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第四十四話 護衛一日目

第四十三話にて馬をドラゴンホースとしてましたが

竜馬匹ドラゴンホースと変更しました。

今回の話はそれを反映して書いてあります。

 王都ネンキンを出てから、一時間程馬車に揺られ続けているが、特にこれといった事も発生せず平穏な旅となっていた。


 とはいえ、冒険者一行の乗る馬車は、宮殿まで送迎してもらった馬車とは違い、固い床板のみで構成された簡素なものであった。

 

 当然座り心地に期待など出来ず、この長旅においては腰痛との戦いになることは目に見えていた。


 おまけに車内には、冒険者が窮屈そうに顔を連ねている。確かに通常よりも大型の馬車ではあるが、流石に十五人ともなると狭隘な感はどうしても拭えない。


 しかし移動は竜馬匹のおかげで予定通り順調である。体力が馬とはケタ違いのこの種であれば、平地や多少の起伏ぐらいはなんなく進むので、速度も殆ど一定を保ち続ける。


 後ろの誰かが幌をめくり外の様子を確認した。どうやら、コウレイ山脈より少し手前の草原を駆け抜けている途中らしい。

 竜馬匹の走るスピートは通常の馬より遥かに早いがその為心地よい風が車内に流れてくる。


「この調子だと、すぐコウレイ山脈手前の麓に差し掛かるわね――」


 ミャウはそう呟きながらもムカイの座る側。正確には今日はじめて目にした二人の方をちらりとみやる。


 メンバーの能力は昨日プリキアから聞いているが、この二人については不明であった。しかし護衛という任務において各人の能力を知っておくことは大事であろう。


「あ、あの……」

 ミャウは意を決したように口を開いた。選んだのはバスタードソードを挿し持つ戦士だ。


 彼はじっと下をみて難しい顔をしていたのだが、ミャウの呼びかけに表情はそのまま頭を上げ、どことなく不快そうな双眸を彼女に向ける。


「その、お二人は昨日お会いしてないので、よければ名前とレベルなんかを教えてもらえると嬉しいんですが……あ、因みに私はミャウでこっちは――」

「ジンだ」

「え?」


 ミャウが仲間たちの紹介をしようとしたところ、その口を塞ぐようにジンという戦士が言葉を重ねた。


「俺の名だ。ジン・ロニック。レベルは19ジョブはフェンサー」

 そう言って静かに瞼を閉じ、

「あとお前らの事はムカイから聞いているから別に紹介はいらん」

と無愛想に応えた。

 

 その瞬間ミャウの蟀谷がぴくぴくと波打った。


「なんじゃい。随分と愛想のない男じゃのう」

 ゼンカイが思ったままを口にした。そしてそんな爺さんをミャウは止めたりはせず、もっと言ってやれ! といった表情で見守る。


「お前らと馴れ合うつもりはない。脚さえ引っ張ってくれなければそれでいい」


 ふと、ミルクのチッ、という舌打ちが聞こえた。彼の口ぶりが気に入らないのだろう。


「お隣の方も同じ考えなんですか?」

 今度は眼力を強くさせ、ミャウがフードの人物に問いかける。が、何の反応も示さない。


「こいつはエール。見ての通りプリーストでレベルは俺より少し上だ」

 ジンは親指で隣を指し示しそう言った。その名前は男女どちらでも取れそうなものであった為やはり性別は判断が付かない。


「それと人見知りが激しくてな。知らない奴とは一切喋らない」


「なんじゃタンショウみたいな奴じゃのう」

 ゼンカイが眉間に皺を刻みながら言う。


 するとタンショウが目を見開き何かを伝える。どうやらここまで愛想は悪く無いと言いたいようだ。


 確かにタンショウは喋る事は出来ないが、意志精通は顕著に行っている。全く反応を示さないエールとは勝手が違うのだ。


「ま。お前ら相手に喋る価値も無いと思ってるのかもしれないが」

 ジンが嘲笑するように唇を歪めた。

 その態度には恐らく全員が苛立ちを覚えている事だろう。


「全く――なんなのよこいつら」

 ミャウが思わずぼやいた。ため息も一緒に漏れる。


「皆様これより山脈に入ります」


 ふと竜馬匹の手綱を握り御者が声を上げた。かなり速度の出ている馬車ではあるが、御者台には風を防ぐ魔道具が設置されており、馬車を走らせながらでもよく声が通るようになっていた。


「いよいよですね」

 プリキアが緊張した面持ちで言った。


「ミーのアームがサウンドだYO!」

 マンサはどうやら腕が鳴るといいたいようだ。


「ここからが本番ね。まぁ何かあったらあなた達のご自慢の腕を存分に振るってもらうけど」

 

 件の二人を眺めながら、ミャウは右手を差し上げ両耳を左右に広げた。


 だが自信家の戦士は肩を一つ竦めるだけで何も言わない。

 そしてなぜか横のムカイ達が、任せておけ! と張り切った。





「散々甞められて情けないやつだ」


 馬車が山脈に入ってからは暫く沈黙が続いていた。だがその静けさを壊すように発したのはミルクであった。


「はぁ? 何それ? 言ってる意味がわからないんだけど」


「判らない? あぁそうか馬鹿にされてるのかも気づかなかったのか。ふん、耳だけではなく頭のなかも猫といっしょか。めでたいな」


 この会話のせいで明らかに車内の空気が悪くなりつつある。


「さっきから何なのよあんた! そんなに不満があるならこんな依頼受けなきゃよかったじゃない! 私は別にあんたなんかと組まなくた――」

「いい加減にせんかい!」


 ミャウの言葉を遮るように吠えたのはなんとゼンカイだ。この爺さん珍しく表情険しく鼻息を荒くしている。


「こんなとこで喧嘩なんてして情けないのう。わしらは一緒にチームを組むバディーじゃぞ! そんな事でどうするんじゃ! いいか? わしらは一緒にチームを組むバディーなんじゃ!」


 捲し立てるように言葉を連ねるゼンカイ。彼がここまで言うのも珍しい。だが、ただバディという台詞をいいたかっただけなのでは? という気持ちもしないでもない。


「全く――」

 ゼンカイはぷりぷりしながらも腕を組んだ。だが、いつもなからここでミルクが、ゼンカイ様申し訳ありません、とでも言いそうではあるがそれもなかった。


 二人共に言は収めたものの、その確執はまだ溶けそうにない。


 そしてあのジンという男は馬鹿にしたような呆れたようなそんな笑みを一人浮かべていた。





 コウレイ山脈を抜ける為に設置された街道は道といっても、ゼンカイの暮らしていた世界ほど舗装の整った道ではない。


 街道は山脈の中の比較的緩やかな部分を切り崩したりして作られている。当然砂利や凸凹した道も多いのである。


 馬車には魔道具によってある程度、衝撃が吸収できるようにはなっているがそれでもすべてはカバーしきれない。


 その為、特に道が険しくなるところでは例え竜馬匹といえと速度を落とさざる負えない。


 特に今走っているような険阻で狭小な道ではそれが如実に現れる。


 現在一行の乗る馬車は標高500m程の位置に当たる崖沿いを進んでいる。


 当然だが、道沿いに柵のようなものもなく、万が一落ちてしまえば一巻の終わりである。


 通常の馬車であれば安全の為に下車して歩いて進むようなところであり、一行の乗る馬車も速度は半分以下まで落ちていた。


 だが、それでも御者が騎乗したまま移動を続けられるのは、やはり竜馬匹の能力が優れているためなのと、また御者の馬術が優れているためともいえるだろうが。


 目的地までの道程は日が落ちるまでに峠まで進み、そこで朝まで休息を取り、明日峠を超え進むという形である。竜馬匹は体力に優れており走ろうと思えば一日中走りっぱなしでも平気な程であるが、さすがに日が完全に落ちてしまうと、それ以上進むのは困難である。


 その為、目的地までの道程は山越えに通常で二日半を目処に考えている。

 しかしそれでも一般的な馬車にくらべれば半分以下の日程で済んでいる。


 ただ勿論これはあくまで順調にいった場合の道程だ。実際はもう少し余裕はみている。

 もちろんその理由は山賊に襲われた場合を考慮しての事である。





「皆さん今日はここで休息を取る事となります――」


 王都ネンキンを出てから一日目の道程は特にこれといったトラブルも起きることなく過ぎ去った。


 予定も滞り無く、峠の手前の少し開けた場所まで進むことが出来た。一日目はここで夜を明かし陽が昇り次第、峠を超えた下り坂を抜けて行くこととなる。


 夜はパーティ毎に交代して見張りが立つ事となった。

 各自食事はその時に採っていく。


「このまま何も起きなければいいんですけどね」

 マンサのパーティと見張りを交代する際、プリキアが軽く笑いながらミャウ達に言ってきた。


 確かにこれまで魔物にも襲われる事なく順調に進んでいる。闇に紛れて襲撃するような輩も現れていない。


「まぁそうだけど、それだとあんなに沢山の報酬をもらうのは悪い気がするわね」

 ミャウはその言葉通りに申し訳なさ気な笑みを浮かばせた。それに対し、彼女も、そうですよね、とくすりと笑みを浮かべた。


 馬車の近くには、周囲を見張るために魔道具による明かりが灯されていた。ミャウ達はその明かりを囲むようにしながら少し遅目の食事を摂っていた。


「……別に特に何も無かったとしても仕事は仕事だ。決められた報酬をもらうのは当たり前だろ」


 携帯用の食事を摘みながらミルクが誰にともなくいう。

 恐らく先ほどのミャウとプリキアの話についてであろう。


「……別にあんなのは冗談みたいなものよ。当然このまま何もなく仕事が終わっても報酬はしっかり貰うわよ」


 特にだれそれとも言われたわけではなかったが、ミャウは自分に対してだと察したのだろう、一切目も合わすことなく言葉を返した。


 そのやり取りにゼンカイを含めた皆が肩をすくめた。流石に今回はそれ以上の言い合いには発展しなかったが中々二人の仲は改善されない。


 正直ゼンカイは、この程度の事は時間が経てば解決するだろうぐらいの感覚であったのだが、結局その日は喧嘩のような言い合い以外に二人の会話はなく、終わってしまった。


 護衛の任に関して特になにもなく終わるのはいいことだと思われるが――二人の仲にゼンカイは一抹の不安を覚えていたのだった――。

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