第五十話 裏切り者
「ミ、ミーをヘルプしてくれた事には、イエス! サンキューだYO!」
プリキアの前まで駆け寄り、その小さな肩を揺らすゼンカイに、同じく心配からか近づいてきたマンサが、珍しくお礼のようなものを述べてきた。その隣にはマゾンも一緒であり、かれもマンサに倣って頭を下げている。
「何じゃ。うるさいのう。そんな事は気にせんでもよいわい。それより仲間の事を心配せんかい」
ゼンカイの言葉に二人は一旦顔を見合わせるも、すぐに顔を戻し、
「イエス。ミーもツインズやプリキアの様子をアイズしてみたけど、息はしてるし気絶してるだけみたいSA」
「あぁ。俺達も大分良くなったし、あの化物を倒したなら時期に回復するんじゃないか?」
二人の言葉に、一度嘆息をつき、ゼンカイは立ち上がる。
「全く呑気な奴等じゃのう」
呆れたように述べるゼンカイだが、そこへミルクが口を開く。
「でもゼンカイ様。確かに彼女の呼吸も整ってますし、顔色も悪く無いです。とりあえずは命には別状はないと思いますよ」
その言葉にゼンカイは納得するように頷く。確かにマンサとマゾンも彼らが言うように大分回復してるようにもみえる。この調子なら気を失ってる者たちが目覚めるのも時間の問題かもしれない。
「ミャウちゃんや。そっちの様子はどうじゃ?」
ゼンカイが尋ねると、ミャウが振り返り、
「こっちも似たようなものね。まだ起きないけど問題はなさそうよ」
と返してきた。そして今度はその顔をジンの方へ向ける。
それにゼンカイも倣うとムカイとハゲールの二人も起き上がり、頭を振っている。どうやら彼等も無事なようなのだが……何か違和感を覚える。
「ねぇ? エールってプリーストはどこいったの?」
ミャウが声を張り上げジンに問いかけた。その言葉にゼンカイも、そういえば、と心中で首を撚る。
ミャウの疑問が示すように、先ほどまでジンと一緒だったエールの姿が見当たらないのだ。記憶では確か巨人が動き出した辺りまではいたはずなのだが。
そう思いつつゼンカイもジンをみやる。だが彼は一旦顔を眇め髪を掻きむしるがそれ以上の言葉はない。
その態度にミャウは怪訝そうに眉をしかめた。
が、その時、木々の隙間から空気を切る音と共に何かが一行に向け飛んでくる。
「マイハニー!」
マンサが叫ぶとほぼ同時にタンショウが彼女の前に立ちソレを塞ぐ壁となった。
盾に遮られた事で、カカカン! という小気味良い弾き音が響き、木製の矢が地面に落ちた。盾にぶつかった衝撃で、箆は真ん中から二つに折れていた。みたところ鏃の部分は鉄製である。
「オー! マイハニー! 大丈夫かYO!」
「ミャウちゃん怪我はないかのう?」
ゼンカイとマンサの二人が駆けつけほぼ同時に声をかける。
「えぇ。タンショウくんのおかげで大丈夫だけど――」
そういいつつ、ミャウは矢の放たれた方へ視線をやった。マンサとゼンカイもそれに倣う。
「一体誰だい! こそこそ隠れてないで出てきな!」
ミルクが怒気を込めて林の向こう側へ言い放つ。
だがそれに対する応えは、返事ではなく二度目の射撃によって行われた。一撃目よりもかなり数が多い。
「スイーツ!」
「なんの!」
マンサはどうやら甘い、といいたいようだが、そのウザイしゃべりとは裏腹に動きは機敏だ。矢面に立つようにしながらその手に持つ盾を斜めに向け、上手く弾いていく。
そしてもう一人近くにいたゼンカイも、入れ歯を巧みに使い、矢弾を受け止めていった。
入れ歯はもともとかなり頑丈な為、その歯茎に刺さることもなく、次々と粉砕されていく。
タンショウに関しても、その身体の大きさから、尤も便りになる壁と化している。何せあの炎からも仲間を守りぬいた程だ。この程度の矢では傷ひとつ負うことはない。
「全く。無駄な事はやめてとっとと出てきたらどうじゃ!」
矢雨が止むと、今度はゼンカイが林の中目掛けて声を荒らげた。その後ろではミルクが、
「ゼンカイ様! 頼りがいがあって素敵」
と尊敬の眼差しで見つめている。
「ふん! どうやら弓矢で殺るのは無理そうだな」
鼻息混じりに、いよいよ一行を狙っていた連中が、木々の隙間を縫うようにして姿をあらわす。
「どうやらあんた達が、例の山賊ってわけね」
そう言って腕を組み、ミャウは山賊共を睨みつけた。
皆の視線もミャウと同じように不埒な奴等に向けられる。
現れた漢達は見たところ数は十人前後といったところか。それぞれ随分年期の入った装備をしており、武器も鎧の類もばらばらであった。
目の前に立つリーダー風の男は鱗を並べて作られたかのようなスケイルアーマーを装着し、右手にはシミターと呼ばれるタイプの湾曲した刀を持っていた。
また、その他の者達も、手斧を持ち、くすんだ色のプレートアーマーを装備した漢や、レザーアーマーと弓矢という出で立ちの者、チェインメイルにショートスピアという装備をしたのもいる。
そして……その中にミャウも良く知る人物が一人。
「……なんであんたがそこにいるのよ」
ミャウが彼の特徴的な頭を視界に捉え、眉を顰めた。
「なんや言われてもなぁ。成り行き? かのう」
ミャウの質問にプルーム・ヘッドは相変わらずのへらへらとした態度で応じる。
「ふざけたこと言ってないでちゃんと応えなさい! 仮にも正規ギルドに入ってて山賊なんかと組むなんて許されると思ってるの!」
ミャウが声を尖らせた。両目を大きく見開き、猫耳がぴくぴくと小刻みに揺れている。
「全く相変わらず気の強いネェちゃんやわ。そんな怖い顔したら可愛い顔が台無しやでぇ?」
プルームの人をおちょくったような態度に、ミャウの表情は更に険しくなる。
「ミャウ知り合いなのかい?」
ミルクの問いに、えぇちょっとね、と顔は向けず彼女は応える。
「なんだお前の知り合いもいたのか。へっへ。だったらねぇちゃんも俺たちの仲間にならねぇか? ねぇちゃんぐらい可愛らしければ俺達だって優しくしてやるぞ?」
リーダー格の漢が、嫌らしい笑みを浮かべながらミャウに誘いを掛ける。
だが、誰が! と吐き捨てるように返し、今度はその漢を睨みつけた。
「マイハニーをミーのオーケー無しにナンパしようなんて、とんだ身の程知らずだYO!」
ミャウの横からマンサが口を出すが、漢は一瞬だけ顔を眇めるも更に口を開く。
「ふん。確かにこいつは気の強いネェちゃんだ。だったらそっちのボインのねぇちゃんでもいいぜ? どうだい? 俺がその胸をたっぷりと可愛がってやるよ」
「ゼンカイ様。あの馬とチンパンジーを足してゴキブリで割ったような糞虫はあたしが倒してよろしいですか?」
「一体どんな化物だそりゃ!」
どうやらリーダー格の漢は突っ込みもいけるようだ。
「えぇよ」
「えぇよじゃねぇよ!」
あっさり許可するゼンカイに即座に突っ込む。中々の反応の早さである。山賊でなければきっと別の道もあったことだろう。
「ところでお主。一緒にいた可愛らしい幼女はどうしたのじゃ?」
ゼンカイがプルームに向かって、何気に疑問に思ったことを口にする。
「……そんなんあんさんには関係ないやろ」
プルームのへらへらとした笑みがそこで途切れた。
「ふん。こいつの相棒は俺達のアジトで丁重にもてなしてやってるぜ」
「お茶とかがでるのかのう?」
「あ? ま、まぁ茶ぐらいは出してると思うが……」
ゼンカイの妙に緊張感の欠けた態度に山賊も戸惑ってるようだ。これが計算ならなかなかの策士だが、きっと何も考えていないだけだろう。
「で? まさかあんた達、私達に仲間になれとだけ言いにきたわけじゃないわよね?」
「ふん。まぁそうだな。それじゃあ、ありきたりな台詞だが、その馬車の人物をおとなしく引き渡しな。そうすれば痛い目にあわなくてすむぜ?」
「だったらおとなしく従えば、俺達は逃がしてくれるのかい?」
ふと少し離れた位置からジンが叫んだ。
するとミャウが、何言ってるのよ! とでもいいたげに彼を睨みつける。
そんなミャウの姿を他所に漢が回答を示した。
「……そうだな。俺達は優しいからおとなしく従うなら女だけは助けてやるよ。ま、一緒にはついてきてはもらうがな」
「女だけって俺達はどうなるんだ?」
とこれはムカイの言葉。
「安心しろよ。男どもはせめて苦しまないように一発で殺ってやる」
ニヤニヤと唇を歪ませながら漢は言った。
当然そんな話を皆受け入れられるわけもなく。
「ユー! そんなバッドな条件で言うこと聞くやつがいると思ってるのかYO!」
「全くだ。痛いのはよくても殺されるのはごめんだぜ」
まずマンサとマゾンが強気に言い放つ。
「大体、あたし達が魔獣と戦い終えたのを見計らって現れるなんてやる事がセコいんだよ」
ミルクが侮蔑するような表情で山賊たちに言いのける。すると、くくっ、とリーダー格の漢が含み笑いをみせ。
「そんな事は当たりまえだろ。使えるものは使うのが俺たちのやり方だ」
「は? ちょっと待って! てことはあの魔獣はあんたらが用意したってこと?」
ミャウは疑問に満ちた表情を浮かべ、問い質すが、漢はそれには応えず。
「まぁいい。あまり時間かけて魔法の使える奴等に目を覚まされても厄介だからな。野郎どもいくぞ!」
リーダー格の漢の掛け声に手下全員が声を上げ、其々武器を構え一斉に襲いかかってきた。
「とりあえず……やるしかないようね!」
「全くあたしもなめられたもんだよ」
「さっさと片をつけて幼女と再開するのじゃ!」
こうして一行は思い思いの言葉を口にしながら、山賊達の襲撃を迎え撃つのだった――。




