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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
最終章 ゼンカイと魔王編
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第二五七話 全ての元凶

 わし等は全員王の前で整列して立っている。

 勲章を授かるという話を受けたのは四大勇者を倒した面々と魔王城に向かった、まぁわしらだな。


 魔王城に向かった者以外としてはブルームとウンジュ、ウンシルの姿がある。

 元大罪のアンミとジンも選ばれたようだ。


 そして代表は一応わしという形で王の前に立っている。

 そして何故かラオンは列の端でエルミール王女はヒロシの横で寄り添い――まぁこれは不思議でないだろう。


 さて、この受勲式気になるのは王の周りだ。一応建前では王都襲撃の影響で復興作業に多くの人員が割かれているというものだが、それにしても騎士の数が少ない。

 数名程度か大臣の姿もないな。

 だが代わりに王の両端には見たことのない男女の姿がある。

 

 ラオンは知ってそうな雰囲気はあるがとにかくそんな中での、一見少しさみしい感じの叙勲式となったわけだが――


 そして王が立ち上がりわしらに向かってその口を開き。


「これより叙勲式を行う――予定であったが変更とする! お前たちを全員、王国に仇なす企てを行ったとし反逆罪で直ちに連行する!」


 アマクダリ王が突然そんな事を叫びだした。

 それに全員が驚きの声を上げ目を丸くさせる。


「我が言葉に父上何を言われるのかとあり!」


「ふん、この親不孝者め。言っておくがラオンにエルミールお前たちも同罪であるぞ。既に調べはついておる。お前たちはそこにいる魔王シズカと結託し、魔王を改心させたという名目で我を安心させ、その隙を突いて暗殺を計画していたのだろう? 全く油断も隙もない」


「しょ、しょんな、わりゃわが、しょんな」


「王よ! この勇者ヒロシ神に誓って暗殺など企ててはいない!」


「口ではなんとでも言える」


「チッ! 話にならないね! だったら力づくで――」


「ちょっと力づくって!」


 ミルクは相変わらず過激だ。ミャウも慌てておる。


「ふん力づくか。愚か者が、我が何の備えもなく反逆者のお前たちの前に姿をみせると思ったか?」


 そういってアマクダリ王がパチンと指を鳴らすと各々の足下に魔法陣が浮かび上がり障壁で囲まれてしまう。


 魔法の牢みたいなものか。なるほど身動きがとれんのう。


「どうだ身動きが取れまい? ふふっ。まもなく兵達もやってくるだろう。そうすれば」


「もういい加減やめにせんか?」

 

 流石にわしもみていられなくなったので、声を上げる。

 するとアマクダリ王が何? と顔を眇めた。


「ふふっ、さて先ずはこの結界をなんとかせんとのう」


「大丈夫や。まかしときい」


 そういってブルームがパチンッと指を鳴らした瞬間、全員の障壁が一斉に砕け散った。


「な! 何! 馬鹿な!」


「悪いのう。ここには前もって忍び込んで細工しかといたんや。こんな事もあろうかとな」


 ブルームが後頭部の後ろに手を回し、してやったりといった顔で言い放つ。


「こんな事も、だと?」


「我が言葉に! ついでに言えば兵も騎士もここにはやってこないですぞ王よ」


 ラオンが口調を変え言い放つ。全く随分と凛々しい顔になったものだ。


「……どういう事だ?」


「聞いてのとおりでのう。わしが前もって皆に話しておいた。恐らくこの叙勲式は建前でわしらを捕らえ、静とマオを手中に収めるつもりだとのう。そうじゃろうアマクダリ王?」


「ふん。なるほど貴様らはこんなふざけた爺ィの妄言に騙されたというわけか。それでこのような」


「だからさっき言ったであろう? もうやめにせんか? と、全ては割れておる。狸の化かし合いもネタがばれておったらさっぱり面白くはないぞ?」


 わしがそこまでいうとアマクダリの眉がピクリと跳ねおった。


「ここにいる騎士はお主の息のかかった、いやきっとそこのイシイに操られとる連中だろ。そこの女官のふりしたオボタカは魔物専門のようだからのう」


 わしの言葉でアマクダリの両サイドに立っているふたりの顔にも変化が現れとる。

 判りやすいのう。


「……どういう事だ? 一体貴様には何が判ってるというのだ?」


「全てだというておろう。例えば貴様が本当はアマクダリ王ではなく、その中に住み込んどる寄生虫。ファースト(異世界に飛ばされし)トリッパー(最初の地球人)だという事もな」


「馬鹿な! 私の正体に気づけるものなど!」


「ふむ、それはもはや言ったも同然だがな。まぁしかし確かに貴様の力はそう簡単にはやぶれないだろ。わしのチートでもないかぎりは難しかったかもしれん」


「チートだと? 馬鹿な貴様のチートは変身だろ? 今の貴様だって」


「残念だがそれは違う。それとこれも変身ではない。もともと望んでいた状態に戻っただけだ。まぁ事前には変身ということにして皆にはあわせておいてもらったがのう」


「……全員最初から知っていて口裏をあわせていたという事か」


「そういうこと。やっと気がついたの? 結構馬鹿ね!」


 ミャウが叫ぶ。


「あたしも笑いをこらえるので必死だったぜ。得々と話すあんたの間抜け顔にね! そして、さすがゼンカイ様です」


「ふふっ、この僕勇者ヒロシも一役買わしてもらったよ! 僕の演技も中々のものだったでしょう?」


「いい意味でヒドイ様大根」

「ヒドイ!」


「ひ、ひろしゅしゃま、さいひょう」


「ちなみに天使のボブさんもしっかり貴方のことは調べてくれましたよ!」


「おかげで天界に戻って資料を引っ張りだす必要があったけどね」


「も、もう言い逃れは、で、出来ないのです!」


「それにしても王の中に入り込むとはのう。大胆不敵な奴だ」


「どうでもいいけど、お腹へったなぁ……」


 全員が口々にアマクダリに言葉をぶつけていく。


 するとアマクダリは一旦玉座に座り背もたれに体重をかけ。


「くくっ、あ~~~~はっはっはっはっはっは」


「何がおかしいのですかアマクダリ、いやその中に潜む汚れた魂よ!」


 大口を開け笑い出すトリッパーに静が険のこもった声で言い放つ。


「ふん。これが笑わずにいられるか。おい、もういいぞ。どうやら隠していても無駄なようだ」


「そのようですね」

「それにしても貴様なぜここまでわかる?」


 オボタカとイシイが正体を曝け出しおったな。そしてイシイが怪訝にわしに問いかけるが。


「それはわしのチートのおかげだよ。そうワールドナレーター(世界の語り部)のな」


「ワールドナレーターだと? ふん、そんな力があるとはな。チート過ぎであろう」


「チートなんてものはそんなものであろう」


「……確かにな。しかし、ならば私の企ても看破済みという事か」


「勿論だ。貴様の能力は器を入れ替える力。魂として他者の身体に入り自分の物とする。だが制限がないわけではない。入れ物とする器の力量に応じて、能力が使えなくなる期間がうまれる」


「そう。だからこそ私にとって理想となる肉体を生み出すことに妥協は許されなかった」


「その為に始めたのが魔王を作り出す事とそれを勇者に倒させること」


「最初お爺ちゃんに聞いた時は信じられなかったけどね」


 ミャウが鼻白む。それも当然か。


「貴様は無駄に命を玩具にしすぎたからな。勇者に魔王を倒させた後は様々な理由をつけてその勇者を人に殺させた」


「そのとおりだ。だがそれも仕方あるまい。魔王を生み出すのに一番の栄養は恨みだ。特に途中からオボタカがこの計略に加わってからはそれが如実に現れるようになった」


「四大勇者と四大魔王の存在がそうだな」


「その通り。あれは中々惜しかったがな。だが、それでも完成には至らなかった」


「そう、そうやってお前は魔王と勇者を作り続けていた。だが……静が現れたことでその企てにも歪みが生じだ」


 静がマオの手を握りしめながら唇を噛む。そう彼女がこの男にとっての誤算。


「あれだけのトリッパーを倒す事が出来るようなら、理想の肉体となり得るとさえ思ったのだがな。よもや魔王に心が生まれそして愛が生まれるとはな。全く最初は失望したものだよ」


「そう。そして静は元のアマクダリ王に進言し、魔王城周辺に結界を張った。更にアマクダリ王はお前の存在にも薄々感づいていたのだろ? だからお前も封印しようとしたが――」


「ふん! 愚かな男よ。まだ早いとはおもったがその身体を乗っ取ってやったわ!」


「我が言葉に貴様! 父上になんてことを! とあり!」


 怒りに満ちた声でラオンが叫んだ。当然か。父と思っていたのが全く別の存在になり変わられていたのだから。


「ふん、知った事か。だが嬉しい事もあった。くくっ、まさか魔王と勇者の間に子供が生まれるとはなぁ。そうだろマオ? お前はいい」


 ねっとりとした瞳でマオをみやり、彼女の肩がビクリと震える。

 全くまるで変質者の目だな。


「それで静と魔王の住処を狙い攫わせたというわけか。尤もメインはマオちゃんだったようだがのう」


「そのとおりだ。そしてその身体はオボタカとイシイにじっくり調べさせた。驚いたさ。その娘の潜在能力にな。だがそれを覚醒させるのは少々手間だった。いつの時代も変わらぬが、圧倒的な力を得るには負の感情こそが尤も手っ取り早い」


「そして魔王城での決戦。本来の目的はマオの目の前でヒロシに静を討たせる事か」


「え!? 僕!」


「そうよ。それなのにまさか貴方が残ってそこの爺ィが向かうなんてね」


「ふむ。今のわしは中々ナイスガイだと思うがのう。まぁいいが。それが誤算だった。しかも静の呪縛も解かれ計画が台無しになった。そこでわしらを反逆罪に問い、幽閉し静とマオは隔離させ、もっと直接的な手に出ようとしたというわけだ」


「ご名答。よくそこまで看破できたと褒めてやろう」


「随分と余裕ね! でももうそれも終わりよ! 計画も露見したら意味がないわ!」


「私とマオを酷い目にあわせてくれたお前を絶対に許しては置けない!」


 ミャウと静が激昂の声を上げた。だがアマクダリは薄ら寒い笑みを浮かべ、全く堪えてる様子がないのう……これは――。


「終わり? 馬鹿な事を。デキる男というのは常にニ手三手先の事を考えているものさ。オボタカ!」


「はい! 我が王よ!」


 言ってオボタカが白衣に手を入れ何か液体の入った試験管を取り出す。


「あ、あれは! まずいで! あの中身は!」


 ブルームが叫びだす。しかし直後オボタカはそれを地面に叩きつけ、割れた中から液体が動き出しそして膨れ上がりある形を作っていく。


「おいブルームなんだよこれ!」


「わいも詳しいことは判らんわ。一度みただけやしのう。でも凶悪な力や!」


「え? そ、そんなこれは――」


 徐々に形が出来ていき、そして現れたのは人の数倍はあろうかという異形。顔は人のソレに酷似し髪は白く長い。だが背中には翼。

 肌は黒に近い紫。


 だがその姿を見つめる静の目は決して化け物をみるようなものではなく、そして――。


「パ、パパーー!」


 そうマオちゃんが叫び声を上げた。


「え? うそパパって?」

 

「嘘だろ……」


「くかか! 嘘などではないわ! この男こそが我々の創りだした最後の魔王! そして静の夫でありマオの父親だ!」


「貴方! お願い! 正気を取り戻して!」


「パパ-! パパー!」



「無駄よ。私の施した改造は完璧。その男にもう正気はないわ」


「むむぅ、貴様らなんてことを――」


「ふん! なんとでもいうがいい! だがどうする? その魔王を倒すか? 娘の目の前で? それもかまわんぞ。その方がより絶望を与えられる!」


「ゲスが――」


 わしは吐き捨てるように言う。


「ふん。所詮貴様のような老いぼれには何も出来ぬさ。さぁ魔王よ存分に暴れまわるが良い。ただしマオだけは殺すなよ。大事な私の依代なのだからな。あ~~はっはっはっは!」


『マ、オ――?』

 

 むぅ? 魔王の動き止まった。これはもしや――。


「パ、パパ? パパァ!」

「貴方……あぁ貴方――」


『マ、オ。シズ、カ――お前、たち、無事、で』


「……これはどういう事だオボタカ?」


「そ、そんな! ありえない! この男の心はとっくに!」


「愚か者どもが」


 わしは奴らに諭すように告げる。


「この魔王も元は心はもっていなかったのであろう? だが静と出会い心が生まれ愛が芽生えた。お前たちにどうこう出来るほど心は簡単なものではないわ馬鹿が!」


 わしはアマクダリを睨み据えながら言い放つ。

 すると奴は顔を歪め、鼻を鳴らしながら唇を歪め。


「だったらそんな不良品は必要ないな。壊すだけだ」


 そして何かを呟いたその瞬間――魔王の頭が弾け飛んだ。


「そ、そんな、それは自滅の為の、でも宜しかったのですか?」


「ふん。失敗をしておいて随分と偉そうだなオボタカ」


「そ、それは――」


「いやぁ! 貴方! 貴方ぁあぁあ!」


 魔王はその場に崩れ落ち。そしてその身体が灰となりサラサラと流れていく。

 その灰の一部をマオが手に取り大きな瞳からボロボロと涙が――。


「き、貴様らぁあああ!」


「許せない絶対に!」


「あたしがこんなやつぶっ飛ばしてやる!」


「ほう私をか? いいぞ。やってみろ。だが本当にいいのか? お前らが何をしたところで死ぬのは器であるこの男だけだ。私は痛くも痒くもない」


「むぅなんて醜悪なやつじゃ!」

「でも師匠、確かにこれじゃあどうしようも――」


「パ、パ? パパ? パパ、パパ、パパ、パパァアァアアァアア"ァ"ア"ア"ア"ア"ァ"ア"ァ"ア"ア"ァ"ア"ア"ア"ア"ァ"ア"ァ"ア"ア"ァ"ア"ア"ア"ア"ァ"ア"ァ"ア"」


「え? マオ! 駄目! マオおおぉおお!」


「な、何これどうなってるの?」


「むぅ! しもうたこれは!」


「くくっ! あ~~っはっはっは! これは驚いた。まさかこんな結果が出るとは! こんな事で良かったならとっとと試しておけばよかったわ!」


 マオの姿が変化していく。可愛らしかった幼女の姿から父を思わせる魔王の姿へと。

 いやそれよりも遥かに強大で禍々しいオーラを放ちし――これはまるで破壊神!


『許サナイ! 絶対ニ! 許サナイ!』


「ほう許さないか? 私をか? だがな! その恨みの対象に貴様は身体を奪われるのだ!」


「や。やめろぉお貴様!」


「その身体を貰うぞマオーーーーーー!」

 

 アマクダリ王の身体が光ったかと思えばそこから一つの魂が飛び出し、そして破壊神と化したマオの身体に入り込んだ。


『許サナイ! 許サナイ! 許サ、ナ、イイイィイイイイイイイ! イイゾォオオオ! コノ身体ハ最高ダァアアァアアアア! コレコソガァアアァア! 私モトメタァアアアアァア! シッコウノォオオォオオオオ! キュウキョクノォオオオォオオ! カラダァアアアァアダアァアアァア!』


「あぁ我が王よ! ついに、遂に究極の肉体を……この日をどれほど心待ちにしたか、私は一生貴方について」


――パン。

 

 乾いた音が鳴り、オボタカの身体が一種にして弾け飛んだ。

 この男、仲間まで――。


『フン! キサマノヨウナババァニモウ用ハナイ』


「な! なんてことをする! オボタカは貴様に一番尽くしてきたはずだろう!」


『ソレガドウシタ? アァソウカ貴様モ後ヲオイタイカ?』


「な!? く、くそ!」


 イシイは即効で扉を現出させ中へと飛び込む。だがその扉が閉まる前に、禍々しい闇が中に入り込み――。


「ひっ、ひぃ! なんだこれは! 嫌だ! やめろ! 生きたまま喰われるな、グェ! ギ、ギヒイィイイイィイイイイ!」


 響き渡る絶叫の後その扉は閉じられた。


「あんた仮にも仲間でしょう! それなのに!」


 ミャウが唸るようにいった。他の皆も怒りの視線を奴に向けるが。


『カカカカカッ、少シハ自分タチノ事ヲ心配スルンダナ。モウ貴様ラナド用済ミ。エルミールヲ喰エナカッタノハ心残リダガ女ナドドウトデモナル。貴様ラハココデトットトシネ! ダークブレスオールロスト!』


 奴は禍々しいオーラを両腕に集中させそして全方位に及ぶ全てを滅する瘴気を撒き散らす。

 玉座が一瞬にして腐敗し絨毯もボロボロと土塊のように変化し、壁も溶け始める。


 この瘴気はまずい! こんなものを喰らっては! が、その時。


「わ、私が皆を守ります! ア、アテネスフィールド!」


 皆の中心でヨイが跪き祈りを捧げると、女神アテネの姿が浮かび上がりそして全員を囲むドーム状の光の壁が出来上がる。


 これはかなりの強度を誇っているようで、瘴気を完全にガードをしているが。


「う、ううう、あ、相手の禍々しいオーラ、が、で、でも負けません!」


「ヨイちゃんここにきてマスタークラスに目覚めたんかい。驚きやわ」


「ですがこれも長くは持たないでしょう」


 静がゆっくりと立ち上がり静かな声音でそう皆に告げる。

 確かにこの障壁もこれだけの瘴気に取り囲まれてはそう長くは持つまい。


 しかし彼女の落ち着き用、いや寧ろその目に映るは覚悟。


「娘は私が責任をもって止めます。ですからみなさんはご安心ください」


「え? でも静さん止めるって」


「一体どうやって?」


「静さん! だったら僕もご一緒します! 勇者として黙ってみてばかりはいられない!」

「いい意味でヒロリン様この瘴気は無謀――」


 全員が静の身を案じて声を掛ける。それに彼女は笑顔で返し。


「ありがとうございます。でもこれは私の問題。皆様に無茶をさせるわけには。ですので――」


「静……」

「あ、貴方――」


 わしは皆の中から前に出て静に近づき両肩に手を添える。


「……行かして下さい貴方。私はどうしても」


「死ぬ気か?」


「え?」


「……自らの命を持って娘と死を共にする気か? だがそんな事を死んだ夫は望んではいまい」


「……放してください! 私には責任が、ぐっ!」


 わしは静の腹部に拳をめり込ませる。すまんのう。だがこればっかりは見逃せんのだ。


「え? お爺ちゃん?」


「ボブ、頼んだ」


「……いいのかい?」


「あぁ」


「え? お爺ちゃん何いって、って! え? なにこれ! 壁!」


「悪いけど僕の力で障壁の中にもう一枚壁を作らせて貰ったよ。これで君たちはそこからは出れない」


「ちょっと! なに馬鹿な事を言ってるのよこの糞天使! ちょ! お爺ちゃん! どういう事! ねぇ! 答えてよ!」


「……ミャウちゃんや。わしはわしが最初に出会えたのがミャウちゃんで本当に良かったと思っておるよ」


「おじい、ちゃん? 何いってるの?」


「あんなへんてこな爺さんに付き合い色々な冒険を共にしてくれた。今わしがここで立っていられるのもミャウちゃんのおかげだろ。いやそれだけじゃないのう」


 わしはそういって皆を振り返る。決してその顔を忘れないよう瞳に焼き付けるように。


「ミルクちゃんはあんなわしでも愛してると言ってくれた。好きでいつづけていてくれた。全くわしには勿体なさすぎないい女だ」


「そ、そんなゼンカイ様、私こそゼンカイ様は勿体無いぐらいで……」


「タンショウよ。お前は喋れないながらも一生懸命身振り手振りで皆を和ませ楽しませてくれた」


「…………」


「ふむ、そんなことないわい。お前はお前で十分役に立っていたよ」


 タンショウが壁を叩き涙を流している。きっと喋れないのは彼なりに理由があっての事なのだろう。だがいずれきっと口がきけるはずとわしは信じておる。


「そしてブルーム。出会いこそ最悪だったが、今では一つの街を預かる身だ。お前には色々助けられたな影の功労者といっていいだろう」


「何馬鹿なこといってんねん! いいからここ開けろや! おまん何する気やねん! かっこつけすぎやろ!」


「ヨイちゃんは今も皆を必死に守ろうとしてくれている優しい子だ。その優しさを忘れずこの世界で生きて欲しい」


「わ、私、私、こ、こんなの、い、嫌です」


「ヒカル……痩せろよ」


「僕それだけ! ちょっと酷くない!」


「スガモン……ゼンカイの失礼な言動にも合わせてくれてありがとうな。その魔法にどれだけ助けられたかわからないぞ」


「こ、この馬鹿が! 折角、折角歳相応の喧嘩相手が出来たと思ったのに!」


「ウンジュにウンシルお前たちはいつだってその舞いで皆を助けそして楽しませてくれた」


「そんな言葉」「聞きたくないよ……」


「プリキアちゃんは小さいのに皆を上手く纏めてくれていた。そしてボブもこうやって召喚してくれた。そして君の笑顔は正に天使のようだったぞ」


「私は、私は今ボブを召喚した事を後悔してます! だって、だって全然いうことを聞いてくれ、ない……」


「ジンにアンミ。君たちはお似合いだ。この戦いが終わったらきっと結ばれることだろう。これはフラグではないぞ?」


「何をいっている理解が出来ないぞ! ていうかこんな事納得できるか!」

「ゼンカイ様に私達の結婚式での料理はゼンカイ様にお願いしようと思っているんです! ですから、ですから……」


「ラオン王子よアマクダリ王は今は眠っているだけだ何れ目が覚めるだろう。だがこれからはお主の時代だ。きっとよい王になれると信じておるよ」


「我が言葉に納得できぬとあり! うぬが! うぬが! うぬがぁああぁあ!」


「エルミール王女よヒロシは少し鈍感なところがある。ちゃんと気持ちを伝えるのだぞ」


「ば、馬鹿な事ばかりいうでない! 貴様! こんなところで死んだら死刑じゃ! 死刑なのじゃ~~!」


「セーラちゃん……君の両腕は失われたかもしれないが、その両腕に負けないものを今は沢山もっておる。そしてこれはお願いじゃミャウちゃんと仲良くな」


「いい、意味で、いい意味で、ゼンタイ死んだら絶対、いい意味で、ゆるさないんだから……」


「そしてヒロシ」


「勇者ゼンカイ! 私もいくぞ! こんな壁勇者の力で破って! お前と共に!」


「馬鹿なことを言うでない。今お前まで失ったらこの国はどうなる?」


「ゼンカイ……しかし僕は僕は……」


「今だからいえる。お前は本当に真の勇者でわしの好敵手(ライバル)だったとな。だから……この国の平和は任せるのだ」


「う、うぅう、僕は憎い! 自分の! 自分の弱さが!」


 大丈夫。まだまだ強くなれるさ。


 ……そして静。すまんのう少々乱暴だったか? でもな、嫌なんだ。これはわしの我が儘かもしれん。身勝手な判断かもしれん。


 でものう、もう目の前でお前を失うのは、あんな思いは御免なのだよ。

 全くこの夫不幸もんが。だから今度は――わしが先に逝ってやる。


「ボブありがとな」


「いいさ。それにあれは天界の負の遺産だ。どっちにしても放ってはおけない――」


 神のミスで最初に飛ばされたトリッパー。だがそれが今は強大な悪として君臨しとる。

 だがそれもここで終わらせる。

 わしが断ち切る。


「皆の事は忘れんぞ。これで本当に――さよならじゃ!」


 背中に皆の声が聞こえる。止める声が、でもこれはわしにしか出来んこと。


『フン! 下ラン三文芝居バカリシヤガッテ! ダイタイキサマドウスルキダ? ワタシヲコロストイウコトハ、コノ娘モ死ヌトイウコトダゾ!』


「そんな事はさせん! その為にこの力がある!」


 何? と奴の顔が歪む。そして益々瘴気が濃くなる。体全体が焼けるように痛い。肌から煙が上がり骨が腐っていくような感覚に襲われる。


 だがわしは負けん! そしてマオちゃんも助ける! 


(私のパワーも、使え……)

 

 むぅ! これは魔王の……そうかお主はまだ。だが安心するがよい! わしには全てが見えている。ワールドナレーターの力はまだ働いておる。


 確かにマオちゃんの身体に奴は入った。だがそれが仇になった! 奴が入り込んだのは魔王としての核の位置。その心臓を砕けば魔王としての力は失われるが――人としての力は残る!


 だからその核をわしは砕く! 静力流奥義で!


『バ、馬鹿ナ! ナゼダ! ナゼコレダケノ瘴気ノナカデ平気デイレル! アリエナイ! アルハズガナイ!』


「それがあるんじゃよ! わしの命と! 魔王の命! それを掛けてお前を討つ! 行くぞ! 静力流裏式!」


 そう活殺拳の静力流において、かつては暗殺術として発揮されし裏式!


「全! 壊! じゃああぁああぁあ!」


『グ、グォオオオオオオオォオオオ!』


 わしの拳が奴の核を撃ちぬく。最後の絶叫が頭蓋に響き渡る。

 全ての感覚が途絶える。意識がとおざかる。自分の手を見るボロボロとこぼれていく。

 そう全てを燃焼し細胞から崩れ、そしてわしはこのまま死ぬじゃろう。

 

 だけど悔いはない。視界の中であの化け物の姿が段々とマオちゃんの姿に戻っていくのを認めたからだ。

 

 マオちゃんは助かった。瘴気も掻き消えこれで真の平和が訪れることだろう。

 だからもう、わしには悔いはない――みんな元気で、な……。





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