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第四十二話 皆で帰ろう宿屋へ帰ろう

 結局ゼンカイのスキルの効果は実践でみてみるまではお預けという結論に至った。


 マンサをリーダーとするマンサ隊とミャウの一行は最後に再度、明日の出発時刻と道程についてを話し合いその場はお開きとなった。


「それじゃあ明日宜しくね」


「はい! 私にとっては初の大仕事なので緊張しますが――頑張ります!」


 プリキアは小さな握りこぶしを震わせながら、ぱっちりとした大きな瞳に力を込め語気を強めた。


「プリキアちゃんの事はわしが守るから安心せぃ!」


 胸を叩いてナイト気取りの爺さんだが。


「いや、言っておくけど守るのは公女様だからね」


 しょうがないわねといった面持ちでミャウが言葉を返す。

 その様子にプリキアも苦笑いであり。


「マイハニーの事はミーがパーフェクトガードさ! ラヴプリンセスに死角なしSA!」


「だから守るプリンセスは別にいるでしょって」


 額をおさえるミャウは、今から心配事が多いようで気苦労が絶えない。


 何はともあれギルドを後にした一行。中々ミャウを口説こうとしつこいマンサをプリキア達が無理矢理連れ帰り。ヒカルは一旦師匠の下へ戻り明日の事を報告するという。


 結局残ったのは昨日の面々であるタンショウ、ミルク、ミャウそしてゼンカイであり、当初の予定通り四人で昨日の依頼をこなした時に手に入れた戦利品の売却をし、ゼンカイの装備を見直そうという話に落ち着く。


 因みにゼンカイは結局これまでの蓄えを全て昨晩の飲食で使ってしまった為、この戦利品を売って手に入れた金銭から宿代を引いた額が装備に回せる予算となる。


 店に着き売却の交渉は前回と同じくミャウが行う。

 件の森で手に入れた毛皮や角の類は全部で8,800エンで買い取ってもらえた。

 ここから宿代の1,500エンを引いた7,300エンで装備を揃えなければいけない。


 とは言え武器に関しては入れ歯以外の選択肢がないため、予算の殆どは防具に回せ、今の装備は下取りも可能である、ゼンカイの現在のレベルを考えれば、十分でしょう、とミャウは言って頷いた。




「わしはこれがいいのう」


 防具屋に到着し、ゼンカイは全身を覆うような鋼鉄の鎧を試着して皆に向かって言った。

 しかし頭にかぶせたフルフェイスのヘルムが重いのか、よたよたと足取りが頼りない。


「そんなの駄目よ。大体お爺ちゃんはリーチが短いし、相手の懐に飛び込んだり向こうの攻撃に合わせてカウンターで反撃したりって戦い方が主なんだから、動きにくい鎧なんて論外よ」


 片目を瞑り、呆れたようにミャウが告げる。

 確かにこれでは鎧を着るというより鎧に着られているようなものであり、お世辞にも似合うとは言えない。


「な、ならゼンカイ様これは――」

 

 そう言ってミルクの手で着させられたのは……ネズミの姿を模した着包みであった。

 正直どうしてここにこんな者があるのか判らないが。


「きゃぁあぁあ! ゼンカイ様! 素敵です! 可愛らしいです! 愛おしいです!」


 そうキャーキャー喜ぶミルクに、ゼンカイは照れてみせる。


 しかし正直どう贔屓目にみても精々ネズミ男ぐらいにしか見えない。


「それじゃあこれにしておこうかのう」

「ありがとうございます」

「って! しておこうじゃないわよ! いいわけないでしょそんなの! 貴方もありがとうございますじゃないわよ! 防具を買いに来てるんだからね! てかなんで着包みがこんなところにあるのよ!」


 ミャウの怒涛の突っ込みが炸裂した。おかげで彼女も膝に両手を置き、疲れたように背中で息を吐いている。


 突っ込みというのも疲れる仕事なのだ。


「本当にもう……ほらお爺ちゃん。これ着てみて」


 そう言ってミャウがゼンカイに手渡したのはチェインメイル。しかも魔法が掛けられているため、通常の鎖よりも丈夫で更に軽いと実用性に長けた品なのだ。


「お似合いですわゼンカイ様」

 ミルクがにっこりと微笑みゼンカイを称えた。


 タンショウも親指を立て、似合ってると告げる。


「確かに軽いし動きやすいのう。流石ミャウちゃんじゃ」


 ゼンカイは鏡の前で自分の勇姿を眺めながら一人にやにやしている。


「あとはこれも着けてみて」


 そういって渡された額当てを装着し、再び鏡を眺める。


「おお! まるで勇者のようじゃ!」

「ゼンカイ様は私にとっては永遠の勇者です」


 ミルクはゼンカイが何を身につけても褒め称える勢いだ。さすがチョロインちゃんである。


「その額当ても魔法が込められてまして、頭全体を魔法の力で守ってくれるのですよ」

 

 店員の説明に、ほう、とゼンカイが感心する。


 それから更にミャウの見立てで、ワイヤーで作られた小手や軽くて丈夫な魔銅を仕込んだロングブーツなどを装着し、異世界での二度目のコーデは終了した。


「じゃあこの元々お爺ちゃんが着ていた革装備を下取りで……それでいくらかな?」


「はい、全部で8,800エンになりますね」


「8,800エンか。ねぇもうちょっとまからないかな?」


「え? う~ん。まぁミャウ様にはいつもお世話になてますから……ではこれで――」


「う~んもう一声!」

 

「いや流石にこれ以上は……」


 するとミャウ。一度ミルクに目配せをし、さらに自分はカウンターより少し低い位置まで屈み、上目遣いで精一杯瞳を煌めかせ、自慢の猫耳をぴこぴこ動かしながら、お・ね・が・い、と甘えてみせる。


「う、うぐ、で、でも店長におこられちゃうし――」


「あ~あっついなぁ今日は。本当に」

 そう言ってミルクは、シャツの首もとを広げ見事な巨乳を軽く覗かせながら手で仰ぐ。


「し、仕方ないなぁ……」


 そう言った店員の鼻は伸びに伸びきっていたという。





「しかし凄いのう。流石じゃのう」

 店を出てゼンカイは感嘆の声を漏らした。何せ本来は予算オーバーだった装備品が最終的には5,800エンと予算内に収まったのである。


「まぁミルクのひと押しも効いたわね」


「うむ。ミルクちゃんのおっぱいは偉大なのじゃ」

 うんうんと一人納得したように頷くゼンカイ。それに対し、照れますわゼンカイ様、と両頬を押さえるミルクだが、妙に嬉しそうである。


「さて、それじゃあ明日も早いし私達もここで解散しようか。お爺ちゃんは前に教えた宿はわかるよね?」


「ばっちりなのじゃ!」


 親指を立てゼンカイはウィンクをみせる。


「ミルクとタンショウくんはどうするの?」


「あたし達も宿を取る形だね」


 横でタンショウもウンウンと頷く。

 するとミルクがゼンカイに顔を向け、

「あ、あたしもゼンカイ様と同じ宿にしようかな」

と言い出した。


「おお! えぇのう! 一人より仲間がいたほうが楽しそうじゃ」


「仲間……ですか」

 ミルクがしゅんとした顔をみせる。

 

 ゼンカイの事が愛しくて仕方ないといった感じなのであろう。

 全くこんな爺さんにはもったいない話である。


「一緒にって――大丈夫?」

 少し不安そうに眉を落とし、ミルクが問う。


「何がじゃ?」

「何がだ?」

 

 ゼンカイとミルクが同時に声を発した。

 しかし勿論心配といったらアレでしかない。


 だが一瞬考えあぐねるがミャウはハッとした顔になり、ううん、なんでもない、と微笑した。


 そう、どっちにしてもゼンカイは不能な状態なので、何かが起きること等はありえないのである。


 こうして全員は広場で解散しそれぞれ帰路についた。ミャウは借りているという自分の部屋へ、ゼンカイ達三人は同じ宿をとり疲れをいやし英気を養う。


 因みに宿では寧ろミルクの方が積極的であり、食事の時もゼンカイに食べさせて上げたりと、一緒にいるタンショウにとってはイライラのつのるイチャイチャ劇が続いたという――





「全く――」

 翌日、三人を迎えに来たミャウは、呆れたように言を吐いた。


 その理由の一つはゼンカイとミルクが寝ている部屋の鍵が掛かっていなかった事。

 全くもって不用心である。


 そして同じベッドで二人が寝ていること。

 ミルクはすやすやと心地よい寝息を立てている。


 因みに裸ではなかった。まぁそんな事は出来るわけがないのだが、これにはミャウも安心したといった面持ちである。

  

 まぁそもそもゼンカイに関しては寝てるというか気絶してるが正しい状況ではあるのだが。


 そう一緒のベッドに入るまでは良かったのだが、彼女の制御の効かない膂力で抱きしめられ、胸の中で完全に落ちてしまっているのである。


 しかしこんな事は何度も経験してるだろうに学習能力の低い爺さんだ。


 そして、ふとミャウは額を押さえて考え込み、

「全くこんなことで、今日からの護衛任務大丈夫かな――」

と心の底から心配そうにひとりごちるミャウなのであった。

 

 






 

 


 


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