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第二四九話 結界を解け!

「いい意味で、倒しても解けない?」

 

 メイド服のセーラは自分の腕を切り、更に勇者ヒロシまでも連れ去っったロキを睨めつける。


「女のくせに怖い目をするのだよ。だが、そんな顔をみせたところで変わらない」


「……いい意味で魔導機なら仲間がきっとなんとかしてくれる」

「無駄なのだよ」


 論破するが如くきっぱりと言い切るロキ。


「ポセイドン、オダムド、アルカトライズ――王国の主要都市には既に仲間が攻め入っているのだよ。そして魔法で視る限りそこにお前たちの仲間もいるのだよ。力の差は歴然。勝てる筈もないのだよ期待するだけ――無駄だ!」


 右手を水平に振り自信を覗かせる。

 だがセーラはその姿を目にしつつも口元を緩めこう返す。


「いい意味でガキ彼らを舐めるな」


「ロキだと言っているのだよ。生意気な娘なのだよ。まぁいいのだよ。そのようなホウキ一本でこの私が召喚せし魔物とどれだけやれるかみせてみるのだよ!」




 一方その頃、王都から少し離れた小高い丘の上では冒険者達や兵の助けによってなんとか外まで脱出した人々が戸惑いの表情でその光景を眺めていた。


「一体王都の中はどうなっているんだ?」


「ママァみんなどうなってしまうの?」


「大丈夫よ……きっと中に残った人たちがなんとかしてくれる」


「おいおい久しぶりに戻ってきたらこりゃどうなってんだ?」


 ふと、そんな不安に満ちた集団の中を駆け抜ける、どことなくのんきな声。


「はぁ? お前なにいってんだこんな時に!」


 そして逃げ延びた集団の中のひとりが立ち上がり、近づいてきた三人に声を荒らげた。


「そう言われてもな。俺たちは今きたばっかで状況が掴めてないんだがな」


「てかムカイ。なんか王都の周りに変な透明な壁みたいのみえないか? あれはなんだ?」


「……結界。あれで外と隔離されている。恐らく中は魔法やスキルが封じられた状態」


「へ~でもガリガよくそんな事が判るな」


「そりゃハゲールお前、こうみえてガリガは今やウィザーロードのジョブ持ちだからな」


 キラリと光るハゲのハゲールに黒光りする肌を湛えしムカイが返す。

 そう彼らはもと獣耳触り隊から冒険者に転職、なんとなく気ままな旅を続けていたあの三人だ。


「ちょっと待て! 魔法やスキルが封じられてるって本当か!?」


「おいおいガリガの目を舐めてもらっちゃこまるぜ。こいつはこう見えて魔法に関しては優秀だ。只の骨と皮だけの男じゃないんだぜ?」


 ハゲ頭を煌めかせながら得意気に語るハゲールだが、隣のガリガは酷い……と呟きちょっとしょげている。


「さ! 最悪だ! それじゃあスペルマスターも只の爺さんだし、その弟子だって只のデブじゃないか!」


「アフロなんて只のアフロよ!」


「あ、でも銀髪のネェちゃんとメイド服の可愛い子ちゃんは許す!」


「あんたこんな時に何言ってるのよ!」


 一気に喧々囂々としてきた中、ムカイが眉を顰め。


「あ~~~~! 喧しい! 大体中はどうなってんだ!」


「うるせぇ! てめぇの声が一番喧しいんだよ! 大体今更何言ってやがる! 中は突如七つの大罪を名乗る男と古代の勇者である魔神ロキが、魔王軍を名乗って魔物を引き連れ更に王都内の一部の人々は暴徒化し大パニックになってるうえ、妙な結界が突然あらわれて中にも入れない状態だ! その上なかでは魔法もスキルも使えないなんてもう絶望しかないだろうが!」


「なんか怒鳴りながらも随分と詳しく説明してたなこのおっさん」


 意外と優しいのだった。


「まぁでも話は判った。ようはこの結界をなんとかすればいいんだろ?」


「……結界は三つの魔導機で作られている。東西南に一つずつ。それを壊せば消える筈」


「そりゃわかりやすくていいな」

「俺達も三人いるしな」


「……でも魔導機の前、魔物の気配。かなり手強い」


 ガリガは静かにそう語るが。


「なおさら滾るぜ! その魔物を俺たちが倒し、結界を破れば英雄じゃねぇか!」

「報酬も沢山貰えるかもしれないしな!」


「て! お前たちがあの結界をなんとかしようってのか? 無茶だあの辺は他にも魔物がうようよいる。俺達だって大勢の冒険者や兵たちに助けられながら漸くここまで逃げ延びたんだ!」


「その人達だって負傷してしまって動けない状態でいるのよ!」


 だがそんな声を気にすること無く三人は丘を下り始める。

 そしてムカイは振り返りニカッと笑いこういった。


「ヒーローってのはいつだって遅れてやってくるもんさ」




「ほぉ、あの魔物の群れを倒しここまでくるとはな。貴様何者だ?」


「あん? 俺はムカイだ。てかてめぇにようはねぇ、ようがあるのはその後ろに見えるまっきだかなんだかって奴だ」


「魔導機だ馬鹿が。ふん、なるほどこれを壊しにきたわけか。だがそれをこの魔神ロキ様の親衛隊が一人獣王キングキメラが許すと思うか?」 

 

 六本の腕をポキポキと鳴らしキングキメラと名乗る魔物がいう。

 ムカイがここまでに倒してきた魔物と明らかに強さのレベルが違うそれは、獅子の頭と虎の頭に挟まれたゴリラの顔という三つ首で、腕もそれにあわせた六本。しかし脚は猛禽類のそれであり尻尾は大蛇、更に蝙蝠の飛膜を備えたなんとも不気味な形状をしていた。


「ふん、ごちゃごちゃ混ざったよくわかんねぇ姿しやがって。まぁいい、このナックルキングのムカイ様がテメェとその魔なんとやらをぶっ潰してやる!」




「おほほほ! どうしたわざわざこんなとこまでやってきて逃げ惑うだけかえ?」


「ちっ! 相手が女とかやりにくいぜ!」


 ハゲールは弓を番えつつ、相手の攻撃から逃げ惑っていた。


「ふふっ、この樹姫ドライクィーンを女と思ってなめていたら痛い目をみるぞよ」


 いってドライクィーンが腕を振るう。ハゲールが戸惑うこの魔物は地面に達するほどの髪から肌まで緑一色、しかしそれでいて樹皮のドレスから除かれる谷間は果肉がたっぷりと中々妖艶な姿をした女形の魔物であった。


 だがそんな彼女は両腕に関しては伸縮自在の蔦という異形でもある。


「悪いけど俺の目的はその魔導機の破壊なんでね! 直で狙わせてもらうさ!」


 ハゲールは自分の武器の利点を活かし、遠目に見える魔導機に狙いを定め矢を射った。

 淀みなく突き進む矢弾――だが突如魔導機を囲む植物の壁によって阻まれてしまう。


「甘いのう。妾が何の手立てもせず放置しておくと思うたか?」


「ですよね~でもそうなるとやっぱり……やるしかないってわけか」




「ガハハ! その程度の魔力でこの悪魔将軍ジェネラルデビルを相手しようなどと片腹痛いわ!」


 全身を黒ローブに纏われし厳つい悪魔、ジェネラルデビルがガリガにむけて言い放つ。


「……マジックランス・マシンガンズ」


 しかしガリガは構うこと無く両手を付きだし、魔力にて生み出された魔法の槍を悪魔将軍めがけて連射した。


 だがジェネラルデビルは口角をニヤリと吊り上げて、右手を突き出す。


「デビルバーストボウル」


 その手の中に生まれし巨大な黒炎球。迫る魔法の槍を飲み込みながらガリガめがけて突き進み、そして彼の目の前で弾けその黒炎を半球状に広げていく。


 そして魔法の効果が収まった時、ガリガがいた位置は地面ごと黒炭と化していた。


「ふん、影すらも焼き尽くす我が炎。耐えられるものなどおらぬわば――」

「……マジックシックル・スライス」

 

 驚愕の表情で横を見やるジェネラルデビル。そこに立つは燃え尽きたと思われたガリガ・リリガク。


 そして魔法の鎌が悪魔の首を狙い振りぬかれる。


「舐めるな!」


 しかしジェネラルデビルは飛膜を動かし一気に上昇し空へと回避した。


「ふん! 少し油断したがこんなもの、って! いねぇ!」


 翼を必死に振り空中で待機したまま悪魔将軍が驚愕の声を上げる。彼の目にはどこにもガリガの姿が見えないのである。

 

「……マジックバリスタ・ツインシュート」


 と、そこへガリガの静かな響き。魔力で創造された弩より巨大矢が二本、ジェネラルデビルの飛膜を貫いた。


「ぐぅ! 馬鹿な!」


 翼を無くした悪魔はそのまま後方へと落下地点を逸し、魔導機の壁になるように着地する。


「ふざけやがって! てめぇ幻術まで使いこなすのか!? くそ! だがなぁもう終わりだ! 今はテメェの姿もしっかり見えてるぞ! この最高の悪魔法で終わらせる!」


 怒りに満ちた顔でガリガを睨めつけ、両手を胸の前に持って行き何かを唱える。

 すると手の中に生まれた闇が渦をまき更に段々と大きくなり――。


「喰らえ! デビルイレイズロストブレイク!」


 その手より生み出されし闇の波動が極太のレーザーとなりガリガを襲った!

 だが――。


「……マジックミラー・リフレクト」

 

 ガリガの正面に巨大な魔法鏡が出現する。そして迫る漆黒の波動を全て受け止め、そして相手に向かって跳ね返した。


「な!? 馬鹿な! 俺の俺の最強の悪魔法ぐぇ――ッ!」


 自らが生み出した最大の魔法に飲み込まれジェネラルデビルの身は完全に消失した。そしてその勢いは魔導機さえも巻き込んで、西側の一つを見事に破壊した。

 それを認めた上でガリガがボソリと呟く。


「……幻術なんて使ってないのに――」


 ガリガ・リリガク、影の薄い男。だがそれがこの勝利に貢献したことを彼自身も知らない――。




「ほほほほっ! どうじゃ妾の鞭の味は。ほ~れほれほれ!」


 ドライクィーンの鞭状の蔦がハゲールの胸を肩を禿頭を捉えその身を抉っていく。


「うふふ、正直ハゲは好みじゃないんだけどね」


「そりゃ悪うござんしたね……」

 

 鞭で打たれ皮膚が裂け、体中に痛々しい傷跡を残すも、ハゲールは不敵な笑みを浮かべ返す。


「ふん。強がるのはやめるがよいぞ。そんな矢如きじゃ妾は倒せぬ」


「どうかな! フレイムシュート!」


 ハゲールの射った矢に炎が纏い、ドライクィーンの身を捉えた。燃え移った炎が彼女の身体を燃やし尽くそうとするが。


「無駄な事を」

 

 言ってドライクィーンの燃えた肌が剥がれ落ちる。

 そして地面でプスプスと炎を灯すそれを高速の鞭さばきで粉々に打ち砕いた。


「植物だから炎に弱いと思ったのかえ? この程度の炎でやられるほどやわではないわ」


「そうかいじゃあこれならどうかな?」


 ハゲールは今度は上空に向かって矢を放つ。

 しかしその意図がドライクィーンには掴めないのか緑の首を傾げた。が、その直後後ろの魔導機めがけ上から矢が落下する。


 しかしその上からの矢でさえ、植物の壁に遮られ魔導機を捉えるに至らなかった。


「なるほどのう。上からなら破壊できると思うたか? 甘いのう」


「だったら何発でも射ってやる! 一発が駄目なら乱れ打ちだ!」


 ハゲールは更に空に向かって矢を連射する。

 しかしその行為に苛立ったのか、ドライクィーンの鞭が再び唸りを上げた。


「無駄だというておる! 妾の壁はそんな矢如きが何発こようと破れはせん! さぁ判ったらさっさと死ね!」


 蔦の鞭が空気を裂く。音速を超える裂波音が鳴り響く。 

 ハゲールの身に増える傷跡。だが彼はその弓を引き続けそして――笑った。


「何だ? 何がおかしい? さては貴様! 鞭を打たれて喜ぶというエムか!」


「そんなんじゃねぇさ。いやちょっとはあるかもしんねぇけど、でもこの笑いは……上手く言ったとほくそ笑んだ。そういう笑いさ」


 ハゲールの言葉に、上手く、いった? と辿々しく復誦する。


「そうさ。おかしいと思わなかったか? なんでこれだけ矢を射ってるのに全く地面に落ちてこないのか?」


「!?」


 ぎょっとした様子でドライクィーンが空を見上げる。そして気がついたのか、その目は驚きに満ちていた。

 

 大量の矢が落ちてくる。ヒュルルルと破壊の息吹を引き連れて、燃え上がるその矢弾の様相は、無限に広がる星の如く。


「メテオシュート。ボウマスターの俺が使える最強のスキルだ。いくら炎を防げると言ってもこれだけの隕石と化した矢は無理だろ?」


「お、おのれえぇえええぇえええええ! たかがハゲの分際でこの妾を謀ったなぁああぁあ!」


 絶叫のドライクィーンの頭上から大量の隕石弾が降り注ぎ、その緑色の肌も蔦の腕も、樹皮のドレスも打ち砕いていく。

 そして彼女の背後で何とか魔導機を守ろうとする植物の壁も、このスキルの前では為す術もなく――。


「ふぅ……こっちは終わったぜ。それにしても――ハゲは関係ないだろハゲは!」


 決着は付いたものの、一人そんな事に腹を立て声を上げるハゲール・チャビンであった。




「おらおらおらおらおらおら! どうだコラァ! この獣王の拳はよぉ!」


 獣王キングキメラの六つの拳が次々とムカイのボディに突き刺さる。

 しかしムカイは、右腕を引き攻撃の構えを保ったままその拳を受け続けていた。


「ふん……こんなもんきかねぇ!」


「はん! 強がりをいいおって。ならばこれでどうだ!」


 キングキメラはその巨体にもかかわらず蝙蝠の翼で上空高くまで羽ばたき、ムカイの身体を見下ろした。


「さぁ行くぞ! 奥義! 獣王強襲連撃!」


 空中からキングキメラの巨体が滑降し、ムカイへと突撃し、空中からの拳の連撃を浴びせ、かと思えばすれ違うように逆側へと飛び抜け再び上空へと翔け上がった。


「さぁどうだ為す術もねぇってか? だったら更にいくぞ!」


 それからキングキメラは二度、三度と獣王強襲連撃を決めていく。ムカイの身体にも無数の拳の跡が刻まれていくが。


「どうだぁあああぁ! 獣王の拳は! 俺は最強! 最強だぁああぁあ!」


 両手を広げ吠えあげる。正直暑苦しくもあるその咆哮に、ムカイが顔を上げ口を開き。


「効かねぇなぁ」

「何?」


「さっぱり効いてねぇんだよこんなへっぽこパンチ。これが獣王の拳だと? へっ! ちゃんちゃらおかしいぜ!」


 ぐぎぎっと歯噛みしムカイを見下ろすキングキメラ。


「ふん! 手も足もでない分際で偉そうにいいやがって!」


 言って獣王が再び急降下を始めるが。


「違うさ。拳ってのは無闇矢鱈に振り回せばいいってもんじゃねぇ。一発だ! その一発に全てを込める! さぁみせるぜ! マキシマムアーム・マックスインパクト!」


 ムカイが強化魔法を唱えるとこれまでの魔法とは比べ物にならないほどに。

 そうまるで己の体格とほぼ同じぐらいにまで右腕が膨張し、更に血管が畝るように浮かび上がりその肌の色も赤く染まっていく。


「くっ! はったりだそんなもん! 獣王強襲連撃」


「うぉおぉお! ダイナマイトストレート!」


 キングキメラの六つの拳がムカイに向けて降り注ぐ。しかしムカイはその拳を身体に受けながら己の巨大化した拳をお構いなしに振りぬいた。


 その瞬間、衝撃が獣王の六つの拳をバラバラに破壊し、更に皮も肉も骨さえも貫き貫通した衝撃はその背後に佇む魔導機さえも木っ端微塵に吹き飛ばした。


 パラパラと降り注ぐ獣肉を一身に浴びながら、ムカイは満足気に微笑んだ。


「てめぇの拳は軽いんだよ」


 そしてこの事により遂に魔導機の全ては破壊され、王都ネンキンを包み込んでいた結界が見事に消失するのであった――

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