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第二十八話 森と魔物

「のう、ところで魔草というのは捜さないでえぇのうかのう?」

 

 どんどん前に突き進む三人の姿に、ゼンカイが問いかけるとミャウが振り返り、大丈夫よ、と返し。


「この森の魔草はもう少し奥に生えているからね」


「成る程のうさすがミャウちゃんは詳しいのう」


 ゼンカイが関心したように一人頷いた。


「ゼ、ゼンカイ様! 勿論あたしもそれは知ってましたよ」


 ミャウの前からミルクが声を大に言った。ゼンカイの事となると対抗意識が強い。


「も、勿論ミルクは私なんかよりずっと経験豊かでしょうからね」


「ふん。まぁな」

 ミルクは得意がり鼻を鳴らした。

 言葉遣いまでも瞬時に変わっている。


 するとピタリとタンショウの動きがとまる。


「おい? どうした?」

 ミルクが眉を広げ聞くと、タンショウは横を指さし何かを伝えようとする。


 一体何が? とミャウとゼンカイもその方向に顔を向ける。

 するとそこには一匹のウサギの姿。


「ほう。可愛らしいものじゃのう」

 言ってゼンカイが列から離れ、ウサギへと歩み寄った。


「お爺ちゃん気を付けて!」


 ミャウの警告に、のう? とゼンカイが後ろを振り向く。非情に間の抜けた顔である。

 すると、ギシャァアァ! という鳴き声と共にウサギが飛びかかってきた。


「危ない! ゼンカイ様!」

 声を上げ、瞬時にミルクが間合いを詰め、その生物目掛け大斧を振り下ろした。

 

 グチャ――という音がゼンカイの耳朶を打ち、地面には見事ひき肉となったウサギの成れの果てが後を残す。


「な、中々エグいのう」


 一発で仕留められ全く原型を咎めていないソレを眺めながら、ゼンカイは眉を顰めた。


「もう、駄目よミルク。ちゃんとお爺ちゃんに戦わせないと、レベル上がらないじゃない」

 両手を腰に添え、ミャウがミルクに注意する。


「あぁそうだったな。すまないつい……」

 ミルクは斧を一旦地面に置き、申し訳無さそうに顎を掻く。


「まぁまぁミャウちゃんや。ミルクちゃんはわしを守ろうとしてくれたんじゃ。その気持はありがたいのう」


 ゼンカイの言葉にミルクの表情に花が咲いた。


「ゼンカイ様……そのような嬉しいお言葉――」

「おっと! 抱きつくのはなしじゃぞい!」


 咄嗟にゼンカイが後退りし、両手を振る。


「てかお爺ちゃんも油断しすぎよ。今のはキラーラビット。見た目は普通のウサギっぽいけど油断して近づいた相手を襲うのよ。今度からは気をつけてね」


 ミャウの咎めに、面目ないと頭を掻くゼンカイ。するとミルクが不機嫌を露わにし口を開く。


「ちょっとミャウはゼンカイ様に厳しすぎじゃないのかい」

「そんな事はないわよ。ミルクが甘いのよ」


 ここに来て初めて二人の間に緊張感が生まれる。


 するとタンショウが間に入り、ジェスチャーでこんなところで言い合っていても仕方ないと伝える。


「まぁそうね。とにかくここではお爺ちゃん以外が魔物を退治しても何の利にもならないんだし、ここまできて無駄骨は嫌でしょう?」


「むぅ。確かにそうだな」

 その言葉でミルクは何とか納得し、ゼンカイと共に再び歩みを進める。


 その途中、またもやキラーラビットが現れるが、今度はしっかりゼンカイが相手をし、得意の居合で片をつけた。


「ゼンカイ様さすがです! あたし、そのような戦い方初めてみました!」

 心からの拍手を送り褒め称えるミルクに、やれやれとミャウがため息を付く。


「むぅ。しかし流石にまだレベルは上がらんのう」


「それは仕方ないわよ。キラーラビットはレベル2でお爺ちゃんより低いからね」


 そうなのかい、と零し、ならばせめて戦利品はと遺体を見るがミャウの話では特にお金になるようなものは持っていないらしい。


 仕方がないので更に足を進めると、今度は灰色の毛を持つ三匹の狼に出くわした。


「ウルフルズね。常に徒党を組んで行動する獣系の魔物よ。毛皮を店に持っていけば買ってくれるわよ」


「おお! ならば頑張るかのう!」

 

 するとミルクが、タンショウ出番だよ、と盾を持った巨人に告げる。

 その声に一つ頷き、タンショウがゼンカイの前に立ち、シールドを構え壁となった。


「ゼンカイ様。防御はそいつに任せて、攻撃に集中してください」


 ミルクの言葉に納得し、合点承知じゃ! とタンショウの後ろから様子を見ようとするが……。


「う~んいい作戦だと思うけどこの場合、体格差がありすぎるわね」


 ミャウの言葉にミルクが目をまん丸くさせた。予想外といった顔つきだ。

 しかし確かにこれだけ差があると、後ろに立つゼンカイからは、敵を視認する事が出来ない。


「むぅ! そうじゃ!」

 

 ふとゼンカイが何かを思いついたように両手を打ち鳴らし、そりゃぁ! と勢い良く飛び上がる。


 そして――タンショウの右肩に華麗に着地した。


「おお、絶景かな! 絶景かな!」

 二メートルを超えるタンショウの肩の上が、ゼンカイは随分と気に入ったようだ。


 そして当然だがこれによって視界の問題は解決される。


「流石ゼンカイ様!」

 両手を握りしめ、感嘆の言葉を捧げるミルク。

 するとゼンカイが後ろを振り返りピースサインを見せた。


「さぁ! いくぞいタンショウロボ!」


 ゼンカイ。すっかりロボットアニメの主役にでもなったつもりでそう命じる。

 とは言えタンショウもノリノリの様子で、盾をもったまま両腕を振り上げた後、ウルフルズ向けて突撃を開始した。


 しかしウルフルズとてそれで怯みはしない、三匹は突進してきたタンショウ目掛け突っかかる。が、しかし盾に遮られたその身には牙など通りはしない。


 タンクと化したタンショウに攻撃を続けるウルフルズは、ゼンカイの事は目に入っていないようだ。


 それに目をつけ、とぅ! とゼンカイが肩から飛び降り、ウルフルズの背後に付き、(善海)(入れ歯)(居合)で一匹片付ける。

 

 流石に入れ歯の威力は相変わらず強大だ。

 そしてそれを見た残りの二匹は一旦距離を取り二匹そろって唸り威嚇する。


 するとゼンカイ、再びタンショウの肩に戻り。


「なんじゃい。もうびびったんかい。情けないのう。お前らなんてただの雑魚じゃ。ほ~れほれほれ」

 

 そう馬鹿にしたようにいいながら、くるりと背中を見せおしりを叩く。

 するとウルフルズは悔しそうに歯牙を露わにさせ更に低く唸った。


「あぁいう、神経を逆撫でさせるやり方はさすがね」

 遠巻きに見ていたミャウが一人こぼす。


「流石ゼンカイ様! 見事な作戦です!」

 もはやミルクはゼンカイがくしゃみをしただけでも褒め称えそうな勢いである。


「ほれどうした? 悔しかったらここまでこんかい」

 ゼンカイはウルフルズに尻を見せたまま、更にこけにしたように振り回す。


 これにはウルフルズも辛抱たまらん! と怒りの遠吠えを上げ、二匹同時に駆け出した。


 そしてまず一匹が飛び上がる。が、それでも肩の上のゼンカイに届かない。そこでもう一匹のウルフが先の相方の背中を足場に、更に高く飛び上がった。


 成る程、確かにこれでゼンカイに攻撃は届きそうである。

 だが、それは爺さんにとっては想定内。


 牙を向けたウルフの目先には既に居合の構えを取ったゼンカイの姿。

 そう狙いは仕掛けに合わせたカウンターである。


「これで残り一匹じゃ!」

 言うが早いかゼンカイが入れ歯を抜き取り、ウルフの歯に歯を打ち込んだ。

 それにより何かが砕けた音と共に、哀れウルフは後ろへと吹き飛び牙の破片を宙にまき散らしながら、地面に落下した。


 仲間がやられ、単身残ったウルフルズは既にただのウルフと化した。

 もはや抵抗する術も無いのだろう。ただ身体を震わせているだけである。


「さぁ。どうするかのう?」

 獲物を見下ろしながら、ゼンカイが問いかけた。するとウルフはか細い声で、ぐるっ、と唸りそのまま踵を返し逃げていった。


「ゼンカイ様! 逃してしまってよろしいので?」


 後ろからミルクが声を掛けるが、振り返ったゼンカイはニコリと微笑み。


「去るものは追わずじゃよ。無理して倒す必要もなかろう」

 

 そう慈悲の言葉を述べた。


「あぁ。流石ゼンカイ様……お優しい」

 一人感動するミルクをミャウがジト目でみやる。


「ふぅ、まぁいいわ。とりあえず早く回収できるものは回収して――」


「グギャン!」


 ふと森の奥から何かの叫びが聞こえた。

 人の物ではない。

 声はあのウルフが逃げた先から聞こえてきた。


 四人が一斉に、声の方へ目を向ける。すると森の奥から彼ら目掛け何かが投げつけられた。


 それは灰黒い塊。

 どさりという低音と共に地面に落ちたことで、それが何かを皆が視認する。


 そしてそれは、先ほど逃げていったウルフの半身であった――。

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