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第三十話 肢体に絡みつく枝

「前回までのあらすじ。ミャウちゃんが樹の枝に巻きつかれてあられもない姿になってるのじゃ」


「くぅ、ん。な、何馬鹿なこといっってるのよお爺ちゃん!」


 捕まった状態でもミャウは決して突っ込みを忘れないのだった。


「ゼンカイだけにじゃ」


「流石ですゼンカイ様!」


 もはやミルクは何を褒めてるのかわからない。


「と、くっ、ん、とにかくこれを早くなん、とか、しない、と」


 枝は次々とミャウの身体に纏わりついていき、シャツは半分ほどめくり上がった状態で可愛らしいお臍も完全に露わになっていた。


 しかしおそらく伸びてる枝の先に本体がいると思われるが、無数に蠢く枝に立ちふさがれ、簡単に通してくれそうもない。


 だがゼンカイのとなりではタンショウもジェスチャーで早くなんとかしないと、と伝えてきている。


 それを横目にしながら、ゼンカイは顎を擦りながら、うぐぅ、と何かを思考している。


 助けたいのはやまやまだが、下手に動いてミャウに危害が及ぶのを危惧してるのかもしれ――。


「もうちょっと見ていたい気もするのう……」


 ゼンカイ。よくよく見ると顔がえろい事になっている。中々に最低だ。


「ゼンカイ様――」

 ミルクがゼンカイを一瞥したあと、唇を噛んだ。何かの思いが感じられる。


「もう、お、じいちゃんは、はぁ、くぅ! 頼りにならない! み、ミルクさん! そのお、斧で!」


「あぁあ! ゼンカイ様ぁあ! あたしにもこいつらの枝がぁああぁ!」


 ミルク。枝に捕縛される。


「な、何やってるんですか! ミルクさん!」

 ミャウが思わずガクリとうなだれ、呆れたように叫ぶ。


「むむぅ! これは!」

 そしてゼンカイ。ミルクの身体に纏わりつく枝をみやり。


「どうも何かが足りんのう」

 どこかがっかりした表情で不満を口にする。

 何してんだ爺さん。


「そ、そんな何かって――」

 眉を大きく広げミルクが問うと、ふむ、と一つ頷き。


「それじゃ! その装備が邪魔なのじゃぁああぁあ!」


 その横ではタンショウが拳を振り上げ始めた。いい加減にしろとでもいいたげだ。そりゃそうだろう。


「お爺ちゃん何言って……くぅ……ミルクさんそんな変態放っておいて――」


「判りましたゼンカイ様!」

 決意の表情でミルク。装備をアイテムボックスへしまう。

 揃いも揃って何やってるんだ一体。


 しかしそのおかげでミルクは最初に出会った時と同じような薄着に――するとなんと、枝が伸び更にミルクの身体に絡みつく。


「おお! これは、これは凄いのう!」


 ゼンカイ再び興奮しはじめる。

 ミルクの只でさえ大きいおっぱいは、枝が巻きつき乳房に食い込む事で更に強調されていた。

 

「く! も、もう、しょうがないわね――こうなったら」


 いろいろと周りが助けにならないので、いよいよミャウは自分がどうにかせねばと思ったようだ。


「も、勿体無いけど……ア、んぐぅう!」

 

 ミャウが何かを口にしようとしたその瞬間、他にくらべて相当に太い枝がミャウの口を塞ぐ。


「んぐぅう! んぐ! ん、んぐぅおう」


 もごもとと口を動かし、首を振り、なんとかそれを口から抜こうとするが上手くいってない。


「な、なんかこれって、け、結構、や、んぐぅ!」


 薄着になり多量の枝が絡みついていたミルクの口にも同じように枝が侵入しその口を塞いでしまった。


「こ、これは! 凄いのう! 何か凄いのう!」

 一人興奮するゼンカイ。


「むぅ。しかしこんないい場面でもポルナレフが反応せんとは! 口惜しや、まことに! 口惜しや!」


「むぐぅ! んぐうおうつあん! んぐうんがぐえん! ん、んおぅ……」


 ミャウ。この状況でも突っ込みを忘れてなかったのだが……だが少し元気がなくなってきてるようで瞼もトロンと落ち始めてきている。


 するとタンショウ、慌てたように両手を振り上げ、左右に振り、更に必死でゼンカイに考えを伝えようとする。


「な! なんじゃと! あのトレントあぁやって枝を巻きつかせて生気を吸い取るというのかい!」


 理解を示したゼンカイに、タンショウが大きく頷く。

 どうやらあの枝で触れた箇所からどんどん吸引しているようだ。

 鎧などで覆われてるような箇所は大丈夫らしいのだが、ミャウは元々軽装備。ミルクに関してはゼンカイが馬鹿な事を言うから自分から抜いでしまっている。


 つまりこれはかなり大変な状況であると言えるだろう。

 みたところミャウにはかなりの疲労もみてとれ、ミルクも四肢もだらんとしはじめてきている。

 馬鹿みたいに興奮して騒いている場合でもない。


 おまけにタンショウが言うには、あの枝で口を塞がれてることで、アイテムを出すこともスキルの発動も不可能だという。

 これらを行使するには最低でも口を動かす必要があるためである。


「くぅ! なんて事だ……わしが馬鹿をやっていたせいで――」

 

 全くもってそのとおりだ。


「えい! ならば待っておれミャウちゃん! ミルクちゃん! いますぐわしがたすけちゃる!」


 そう言うなりゼンカイが捕らえられた二人めがけて駈け出した。 

 しかしその瞬間、数多の枝がゼンカイに向け伸びる。が、そこに大きな影が躍り出て、両手で構えた盾を持って進撃を防いだ。


「ナイスじゃタンショウ!」

 言ってゼンカイ。素早くタンショウの肩にのり、先ずはミャウ目掛けて飛び上がった。


 そして落下しながら、(善海)(入れ歯)(居合)で枝に攻撃を加えていく。

 しかし。トレントの枝は柔軟性に優れており、ゼンカイの入れ歯では傷ひとつ付くことは無かった。


「な、なんて事じゃ!」

 驚愕の表情を浮かべ、ゼンカイは一度タンショウの背後へと戻った。

 伸びる枝を警戒しての事だ。

 しかしこれは厄介な事になった。

 おそらく斬ることの出来る武器であれば何とかなるかもしれないが、よりにもよってゼンカイの武器は打撃系、タンショウとて手持はシールドのみである。


「んぉ、うぐぃ、んぁ、ん……」

「ぐぁぅ、んぐぃ、んぁ……」


 ゼンカイ必死に考察するが、二人共かなりぐったりしてきている。

 正直あまり時間は残されていないだろう。


「ぐぬぅ! なんて事じゃ! なんとかせねば! なんとかせねばのう!」

 ゼンカイ頭から煙が出そうな勢いで必死に考えている。


「くそぅ! こんな女の子ふたりも助けられないで何が勇者を目指すじゃ! 笑わせるわい! 勇者……ゲーム……そうじゃ! もうこれしかないわい!」


 ゼンカイ閃いたと言わんばかりに両目を見開き、そしてタンショウの横に出る。

 するとその瞬間、狙いを定めた枝達がゼンカイに伸びる。


「これで決めるわい! 新技!」

 叫び上げ、ゼンカイが口の中に右手を突っ込んだ。その構えは居合。だがそれでは枝はびくともしない事は先ほど証明されたはずだが――。


「どりゃああぁああ!」

 言うが早いかゼンカイ口から入れ歯を抜き、そしてそれを――投げた!


 すると入れ歯はギュルルルルウゥウ、と激しい回転音を巻きちらしながら、なんと迫り来る枝を次々と斬り裂いていき――遂にはミャウとミルクに絡みついていた枝さえも刈り取りそしてゼンカイの元へと戻ってきた。


 パシッ! と軽やかにそれをキャッチしたゼンカイは入れ歯を口に戻し、ふふん、と得意げな表情を見せる。


「みたか! これぞ(善海)(入れ)(歯ーめらん)じゃ!」


 中々無理がある技名な気もするが、またもやゼンカイ新たなスキルを習得したようだ。

 そう、入れ歯を高速スピンさせながら投げることで、刃のような切れ味を生んだのである。

 誰がなんと言おうがそうなのだ。


「く、うん……」

 

 不埒な枝から開放され、地面に倒れていたミャウが、頭を擦りながら起き上がる。

 そして、両頬を数度叩き意識をはっきりさせたところで。アイテムと唱え、ポーションを出現させた。

 

 そしてそれを一息で飲み干し、ふぅ、と一言発し――その瞳を尖らせた。

 異常な程の殺気を漂わせ――。


「お爺ちゃんごめんね。悪いけどこいつらは――私がやるわ」


 冷笑を浮かべ、徐ろに立ち上がり、同時にヴァルーンソードを現出させる。

 そこへ再び枝が伸びるがゼンカイが反応するまでもなく、瞬時に枝は千切りにされ緑の中に落ちていった。


「ミャウ、あたし――は必要ないようだね」

 枝から開放されたことでミルクも立ち上がり、ミャウを一瞥した後、そう告げた。


「えぇ。さて、じゃあ……辱められたお返しといこっかな」


 不気味な笑顔を目標へと向け、【フレイムブレード】! と唱えた瞬間、刃が灼熱の炎に包まれる。


 その瞬間、本体に近付けさせまいと渦巻いていた枝達が、恐れを抱いたようにびくびくと蠢きだした。


「今更後悔したって――遅いのよ!」


 気合一閃、ミャウの振り下ろした刃により瞬時に立ちふさがっていた枝が燃え上がりそのまま炭と化し消え去った。


 ミャウの視線の先には根っこを触手のようにうねらせ、後退していく奇樹の姿。

 恐らくはこれがトレントの本体なのであろう。

 

 しかし元が樹という事もあってか動きは決して早くはない。

 当然、それでミャウの一撃を躱せるはずもなく――。


「燃え尽きて! 消えされぇえぇえぇえええ!」


 ミャウは声を滾らせながら跳びかかり、一太刀の下にトレントの本体を切り裂いた。

 刃に纏った炎は見事にトレントに燃え移り、そしてその身を真っ赤に燃え上がらせた後、プスプスという音を皆の耳に残し、何の価値もない消炭へと姿を変えたのであった。

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