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第五十四話 護衛されし者達

――ここで、少しだけ時が遡り件の山道。


 プルームの指し示す方向に、漢は目を凝らしていた。


 すると、プルームが瞬時にその背後にまわり、彼の首を絞める。


「ぐぇ、ぎ、ぎざ、まぁ」

「悪いのう。ちぃとばかし眠っててもらうでぇ」

 プルームが絞める力を強めると、ばたばたと蠢いていた漢が次第に大人しくなっていき、そのまま地面に倒された。


 プルームはパンパンと埃を落とすように両手を叩き、一行の方へと振り返る。


「ちょ、あんた一体どういうこと?」

 ミャウが疑問符の浮かんだ表情で問うと、プルームは顎を掻きながら、

「あぁ、そうやなぁ。説明せんとなぁ」

と応えていつもの軽い調子の笑みを浮かべた。


「お、おお! プリキアちゃん気がついたのかい!」


 と、そこでゼンカイの嬉しそうな声が響く。


 ミャウは一旦プルームの事は置いておいて、地面に手をつき腰を持ち上げた。


「ほら。肩をかしてやるよ」

 そこにミルクが近づき、腰を落としてミャウの腕を自らの肩に回す。


「あ、ありがとう」

「いいって。それより……ひどい怪我だな。大丈夫かい?」


 ミルクの問いかけに苦笑を浮かべながらも、うん、なんとか、と返すミャウであった。





 プリキアの目覚めを皮切りに、ヒカルや双子の兄弟、そしてガリガという名のメイジも次々と目を覚ましていく。


 一行はその面々の身体の調子などを確認するが、少しの間ぼ~っとしていたぐらいで、意識がはっきりしてくると、いつも通りの調子に戻っていった。


 その様子に取り敢えずは、ほっと胸を撫で下ろすゼンカイ達。


 そしてゼンカイは、寧ろミルクに支えられるミャウを心配した。支えているミルクも脇腹に矢の後は残ってるものの、彼女は物ともしていない。


 だが、ミャウに関しては顔の腫れといい、太腿の傷といい、到底無事とは言えないものであった。


 しかし心配そうに声をかけるゼンカイにミャウは、大丈夫よこれぐらい、と笑顔で返す。


「こんなに怪我をするなんて……気絶なんかしちゃって……自分が情けないです」

 プリキアがミャウの怪我をみてしゅんとした表情で目を伏せた。


「シット! マイハニーにダメージをプラスしたメンズをミーは絶対に許さないよ!」

 マンサも怒りを露わにするが、その相手は既に事切れている。


「皆これぐらい本当に大丈夫だから」

 ミャウは右手を横に振りながら苦笑交じりに返した。

  

 するとミルクが視線をずらしジンをみやる。

 

「あのエールって奴はどうしたんだ? あいつはプリーストなんだろ? 回復魔法が使えたはずだ」


 ミルクが口を開くとゼンカイが、おお! と興奮したように。


「だったら早く呼ばんかい! ミャウちゃん苦しそうじゃろが!」


 そう捲し立てた。


「二人共ありがとう。でもそれは後でも大丈夫よ。それよりプルーム。説明して」

 ミャウは気にかけてくれる二人に感謝しつつ、今は自分の怪我よりも裏切り者と思われた彼の事が気になるようであった。


「全くなかなか頑張るネェちゃんやのう。まぁええわ。ほな簡単に説明するけどなぁ。わいはハナからこの山賊共の撲滅に協力するのが目的だったんや」

 

「……て事は彼等の仲間のフリをしていたってこと? でもなんでそんな事? それにそれが目的ならなんで私達を襲ったりするのよ?」


 続けざまにミャウから発せられた質問に、プルームが、それはなぁ、と言いかけた時、彼等の護衛していた馬車の扉が開かれた。


 そして中から御者が現れ、お待ちください、と口をはさむ。


「そこから先は、ご自分で説明したいと申されております」


 御者の言葉に皆が目を丸くさせる。


「てことは公女様が顔を見せてくれるってことかい?」

 ヒカルが御者に尋ねた。が、頭を軽く下げただけで詳しい返しはない。


「おお! お姫様がついにみれるのか! ツンデレじゃろ? ツンデレお姫様のおなりじゃ!」

 突如ゼンカイが鼻息荒く興奮しだした。


「て、なんでツンデレなの?」

 ミャウが眉を広げ不可解そうに質問する。


「当前じゃ! 貴族のお姫様はツンデレと昔から相場は決まっておるんじゃ!」

「……お爺ちゃんの価値観ってよく判らないわ」

「当然だ。ゼンカイ様の広い御心は、あたし達になど図り知れるわけがない」


 三人がそうこういってると、御者が扉の前で深々と頭を下げた。

 すると、扉から一つの影が抜け出て、大地に降り立つ。


 その姿に皆は目を見張った。


 眩いばかりの金色の髪。

 大きな胸部。

 引き締まった腰。


 そしてそのものは地に足を付けるなりこう言った。


「わが言葉に説明の文字あり!」


「…………てかどうみても漢じゃぁああああ!」


 彼の猛々しい声に合わせて、ゼンカイも吠えた。


 そう、目の前の人物は、モミアゲの長い少々固そうな金髪に、彫りの深い顔立ち。

 恐らくは2mを超えるであろう上背で胸板も恐ろしく厚い――そうまるで世紀末の覇者のような姿形をしていたのだった。


 そして、頭のなかではすっかりツンデレお姫様を想定していたゼンカイはショックのあまり項垂れる。


 が、そんなゼンカイとは別に、目を見開いたまま固まっていた一行。


 どうやら彼等は別の意味で驚いているようだが――。


「も、もしかして――」

 ミャウが表情を強張らせながら言を発する。


「あ、貴方様は、ラオン王子殿下では……?」

 ミャウが恐る恐る聞くと、彼、ラオン王子殿下は、うぬがっ、と言い、コクリと頷いた。


「騙された! ツンデレ姫かと思えばなんとこんなゴツイ漢が出てくるとは! 騙されたのじゃーーーーーー!」


 誰も騙してなどいない。


「て、お爺ちゃん口閉めて! 不敬もいいとこよ!」


 ミャウが叫んだ。当然である。


「良かったやないけぇ爺さん。憧れの人物とご対面やでぇ。なぁ王子様。この爺さんずっとあんたの馬車の前で守ってくれてたんやで? 何かお礼せんとなぁ」

 プルームが愉快そうに笑いながらいった。ゼンカイも中々に失礼な爺さんだが、彼も王子を前にしてもその態度を変えようとしない。


 そんな彼の顔をミャウが睨む。が、プルームは口笛を吹きながら知らん顔だ。


「わしの……ツンデレ姫が……ツンデレ姫が……」


 ゼンカイが口惜しそうにそんな事を呟いていると、ラオンが彼の目の前に立った。

 逞しい腕を胸の前で組み、強い願力でその姿を見下ろしている。


 途端に顔が青ざめるミャウとミルク。


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! 本当にお爺ちゃんが失礼なことばかり――で、でもお爺ちゃんに悪気はないんです! ただ馬鹿なだけなんです!」

 ミャウが必死に弁明する。が、ラオンは厳かな表情のままゆっくりと口を開いた。


「べ……」

「……べ?」


 ゼンカイが目の前の覇者の一言目を復唱した。すると突如身体をゼンカイから背けるように斜めに向け、さらに言葉を紡げる。


「べ、別にうぬに助けてくれだ等と、た、頼んだ覚えは、な、ないのだからな!」


「…………」

 そして一瞬時が止まった。その沈黙の中ラオンの両頬は紅く染まっている。

 

 そしてゼンカイは叫びだす。


「つ――ツンラオじゃああああぁあ!」

「何言ってるのお爺ちゃん!」


 そんなゼンカイに速攻で突っ込むミャウなのであった。





「我が言葉に嘘偽りなし!」


 改めてそんな言葉を叫びあげたあと、ラオンは彼等に説明を始めた。


「我が言葉に依頼者であるとあり!」


 だが、基本的に、我が、から始まる王子の話はどうにも途切れ途切れになってしまい、皆は理解に苦しんだ。

 

「まぁつまり、今回の仕事は護衛というよりは山賊退治がメインだったって話だよ。で、ギルドの依頼も元はラオン王子の手配によるものだったってことだ」


 横からそう説明を加えて来たのはジンであった。


「て、何であんたがそんな事を知っているのよ?」

 ミャウが眉を顰めながらも問いかける。

 すると今度はマンサが口を挟んできた。


「プリーズクエスチョン? という事はミー達にきたプリンセスのガードミッションも実はライアーだったってことなのかYO!」


 その問いに、あぁそれは、とジンが口を開こうとすると――。


「ジン。もうわらわも出てもよさそうじゃな。全くいつまでこんな見窄らしいところに入れておくつもりなのじゃ。失礼な奴じゃのう」


 その声は幌馬車の方から聞こえてきた。

 皆はそれに反応し、馬車の方を見やる。


 すると、従者と一緒に消えていたエールが姿を現した。これまで顔を隠していたフードを外し――。


「申し訳ありませんエルミール姫」

 ジンはそう言って深々と頭を下げた。


 そして、彼と姫のやりとりに再度皆は目を見開き驚いてみせたのであった――。


 


 

 




 

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