 ゼンカイのオーラは空気の抜けた風船の如く萎んでいった。だが、寧ろこれはジンに感謝すべきであろう。


「それにしても王女様までここにいたなんてね――その上、さっきまで私達の仲間として行動を共にしていたなんて……」


 ミャウが誰にともなく述べる。するとジンが剣を鞘に納めミャウを振り返った。


「下手に馬車の中で大人しくしてるよりは、護衛の俺と一緒にいたほうがいいと思ってな。ま、姫様の願いでもあったのだが」


 なるほどのう、とプルームが発し。


「木を隠すなら森のなかっちゅう事かい」


 そう話を紡げた。


「てかあなた護衛だったの? ムカイの仲間でなくて?」


「違うぜ。そう言う風に見えるようにはしてたがな。むしろ俺たちを今回の依頼に誘ってきたのはそっちのあんちゃんだ」


 ミャウに名をだされたムカイが、口を開き、そしてその太い指でプルームを指した。

 それに対しプルームは戯けたように手を降って返す。


「え? て事はもう一人って――」

「ヨイちゃんやな」

 

 言下にプルームが応えた。

 するとミャウが嘆息をつき、頭を振る。


「あんたにいいように騙されてたみたいで何か癪に障るわね」


 その顔を見てプルームが愉快そうにケタケタと笑った。





「我が言葉に妹あり!」

 天をも震わせる声音で、ラオン王子が妹を紹介した。


「お兄様にはいい加減その喋り方を直して欲しいものなのじゃ」

 王女が呆れたように瞼を半分ほど閉じて言う。


 そしてその後、改めて皆に向かって自分がネンキン王国王女エルミール・アマクダリである事を伝えてきた。


「しかし可愛いお姫様じゃのう。めんこいのう。抱きしめたいのう」

 ゼンカイの少女に対する反応は相変わらずである。


「お爺ちゃん」

 ミャウが叱咤するように、ジト目でゼンカイを見やる。


 だが、そんなゼンカイにビシッと王女が指を突きつけ言った。


「貴様! わらわの口調を真似るんでない! 不愉快じゃ!」


 その言いぶりに、皆が目を丸くさせ、ゼンカイも、の、のう、と呟き数歩後ずさる。


「それじゃ! それをやめいと言うておるのじゃ! 良いか! これは命令じゃ!」


 ぐいぐいとゼンカイに近づいてきて、ビシビシと指を突き立てる姫様に、流石の爺さんもたじたじであり――。


「おおそうじゃ! ならばわしと姫様が心を通わせればいいのじゃ! さぁ姫様や! わしと心と心の交流を!」


 何故そうなる。


「お爺ちゃんやめなさいって!」

「そうですゼンカイ様! あたしというものがありながら!」

 

 二人が制止の言葉を吐き出すが、構うこと無くゼンカイがその身に向かって飛び込んだ。


 が、直様大地にむかってべちゃりと踏みつけられる。


「いい加減にしろじじぃ」

 ジンが眉間に皺を刻みながら、爺さんの頭をぐりぐりと踏み潰す。


 流石にこれにはミルクも、貴様何をする! と抗議した。

 すると、ふん、と鼻を鳴らし彼はその脚を外す。


「全く愚か者じゃのう」

 地面に貼り付くゼンカイを見下ろしながら、王女が微笑を浮かべた。


「良いか! わらわの高貴な身体に触れていいのは勇者様ただ一人なのじゃ! それ以外のものには指一本たりとも我が身体を触れさせはせぬ!」


 その言葉に、勇者様?、とミャウが眉と両耳を広げた。


「そうじゃ。あぁ勇者様――護衛の仕事であればきっと受けて頂けると思うていたのに。これだけ集まる中、勇者様の姿がないとは――わらわは悲しいのじゃ」

 

 皆に背を向け、物悲しげな声で気落ちを吐露する姫様。


「てか勇者って勇者ヒロシの事よね――」


「死刑じゃ!」

「えええぇえぇええぇええええええええ!」


 振り向きざまに指を突きつけられ、更にその口から告げられた死刑宣告にミャウが驚き両耳もピンっと張る。


「わらわの勇者様を呼び捨てにするとは断じて許せぬのじゃ! 死刑じゃ! 死刑なのじゃぁあ!」


 そう言ってぶんぶんと両腕を振り回す王女は正直大人げない。


「わが言葉に流石にそれは無茶だろうとあり!」


「ラオン王子殿下の言うとおり、それは無茶ですよ姫様」


 王子とジンの言葉に、むぅう、と納得出来ない顔ぶりをみせながらも、

「ならば今度からはちゃんと勇者様と呼ぶのじゃ! でないと次は死刑じゃ!」

とミャウに忠告する。


「全く無茶な姫様だ」

 ミルクが呆れたように言った。


「でも可愛い……」

とこれはヒカルの言葉。





 姫様の登場で色々と話しがそれたりもしたが、その後プルームやジン、王子と王女の話を纏めたところ、今回は王女の護衛と山賊の壊滅を兼ねた旅であった事がわかった。


 コウレイ山脈に現れる山賊の被害に関しては、王子の耳にも届いてきており、それで対策に講じたということだ。それに丁度姫様の毎年の儀礼の時期が重なったこともあり、今回の作戦が立てられたらしい。


「だったら最初からそういっておけばよかっただろう。わざわざ隠さなくたって」

 ミルクが不満を口にした。メンバーの中には口にはしないまでも同様の気持ちが顔にあらわれているのもいる。


「まぁ一応念のためさ。それに雰囲気で王族っぽいことぐらいわかっただろう? それぐらいの緊張感の方が丁度よいぐらいなんだよ」

とこれはジンの言い分。


「さてっと。それじゃあわいはそろそろ行くでぇ。ほなこれ」


 そう言ってプルームがジンに一枚の紙を手渡した。


「そこがアジトや。わいは先に戻っておくから頼んだで。ほな、また」


 言ってプルームがその身を翻した時、待って、とミャウが引き止める。


「ヨイちゃんは大丈夫なの?」


「あぁ大丈夫やろ。作戦がうまく言ってると思ってるうちは手荒なまねせぇへんわ」


「だったらいいけど……」


 眉を窄めるミャウに軽く手を上げ、プルームは木々の中へと消えていった。


「我が言葉に準備有り!」


 プルームが去った直後、王子がそう叫ぶ。話としてはラオン王子を筆頭にアジトに向かうメンバーと、この場に留まるメンバーとの二つに分けるという事であった。


「ところで姫様は名前もジョブも偽りだったのかい?」


 ミルクの問いに、ふん! と王女は鼻を鳴らし。


「馬鹿にするでない! わらわはプリーストどころか、ホーリープリンセスという高貴なジョブを持っておるのじゃ! その辺の低レベルな冒険者と一緒にするでない!」


 その小生意気な物言いにミルクも不愉快そうではあるが、流石に王族とあってか気持ちを若干顔に滲ませる程度で収めた。


「だったらミャウの傷を治してくれないか? このままじゃ作戦にも影響が出るだろ?」


 その願いに、

「ふん! 先ほどの娘か……まぁよい。ほれ傷をみせぃ」

と言ってミャウに近づき傷口に手を近づける。


「聖なる神よ。我が願いにおいて――」

 王女が詠唱するとミャウの傷が光に包まれていく。


「なんか暖かい――」


 ミャウが気持ちよさそうに呟く。少し経つとその猫耳もだらんと左右に垂れてきた。


「さぁもういいぞ。それも抜くがよい」

 王女は眼で、ミャウの太腿に刺さる矢を示した。ミルクがそれに応じ、力を込めて矢を抜く。が、出血などはみせない。これも王女の癒しの力の賜物だろう。


 そして傷口はみるみるうちに塞がっていき。僅かな跡さえも残さなかった。


「さぁ次はこっちじゃな」

 言って王女は今度はその青く腫れた頬にも癒しの力を注ぎ込んだ。


「凄い! 流石回復魔法ね。完全に治っちゃったわ」

 回復魔法による治療も終わり、ミャウが喜び勇んで立ち上がる。


「当然じゃ。わらわの偉大さを知ったか? もっと褒め称えるがよい」

 王女が胸の前で腕を組み、ドヤ顔で言いのける。


「エルミール王女様。本当にありがとうございます」

 ミャウは王女に向かって恭しく頭を下げた。


 それに気を良くしたのか、王女は更にミルクや傷を負った者を次々と癒していく。


「これで準備は万端ね!」


「それじゃあ、洞窟に向かうのと、このまま王女を護衛し続けるのと分かれなきゃね。勿論僕は王女の護衛に――」

とちゃっかりアジト行きを免れようとしたヒカルであったが、その願い叶わず。

 

 アジトに向かうのは、タンショウを除いたミャウ一行とマンサのパーティからプリキア、ウンジュ、ウンシルが選ばれた。


 タンショウを残すことになったのはいざという時、そのチートが姫様の護衛に役立つからである。ジンに関しては姫の護衛がメインである為、最初からそのように言ってきた。


「なんじゃお主。姫様にべったりじゃのう。もしかしてアレか? ホのじかい? このこの! なんじゃ? ロリコンか? この! この!」


 姫様の護衛をするために残るといったジンを誂うようにゼンカイが肘で突っつく。


「おい。この爺さんの首をはねていいか?」


「いいわけないだろう! 殺すぞ!」

 言下にミルクが凄んで彼を睨みつける。


「お、お爺ちゃんも私達の大事な仲間だからそれは勘弁して」


 ミャウが引き攣った笑顔でそう述べると、ふん、と鼻を鳴らしジンが身を翻した。


「全く洒落の通じない男じゃのう」


「本当ですね。ゼンカイ様」


「貴方達二人は、基本考え方がずれてる事を心に留めておいた方がいいわね」


 ミャウが呆れたようにそう述べた。


 その後、とりあえず土砂崩れで防がれていた道を、タンショウやミルクが退け、いざという時の退路を整えた。


 そしてアジトに向かう面々の準備が整うと、ラオンが先頭に立ち吠え上げる。


「我が言葉に出発あり!」

 

 こうしてラオンの声が空に轟いたのを皮切りに、山賊のアジトへと一行は出発するのだった――。

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