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第二四七話 格の違い

「くかかっ、どうだ! ナイトバロンの力! 貴様などでは到底かなうまい!」


 口元を歪め、レイドが声量を上げる。


「ちょっと攻撃が当たったぐらいで、まるで勝ったみたいな喜びようやな」


「ふん! たかが一撃、されど一撃だ! 貴様のうけたその傷が、私とお前の明らかな力の差をあらわしている!」


 朗々と語り、手持ちのランスを突きつけた。

 そして、ふんっ、と鼻を鳴らし。


「だが私は優しい男だ。これまでの非礼を詫び大人しくミャウとマオの居場所を教えるなら、これ以上は虐めないでおいてやろう」


「アホかっ。おまんにそんなん教えるぐらいなら死んだほうがマシや」


「くくっ、言い度胸だ、ならばナイトケルベロス・ヘルファング!」


 レイドがスキル発動。体全体を覆うオーラが伝説の魔獣ケルベロスの姿を体現し唸り声を上げる。


 するとブルームが懐から一つのコインを取り出し、それを指で弾いた。


「ふん! なんのつもりか知らぬが死ねぇ!」


 叫びあげ、地面を蹴ったレイドが瞬時にブルームに迫る。


「表や」


 そして二首の牙がブルームを捉えようとしたその瞬間、床にコインが落ち彼が一言呟いた。

 すると歯が噛み付いたと思われたその時、ブルームの身がレイドの視界から消え失せる。


「なんだ!? どこへ消えた!」


 レイドが怒鳴る。なぜならそれは、さっきまでの身体能力による避けとは明らかに違ったからだ。

 今の動きは完全にその場から消失したようであり。


「ここやおっさん」


 ブルームの声にレイドが目を剥く。

 彼がいたのは広間を見下ろせる空間を挟んだ向こう側。

 つまり今の位置とは全く逆の通路にその姿があったのである。


「貴様一体どうやって……」


 顎を引き黒目を上げ、覗きこむような視線で問うように呟く。

 解せんといった雰囲気が全身から滲み出ている。


「さっきのコインはマジックアイテム、運命のコインや。ピンチの時に表か裏かを当てるとこんな感じに回避してくれるっちゅう仕組みや」


 プルームがそう回答すると、レイドの表情は驚きから侮蔑のものに切り替わる。


「何かと思えば、敵わないとみてアイテム頼りとは姑息な奴だ」


「アイテムを知り、活用するのも実力のうちやと思うがのう」


「黙れ、貴様などもはや何の価値もない。詰まらぬ男だ、これできめる!」


 蔑むような瞳を彼に向け、そしてレイドが構えをみせた。


「ナイトドラゴン・ブレストロング!」


 叫びあげレイドの身にドラゴンのオーラが宿る。そして手持ちのランスを力強く引き絞り、螺旋の動きに炎を纏わせ、刺突と同時に竜を模した焔を放つ。


「我が最強のスキルで消し炭になれ!」


 淀みなく直進した火炎竜が大口を広げブルームを飲み込む。焔はそのまま渦をまき巨大な赤熱の塊と化した後、爆轟と共に弾け飛んだ。


「くかかっ、どうだ? とても五体満足ではいられまい。それとも完全に炭化してしまったかな?」


「喜んでるところ悪いがのう」


 黒煙の中から広がる声に、レイドの目が見開かれる。

 そして薄れた煙の中からひとつの影、更に煙が霧散したそこには、マントで己の身を包むブルームの姿。


「くっ! またアイテムか!」


「そやな。これは炎獄竜(ヘルフレイムドラゴン)の皮から作られたマントや。炎獄竜の吐き出す息は地獄の炎とも呼ばれとる。当然その竜の持つ竜皮は並の炎など効きやしない。その素材で出来たマントや。おまんの炎程度じゃ皮一つ焼けはせんわ」


 レイドはぐぎぎ、と奥歯を噛み締め。


「またアイテムか。貴様は少しは自分の力でなんとかしようとは思わんのか!」


 自分の力でやと? と呆れのような目をレイドに向け。


「……ふむ、おっさん確か自分がマスタークラスであることを随分誇らしく語っとったのう」


「当然だ! マスタークラスは我の力の証明! 誰よりも優れている証拠だ!」


「ほう、ほう。ふ~ん、まぁええわ。じゃったらちょっとはわしの力で戦うとするかい」


「ほう? 貴様に戦える力があると?」


 するとブルームがニヤリと口角を吊り上げ。


「ほないくで! ミラージュステップ!」


 言って一足飛びでレイドの下へ飛び移り、かと思えばブルームの身体が何体もレイドの周りに現れる。


「むぅこれは」


「どや? 中々のもんやろ? 貴様に見抜けるかのう?」


 その様子をじっと見るレイドだが。


「ふん、くだらんこの程度の残像。子供だましにすぎんわ! いくぞ! ナイトヒュドラ・ティルスイング!」


 レイドが巨大な蛇を体現しその尾の如き勢いでランスを振り回す。

 その全方位攻撃により全ての残像は消え去り――


「ふん、見つけたぞ本体」


 レイドの正面に佇むブルーム。


「どうだ? 少しは力の差を思い知ったか? 全くこの程度でよくあんな大口が叩けたものだ」


「あれは囮や」


 レイドの太い眉が大きく跳ね上がる。


「囮、だと?」


「そや。今おまんが残像に意識を奪われている間に、その周囲に大量の罠を仕込ませてもらったわ」


「罠だと!?」


 レイドは驚き周囲を見回す。だがこれといった変化はないようにも見えるが。


「くっ、はったりだ! あの短時間でそんな事が出来るわけがない」


「じゃったら試してみればえぇ。わいに向かって一歩踏み込めば判るわ。まぁその勇気がおまんにあるとは思わんがのう」


 レイドはその言葉に一瞬自分の足下をみるが。


「ふん! ハッタリだ! こんなもの!」


 大きく一歩踏み込む――が、その瞬間爆発が起こり、衝撃がレイドの身体を蝕んだ。


「ぐはっ! く、くそ! まさか本当だったとは。しかしこんなもの!」


――シュッ!


「むぅ!」


 レイドが飛んできた影に気付き、翻すようにして躱すが。


「……ダガーがあたったようやのう」


 ブルームが悪魔のような笑みを浮かべる。

 それにレイドは己の頬に手をあて。


「こんなものはかすり傷だ」


「そやなぁ。じゃが、その刃に毒が塗られていたとしたらどうする?」


「何!? ど、毒だと!」


 レイドの額から脂汗が滲み出ている。焦りの色がみてとれるが。


「ふ、ふん! 嘘だ。それに俺には通常の毒などきかん!」


「ほぉ、便利な身体やのう。じゃが特殊な毒ならどや?」


「特殊だ、と?」


「そや。おまんもわいの戦い方見とったやろ? アイテムを自在に使いこなして戦うのがわいの戦法や。つまりその毒だって普通に手に入るもんとはちゃう。クィーンアルケミスという蜘蛛型の魔物から抽出した、それはもう珍しくてごっつい毒やで、それでも平気言えるんか?」


 レイドの顔が真顔に変わり。


「どれぐらいだ?」

「何やて?」

「毒の効果が現れるまでどのくらいだと言っている!」


 ふむ、とブルームが顎を押さえ。


「一分やな」


 一分……とレイドが繰り返す。そして鬼の形相に変わり。


「だったらさっさと解毒剤を寄越せぇえええぇえ!」

 

 ランスを構え襲いかかる。我を忘れたように無我夢中で槍を振るいまくる。

 だがブルームはそれをひょいひょいと躱していき。


「残念やのう。あと三〇秒やで」

「くっ!」

「何やそんなに解毒剤が欲しいんか?」

「当たり前だ! さっさと寄越せ!」


 するとブルームはレイドの頭に手を置き、それを支点にそのままクルリと背中側に回りこむ。

 そこを振り向きざまの一撃で反撃するレイドだが、ブルームは更にバックステップで距離を置きそして。


「嘘やで」


 そうはっきりと言い放つ。


「う、嘘だと?」

「そや」

「何がだ?」

「毒の話や」


 答えを聞きレイドの全身がプルプルと震える。


「貴様! この私を愚弄しおって!」

「ちなみに罠も嘘や」


 更に続けられたブルームの言葉にレイドの表情が変わる。


「罠も、嘘だと? 何を馬鹿な!」

「ライアー・ライアー」


 ブルームの謎の言葉に、不可解そうにレイドが顔を眇める。


「何を言っている?」


「わいのマスタークラスとスキルの名前や」


「何? マスタークラ、スだと……?」


「そや。何やおっさん。まさかそれが自分だけの専売特許やと思ったんかい? 幸せなやっちゃ」


 その事実に愕然とした面持ちのレイド。


「さてカラクリや。まぁいうても大した事あらへんがな。わいのスキルでもあるライアー・ライアーは、相手が騙された嘘を現実化する力や」


「騙された嘘を……現実に、だと?」


 レイドの声が細くなる。目には戸惑いがみえ唇がプルプルと震えている。


「そや。だからさっき設置もしていない罠が実際に発動した。おまんが騙されたからのう。そしてさっき言うた嘘もおまんは見事に信じた。ありもしない解毒剤を求めたりのう。つまりじゃ、その時点で毒の嘘は現実と化したんや」


「そ、そんな、そんな!」


 レイドの手からランスがこぼれ落ち、喉を毒を取り出さんばかりに掻きむしる。


「無駄や、その毒は本来存在しないんや。だが効果は発揮されるがのう。おまんの命は後一〇秒」


「そ、そんな! 嫌だ! 死にたくない! こんあところで! 頼む! 何でもいうことを聞くからたす、へっ?」


「じゃがな、安心せい。貴様はこんな嘘じゃ殺さへんわ。ちゃんとしっかり――」


 レイドの背後に周りこみ、ブルームはその身体に極細のワイヤーを何重にも巻きつけた。鋼鉄製のワイヤーだ。

 それをギリギリと締めあげていき。


「あ、ぎぅ、いぎゃ、じ、じ、ぬ」


「最後にひとつだけいうたるわ。なぁおっさん、格の違いがわかったか? こんボケェ」


 ギヒェッ、という情けない言葉を最後に、残り一秒のタイミングで引きぬかれたブルームのワイヤーによって、レイドの身体は見事バラバラの肉片に変わり果てた――


 その死を背中で感じながら、ボソリとブルームが呟く。


「おまんにぴったりな、惨めな最後や――」


 


 



 

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