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第三四二話 雷の脅威

 天空から無数の雷が落ち、地面を黒く染め上げていく。

 しかしミャウはその機敏な動きでそれを全て躱していった。


「ふん、生意気な猫だ。ぴょんぴょん、ぴょんぴょん煩わしい」


 愛剣であるカラドボルグを構え、ラムゥールがその表情を歪める。


「悪かったわね!」


 声を滾らせ、ミャウが離れた位置から、精霊剣を何度も振るった。

 生まれた数十発に及ぶ風の刃がラムゥールに迫る。


 しかし彼は危なげなくそれを全て避けきった。


 このふたりの攻防は先ほどからこの繰り返しである。

 其々の放った攻撃は、どちらとも全て躱し、一発たりともこれといったダメージに繋がっていない。


 だが、ミャウの表情は固い。

 以前敗れた記憶を引きずっているのか、絶対の自信は持っていないようであり。


 反対にラムゥールの表情にはまだまだ余裕がある。


「なる程な。どうやら勘だけはそれなりに鋭くなってるようだ」


「勘――ですって?」


 ミャウが怪訝そうに言葉を返す。

 すると、そうだ、とラムゥールも返答し。


「お前の動きをみていれば判る。お前の躱し方は、俺の動きや空の変化で大体の落雷の位置を予測し避けておくという手だ。この俺の技を見極めているわけじゃない」


「そ、それが何よ!」


 明らかに狼狽の色を残した叫び。

 ラムゥールの研ぎ澄まされた瞳がミャウを射る。


「……本気でいってるとしたら、お前じゃ話にならんな」


 言って地面を蹴り、大きく一歩踏み込むと同時に、ライトニングウェイブ、と片手を広げ放射状に広がる雷を展開させる。


 瞬刻の間にミャウの目の前に広がる放電の網。

 とても予測で躱せるようなものじゃない。


「サンダーウォール!」


 しかしミャウは精霊剣で雷の壁を創りだし、そしてその雷撃を受け止める。


「前もいったでしょ! 雷は防御出来るって!」


「――そうか、ならばやってみるといい」

 

 ラムゥールが、むぅ! と力を強めると電撃の出力が徐々に上がっていき、バチバチと弾ける雷の勢いも強くなる。

 

 ミャウの紅い髪も逆立ち、そしてその表情には動揺が見え隠れしている。


「さぁ最大出力だ!」


 ラムゥールが声を張り上げ放電している腕を押し付けると、パァアアアァアン! という快音と共に閃光が広がり、電撃を一身に受けたミャウが空中を舞った。


「ガハッ!」


 背中から強く地面に叩き付けられるミャウ。だが即座に反転し片膝立ちの状態を辛うじて保つ。


 そして正面をみやるが――ラムゥールがいない。


「しまっ!?」

「地べたに這いつくばる猫ほど惨めなものはないな」


 背後から冷たいラムゥールの声音。

 振り返りざまに剣を振ろうとするミャウだが、その耳がラムゥールの手によって握られた。


「はぅん!」


 ミャウの背筋がピンっと立つ。


「前と一緒だな。全く学習能力がない。言っておくが今度は更に容赦はしないぞ? ふん、気持ちよすぎて即効で逝ってしまうかもしれないが――」

「なんて――ね!」


 しかしミャウ、背中側に向け脚を掬い上げるようにして蹴り上げ、ラムゥールの顎に見事ヒットさせる。


「ぐぅ!」

 

 ラムゥールの表情が歪み、短い呻き声があがった。


 ミャウはそのまま、柔らかな肢体を回転させつつ、ラムゥールと距離を離し着地した。


「私だっていつまでも弱点をそのままにしておかないわよ」


 といいつつ、小さな声で、ジャスティンさんざんに鍛えられたからね、と呟き頬を染めた。

 一体どんな鍛えられ方をしたというのか。


「……チッ、そんな事で調子に乗るな」


 ラムゥールがミャウを睨めつけ吐き捨てるように言った。


「言っておくが今のは全く俺には効いていないぞ。そんなものを当てれたからと何の意味もなさない」


 そうかもね、とミャウは言葉を返し。


「だから私も、奥の手でいくわ! 精霊付与精霊王アクアクィーン!」


 一旦全ての付与を解除し、ミャウは水の女王の力を精霊剣に付与する。


 するとラムゥールが目を瞬かせ、そして次に大笑いを決め込んだ。


「あ~~はっはっは! お前は馬鹿か! よりによって水とはな! 貴様は相手との相性も測れない愚か者だったのか?」


 しかしミャウは真顔で彼を見やり、試してみればいいじゃない、と言い放つ。


「ふん愚か者が! だったらそれで何が出来るか見せてみろ! サンダーストーム!」

 

 雷帝が叫び、剣を空に掲げると、曇天と化した空からミャウ目掛け雷の雨が降り注いだ。


 だがミャウは落ち着いた表情で同じく精霊剣を掲げ。


アクアナチュラル(純粋なる水)そしてウォール!」


 ミャウの精霊剣からまさに透き通るようなクリアな水が生まれ、そしてその身体を半球状の壁と化した純水が守る。


 それとほぼ同時に雷の雨が水壁に降り注ぐが――。


「馬鹿な――」


 ラムゥールが呟く。その視界の先では水の壁によってダメージ一つ負っていないミャウの姿。


「信じられないって感じのようね? 水の壁が雷を防いでそんなに驚き?」


「…………」


 ラムゥールは沈黙し何も応えない。


「確かに普通の水魔法の付与で作った水壁なら私は無事ですまなかったかもしれないわ」


「だろうな。俺の雷はそんなやわなものじゃない」


「そう。雷帝というだけあってね。でも、それでも水の王女の力を借りることで創りあげられた純粋な水の前では効果が無いわ。水も一切汚れのない物なら電撃は無効化できるのよ!」


 自身に満ちたミャウの発声。

 その響きを耳にしたラムゥールは――何故かほくそ笑む。


「……何が可笑しいのよ」


「いや、何か滑稽でな。色々と対抗策を講じたようだが、貴様は一つ忘れているようだ」


「――何かしら?」


 それはな、と雷帝の身が瞬時にミャウの背後を取る。


「俺自身が雷になれるって事だよ!」


 そしてカラドボルグを振るう! がミャウが立てた精霊剣に阻まれ斬撃は阻止された。


「ふん! 良い反応を見せるじゃないか。だがな! 胴体がお留守だ!」


 叫びあげ、ラムゥールの掌底がミャウの脇腹を捉えた、更に掌から電撃が迸る――が。


「無駄よ!」


 ミャウは防いでいた精霊剣を振り上げ、雷帝のカラドボルグを弾きつつ、返しの刃でラムゥールへ反撃した。


 斬撃は見事ヒットし、黄金の髪ごと彼の身が滑るように後退する。


「チッ! 内側にダメージを与える筈の俺の雷が!」


 舌打ち混じりに苦みばしった表情を覗かせるラムゥール。


 その姿を眺めつつ、悪いけど、とミャウが応え。


「私の肌に密着するように、アクアナチュラルを纏ったの。雷帝といわれてる貴方の攻撃は確かに強力よ。下手な防御魔法じゃ身体の中に雷を通されちゃう。でも肌と一体化したような膜上のこれなら、全く触れること無く雷を通すなんて絶対に無理」


 その言葉に、再びラムゥールは沈黙する。しかしその目はまだ死んでおらず、寧ろ何かを思案してるようでもあり――。


「どう? いくら四大勇者と崇められていた貴方でも、これは――」

「俺を勇者と呼ぶなーーーーーー!」


 ミャウがその言葉を口にした瞬間、正に稲妻の如き叫声が彼女の猫耳を激しく揺さぶった。


 ラムゥールの髪が更に逆立ち、全身から稲妻を迸らせる。

 その様子から冷静さを失っているのがよくわかり――。


 その姿を眺めながらミャウが更に言葉を紡ぐ。


「前もそんな事をいっていたけど、雷帝とまでいわれた貴方が、どうしてそれほど勇者であることを嫌がるのよ?」


 



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