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第三話 いまどきの異世界設定は親切でなければやってられない

 ゼンカイ爺さんが目覚めたのは、気絶して凡そ15分ぐらいすぎてからの事であった。


 ちなみに目覚めると猫耳美少女に膝枕されていて……なんて淡い期待は、背中に敷かれた雑草の束によって脆くも打ち崩された。


「本当。あの状況でよく気絶できたわね」


 猫耳少女は溜息のように言葉を吐く。


 ちなみに少女を襲っていた男達は、爺さんが目覚めた時にはとても描写できないほどの酷い有様で脇に積み重なっていた。


 話によると、この少女相当手練の冒険者だったらしい。つまりゼンカイの行為はまったく無駄だったわけだが、当の本人は意に介さず、しかし自分の身に起きている事態にだけはやたらと憤慨した。


「あのアマ騙しおって! わしのこの純粋なぴゅあは~とを弄びおったな!」


 ゼンカイは猿のようにムキムキいいながら手足を振り上げた。

 顔が赤茄子のように真っ赤に染まり、はたからみても何となく怒ってるんだろうなぁというのが良くわかる状態だ。


「ねぇお爺ちゃん。あの女って言うのが誰かは知らないけど」

「安心せい。別にコレとかじゃないぞ」

 

 ゼンカイは小指を立ててみせる。が、いやそんな事はどうでもいいんだけど、とあっさり言い放たれる。


 しかし爺さんは心の中で、照れおって可愛い奴じゃのう、とでも考えてるように、にやにやしていた。

 自分の姿を鏡で見ているわりに妙な自信だ。

 

 そんな爺さんを、少しひいた目で見ながらも少女は再び言葉を続けた。


「お爺ちゃんってもしかして……て言うかほぼ間違いないと思うけど、ニホンって言う所から来た人だよね?」


 少女の伺い、というよりは確認にゼンカイは、ガーン! と定年後に突然離婚を言い渡された夫の如き様相で驚いた。


 そして両手を後ろへ回し、口笛を拭きながら、吸ってもいない煙草をもみ消す仕草で、くるくる回転し、

「はて? 何のことかのう?」

とバレバレな惚け方をする。


「いや、そんな誤魔化さなくても大丈夫だよ。別にお爺ちゃんみたく来る人珍しくないし」


 何じゃとぉおぉぉ! とは爺さんの叫び。


「そ、それじゃああれかい! 異世界に来て現代知識をひけらかし、どんなもんだと無双するわしの夢はどうなるんじゃ!」


「いや、知らないけど……」


 そんな事言われても少女には知ったことではない。


「うぅ、てっきりわしがこの地に始めて脚を踏み入れた記念すべき第一号と思っておったのに……なんなら旗の一本でも立ててやろうと思ったのに」

 

 涙ながらに訴えるゼンカイだが、勝手に旗を立てたりしたら侵略者扱いされかねないだろう。


「あはは。まぁ最近やって来る人はお爺ちゃんみたいに驚く人は多いかもね。異世界人ショックの時ぐらいだったら一気にニホンジンがやってきたりして、王様自らこの国の事説明したりしたみたいだけどね」


「異世界人ショック?」

 ゼンカイの頭に疑問符が浮かぶ。


「うん。あぁそうそう私が産まれるずっと前にあった事で、何でもショウシコウレイカとかいう呪いで、ある日ばったばったとお爺ちゃんお婆ちゃんが死んじゃって天界とかいうのが一杯になったとか……で、なんかタイキとかジュウリョクとかが近いこの世界が受け入れ先として選ばれたんだって。まぁ私も学生時代に授業で聞きかじったぐらいだけどね」

 

 何て事だ。まさか祖国ニホンで起きた問題がこんな異世界にまで波及してるとは。思えば数十年前アベガミクスだ何だと騒がれたものだが、結局この少子高齢化の問題だけは何の解決案も出される事無く棚上げされたままだった。


 ゼンカイは憂う。

 わが祖国がこれまで築きあげてきたものは何だったのか。そして自分自身も他にもっと出来る事があったのではないか? と、そう140年生きてはきたものの――。


「ふ~ん。あ、そう。それは大変じゃのう」


 ひとごとだ! 全くもってひとごとだ! そうだろうそうでしょう。

 そもそもゼンカイは生まれてから死ぬまで一度もまともに新聞を読んだことが無い。

 少子高齢化とか言われても何それ? 美味しいの? って具合だ。


 とは言え物心付いた頃には、スポーツ紙のピンク欄を貪るように見続けてきた漢でもある。静力 善海まさに恐るべしである。


「そうそう。そういえばニホンというところで使われてきた言葉も、こっちの言語と一緒なんだって。だから言葉が通じないって問題も無いみたい」


「おお、それは良いのう! だからこそ今もわしとお嬢ちゃんの心と心が通じあってるのじゃな!」


「……いや、心はどうかと思うけど。てかお爺ちゃんって結構図々しいよね」


 異世界女子は意外と言葉がキツイ。だが出会ったばかりで心が通じ合うなんてそんな世の中甘いモノでは無いだろう。


「しかしのぉ。わしはてっきりかつてのモテ男子になってると思ってたのに……悔しいのぅ……悔しいのぅ」


「モテ――まぁそれはともかく確かにお爺ちゃんみたいなのはそうはいないわね。大抵神様に頼んだとかで若返ってやってくるから」


 モテの部分で口ごもるも、そこはあえて突っ込まないのが獣耳少女の優しさか。


「そうじゃろう! おかしいのじゃ! これはあれじゃ! きっとバグじゃよ! バグ」


「バグ? まぁそれが何かは良く判らないけど、変な状態異常とか掛かってるかもしれないしちょっと確認してみたら?」


 その言葉にゼンカイは首を傾げ、確認? と反問する。


「えぇ。あぁ本当何も聞いてないんだねぇ。こうやるのよ、【ステータス】」


 その瞬間何もない筈の空間にずらずらと文字が並ぶ。

Status

Name :Myu・Myu

Level :16

Sex  :Woman

AGE  :26

Job  :MagicSwoder

HP  :100%

MP  ;100%

EXP  : 0%

Con :Good



STR  :D+(+40%)

VIT  :F (+35%)

AGI  :A+ (+31%)

DEX  :B (+23%)

INT  :B+(+18%)

REL  :I-

LUK  :G

HCA  :B+

MEN  :F  

CHA  :C+


「おお! おお! 何じゃこれは! 何じゃこれは!」

 

 ゼンカイはその不思議な光景に、興奮気味に言を吐いた。


「これは自分の能力を知る為の、まぁさっきの奴等が使った魔法みたいなものね」


「これも魔法か!」


 ゼンカイ、更に興奮する。


「そ、それはわしでも使えるのかいのぉ?」


「えぇ。このステータスはMPも減らないし、誰でも使えるわ。まぁさっきのマキシマムみたいなのはジョブによるけど」


 少女はゼンカイ爺さんの質問に丁寧に応えてくれる。ちょっとキツイ一面もあるが、きっと普段も両親思いの良い子なのだろう。


「ほぅ。ほぅ。しかしあれじゃのう。このなんか意味不明な文字は何じゃ? さっぱりわからんのう?」


「え? そう? そういう風に言う人あまりいないんだけど……」


 獣耳少女は若干困惑した表情で応えた。


「そうじゃよ。こんな説明書でもみんと判らんようなのは不親切じゃ! 最近のゲームは説明書なんてみなくても出来るのが当たり前じゃからのぉ!」


 ぷりぷり怒り出すゼンカイ爺さん。さっきから少女が色々とナビゲーションしてくれているのだがそれでは不満なのか。


「そうじゃ!」


 ふと爺さんがポンっと手を打ち、頭の上に電球が光ったような表情を見せる。


「嬢ちゃん。これはわしにも使えるんじゃったよな?」


「え? うん。さっきも言ったけど大丈夫だと思うよ。今まで使えなかった人いないし」


「よし! ならこうじゃ! 【ステータス(日本語)】!」


ステータス

名前:ジョウリキ ゼンカイ

レベル:1

性別:爺さん

年齢:70歳

職業:老人

生命力:100%

魔力 :100%

経験値:0%

状態 :良好


力  :中々強い

体力 :超絶倫

素早さ:エロに関してのみマッハを超える

器用さ:針の穴に糸を通せるぐらい

知力 :酷い! ゴブリン以下!

信仰 :何それ?

運  :かなり高い

愛しさ:キモ可愛いと言えなくも無い

切なさ:感じない

心強さ:負けないこと


「何これ!」


 少女が目を見張った。相当驚いている。


「どうじゃ判りやすいじゃろ?」


「え? えぇ……う~んまぁ……(てかこんな機能あったんだ……)」


 何とも微妙な反応だが、少女は一応爺さんのステータスに着目する。


「あ、年齢70歳だって。やっぱりおかしいね。若返って無いみたい。でも変だなぁ状態異常も無いみたいだし……」


 しかし爺さん、鳩が豆鉄砲食らったような表情でステータスを見続けている。


「お爺ちゃん?」

「――ておる……」


 ゼンカイの呟きに、え? と顔を巡らした少女。猫耳が前後にぴこぴこと揺れている。


「わしここに来る前140歳だったんじゃあ……」


 何ともいえない微妙な空気を発しながらゼンカイが言う。すると、へ、へぇ~と少女が述べ。


「す! 凄いじゃない! 70歳も若返るなんて! あまりそんなの聞いたこと無いよ! 凄いよお爺ちゃん!」


 そう褒めちぎってみる猫耳少女だが、爺さんの反応は薄い。というか驚くべきは70歳から全く姿形が変わっていないという事実だろう。恐るべし静力 善海。


「こんなの……嫌じゃ!」


 ゼンカイ、地面に突如大の字に倒れ手足をバタバタさせながら、嫌じゃ嫌じゃ! と駄々っ子のようにごねだす。


 しかしそんな事されても困るのは猫耳少女だろう。別に爺さんが爺さんのままなのは彼女のせいではない。


「じゃあもう私行くね」


 ついに猫耳少女旅立つ! こうしてゼンカイと少女の出会いは――。


「待たんかい!」


 バサッと起き上がりゼンカイが引き止めた。

 なんかちょっと偉そうなのが鼻に付くが、少女もピタッと脚を止め、やれやれと振り返る。


 結局中々にお人好しな少女は爺さんの前に戻った。


「で? どうするの? 年の件はもうどうしようもないと思うよ?」


「うむ。まぁ過ぎたことはもう仕方ないわい。それにわしには嬢ちゃんみたいなめんこい娘が一人好きでいてくれればソレで良い」


 流石ゼンカイ。いつまでもくよくよ悩まない。

 あっけらかんとしたこの性格となんとも言えない図々しさこそが、140歳までいきられた由縁たるか。


「てかお爺ちゃんにとって私ってどういう扱いなのよ」


 眉を寄せ若干不快そうに言う。が、その顔もまた可愛いのぅ等と爺さんは思った。

 ピンと張る猫耳も確かにチャーミングである。


 そんな猫耳娘を尻目に、ゼンカイは身体をパンパンと叩いた後、改めて【ステータス(日本語)】を唱え自分の能力を映し出す。


 そしてまじまじと自分のステータスを眺めながら。


「これってどうなんじゃ?」

と猫耳少女に聞く。


「そうねぇ……知力ゴブリンい、ぷっ――」


 少女はゼンカイから顔を背け、右手で口を塞ぐ。が、ククッ、と堪え切れず肩が小刻みに震えていた。


「な、なんじゃい! 何笑っておるんじゃ!」


「いや、そんな笑ってないわよ。気のせいよ気のせい」


 猫耳少女は白々しく述べるが、爺さんは納得いかず。


「え~い! だったらお主のをもう一度みせてみぃ! 日本語じゃ! 日本語で良く見せるんじゃ!」


 爺さんにあまりしつこくせがまれるものだから少女も嘆息し、やれやれとソレを唱える。


ステータス

名前 :ミャウ・ミャウ

レベル:16

性別 :雌

年齢 :26歳

職業 :マジックネコミミソーダー

生命力:100%

魔力 :100%

経験値:0%

力  :かなり高い(+40%)  

体力 :中々高い (+35%)

素早さ:光神級(+31%) 

器用さ:編み物とか得意(+23%)

知力 :全てを見透かす頭の良さ(+18%)  

信仰 :ちょっとはある 

運  :それなりに高い  

愛しさ:笑顔と猫耳が可愛い

切なさ:意外と感じる

心強さ:相当高い



「私までこんなの!? てか雌って何よ! 雌って! せめて女性とかにしなさいよ! てマジックネコミミっておかしいわよ絶対! さっきのステータスにネコミミなんて無かったよね! 可愛いって! ……まぁこれは納得かな」

 

 かなり突っ込みが激しいミャウ・ミャウという少女だが、可愛い部分だけは納得してるようだ。

 自意識過剰と思われそうだが、いやでも確かに可愛らしい。


 肩まである赤毛の髪はしっかりと整えられていて、だからこそ頭の上にぴょこんと生えてる猫耳の可愛らしさが際立ち、切れ長の目尻と黒曜石のような大きな黒目が特徴的な猫目は正しく猫耳に相応しく、健康的な肌によって活発な印象を受ける。


 因みにステータスを見る限り魔法を使える剣士のようだが、剣を装着している様子は無い。


 だが先程彼女が唱えた【アイテム】というのを見る限り必要なときだけ出しているのだろう。


 剣は持ち歩いていないにしても、胸に装着された銀色のクイラス(胸当て)は常に戦いに身を置くものの出で立ちと言えるか。


「お爺ちゃん?」


 ふとミャウがゼンカイに問いかける。みるとゼンカイはミャウの姿を眺めながら呆けていた。


 さては改めて彼女の可愛らしさに目を奪われているのかと思いきや、何とも微妙そうな面持ちをしている。


「嬢ちゃん。26だったんじゃのう……」


 そうである。うっかりしていたがこの少女、ステータスを見る限り年齢は26とある。


 見た目が幼いので気付かなかったが、この年で少女は無理があるだろう。

 考えを改めなければいけない。


「……それが何か?」


 胸の前で腕を組み、あからさまに不機嫌な表情を少女……もとい猫耳は浮かばせる。


「いやのぉ。申し訳ないんじゃが、わしのストライクゾーンは18歳までのおなごか巨乳の娘なんじゃ。勿論両方揃ってれば最高じゃがのう」

 

 爺さんはそう言ってミャウの胸当てを一瞥し、はぁ~と溜息を吐いた。

 

 確かにミャウの胸は控えめだが失礼な話である。

 と言うか何平然と自分の性癖漏らしてるんだという感じであるが流石ゼンカイかなりの変態だ。


「まぁそれでもあれじゃのう。どうしてもと言うならわしもやぶさかでは無いぞい」


 親指を立てニカッと笑うゼンカイ。

 そして猫耳を後ろに引いてピンッっと立て、瞳孔をまん丸くさせるミャウ。


「もうそろそろ殴ってもいいかな」


 良いと思います。


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