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第三十七話 依頼に困惑

 ミャウとその後ろから依頼書を覗きこむ面々(ゼンカイ以外)は驚きを隠せないでいた。


 ひょんな事から出会ったヒカルの師匠に薦められ、ギルドに来てみれば、思ってもいなかった仕事が舞い込んできたからである。


 とは言え、ミャウはどうにも腑に落ちない部分があるようで、依頼書をまじまじと眺めながら、アネゴに疑問をぶつける。


「この依頼書、ただ護衛とあるだけで詳しい記述がないんだけど……」


「う~ん。まぁそれには理由があってね。まず依頼内容の詳細は受ける事を条件で依頼主から直接説明してもらうわ」


「そうなんだ。レベル20を超えるものがパーティー内にいること、か――個人でなくパーティを組んでることが条件なのね」


「そう。ただ……一つ問題があってね……」


 アネゴが軽く吐息する。

 その姿を眺めながら、問題? とミャウが反問した。


「そう。実はね。それ出発が明日なのよ。だから中々手が空いてるのがいなくてね」


「あ、明日!?」

 ミャウは思わず猫耳を反らせ、目を丸く見開く。


「そう。それで一応五人程度のパーティーで三組希望となってるのよ。で、現状はなんとか二組決まっててね、あなた達五人で受けてもらえるとちょうどいいのよね。おまけにヒカルまで一緒だと心強いし」


 どうやらヒカルはスペルマスターの弟子という事でかなり期待度が高いようだ。

 因みにヒカルのレベルは30と今のメンバーの中でそこだけみるならば、確かに現状一番実力が高いことになる。


「ふふん。まぁ僕がいるといないとじゃパーティーの質に月とすっぽんぐらいの差があるからね」

 鼻を指でこすり、ヒカルが得意がった。


「こんな奴にそこまで期待できるか? レベルが高いったってこの体型じゃなぁ」

 ミルクが眉を顰め言うが、ヒカルはそんな彼女を細めた瞳でみやりながら、

「ふん! 僕は頭で戦うタイプだからね。女のくせに脳筋な君とは違うのだよ君とは」

と毒を吐く。


「ほう。いい度胸だな。だったらその頭のいい戦い方ってのを証明してみなよ」

 ミルクはぴきぴきと血管を浮かび上がらせ、拳を握り骨を鳴らす。

 喧嘩を売られたとでも思ってるのかもしれない。

 だがそこへタンショウが割り込み、落ち着いてと両手で抑える。


「ぼ、暴力反対!」

 そのタンショウの後ろでは、ヒカルが肩をがたがたと震わせていた。


「全く。だったら怒らせるような事いわなければいいのに」

 腰に両手をあてミャウが、嘆息をつく。


「のう、のう」

 ふとゼンカイが頭をもたげて会話に潜り込んでくる。


「公女というのは綺麗な女の子なのかのう? ボインちゃんかのう?」


「……会ったことないから知らないけど、あんたそれ依頼者の前で口にしたらどうなっても知らないよ」

 アネゴが呆れた顔で忠告を施す。


「ゼンカイ様! あたしは悲しいのです! あたくしという者がいながら――」


 ヒカルに対する怒りはどことやら、ミルクはゼンカイに悲しい表情を向け喋りだした。


「ふっ、ミルクちゃんはわしにとっては港と同じじゃよ。わしという船を迎えるためののう」


「ゼ、ゼンカイ様――」

 どうやらミルクはその言葉で感動したようで、両手を口に当てうるうると瞳に涙をためる。


 しかし船は船でもかなりのボロ船であることは間違いない。

 いつ沈むかもしれない船を待つ港に例えられても微妙なところであろう。


「異世界の女はチョロインちゃんか!」

 刮目しヒカルが叫ぶが、あんた何いってんの? とミャウの冷めた視線が突き刺さる。


「で? どうする受ける? 受けない? こっちとしては他に用事がないならお願いしたいところなんだけど」


 アネゴの様子を見る限り、そろそろ決めて欲しいといった感情が見て取れる。


「どうするお爺ちゃん?」

 ミャウはゼンカイに意思確認を取る。


「わしはミャウちゃんの意志に従うぞい。受けるなら精一杯頑張るわい!」


 ドンッとこいと言わんばかりに胸を叩く。

 転職したことで仕事に対する姿勢はより強まってるようだ。


「僕の師匠が折角あぁやって教えてくれたんだ。ここは受けるべきじゃないかな?」


「そうね。それにゼンカイ様の事はあたしに任せておけば大丈夫よ」


 ミャウが後ろを振り返るとタンショウも親指をたてて、大丈夫であることをアピールしている。


 結局皆のその言葉がミャウの背中を押す形となった。


「判った受けるわ。それに報酬の1,000,000エンも魅力だしね」


「そう。良かったわ。こっちも早めに見つける必要があったから困ってたのよ。ありがとうね。じゃあ、これから依頼人のところまで行ってもらうから、ちょっと待ってて」


 アネゴは六人にそう告げると、魔道具を使ってどこかへ連絡しはじめる。


「――はい――で、なので――はいそうです。判っております。大丈夫です腕の方は――」


 アネゴの会話がミャウ達にも聞こえてくる。

 流石に公女の護衛依頼の相手とあってか、いつもに比べれば丁重な受け答えであった。


 そして程なくして――。


「お迎えに上がりました。さぁ皆様どうぞこちらへ」


 綺麗な身なりをした初老の老人がギルドのドアを開け、一行を迎えた。

 皆は最初この男が依頼主なのか? とも思ったが彼は冒険者達を送るためにやってきた御者であり、外には立派な馬車が用意されていた。


 燃えるような赤色の車体には荘厳たる意匠が施されており、ネンキン王国の紋章も数カ所視認できる。


「あ、あ、あのこれって――」


 ミャウが馬車を指さしながらどこかおろおろした感じに問いかける。が、御者は微笑むばかりで何も応えない。


「おお! ミャウちゃんや、中は広々として快適そうじゃぞい」

 そしてゼンカイは全く空気をよもうともせず、勝手に車体の中を覗き見た。


 当然ミャウは血相を代えて、

「ちょ! お爺ちゃんかってな真似しないで!」

と叫んで注意する。


 だが御者の男は軽く微笑んだ後。


「いえいえ大丈夫ですよ。どうぞ皆様ご自由にお乗り下さい」


 人の良さそうな笑顔を保ったまま、皆を馬車へと促した。

 ミャウの戸惑いの色は未だ消えていないが、ミルクはそういった事はゼンカイと同じく気にしない質なようで、じゃあさっさと乗ろうぜ、といつもの口調で皆に言い。


「ゼ、ゼンカイ様のお隣にはあたしが!」

とこれまたいつもと変わらない豹変でゼンカイの横に座った。


 皆の様子はいつもとあまり変わっていない感じである。タンショウは表情からはなんともよめないし、ゼンカイはやたらとはしゃぎ、ミルクはそんなゼンカイを愛おしそうに眺めている。


 ただ唯一ヒカルだけはミャウほどでは無いにしても若干の緊張の色を滲ませていた。

 こうして結局ミャウは最後に馬車の中に脚を踏み入れる事となった。


 配置としてはゼンカイ・アネゴ・ミャウの順で馬車の前方。身体の大きなタンショウとヒカルは後方に座っている。


 しかしこれだけの数が乗ったにもかかわらず車体にはまだ十分余裕があり、車内の真ん中にはテーブルさえも設置されていた。


「まるでリムジンにでものった気分じゃのう」

 走る馬車の窓から外を眺めながらゼンカイがそんな事を言う。

 

 だがミャウはそれに突っ込みをいれられるほど落ち着いてはいないようで、終始そわそわしている感じであった――。





「どうぞこちらでお待ちください」

 馬車から降りた後、今度は執事風の男に案内され、一行は部屋へと通された。


 その間、ミャウはずっと表情が張り付いたように凝り固まったままであった。

 思わずゼンカイが大丈夫かのう? と訪ねてしまったぐらいである。


 だがミャウのその様子も仕方ないといえるかもしれない。寧ろゼンカイのお気楽さのほうが不自然なぐらいなのだ。


 彼らが連れて来られたのは、王都ネンキンの中でも王族やその関係者が暮らす北地区。

 その中でも尤も豪奢な作りである宮廷の前で馬車は止まったのだ。


 ミャウも馬車に乗せられた時からもしやとは思っていたが、実際到着したときには驚きのあまり声も出ないといった具合で、それからは部屋に通されるまで終始無言のままであった。


 おまけに説明のためにと用意された部屋は、ミャウが借りて暮らしている部屋ぐらいなら、十部屋ぐらいは軽く収まりそうな広さを有している。


 床は大理石で出来ており掃除が行き届いているのか埃一つ無い。

 そして同じく汚れなど一切ない壁は見事なまでの純白。

 そこには恐らくは著名な芸術家が掘ったであろう彫刻が至る所に施されていた。


「これぐらいの広さがあれば、踊りぐらい存分に披露できそうじゃのう」


「お願いだから馬鹿なことはやめてね、お爺ちゃん――」


 部屋に入り少し経ったところで若干落ち着いてきたのか、ミャウがようやく口を開く。すると――。


「マイハニー! これは数奇なディステニー! やっぱりミーとハニーはラブハートで結ばれてるんだYo!」


 そんな相変わらずわけの分からない、だが誰かはすぐにわかる声が室内に響くのだった。

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