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第二十七話 森へ……

 ミルクの勘違いは依然と続いているものの、とりあえずは話も纏まり四人はギルドを後にした。


 建物から出て、先ずミャウはゼンカイに持たせていた戦利品を売却に向かう。

 交渉は慣れているミャウが行った。


 スダイムの斧に関しては含まれてる鉱石によるせいか、値の付かないものもあったが、20個程は売却する事ができ1,000エンを手にすることが出来た。


 続く店ではバットの飛膜と爪のセットが一体80エンの値が付き、4,480エン合計で5,480エンがゼンカイの懐に入った。


「むほほ! やったぞい! お金じゃお金じゃ!」


「ちゃんと落とさないようにしまっておくんだよ」


 ミャウがゼンカイに注意を促す。

 するとゼンカイは受け取った報酬の中からミャウに借りていたお金を差し出した。


「別にまだいいのよ」

「いやいやこういうのは思った時が吉日なんじゃよ」


 中々律儀な爺さんだ。しかし何かを忘れてるような気もしないでもない。

 そしてそのゼンカイの言葉に、ありがとう、と言ってミャウは素直に返済額を受け取った。

 

「ぜ、ゼンカイ様! お金にお困りでしたがあたしが――」


 後ろから付いてきていたミルクが心配そうに声を発す。

 その献身的な姿にミャウは終始苦笑いである。


 その後ゼンカイは、薬店でミャウに薦められたポーションや毒消し草を購入し、森へ行く準備を整えた。


「装備品はこれでいいのかのう?」


「えぇ。転職後にいろいろ買う必要が出ると思うしね。その為にお金はとっておいた方がいいわよ」


 成る程のう、と顎を擦るゼンカイ。するとミルクが両拳を握りしめながら、

「大丈夫です! ゼンカイ様は何があってもあたしが守ります!」

と力説した。


「おお。頼りにしとるぞいミルクちゃん」


 その言葉に、ミルクは瞳をうるうるさせながら両手を口に持っていった。


「そんな、ミルクちゃんだなんて! 嬉しいですゼンカイ様!」

 言ってミルクがゼンカイを抱きしめる。ぼきぼきぼきと嫌な音がした。

 ミルクが守る前にどこか遠い世界に行ってしまいそうである。


 そして後ろではタンショウが必死にジェスチャーで、お爺ちゃん旅立っちゃうよ! 天使が舞い降りてきてるよ! と訴えてるが気づいてもらえてない。

 

 いや恐らくはミャウが気づいてはいるが、完全に無視である。


「さぁ。それじゃあ行きましょうか」


 ぐったりとしているゼンカイを尻目に、ミャウは皆を促し、街を出た。

 今回も移動は徒歩である。


 しかし元気を取り戻したゼンカイは、最初に比べれば動きもスムーズだ。

  密かに森へ行くまでの道は、最初の洞窟への街道に比べれば緩急も激しいが、問題としていないようだ。


 勿論、同道している仲間たちもゼンカイ以上に実力のある者達だ。2時間、3時間と歩いても全く疲れた素振りも見せない。


「ゼンカイ様。大分歩きましたが大丈夫ですか? もしお疲れなら、あたしが背負って差し上げますよ?」


「み、ミルク。あんまり甘やかすのはちょっと」


「何よミャウ! 文句があるの!」


 ミルクの眼つきが尖った。ゼンカイの事に関しては、ミャウに敵対意識を持ったままである。


「ミルクちゃんや。ミャウちゃんはわしの事を気にしてくれてるんじゃ。この移動も修行みたいなものじゃからのう」


 ゼンカイはわりとまともな事を言っている。


「あぁゼンカイ様お優しい」

と再び感動してみせるミルク。

 

 その姿にミャウは何ともいえない表情である。

  そんなやり取りをしていると、街道がゆるやかなカーブを描いてる箇所で、一つの看板が立っていた。


 それには、矢印がふられその横に、西の魔草森はこちら。但し危険な為、冒険者以外進入禁止。と刻まれている。


「おお! 着きおったか!」

  ゼンカイが鼻息を荒ぶらせた。


「えぇ。ここからは街道から逸れて、森まで向かう形ね」


 するとミルクが軽く空を見上げた。太陽の位置は既に中点を過ぎている。


「少し急がないと帰りは暗くなってしまうねぇ」


「えぇそうね。じゃあ行きましょうか」


「胸が踊るぞい!」

 ゼンカイが拳を上に突き上げた。

 最初の依頼の時は、洞窟の手前で若干戸惑いも見せていたが、今はそんな様子は微塵も感じられない。

 どうやら先の依頼がかなりの自信に繋がったようである。





 森に入る直前、ミルクは隊列を決めた方がいいと皆に提案した。

 ガードの固いタンショウを前にして、進んでいこうという事である。


「そうね。折角だからタンショウくんの力を頼っちゃおうかな」

 ミャウの言葉にタンショウは照れくさそうに後頭部を掻いた。


 ちなみにギルドを出て何度か話してる間に、ミャウはタンショウをくん付けで呼ぶようになっていた。

 そう密かにタンショウの方が年下なのである。


 ゼンカイ以外の三人は、一応と、アイテムを唱え装備を固めた。

 ミャウは前と同じヴアルーンソードと胸当てという軽装備である。


 それに対し、ミルクは中々の重装備だ。

 シャツの上から紅色の鎧を付け、同じく紅いグリーブとガントレットを装着する。


 見た目にも強烈なのは、左右に持たれた巨大な斧と同じく強大な大槌か。

 鎚に関しては既に一度見ているが、斧もそうとうに荒々しい代物だ。


 両側に取り付けられた刃は片側だけでも、持ち主本人より幅が広い。

 森で生計を立てている木こりでも、こんな物は持ちはしないだろう。


 一方、タンショウも中々独特のスタイルを見せていた。

 防具と言えるものは殆ど装備していないなか、唯一両手に持たれたタワーシールドがとかく印象的である。


 勿論両手にそんな物を構えているのだから武器という武器は持ちあわせていない。


「タンショウは戦うときはそれで戦うからね」

とはミルクの言葉。


「二人とも凄いのう。羨ましいのう」

 未だ革装備のゼンカイが物欲しげに指をくわえる。


「ゼ、ゼンカイ様は武器は持たれないのですか?」

 まじまじとゼンカイに姿をみられ、照れくさそうにしながらミルクが問う。


「むふふ。わしには秘密兵器があるからのう」


 顎を二本の指で押さえ、得意気に目を光らせた。

 この二人はゼンカイの入れ歯の事を知らないので、後のお楽しみといった具合である。

 しかし、なんだかんだでゼンカイは自分の入れ歯の事を気に入ってるようだ。


「ところでミルクのそれってユニークセットよね? いいなぁ」

 ミャウはミルクの装備を改めて見つめ、羨ましげに述べた。


「まぁね。でもミャウのその武器だってかなり貴重なユニークだろ?」


「そうなんだけどやっぱ防具とかも揃えたいよねぇ」


「判る判る。いろいろ揃えたくなるんだよね」


「そうなんですよ~。でも中々素材が……」


 二人が急にお互いの装備の事から素材にまで話が及び、ゼンカイとタンショウは完全に取り残された状態である。


 が、そこはゼンカイ、ミャウのスカートの裾をぐいぐいと引っ張り。


「うん? 何お爺ちゃん?」


「ユニークってやっぱり凄いのかのう?」

と問いかける。


「ゼ、ゼンカイ様。ユニークは特別な力を持った装備品のことですよ。それを装備すると能力値が増えたり、特殊な効果を発揮したりするのです」


「ほう。じゃあミルクちゃんのそれも何か特別な力が?」


「はい! よ、良かったらおみせ――」


 そこで突如タンショウが両手のシールドを叩き合わせる。

 何だ? と振り返る三人に、ジェスチャーでいい加減急がないとと伝える。


「あっとそうだったわ! こんなところで談笑してる場合じゃないわね」

 

 タンショウがうんうん、と頷く。


「それじゃあタンショウ。あんたさっさと前を歩きな」


 ミルクのタンショウに対する接し方はゼンカイと大違いで厳しいものである。

 しかし、その命にはしっかり従い、タンショウは当初の予定通り前を歩き出した。


 それにミルク、ミャウ、ゼンカイと続く。

 

 一度森に足を踏み入れると、タンショウよりも上背の高い木々が乱立し、足元は踵から爪先までを覆う程の草々が敷き詰められていた。


 天を見上げれば大樹の葉のドームが形成されており、そのせいか森のなかは少し薄暗く空気もひんやりとしている。


 森の中には当然道といえる道も無い。その為、初めて訪れる冒険者は目的の魔草を見つけるのに苦労するらしい。


 別に魔草そのものが希少なものというわけではないようなのだが、それらの草の中から目当ての物を見つけるにはそれなりの知識と経験を有するのである。


 今回はゼンカイ以外の三人が経験豊富な為、ひと目みればそれが目的の品かどうかすぐに判るらしいが、ゼンカイ一人だったなら中々厳しいミッションになっていた事であろう。


 ゼンカイは改めて、よい仲間に巡り会えた事を神に感謝し――。


「むぅ。ミャウちゃんの生足にミルクちゃんの巨乳。どちらも捨てがたいが……しかしのうあれは……」


 こんな時に何を考えてるんだ爺さん。

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