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第四十六話 そこに潜むもの

「くくっ、ここまでは予定通りだな」


 木々の中に潜む漢の一人が、眼下で繰り広げられる戦闘をみながら呟いた。


「しかし、大丈夫なんすかね? あいつら結構やるみたいっすが」


 ひそひそとした声で、もう一人の漢が言葉を返す。


「こいつの持ってきた情報が間違いなければ問題ないはずだろう。なぁ? そうだろ?」


 漢は木々の隙間から覗かせるほうき頭めがけて、問いを投げかける。


「全く心配症のやつらやなぁ。何度も言うとるやろ。わいの情報に間違いはないってなぁ」


 プルーム・ヘッドは周囲にいる漢どもと共に戦いの様子を眺めながら、若干の不快さを滲ませた声音で応える。


「まぁそれならいいがな――」

 そう言った後、漢はくくっ、と忍び笑いをみせ顔を眇めた。


「だが、もし、お前の言ってた事に少しでも怪しいところがあったら、相棒の娘は約束通り好きにさせてもらうぜ」


「……まぁ約束は約束やしな。しかしのう。あんさんらそんなにあの子にメイドの格好やら何やらして欲しいんかい」


 プルームはへらへらとした態度で、そう述べる。しかしその言葉にはどこか確認めいたものも感じられた。


「まぁ勿論それもあるが、あの嬢ちゃんトリッパーなんだろ? それならそれでいろいろ使い道がありそうだしな」


 嫌らしく唇を歪めながら返す漢だが、その言葉には何も応えずプルームは一度戦況に目を向ける。


 プルームがみやった先には、ムカイ達がいた。丁度護衛のメインとなる馬車の近くで魔物たちと戦っている。


 五人いる彼等は三人一組と二人一組とに別れ戦闘を繰り広げていた。


 フェンサーのジンにプリーストのエールという組み合わせの二人は、サーベルライガー二体にデビルモンキー三体を相手にしている。


 ただプリーストは戦闘に向かないジョブだ。その為、エールはジンの後方に立ち、必死に彼を補助しようとしている。


 とは言ってもジンの腕前は相当なものだ。

 左右と上空からほぼ同時に襲ってきた三体の魔獣をいなし、更に上空へ戻ろうとした白猿の翼目掛け剣を振り下ろし右腕と飛膜を分断したうえ、返す刃でもう一方の腕も切り刻んだ。


 魔獣の顔は苦痛に歪み、獣の鳴き声を一つ上げ地面にうつ伏せに倒れる。そこへ止めの一撃を喰らわし絶命させた上、再度飛びかかってきた二体の獅子の喉を鋭い突きでほぼ同時に貫いた。

 

 それはフェンサー特有のスキルによる、高速のダブルスラスト(二連突き)であった。


 こうして瞬時に三体もの魔物を打ち倒したジンは涼しい顔で大地に立っている。

 そのおかげか、プリーストにはあまり出番がない。


 一方、ムカイ達三人はそれほど楽な戦いとはなっていないようだ。


 相手にしているのは空中と地上の魔獣を一体ずつ。

 ムカイは強化魔法の力で腕力を強めていた。

 更に戦いが始まった直後、双子の兄弟が行った舞によるパワーアップも兼ねている為、攻撃力はかなり上がっているといえるだろう。


 彼等の戦法はムカイが前に立ち二体の魔獣を惹きつけるというものだ。


 後方に立つ二人は一方がメイジ、もう一方がアーチャーであるためこれは当然の戦法ともいえる。


 ただムカイのジョブであるモンクは素手での戦いを主とした職である。その為リーチという面では剣や槍には劣る。


 更にムカイは高い膂力は持ちあわせるものの俊敏さでは一歩劣る。その為か動きの素早い魔獣たちを捉えるのに苦労しているようだ。


 プルームはそこで顔を巡らせ視点を変えた。

 そこにもプルームの良く知る顔が戦いを繰り広げていた。


 馬車の側面を守る彼等は最初はチームとしての纏まりが悪く感じられたが、それもすぐ取り直し、今はよく連携も取れているようである。


 この五人は特に火力の高い面々だ。後方から支援するヒカルは多数の魔法を使いこなすジョブを持っているが、ソレ以外の四人は典型的な前衛タイプといえる。


 この五人の中でもっとも体格に優れるタンショウという男はディフェンダーというジョブを持ち、更にチートと呼ばれる能力もあいまって鉄壁を誇る防御力を誇っている。

 

 武器の類を持たず巨大なタワーシールドを両手で持ち戦うというスタイルは彼の唯一無二のものであり、その構えは堅固な砦をも連想させる。


 女だてらに巨大な戦斧と大槌という常識外の二刀流で挑むは、フェミラトールのミルクである。このジョブは女性版のウォーリアともいえるもので、先ほどのタンショウが両手に盾という圧倒的な防御力を誇っていたのにたいし、彼女は圧倒的な攻撃力で敵を叩き潰していく。


 実際すでに数体の魔物は彼女の狂腕によって、ひき肉にされており、そのレベルと攻撃力の高さをまざまざと見せつけていた。


 そしてそのミルクの打ち損じた敵に確実に止めを刺していっているのはマジックソード(魔法剣)のスキルを巧みに扱う猫耳の剣士、ミャウである。


 彼女の使うスキルは手持ちの剣に魔法による付与を与え、その能力を引き上げるというものだ。


 付与出来る力には属性というものが備わっており、今ミャウは剣に風の力を付与して戦っている。


 風属性は剣の剣速と切れ味を増す効果があり、使い勝手のよいスキルといえた。


 またこの属性は使いこなすと、剣を振る時に強風を起こし、格下の敵であれば吹き飛ばしたり、また風に乗ることで高い跳躍力を発揮できたりもする。


ミャウも御多分に洩れず、付与した風を上手く使い、元々持ち合わせている俊敏さをさらに引き出すような戦い方をしていた。


 このパーティでは唯一の後方支援役であるヒカルも雷や土の魔法を用いて上手くサポートしている。選択してるスキルも秀逸だ。


 山間部のこの場所では地の魔法はその力をいかんなく発揮できるし、それに織り交ぜている雷系統の魔法は個別撃破に向いている。


 唯一、プルームにも理解しづらいのはゼンカイという男だ。


 この中、いや護衛の中では一番レベルが低く、本来なら足手まといにしかならないように思えるが――。


 彼はタンショウという壁を利用し、魔物の攻撃から上手く逃れながら、妙にちょこまかした動きで相手の隙を付き、奇妙な武器で一撃を加える。


 その威力はとにかく高い。当ててさえしまえばサーベルライガーだろうと、デビルモンキーだろうと一発で倒してしまう。

 

 ミルクという戦士も相当な攻撃力を持っているが、この爺さんもそれに負けず劣らずと……いや下手したらそれ以上かもしれない。


 その上、元のレベルが低いというのもあってか、この戦いの中でも幾度と無くレベルアップを重ねてるようだ。


「もうこれで、レベル10は超えたんちゃうか――」

 プルームは誰にともなく呟いた。


 そういいつつ彼は馬車の前方。土砂と岩の壁に近い側のパーティにも目を向ける。


 彼等はこのなかで一番バランスの良い組み合わせといえた。


 プルームは彼等については情報でしか掴めていなかったが、初めて見るその戦いぶりをみるに、連携は特によく取れているように思える。


 マンサという男はこのパーティではリーダーにあたり、攻守ともにバランスのとれたナイトというジョブを有する。


 成る程、確かにそのジョブの通り基本に忠実な戦い方をしている。見た目はかなり特徴的なのだが、盾と剣を上手く利用した戦い方は王宮剣術をも連想させる洗練された動きだ。


 今も空中から滑空してきたデビルモンキーの爪撃を盾を斜めに傾けるようにして受け流し、背後からミスリルソードで反撃を加えている。


 ただ彼は攻撃力はそれなりな為、一撃で倒す火力は持ちあわせていない。が、マンサの手により怯んだ魔獣は、マゾンというウォーリアのハルバートの一撃で確実に粉砕されていた。


 彼等二人はお互いの足りない点を上手く補いながら戦っている印象だ。

 マゾンというウォーリアは膂力は高いが一振り一振りに洗練さがたりず、大雑把な印象をうける。


 だから彼の攻撃は単発では中々魔獣達を捉えられない。しかしマンサによって少しでも怯んだ相手は、彼の容赦の無い一撃で粉砕されていく。


 その連携はとても息のあったものだ。


 そして息があってると言えばその近くで、踊りながら戦う双子の兄弟もまた絶妙なコンビネーションを魅せている。


 心が通じあってるとは正しくこの事をいうのかといえるぐらい、二人が一体となるようにその曲刀を振るっていた。

 

 その姿はまるで多腕を持つ魔神さえも彷彿させる。そしてその華麗な体裁きは見るものをうっとりとさせるような優雅さも兼ね添えていた。

  

 二人は鎧などは一切装備していない為、一撃でも喰らえば致命傷は免れないだろうが、その精錬された動きで相手の牙や爪は掠りもしていない。


 その上で彼等は合間合間にルーンを刻むのも忘れていない。時折発動する活力のルーンは失った体力を回復させるものだ。


 その為、長い時間武器を振るい続けている戦士たちも息切れ一つしていない。


 こういった補助も忘れないあたり、流石レベル20のルーンダンサーというべきかも知れない。


 プリキアという少女が召喚した召喚獣達も良い働きをしている。双子の兄弟のように息のあった動きをみせる二頭のブルーウルフは、特にデビルモンキーに狙いを定めてその牙を振るっている。


 素早い動きで敵を翻弄するのが得意なこの獣は、白猿の動きを誘発させ、地上目掛け滑空してきたところに喰らいつき、飛膜を破った。


 それにより飛行能力を失ったデビルモンキーは、戦場で戦いを繰り広げている、双子の兄弟や騎士、戦士の手によって、またはそれが追いつかない時は地の妖精の持つ大地の魔法で止めを刺されていったのである――。


「おいおい。これまじで大丈夫かよ。明らかに護衛の奴等が有利だろうが。おい! プルーム! 本当にてめぇの情報は間違いないんだろうな!」


 一応声を潜めてはいるが、それでもその漢の声はほうき頭のすぐ後ろから発せられたので喧しく感じられる。


「当たり前やろ。何度も同じこと言わすなや。わいの情報に間違いなんてないわ。お姫様の日程とギルドの主要メンバーの不在が重なっているのは事実やし、実際あいつらのレベルかて、そこまで高いわけやない。平均したら16程度や」


 その返しに、漢は腕を組みぐむむ、と唸る。


「だいたいなぁ、あぁいうのがいるんならわいにもしっかり教えて欲しかったわ。当日急にみせられるとはなぁ。だけどレベルがいくら高くても所詮は魔獣や、やっぱり当初の予定通りこっちも人数用意して奇襲した方がよかったんやないか?」


 続くプルームの発言に同意の言葉を連ねるものはいなかった。どっちにしても今更のことである。それに頭が決めた事に文句を言うなど彼等には考えられないのだろう。


 だが、そこでこの面子の中で尤も上の立場である漢が、くくっ、と含み笑いをみせ、言葉を続ける。


「まぁ心配することじゃないさ。何せまだアレが動いてないんだからな」


 そういった彼がみやった先には、静観を続ける緑色の巨人がいた。


「アレがなんやいうんや? 全く動こうとしない木偶の坊みたいなんが役に立つんかい?」


「……まぁ確かに今は動いていないが、あいつはちょっと肩が温まるまで時間がかかるようでな。あぁやって戦いを眺めながら、少しずつ血を滾らせてんだよ」


 そこまで述べ、にやりと口元を歪める。


「俺達がこうやって戦いを眺め続けるのもアレがいるからだ。何せ一度動き出したら敵も味方も関係がないからな」


 プルームはちらりと斜め後ろに立つ漢を眺めたあと、再度視線を件の巨人に戻す。


「そんな秘密兵器があったとはなぁ。だったらそれもちゃんと言うてほしいわ。そんなにわいは信用されてないんかのう」


「ふん信用なんて言葉自体」

「信用するなってかい?」


「……そのとおりさ。まぁとは言えあの魔物たちの事はおれらも直前までしらなかったがな。しかしボスもどこでこんなの手に入れたのか。ビーストティマー(魔獣使い)いらずの魔獣におまけにあんな化物だ」


「……成る程のう。で、その秘密兵器の名はなんと言うんかいの? わいもあんなの初めてみるけぇさっぱり判らんわ」


 すると漢は、あぁ、と返し。


「確か【グリーンイビル】と言ったかな。詳しい能力は不明だ。俺達だってあんなの見たこともないからな」


 プルームは片目だけこじあけ漢の不敵な笑みを受け止め、彼等の方へ向き直った。


 視線の先では魔獣たちの数が段々と減ってきていた。護衛の冒険者達の手で次々打ち倒されていったからだ。だが、魔獣の数が減るにつれ逆にグリーンイビルの脈動は激しさを増しているようであった――。


 


 


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