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第二三三話 大罪VS大罪

「あ、アンミさん!」


 ふたりのピンチに駆けつけた彼女の姿をみて、ヨイもその名を叫んだ。

 それは最初に発したレイズの憎々しげなものとは違い、喜色を含んだ声音であった。


「ヨイちゃん、あの人知ってるの?」

 

 その様子にプリキアが尋ねる。

 彼女はその時には現場にはいなかったので、当然その姿を見るのも初めてだ。


「は、はい。あ、アルカトライズで――」

 

 ヨイが簡単に経緯を話してきかせると、あぁ、とプリキアがひとつ頷き。


「話には聞いていました。そうですか、あの事件の……」


 どうやらアルカトライズで起きた事自体は、情報として王国中に広まっていたようだ。


「全く裏切り者が今更のこのこと現れるとはね。まぁ姿を見せなかったとしてもやりにいくつもりではあったけど」


「わるいけどあんたみたいな三下にヤラれる気は毛頭ないわね」


 強気なアンミの返しにレイズが眼を瞬かせる。


「ククッ、面白いことをいうな? お前俺が何も知らないとでもいうのか?」

「あなた確かヨイちゃんよね?」

「……」

 

 アンミはレイズから一旦顔を逸し、つまり無視し近づいたヨイに話しかけた。


「あ、は、はい。お、お久しぶりです」

「うん久しぶり。でもあまり再会を喜んでる暇はないわね。もう一人の貴方も仲間?」


「え? そ、そうです」

「て、天使を召喚したのは、か、彼女、プ、プリキアちゃんです」


 ヨイの話にアンミは目を丸くさせ、

「あれを貴方が? 凄いわね。じゃあ向こうは任せていいかな」


 アンミの返しに、向こう? とプリキアが反問する。


「そう。古代の勇者、聖姫ジャンヌの方。その代わりここはアンミが引き受けます!」


「え、えぇ! で、でも、ひ、一人じゃ――」


「大丈夫です。それに数がいたとしても意味がありません。攻撃があたらなければ仕方ありませんしね」


 アンミの言葉は確かに尤もな話でもあるのだが。


「で、でも、そ、それならアンミさんは――」

「ヨイちゃん」


 戸惑いの表情を見せるヨイにプリキアが声を掛け。


「いこうヨイちゃん。彼女の言うとおりよ。ここは私達じゃ役に立てない。それに――ジャンヌを止めないと解決にはならない」

 

 真剣な目でヨイに訴えかけるプリキア。

 その表情にヨイも何かを感じ取ったようだ。


「わ、判りました。で、でも! ぜ、絶対また会いましょうね! と、友達ですから!」


 ヨイはどうやらアルカトライズでの約束を覚えていたようだ。

 その姿に、ありがとう、とアンミが微笑み返す。


「それじゃあ宜しくねアンミさん!」


 プリキアは再びカードを取りだし、そこから天使を二体召喚した。

 ふたりはその身を天使に託し、天使の羽によって上昇する。


「そんなの僕が許すわけ無いだろう!」


 だが、レイズが苦虫を噛み潰したような顔をしながら、シャドウランス! と影の槍を創りだしふたりを運ぶ天使に向かって投擲する。


「ダークネスボール!」


 だがその槍はアンミの投げた闇色のニ球によって阻止され空中で砕け散った。


「ちっ! どこまでも邪魔する気かよ裏切り者が!」


「裏切り者? アンミはただ目が覚めただけよ。あんな、あんた男に好きなようにされてたのも、いまでは腹ただしいわ!」


 以前の記憶を思い出したように唇を噛み締め、そしてレイズを睨めつける。


 彼女の表情をみるに、やはりまだまだ心の傷は深いのだろう。


「生意気な眼だなぁ。まさかお前本気でこの僕に勝てるとでも思っているのか?」


「思っているけど?」

「思っていたのか」


 そのやり取りを終え、レイズがククッ、と忍び笑いをみせ、そして堂々たる態度でアンミを指さした。


「愚か者だなお前は、さっきもいったはずだ。僕は既にお前の事は聞いている。今のお前はチートの力も本来のジョブの力も持っていない只の女だってな!」


 歯牙を剥き出しにレイズが吠えるようにいった。

 確かに彼女の力は不幸と貧乏であることが重なっているからこそ発揮できた力だ。

 逆に言えば幸せであれば全く発動できない力でもあるのだ。


「そんなお前がノコノコ現れて一体何が出来るというのかな? それとも新しいジョブでも身につけたか? だがそんな付け焼き刃でどうにか出来るほど僕は甘くないぞ!」


「いいたいことはそれだけ?」


 何!? とレイズが目を剥いた。


「だとしたらあんたの方がよっぽど馬鹿よ! 受けなさい! ダークファング!」


 アンミが広げた右手を突き出すと、魔法が発動し、闇が牙の形を形成しレイズの身に襲いかかった。


「な!? チッ! シャドウシールド!」


 舌打ち混じりにレイズも魔法を放ち、影を盾に変換させアンミの攻撃を防ぐ。


「ふ、ふんこの程度!」


「この程度? ふふっ、アンミには強がりにしかみえないけど」

「な、なんだと――」

「そもそもさっきのできづかなかった? あんたがあのふたりに攻撃した時、アンミがそれを防いだ。これがどういう意味か?」


 レイズが悔しそうに歯噛みする。


「チートにも相性がある。あんただってそれは判ってるはずよ。そう、貴方のチートはアンミの貧困のチートの前では無力化する。不幸で貧乏な状態で発揮できるこの力は、最初から不公平で不平等な力ともいえるからね!」


 レイズが更に強く強く歯を噛み締めた。

 そしてその表情には解せないといった感情がありありと現れている。


「馬鹿な! こんな筈はない! お前は既にエビスから開放され、更に釈放もされ自由になった! 今のお前は不幸でも貧乏でもないだろう!」


「アイテムボックス――」


 アンミはそう口にし、自分の手の中に一枚の紙を現出させる。


「な、なんだそれは?」


「借用書よ。アンミまた借金したの」


 はぁ!? とレイズが素っ頓狂な声を上げる。


「借金だと! 馬鹿な! エビスはもう――」


「えぇ、確かにあいつはもういないし借金も帳消しにされた。でも釈放されてもある程度お金は必要。だからある人に纏めて借りたのよ。流石に犯罪者に近い私へまともに貸してくれる人はいなかったから、頼った人の利子は高かったけどね」

 

 そういってレイズに見せた借用書にはブルームの文字が記入されていた。


「お金を、借りただと? だが馬鹿な! そ、そんな事で!」

「勿論それだけじゃないわ」


 更にアンミは続ける。


「確かにあんたの言うとおりアンミは幸せだった。ネンキンで好きな人が出来たし、彼もアンミの事を好きだって――」


「ふ、ふん、なんだ突然? 惚気話か?」


「でも今日、アンミはその人に盛大に振られたわ! お前みたいなビッチとは付き合えないってね!」


「は? はぁ!? 何だそれ!」


 レイズは最早意味が判らないといった様子である。


「あんたがどう思おうとそれが事実! そう今の私は失恋と借金で心の底からどん底な気分なの! 許せない! バレンタインとかで喜ぶリア充死ね! 怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨!」


 アンミがブツブツと不気味な言葉を呟きだし、その言に触発されたように、どす黒いオーラが彼女の全身から煙となって吹き出していく。


「な、なんだこの禍々しさは! くそ! く、空気が重い!」


「それがぁあああぁああ、アンミのおおおぉおおお、力ぁああぁあ!」


 アンミが両手を広げそしてそのまま上へと翳す。

 恨みの篭った暗黒の煙が球となり、彼女の頭上でどんどん膨れ上がっていく。


 そしてその大きさが、彼女の身の倍ほどまでに膨れ上がった瞬間。


「ダークネスバウラル!」


 レイズに向かって投げつけるように両手を振りおろし、突き進む黒球は地面を刳り、舞い上がった土塊や石塊を吸い上げながら、真っ直ぐに獲物目掛けて突き進む。


「くっ! 馬鹿な重圧(プレッシャー)が凄まじくて動けない!」


「ぐふっ、ぐふふっ、さぁ飲み込まれてしまいなさい!」

 

 巨大な黒球が見事レイズの下に到達し、その身が一瞬にして掻き消えた。

 停滞した暗黒の巨球はその場でグルグルと回転し、辺りの地面を多量に吸い込んだ後弾け飛ぶように消え去った。


「……ふぅ、無事終わったわね」


 その光景を認め、アンミが安堵するように息を吐きほっと胸を撫で下ろし――

「あぁお前がな」


 だがその瞬間、彼女の影の中から姿を現したレイズが、影の刃でその身を真っ二つに斬り裂いていた――


 


 


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