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第五話 黒ローブ? そんなの関係ねぇ!

 生前のニホンでは年が明けた矢先に餅を喉に詰まらせ死んでしまったゼンカイだが、ここ異世界は今は丁度春がやってきたばかりだと言う。


 その為なのか、街道の脇には草花が咲き乱れ、歩く二人の身体を時折撫でる風がとても心地よさげである。


 最初こそ疲れた疲れた言っていたゼンカイも次第にそんな事は言わなくなっていた。


 勿論理由もある。

 ミャウに、冒険者になるつもりならそんな事では務まらない、と苦言を呈されたからだ。

 そう言われてはゼンカイも黙ってはいられない。むしろ若いものには負けんわいと張り切りだした。


 その単純な思考は羨ましくもあるが、おかげで足取りもかなり捗り、気付けば王都まで残り僅かという位置まで二人はたどり着いていた。


 そんな折……道を歩く二人の視界に映るは、沿道に台座と水晶球を置いた人物。

 全身を黒ローブで覆われている為その姿は確認できないが何とも怪しい風貌であり――。


「これ旅の方。そちたちに不吉な相が出ておるぞ。この私めがその原因を占って進ぜよう」


「…………」

「…………」


「て、ちょっと! 少しは興味を示さなさいよ!」


 何も見ていないと言わんばかりに華麗にスルーした二人に、ローブの人物が声を荒らげ引き止めに掛かる。

 割と高域な、女の声音であった。


「お爺ちゃん。途中で話したと思うけど、時折あぁ言う怪しいのがいるから注意しなきゃ駄目だよ。お金とかだまし取ろとする輩も多いんだから」

 

 まるでオレオレ詐欺には注意してねと心配してみせる孫のように、ミャウが話して聞かせている。


 それに対して、

「わしはそう簡単に騙されたりせんわい!」

とゼンカイが語気を強めた。

 自信満々と言った具合だが実はこういうタイプが一番危ないらしい。


「ちょ! 騙したりとかそんなんじゃないわよ! ほらタダで占って上げるから」


「タダ程怖いものは無いってね」

 わざと聞こえるよう声音を上げ、ミャウはゼンカイに目で信じちゃ駄目よ、と示す。

 すると爺さんも親指を立てて頷いてみせた。

 どうやらゼンカイもそこまで馬鹿では無いのだろう。

 

「あぁんもう! 嘘じゃないってば! それにそこのお爺ちゃん! あなた、あなたそう! 私が占えばハーレムも夢じゃな、ヒッ!」


 突如自称占い師の目の前に血走った目をした爺さん、静力 善海が現れ、ローブの中から短い悲鳴が上がった。

 結構距離が離れていた筈だが、正しく疾風怒濤の勢いで爺さんがその距離を縮めたのだ。


 そう、このゼンカイと言う男、女が絡むと底知れぬ力を発揮するのである。


「どこじゃ! ハーレムはどこじゃあぁあああ!」


 歯をむき出しにして、ローブに掴みかかるその姿はまるで飢えた野獣だ。

 あまりの事にローブの中から更にひぃいぃいい、と言う悲鳴があがる。が、そのゼンカイのバーサク(暴走)状態も後に続いた打音で何とか収まった。

 

 ミャウが現出させた剣の腹で、ゼンカイを殴打したからである。


「い、痛い。痛いのぉ」


「全く。何やってるのよ!」


 屈み込み頭を押さえるゼンカイに怒鳴るミャウ。しかしこの短期間でゼンカイの扱いには長けてきたようだ。


「はぁ……はぁ」


 地面に手を付き、中腰の状態で息を整える占い師。


「ごめんなさいね。なんかこのお爺ちゃんいい年してハーレムとかに目が無いみたいなのよ」


 ゼンカイの代わりにミャウが謝って見せる。

 ちなみにゼンカイは、

「ハーレムの事教えてもらいたいのぉ。もらいたいのぉ」

と暴走は収まったものの口惜しそうに繰り返している。


「ふ、ふふ、やっぱりそうよ! そうなのよ!」


 ここで突然自称占い師が一人納得したように言葉を吐き出す。だが声色には怒りのような物も感じられた。


「やっぱりあんたらトリッパーはろくなのがいない! 最低よ!」


 言うが早いかローブをめくり上げ、自称占い師が二人を振り向いた。


「お! おおおおぉお!」

 爺さんが目を見開き、感嘆の声を発した。

 なんとローブの中から現れたのは八重歯の可愛らしい女の子。

 年の功は10歳辺りと言った所か。

 黒髪は肩まで伸び、頭からは二本の小さな角を覗かせている。


「なんと可愛らしい幼女かぁあああ!」


 再び爺さんが暴走モード突入。

 と言っても今回はある程度自我があるようだが、動きの速さは折り紙つきだ。

 瞬時に幼女の前に立ち、腕を広げ抱きしめに掛かる。が、

「【ダークブラインド】!」

と彼女が叫んだ瞬間、ゼンカイの視界が闇にそまる。


「な、何じゃ! 何も――何も見えんぞ!」


 ゼンカイは若干混乱状態に陥り、辺りを右往左往する。


「お爺ちゃん! ちょ、あなた一体!」


 ミャウの表情が一変し真剣な面持ちとなった。力を込めた眼つきで幼女にきっさきを向ける。


「ふん。あんたに別に用は無いわよ。あたいの狙いはそいつ! その不埒な変態爺よ!」

 

 その言葉にミャウは返す言葉も無い。

 不埒で変態である事は短い付き合いのミャウからみても、わかりきった事だからであろう。

 とは言え彼の直前の行動が、ゼンカイを狙う理由とも考えられない。

 

 彼女の見せる形相からは、短絡的な怒りとは別のもっと深い恨みの念のようなものが感じられるからである。


「さぁ覚悟なさい!」


 憤懣をぶつけるように発せられた警告。

 そして続く呟きとその小さな身にそぐわない、じめっと纏わりつくような黒いオーラ。


 只事ではない物を感じたのか、ミャウは身構えゼンカイに向け叫ぶ。


「お爺ちゃん気をつけて! 何か来る!」


 正直ミャウも、まだこの地に来たばかりのゼンカイに、その得体の知れない何かから身を守れるとは思ってないだろう。


 だが、かと言ってミャウ自身も咄嗟に反応すべき術が見つからないのか、幼女を睨みつけ動向を探るしか無いようである。


 ゼンカイに関しては、無事でいられるよう祈るしか手がないという状況だ。


「【イツンテポン】!」


 幼女が再び何かを唱えた瞬間、黒い光線が空間を割り、瞬時にゼンカイを捉えた。


「お爺ちゃん!」


 魔法の直撃を直に受けたゼンカイをみやり、思わずミャウが叫ぶ。

 そして何かを喰らった彼もまた、うぉぉおぉおおお! と苦痛の雄叫びを上げた。が――。


「て、うん? 別に痛くも痒くも無いんじゃが……」


 ゼンカイの身体の周りに黒い光が纏わりついているが、本人は特に何でもないようにケロッとしている。


「ふっ――」


 ミャウが不敵に笑う幼女を見た。

 理由は判らないがとても満足気な表情を浮かべている。


「あ~はっはっは! 喰らったな! ざま~みろ! これからお前は地獄のような苦しみを味わうのだ! 覚悟しておけよ! あ~はっはっは~!」


 あ、ちょっと! と言うミャウの制止等きく耳も持たず、幼女は声高らかにピョンピョンと兎の如く飛び跳ねながら去っていった。


 追いかけようとするミャウだったが、ゼンカイの事が心配だったのか踏みとどまり彼に顔を向ける。


「お爺ちゃん……大丈夫?」


 眉を落とし、心配そうな表情で尋ねるミャウ。爺さんの身体に纏わりついていた光は既に消え去っていた。

 だが何も無いのが逆に不気味である。


「わしは全然大丈夫じゃ。ほれ! この通り」


 そう言って腕を曲げ伸ばししたり、腰を上げ下げしてみたりと体操のような動きでゼンカイは平気な事をアピールする。


「そう、でも一応ステータス見せてもらえる?」


「うむ。【ステータス(日本語)】」


 ゼンカイが唱え現れたステータスを二人で確認する。

 ミャウが尤も着目したのは状態であった。

 一見して本人に変化が無い以上、何か状態異常に犯されてるのでは考えたのだろう。


 だが、ステータスを見る限り特に目立った変化は無い。


「う~ん何だろう? 別に何も無さそうだけど」


「もしかしたらあれじゃ。失敗とかじゃないのかのぉ」


 ゼンカイの言葉にミャウは失敗? と復唱し、顎に手を添える。


「まぁ何も無ければいいんだけどね……」


「大丈夫じゃよ。ほれ! ほれ!」


 再び体操のような動きをして見せるゼンカイ。

 その姿に、ミャウは納得したように一人頷き。


「ま、ここでうだうだ考えていても仕方ないわね。とりあえず王都に向かおうか」


 そう頭を切り替えたように明るく努め、ゼンカイを促す。


「……しかしのぉ。あの幼女が行ってしまったのは残念じゃのぉ……」


 指を咥え口惜しそうに述べるゼンカイの姿に、心配して損したと言わんばかりのジト目を見せるミャウであった。


 何はともあれ二人は改めて王都へと脚を進める。

 とんだ邪魔が入ったものだが残りの距離は短い。

 二人の最初の目的地は、すぐそこまできているのである。

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