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第五十三話 闇ギルド

 プルーム・ヘッドの応えを聞き、頭はその目をじっと見据えた。

 まるで彼の真意を推し量るような、そんな瞳であった。


 だが、頭は一度瞼を閉じ、そうか、ご苦労だったな、と労いの言葉を掛けたあと再び鋭い双眸を覗かせる。


「で? 他の奴等はどうした?」


「後から戻ってくるで。とりあえずわいが知らせの為に戻ってきたんや。何せ思ったよりも手こずったというのもあるしのう。人質を連れ帰る手間もあるでなぁ」


 ふむ、と頭は腕ぐむ。


「しかし手こずるとは妙な話だ。お前の情報が正しければあの面子で負けるとは思わないがな」


「いうてもわいは最初、人数を揃えていったほうがいいと言うたはずやで。あんな知能の低いもんじゃその代わりは務まらんわ」


「ふん。あれを見てそんな事をいえるなんて大したタマだな」

 

 頭の言葉に、そうでもないでぇ、とヘラヘラと返す。


「まぁいい。で、仕事が成功したって証明ぐらいはあるんだろうな?」


「あぁあるで。ほれ」

 言ってプルームは頭に何かを放り投げた。それを受け取り手の中の物に目を向ける。


 それは髪飾りであった。王族のものしか持てないとされる特別な意匠が施さえているものである。


「……なるほどな。抜け目ない奴だ」


 髪飾りから再びプルームに視線を巡らせ、頭が言う。

 すると彼は両手を頭の後ろに回し、へらへらした顔はそのままに口を開く。


「で? これでヨイちゃんは戻してもらえるんやろ? 全くいくら信用されてへんからって離れ離れにさせるなんて酷い話やで」


「……あぁそうだな。連れてきてやらんとなぁ」


「はよ頼むでぇ。わし寂しくて死にそうやわぁ」


「口の減らないやつだな。まぁそう慌てるなよ。ヨイという子の前にお前に会わせたい者がいるんだ」


 その言葉にプルームの眉がピクリと蠢く。


「会わせたい? 一体誰かのう。わいに会いたいなんて酔狂なのがいるとも思えんがのう」


「まぁそういうなよ。彼も寂しがってるぜ」


「全くだぁ。邪険にするなよぉプルームぅ」


 その声はプルームの背中側から聞こえてきた。そう彼が辿ってきた洞窟の横穴の向こうからである。


 プルームは怪訝な表情を浮かべながら声の方へ振り返る。そこにはダークブラウンのフードを被り同色のマントを羽織った小男が立っている。


 だがプルームはその小男を見ても何の反応も示さなかった。ただ黙って立ち尽くす。


 しかし逆にプルームのことを知っていると思われる小男は、痩せこけた両頬をひくつかせるようにして笑い声を上げ、言を続ける。


「冷たい男だなぁ。お前俺の事を忘れたのかぁ? 前に大切な仕事を邪魔されたゲスイだよぉ」


 所々間延びしたしゃべり方が鼻につく男だった。プルームは終始無表情であったが普段から人を喰ったような態度をとる彼からしたら珍しい事でもある。


「どうだ? 覚えているだろう? そいつの事は」


「……さぁ。どうやろうなぁ。最近わい忘れっぽくてなぁ。判らへんわ」


「ごまかすなよぉ。顔に覚えてるって書いてるぜぇ。それにそっちが覚えてなくても俺は忘れられないなぁ。てめぇのせいで折角名を売れそうな大仕事が水の泡になっちまったんだからなぁ」


 ゲスイの言葉に、くくっ、とそのほうき頭を揺らす。


「そんなん、あんさんの腕が足りないからやろ? わいに逆恨みされてもこまるわぁ」


 ゲスイはカメレオンのようなギョロギョロした瞳を瞬かせたあと、クキャ! と妙な笑いを見せた。


「確かになぁ。あの時の俺はまだ腕が足りなかったぁあ。だから色々仕事をこなしてなぁ、闇ギルドでも認められるぐらいにはなったんだぜぇ」


 唇を引き締め、プルームの片目が見開かれる。


「そういう事だ。この男は我らのギルドでも中々役に立っている」


 今度は別の誰かの声が頭の側から聞こえてきた。低くどこか厳しい感じのする声であった。


「……誰や、あんたら?」


 プルームが振り返り問い質す。そこには見覚えのない人物が二人いた。

 一人が恐らくは先ほどの声を発したのであろう。

 青黒いローブを着衣し、肩の上から目玉や悪魔の姿が意匠された赤茶色のショールを掛けている。


 その右手にはミミズがのたうったような文字の刻まれた黒色の杖を持っていた。杖の上部には悪魔の翼を生やした像が取り付けられている。


 男は浅黒い色の肌を有し、髪の毛は全て剃り上げられていた。丸く大きな双眸を持ち、堀の深い顔立ちをしている。

 

 身長は180㎝を優に超えるだろう。身体つきもしっかりしていた。


「ふふふ。わりと可愛らしい顔してるじゃない」

 浅黒い男の隣で妖艶な笑みを浮かべるは、随分と卑猥な格好をした女であった。

 胸の谷間を露わにし、さらに股間のぎりぎりまでぱっくりV字に開いた服装をしており、臀部も3分の1程外にはみ出している。


 となりの男よりも更に黒い肌をもち、ただ髪の毛に関してはそれとは真逆の白。首筋辺りまで伸びた髪は、前髪に関しては右側だけが口元まで達するほど伸びており、その右目を完全に覆い隠してしまっている。


 そしてその右手には随分と細長い剣が握られていた。


 プルームは、右の男に関してはダークプリースト系のジョブである事がすぐに判った。


 ただ雰囲気から察するに一次職や二次職には思えない。


 だとすると最低でも三次職である、【ダークビショップ】や【ハイ・ボコール】辺りは想定しておかなけれればいけない。


 もう一人の女に関しては戦士系である事が想像される。ただ格好と武器からは詳しいジョブまでは掴み切ることが出来ない。


 そしていわずもがな、最初に声を掛けてきた男はシーフ系のジョブの者である。


「君の質問に答える前に――たしかこの頭の話では、ザロックに良くしてもらってるとか?」


 プルームは一瞬だけ口を噤んだが、すぐに首を斜めに傾けながら質問に答える。


「あぁ。そうや。で、それがどないしたんかい?」

 今度はプルームから問いかける。すると、浅黒い男は瞼を閉じ、顎を軽く引いて微笑を浮かべた。


「なんや。感じわるいやっちゃのう」

「プルーム」

 言下に頭が呼びつける。


「この二人だが、こちらの旦那が【ハイ・ボコール】のヘドスキン様で、こっちの姉ちゃんが、【ブラッドソーガ】のイロエだ」


 二人を紹介する頭の話を、プルームは黙って聞き続ける。


「そしてなぁ。ここからが重要なんだが、あのゲスイも含めたこの三人はアルカトライズの闇ギルド【カオスバンク】のメンバーなんだ。お前、それについて何か知ってるか?」


「……何かって何をや――」


 すると、ヘドスキンが両手を広げながら、勿論、と口を挟み、

「君のいた裏ギルド【ロックハート】が最近我々のギルドに吸収された事をですよ」

と冷笑を覗かせながら述べる。


プルームはしばらくは黙りを続けていた。だが頭が顔を眇め、その大口を開く。


「お前、最初にあった時にはこの事は言わなかったよな? これは一体どういうことだ? なぁ、おい!」


 恫喝するような言葉を最後に加え、頭がプルームを睨めつける。


 が、プルームは眉間に皺を刻みながら、

「吸収やと? あんさんらおかしな事言うのう。あぁいうのは強奪って言うんじゃないけぇ」

と頭から視線を外しその横に並ぶ男女二人を睨む。その声には忌々しいという感情が込められていた。


「ふん。それはもう白状したようなもんだな。全くこんなもんまで用意してなぁ」

 言って頭はプルームから渡されたペンダントと髪飾りを取り出す。


「そんなペンダントまだ持ってる人がいるなんてね。あのギルドのメンバーは殆どこっちに寝返ったっていうのに」

 イロエは人差し指を口に添え、不敵な笑みを零した。


「殆どを殺したの間違いやろが――」

 プルームが気色ばむ。声音には憎悪に近いものが滲み出ていた。


「くくっ。まぁどっちにしろお前が裏切り者だったのは確かってわけだ。まぁそういうわけだからあのお嬢ちゃんは好きにさせてもらうぜ」

 

 頭がいやらしく唇を歪める。


「……わいの事は最初から疑ってたということかい」


「ふん。まぁそれに関しては闇ギルドの旦那たちのおかげだがな。ちょっとしたツテで計画の直前にてめぇの正体を知ることが出来たってわけだ」


「ツテねぇ。だけどなぁおっちゃん。このギルドに協力してもらうって事は、あんさんは元のギルドを裏切ったって事かい」


「それは違うな。そいつのギルドもお前のいたところと同じように俺たちのギルドに吸収されたのさ。まぁそっちのマスターは素直だったから金だけで解決したみたいだがね」

 

 ヘドスキンが淡々とした口調でそう述べる。


「あぁ成る程ね。それでわいのことも知れたって事かい。まいったのう。わいもやきがまわったわ」


 そこまで言って、くくっ、と含み笑いをみせつつ、けどなぁ、と言葉を続ける。


「あんさんらのギルドも随分派手にやっておるようやのう。かなり金もバラまいてるようだし、ようそんな資金があるもんやわ」


 するとイロエが、ふふっ、と不敵な笑みを零し、掌を頬にあてて口を開いた。


「あんたも知ってるんじゃないかい? うちのマスターはトリッパー。彼の持ってるチート能力はいくらでもお金を生み出すの。だから資金なんかに困りはしないわ」


 プルームはその言葉に肩を竦めて返す。


「羨ましい能力やな。わいもご相伴に与りたいわ。どうやわいも仲間に入れてくれへんか?」


 プルームが軽い感じにそう述べると、その場の四人が小刻みに肩を揺らした。


「悪いが、お前の事はもう必要ないんでな。ここで死んでもらうぜ。まぁ安心しな。あのお嬢ちゃんは成長途中の貴重なトリッパーだ。お前が考えているような真似はしねぇよ。ちゃんと丁重にもてなしておくぜ」


「なんや。茶でも振る舞うんかの」


 にやけながらプルームがそう述べると、頭は真顔で、

「全く本当に口の減らない野郎だ」

と言を吐き捨てた。


「プルームぅ。お前の処刑は俺が直々に行ってやるぜぇ」


 プルームの背中側から鼻につく声がねっとりとまとわりついてきた。

 彼は眉を一度顰めるも、懐に手を入れる気配を察し、上空に飛び上がる。

 

 すると彼のもといた足元にナイフが数本突き刺さった。


「ちいいぃい!」

 ゲスイが悔しそうに歯噛みする。


「悪いけどなぁ。わいもまだこんなところで死にとうないんやわぁ」

 そう言いながら、プルームは懐から指に挟めた数個の黒球を取り出し、そして地面に向けて投げつける。


 地に叩きつけられた珠は、パンッ! という音を鳴らし弾け、灰白い煙を周囲に広げた。

 その場にいる全員の視界が煙で防がれるなか、プルームは出口に向け一気に加速する。


「逃すかぁああ!」

 叫びあげゲスイが煙の中で懐から取り出したナイフをありったけ投げつけるが、その全てが空を切り、壁に突き刺さる。


「ちっ!」


 ゲスイが舌打ちすると、視界を妨げていた煙が薄くなり、皆の姿が顕になった。


「あ~あ。逃げちゃったねぇ」

「どうしますか? 追手を出しますかい?」


 頭がヘドスキンに尋ねるが、彼は、いや必要ないだろう、と返し。


「どうせまたすぐ戻ってくるだろうさ。こんどはしっかりターゲットを引き連れてな。それにこっちにはアレのパートナーもいる」


 そう言って不敵に唇を歪めるのだった――。

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