第二十六話 二人の実力
話は少々横にそれてしまった感があったが、ゼンカイの思い出話も終わったことで再び話題は、彼等の症状に及んだ。
「まぁ。私は別にこのままでもいいとは思うんだけどね」
ミャウが頭の後ろに両手を回しながら、あっさりと言う。
「なんて事いうんじゃ! ポルナレフはわしと長年つれそったパートナーじゃ! 息子以上に可愛がってきたんじゃぞ!」
「知らないわよそんなの」
ミャウときたら全く興味なさげである。
「そ! そうだぞ! ポルナレフのピンチだ! 早くなんとかしてあげないと!」
逆に、少しでも早く治して上げたいと力説するわ、ミルクである。
彼女はタンショウに関しては、ミャウと同じくどうでもいいと思っていたようなのだが、ゼンカイに好意をもったことで、かなり必死な模様であった。
「ミルクさん……本当によく考えた方がいいよ? これよこれ?」
ミャウがゼンカイの頭を鷲掴みにして持ち上げ、考えなおすよう説得する。が、
「あぁ。そのつぶらな瞳でみられると……はぁん!」
重症である。
「ふぅ……まぁ人の好みに文句を言うつもりは無いけどね」
「なんじゃいミャウちゃん。ヤキモチかいのう?」
その言葉の直後にゼンカイが床に叩きつけられたのは言うまでもない。
「あぁ! なんて事を! ゼンカイ様! 大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃ! だからこっちにく、うぎぇいいいぇいいぃいうxぴういお」
思いっきりミルクに抱きしめられ、ゼンカイも幸せそうである。
顔が紫色ではあるが。
「ノーグッド! こんなオールドメンにファイヤーライスケーキだなんて! マイハニー一体――」
「黙れ。近付くな。ややこしくなる。去れ!」
ミャウの迫力に冒険者Aはトボトボと席に戻っていった。
因みにいろいろ話してる間に、ギルド内にも大分冒険者が増えてきている。
「まぁどっちにしてもお爺ちゃんのレベルアップは必須よね。アネゴさん何かいい仕事あるかなぁ?」
「あぁ。だったらこれなんてどうだい?」
ミャウの問いにアネゴが依頼書を一つ机の上に乗せてみせた。
「あれ? 魔草採取? へ~まだ残ってたんだ」
依頼書をみながら、ミャウが声を弾ませた。
「あぁ。ちょっと内容修正がかかったからね」
アネゴの言葉に、修正? とミャウが尋ねるように発す。
「そう。推奨レベルみてみなよ」
それを聞き、ミャウは依頼書をまじまじと見つめる。
「え? 推奨レベル6? ここっていつも精々、2とか3よね?」
依頼書を手にしながらミャウが不可解そうに眉を広げた。
「そう。実は調査で魔物の進化が認められてね。丁度そのタイミングでの依頼って事。その分推奨レベルは上がってるし、依頼主の薬屋の主人も報酬を上げるのは厳しいみたいだから報奨金は元のまま。だから割に合わないって思ってる冒険者も多いけどレベルアップも兼ねてなら丁度いいんじゃない?」
「そういう事か。まぁ確かにレベル6推奨で、3000エンは安いわね……ところで進化した魔物の詳細は判るのかな?」
改めて依頼書を眺めながら聞くミャウに、頬杖を付きながらアネゴが答える。
「あぁ。キラーラビットの進化で、ホーンラビットと、ラビットベアの二種だね」
「それだとホーンは角が、ベアは毛皮が採れるわね。まぁ悪くはないかな」
「わし頑張るぞい!」
気絶から立ち直ったゼンカイが、ミャウの足元で張り切る。
「う~ん。あとはレベル差がちょっと気になるけど」
「うん? どうせミャウも付いて行くんだろ?」
「まぁそうなんだけどね」
苦笑いを浮かべミャウが答える。
「そ、その依頼、なんなら私達も付き合ってもいいぞ」
二人の後ろからミルクが話しかけてきた。
相変わらず大きな胸を強調させるように腕を組みながら、すました表情で立っている。
だがその両頬は若干紅い。
「二人が?」
ミャウが振り返りながら問いかけた。
「あぁ。レベル上げならこいつも役に立つと思うしな」
ミルクは後ろのタンショウを親指で指し示す。
「う~んまぁ多いと助かる部分もあるけど、お二人共レベルはどれぐらいなんですか?」
「あぁそうだな。だったらおいタンショウ。ステータスで見せてやるぞ」
「日本語で頼むぞい」
「え? ゼンカイ様日本語とは?」
「てか様とか別につけなくても……」
「あ、あたしが好きで呼んでるんだよ!」
キッと鋭い視線で睨んでくるのでミャウは、そ、それじゃあご自由に、と慌てながら返す。
「実はのう、かくかくしかじか……」
「えぇ! そんな事が出来るんですか?」
ゼンカイのソレでミルクは全て納得したようだ。かくかくしかじかとは便利なものである。
「これはわしが発見したんじゃよ」
得意気に親指を立てるゼンカイ。するとミルクは、流石ゼンカイ様、と瞳を濡らしながらその身体を抱きしめようとする。
「ま! 待つんじゃ! ま、まずステータスを見せるのじゃよ!」
慌てたようにゼンカイがミルクの所為を引き止めた。
流石のゼンカイも彼女の怪力にはたじたじなのである。
「わ、わかりました……」
ゼンカイに対してだけは敬語のミルク。しゅんと眉を落とすも、すぐに顔を引き締め、
「ステータス」
と唱えた。
名前:カルア・ミルク
レベル:25
性別:女
年齢:22歳
職業:フェミラトール
生命力:100%
魔力 :100%
経験値:36%
状態 :良好
力 :戦神級(+155%)
体力 :超絶高い(+142%)
素早さ:それなりに早い(+8%)
器用さ:ちょっと不器用(+5%)
知力 :考えるんじゃない感じるんだ
信仰 :神になんて頼らない
運 :くじ運悪い
愛しさ:がさつだが綺麗
切なさ:何それ?
心強さ:姉御肌
「え? 嘘! いやだすごい強い!」
「むむ! おまけにミャウちゃんより若い!」
「黙れ!」
そんな二人のやりとりの最中、タンショウもミルクに倣う。が喋れないので口パクであった。
だがそれでもしっかりステータスは投影される。中々万能なのだ。
名前:ヤタラ タンショウ
レベル:18
性別:男
年齢:25歳
職業:ディフェンダー
生命力:100%
魔力 :100%
経験値:25%
状態 :良好
力 :最高(+59%)
体力 :魔神レベル(+128%)
素早さ:鈍くさい
器用さ:不器用にも程がある
知力 :スダイムよりまし
信仰 :厚い(+9%)
運 :普通
愛しさ:顔の大きさぐらい
切なさ:センチメンタル
心強さ:逃げ出さないこと
「こっちも二次職だし私より強い……」
ミャウはがくりと肩を落とした。
「まぁまぁ。ミャウちゃんは頑張ってるほうじゃよ」
ゼンカイが慰めの言葉を述べる。
一体何目線なんだ爺さん。
そしてどさくさにまぎれミャウの臀部を撫でるものだから、思いっきり踏み潰され――心配したミルクに抱きしめられまたもや気絶するゼンカイである。
全く懲りない爺さんだ。
「でも。これだけレベル差があるなら逆に悪いわよ。もっと割のいい仕事があるだろうし……」
「そ、そんなの気にしなくていいぞ! こっちが好きで付き合うって言ってるんだ!」
「でも……」
心から申し訳ないと、顎に指を添え、瞳を伏せるミャウだが。
「それにさっきもいったけどこいつのスキルはレベル上げには役に立つ。仕事もスムーズに進むはずだ」
何を言おうと二人は引いてくれなさそうである。
とはいえ人数がいて助かることはあっても困ることは無いだろう。
流石に件のようなユニークと鉢会うことはもう無いかもしれないが、いざと言う時にはかなり頼りがいがある。
「わかりました。それじゃあ宜しくお願いしますミルクさん」
ミャウがにこりと微笑むと、ミルクは頬を掻きながら、
「そのミルクさんってのはよしとくれよ。ただでさえあんたの方が年が上なんだ」
その言葉に若干ミャウの笑顔が張り付いた。
「あたしの事はミルクでいいよ」
言ってミルクが右手を差し出す。
その所為に固まった笑顔を取り直し、ミャウも握手に従った。
「それじゃあミルクって呼ばせてもらうね。私もミャウでいいから。宜しくね」
「あぁ。宜しくミャウ……だけど」
言って眉を引き締めるなり。
「ゼンカイ様の事は負けないよ」
と言を紡いた。どうやらミャウとゼンカイの事を何をどう捉えたのか勘違いしてるようだ。
「いや。負けも何も……なんだったらのし付けてさし上げますよ」
「随分と余裕だな」
「違います」
妙なミルクの対抗心に後ろでみていたタンショウはおろおろしっぱなしである。
「戦いは会議室で起きてるんじゃない! ギルドで起きてるんじゃ!」
何いってるんだ爺さん。




