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第二三二話 天使と悪魔――オダムドでの聖戦

「プ、プリキアさん! き、教会だけじゃありません、こ、このままじゃ王国中に被害が、お、及んでしまいます! わ、私達も、た、戦いましょう! そ、そして、ジャ、ジャンヌさんをとめるんです!」


「と、める?」


 プリキアが振り返り、ヨイに細い声で問い返した。


「そ、そうです! と、とめるのです! ま、間違っているなら、わ、私達で、と、止めましょう!」


 プリキアが目を見開きツインテールが僅かに揺れた。

 そして目を伏せ、そうか、と一つ呟き。


「そうだね。止めないと! 私達で!」


「う、うん!」


 プリキアの表情が引き締まり、ヨイも拳を握りしめ強く頷く。


「よし! そうと決まれば!」


 決意の篭った声を発し、そしてアイテムボックスから魔法陣の描かれたカードを大量に取り出す。


「私だってレベルが上ってるんだ! さぁ行くよ! 天使よ集え一斉召喚!」


 プリキアが声を張り上げカードを地面にまき、召喚の詠唱を行うとカードがキラキラと輝きだし、その中から大量の天使が姿を現した。

 その数たるやまるで天使の軍である。


「召喚を天使一本にしぼった私の力を見せる時ね! さぁ悪魔を討ち滅ぼせ! エンジェルさん、セラフィム! ウリエル、ミカエル、ボクカエル、オレガエル!」

 

 プリキアの命令で数多の天使たちが悪魔の軍勢目掛け突き進んでいく。

 恐れを知らない両者の激突。


 天使と悪魔の入り乱れる様はまるで神話の聖戦の如しでも有り。


「す、凄いです」


「まぁこれぐらいやらないとあの軍勢には勝てませんから。大分魔力は使ってしまいましたが、エンジェルナイトのふたりには残ってもらってますし、私達も急ぎましょう!」


 プリキアがそういってジャンヌの下に急ごうとする。

 彼女がいうように護衛としてエンジェルナイト《天の騎士》がふたり付いていた。

 その名の通り、ひとりは剣を、もうひとりは槍を携えた天使の騎士であり、露出の多い鎧を身にまとった羽の生えた女騎士でもある。


 見た目にはでるところはしっかりでているので、ここにゼンカイでもいようものなら、間違いなく暴走していたことだろう。


「わ、わかりました!」


 ヨイも同意し、プリキアとふたり移動を始めようとするが――。


「おっとちょっとまってよ可愛い子ちゃん達。僕と少し遊んでいかない?」


 ふと横から響く若い男性の声。

 ふたりは瞬時に身体の向きを変え視線を走らせる。


 その場にいたのは細身の少年。アメジストのような光沢のある紫髪を湛えた少年であった。


「あ、貴方は、い、一体――」


 ヨイが狼狽した様子で声を漏らす。

 すると少年が、おっと失礼、と軽く頭を下げ。


「僕は七つの大罪が一人、【社会的不公正のウラワ レイズ】というんだ。宜しくね」


 かなり軽い感じに自己紹介を終えるレイズ。

 だが七つの大罪という響きにふたりが揃って身構える姿勢を取る。


「おやおや、やる気十分ってとこかな? まぁこれだけ可愛らしい女の子相手なら、別の意味で遊んではみたいとこなんだけど――」


 そこまでいって、ククッ、と忍び笑いをみせ。


「まぁでも僕もやっと戦える出番が来たわけだしね。それにあの天使の数は面倒そうだ。まぁ召喚者が死ねばあれも消えるわけだし、さくっとやらせてもらうよ!」


「出来るものならやってみなさい! エンジェルナイト!」


 プリキアが命じると、ふたりの天使騎士がコクリと頷き、羽を羽ばたかせ低空飛行でレイズに迫る。


 そして左右に分かれ、挟み撃ちの形でまずは左の騎士が槍による一撃を繰りだそうと構えた。

 だがレイズは余裕の表情で避ける素振りすらみせない。


「あの体勢からじゃ避けきれない! 決まりよ!」


 プリキアがそう叫んだ瞬間、エンジェルナイトもレイズに向かって突きを放つが――その瞬間、強烈な突風が吹き抜け、天使の羽が流され槍を繰り出したエンジェルナイトのバランスが大きく崩れる。


 その為に軌道がそれ彼女の放った槍の一撃はレイズの横をすり抜け、更に手からすっぽ抜けた槍が対面にいた仲間の胸を貫く。


 え!? と思わずプリキアが驚嘆の声を上げる。

 そして驚いているのは仲間の天使も一緒だ。


「おやおや同士討ちですか~、仲間に殺られるとは可哀想に。ですがご安心を」


 レイズの口元が歪む。かと思えば彼の手に黒色の槍が現出され、その手で残りの天使の胸を貫いた。


「これでおあいこでしょ? さっさと死んで下さい」


 エンジェルナイトはその一撃をもって弾けるように消え失せた。

 その姿を満足そうに眺め、レイズは醜悪な笑みを浮かべる。


「天使とはいえ女を貫く感触はたまらないな。まぁどうせ元の世界に戻っただけだろうけど」


「な、なんで、一体なにが――」


 プリキアが困惑した表情で身動ぎする。

 確かに、後のレイズの一撃はともかく、最初に起きた出来事はとても理解できるものではない。


「そ、それなら、わ、私が!」

 

 するとヨイが細い眉を引き締め、アイテムボックスより指で挟める程度の鉄球を何発も取り出す。


「ビッグ!」


 そしてそれをレイズに向けばら撒くように投擲し、チート能力のビックを発動させ何十倍にも巨大化させた。


 肥大化した鉄球は隕石の如く勢いでレイズの下に降り注ぐ。地面に着弾した瞬間その衝撃で地面が揺れた。

 こんなものを喰らってはいくら七つの大罪とはいえ一溜まりもない。

 

 そうきっとふたりは思ったであろうが――


「いやぁ危ない危ない。突然こんなものを投げつけてくるなんてね。あぁそういえば君たちの中にもチート使いがいるって話だったかな」


 悠々とした足取りで、鉄球の間からレイズが姿をみせる。


 その様子にぎょっとした顔を見せるヨイ。

 プリキアも歯噛みし、

「あ、あれを全部避けたっていうの!」

と呻くように言う。


「避ける? あはっ、そんな必要はないさ。そこの子の投げたこれは全部外れたんだから。僕はただ黙って立ち続けていただけでその間は一歩も動いていないよ」


「そ、そんな! あ、あの鉄球が、ぜ、全部外れるなんて!」


「理解できないかい? でもそれが僕の力。僕のチート能力の範囲内では僕以外は不公平な状態に陥る。まぁこれがどういう事かというとね――」


 そこまでいうとレイズは手の中にナイフを現出させ、それをプリキア目掛け投げつける。


「こんなもの!」

 

 プリキアはレイズの攻撃を認め、横に飛び退いた。

 直進するナイフはこれで当たり用がないのが普通だが――その時上から魔法の矢が一発降り注ぎナイフの柄に命中した。

 その魔法の矢は上空で悪魔と戦いを演じる天使による流れ弾のようなものであった。


 そしてその事でナイフの軌道が変化し、本来なら逃れていたであろうプリキアの肩に命中する。


「あぐぅ!」

「プ、プリキアさん!」


 思わずプリキアが呻き、地面に膝をついた。

 ヨイが慌てて駆け寄り、傷口に向けて回復魔法を掛ける。


「へぇ神官系のジョブなんだ、便利だね。でも今ので判ったろう? 僕のフィールドの中では君たちの攻撃は決してあたらないけど、僕の攻撃はかならず当たるんだ。まぁ僕はこのチートの力を主人公補正とも呼んでるけどね」


 レイズは自慢するように両手を広げ口にし、そして愉快そうに肩を揺らす。


「何が主人公よふざけないで!」


 プリキアが蹶然し大声で叫びあげた。


「け、怪我は、だ、大丈夫ですか?」

 

 そんな彼女に心配そうに呟くヨイだが、うん大丈夫ありがとう、とプリキアがお礼を述べる。

 どうやら回復魔法の効果で傷は無事治療されたようだが。


「へぇ~、中々優秀じゃないか。でもね、今のはおまけ、説明の為の攻撃だったしね。だけどもう回復する間も――与えないよ!」

 

 語気を強めレイズが右手をふたりに向けるように突きだしたその瞬間、プリキアとヨイの足元に浮かんていた影が形を変え触手のようになりその身を縛める。


「え!? ちょ! 何これ!」

「う、動けない、で、です――」


「あれれ~いってなかったけ~? それは僕の正規の能力だよ。僕のジョブはシャドウ・ウィザード。得意技は――影魔法さ」


 そういって鼻歌交じりに数歩前に出てニヤついた笑みを浮かべたまま言葉を続ける。


「僕のチートはね、確かに便利なんだけど身を守るための役割的な部分が大きくてね。だからこのジョブは凄く役に立つんだ。ただねぇひとつ欠点を上げるなら――この状態に持っていった時点でチートの意味はなくなっちゃうことかな。だってもう君たち何も出来ないでしょ?」


「く、くそ! 放せ! 放せ!」

「う、うぅ、ぜ、全然、ほ、解けないですぅ」


「あはは無駄無駄。僕はこうみえてマスタークラスだよ? 君達で解けるようなやわな魔法は使わないさ。さてとどうしようかな~」


 レイズは顎に指を添え思案顔をみせる。

 玩具を手に入れた子供のようにどこか楽しそうな笑みを浮かべ。


「このまま殺しちゃってもいいんだけど、折角だし――ちょっとイタズラしちゃおうかなぁ……」


 ニタァ、と醜悪に口元を歪ませふたりの顔を見る。

 

「こ、このままじゃ――」

「い、悪戯って、な、何をする気ですかぁ」


 プリキアは悔しそうに唇を噛み締め、ヨイは半泣きの表情で不安を訴える。


 が――その瞬間、何かがふたりを縛めていた影を切り裂いた。


「何! だ、誰だよ!」


 レイズが目を剥いて叫びあげる。

 

「ふん。悪趣味な奴ね。まぁそんな気はしてたけれど――」


 可愛らしい声が其々の耳朶を打つ。

 彼女はふたりの背後からゆっくりと近づき、それに気がついたレイズが悔しそうに奥歯を噛み締めそして口をひらいた。


「てめぇは、ウエハラ アンミ!」

 




 


 

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