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第二十三話 同士

「お爺……ちゃん?」


 翌朝、噴水の前で静かに横たわるゼンカイの姿が発見された。


 そう。昨晩の出来事があまりにショックだった為、なんと宿に帰ることも叶わず、その短いようで長い生涯に幕を……。


「もう! こんなところで眠るなんて何考えてるのよ!」


 わけではなく、大地に突っ伏したまま寝息を立てていただけであった。


「ほら。お爺ちゃん起きて」


 ミャウが揺すると、う~ん、と唸りながらゼンカイが上半身を上げる。


 目をゴシゴシとこすり、ふぁ~っと大きな欠伸と伸びをし、とことこと噴水に向かい、その水で顔を洗った。


「ちょ! お爺ちゃんそんなとこで顔を洗わないでよ!」


 ミャウの注意っぷりは、まるでちょっとだらしないお爺ちゃんを家族に持つ、孫といった具合だ。


「ふむ……」


 ゼンカイは何かを考えるように頭を擦った後、ミャウを振り返り、その目をじーっと見つめる。


「何? どうしたの?」


「みゃ……」

「みゃ?」


「ミャウえもぉぉおおおぉん!」


 叫びながらミャウの薄い胸元へ飛び込む爺さん現る!


「朝から何してんのよ!」


 ミャウの拳は見事にその後頭部を捉え、地面に老体を叩きつけた。


「全く」


 パンパンと手を打ちならし、顔を眇める。

 だがゼンカイは直様起き上がり、今度はミャウのスカートの裾を掴み、ぶんぶんと振り回す。


「大変なんじゃ! 大変なんじゃ!」

「ちょ! いいから手を離してよ! 話聞いて上げるから!」


 ミャウの必死の抵抗により、ゼンカイの動きがピタリと止まった。

 そして頭を擡げ、ミャウを見上げ、うるうると目に涙をためながら。


「わし! わしの息子が! わしのポルナレフがあぁああぁあ!」


「はぁ息子? そんなのいたわけ?」


「そうじゃないんじゃ! そうじゃないんじゃ!」


 両手をぱたぱたと振り、何かを訴えるゼンカイだが、ミャウには理解できていない。


「だから、これじゃよ」

 言ってゼンカイがミャウの手を取り股間にあてた。


「※§πα☆!」

 ミャウは言葉とはいえない何かを口走りながら、ゼンカイを徹底的に殴り倒した。


 馬鹿みたいにでかいたんこぶを頭に残し大地に寝転ぶゼンカイを他所に、ミャウは噴水に向かいその手をごしごしと洗う。


 さっきゼンカイに注意したことなど頭から抜けるぐらいショックだったようだ。




「全く酷いことするのう」

 頭に出来たたんこぶを擦りながら、ゼンカイが愚痴る。


「お爺ちゃんが悪いのよ全く!」

 むすっとした顔で腕を組み、ミャウはゼンカイを見下ろした。


「でもわしには一大事なのじゃよ」


「ふん。まぁつまりまぁその、ソレがその、まぁ不元気になったってわけね」

 瞼を閉じ、少し顔に紅みを残しながら歯切れの悪い返しをする。

 やはり彼女は年のわりに純情である。


「そうなんじゃ! 一大事なんじゃ! これではハーレムを作れんわい!」


 困った困ったと右往左往するゼンカイに、嘆息を一つ吐き、ミャウが言う。


「それって年だからなんじゃないの?」


「何を言うか! わしは140歳でも現役だったんじゃ! ポルナレフを馬鹿にするでない!」

 腕を振り上げ抗議するゼンカイだが正直知ったことではない。


「てか、お爺ちゃん。そのことに何で気付いたの?」


 ゼンカイが、ギクッ! と明らかに怪しい素振りを見せる。

 何せゼンカイ。密かに借金をこしらえてしまった身である。そう、いくら使い物にならなかったと言っても料金はしっかり発生してしまっていたのだ。


 だが当然そんな事をミャウに言うわけにもいかず……。


「あ、朝じゃ!」

「朝?」


「そ! そうじゃ! わしはこれまで一度たりとも朝立ちしなかったことが無いのじゃ! それが証明じゃあああぁあ!」


 とんだいいわけである。しかも声がでかい。

 周囲の人々もなんだなんだ? と二人に視線を向けてくる。

 

 ミャウは顔を真っ赤にさせ、ゼンカイの手を引っ張りその場を離れた。

 恥ずかしさで居た堪れなくなったのだろう。


「何じゃどこに行くんじゃ?」

「もう! とにかく予定がちょっと変わるけど、まずギルドに行くわよ。一応そんな話が他にないか聞いてみるのよ」

「おお! なるほどのう!」


 ゼンカイは関心したように返すが、ミャウはどちらかといえば早くその場を離れたいという思いのほうが強かったようだった。


 そしてギルドに着くなりゼンカイは、やはりアネゴの胸に飛び込もうとして返り討ちにあうという相変わらずのお約束をかました後、事情を説明するのだが――。


「なんだ。あんたもそれに掛かったんだ」

とあっさりアネゴが答えるので、ゼンカイのみならずミャウも驚いて見せた。


「え? それじゃあ他にも同じような症状の人が?」


「あぁ。それに大体みんな同じような条件でその症状に掛かってるんだ。そうだな、あんたも、もしかしてこのぐらいの少女にどこかで合わなかったかい? 最初は占いをしてやるって――」

 

 アネゴの言葉にミャウがハッとした表情を浮かべ、ゼンカイも、あの可愛らしい幼女か! と興奮したように述べる。


「心当たりがあるんだね。そうそうその女の子に出会ったのが皆、と言ってもトリッパーの男限定なんだけどな。それがちんぽがおっ立たなくなったって騒いでるんだよ」


 アネゴの言い方はとてもストレートだ。妙に恥ずかしさを醸し出すミャウとは人生経験も男性経験もきっと大違いなのだろう。

 その大きなおっぱいは伊達では無いのだ。


「むぅ。よもやわし以外にも同じように困っとるものがおるとはのう――」

 そうゼンカイが発した時であった。


 突如大きな影が二人とアネゴを包み込む。


 なんだ? とミャウとゼンカイが後ろを振り返ると――そこに巨人が立っていた。

 

 いや正確には巨人のような大男だ。身の丈はニメートルを優に超えていそうで、肩幅が広く、筋骨隆々の体躯を有している。


 顔は岩石のようにゴツゴツしており、両目は少し窪み、魚のような丸い目がぎょろぎょろと二人を交互に見やっていた。


 そのあまりの迫力に思わず二人はその身を後ろに引く。

 只でさえ迫力のある大男なのだが、彼は何故か上半身が裸に近かったのだ。


 近かったというのは上着は着ていないのだが、ベルトを左右の肩から腰に向けてたすき掛けに交差するように付けているからだ。 

 一体なぜそのような格好をしているか判らないが、おかげで迫力に更に拍車を掛けている。


「な、何なんじゃこいつは! 何なんじゃ!」


 ゼンカイが額に汗を浮かべ慌てたように述べると、大男の瞳がギロリとゼンカイに向けられた。


 そして、ゼンカイぐらいならば軽くひねり潰せそうな右手を彼に向け――。


「ちょ! あんた何を!」

 思わずミャウが叫んだその直後――。

 大男はゼンカイの肩に手を起き、滝のような涙を流し始めた。


「へ?」

 右手に剣を出現させ臨戦態勢をとっていたミャウがその目を丸くさせる。


 すると、後ろから、

「あぁそいつが今いってた同類の一人、タンショウだよ」

とアネゴが言を発した。


「何! こやつがか!」

 ゼンカイが、その大きな顔を指さすと、タンショウと言う名の大男が、うんうんと頭を上下に振る。


 そして、タンショウは数歩後ろに下がると、何か手で記号を描いたり、腕を組んだり左右に広げたりといった動きを見せだす。


「こやつは一体何をしてるのじゃ?」

「さぁ?」


 腕を組み、首を撚るゼンカイに同じく小首を傾げて返すミャウ。するとこれまた後ろからアネゴが口を出す。


「俺達は同士。同じ境遇の仲間って言ってるみたいだね」


「アネゴさんわかるの!」

 振り返りミャウが両目を見広げる。


「まぁこいつはいつもこんな感じだからね。なんか知らないけど一切喋らないんだよ。だから常にジェスチャー」


 アネゴの返しにミャウは頭を抱えた。

 また変な奴と知り合ってしまったとでも思ってるのかもしれない。


「ふむふむ成る程のう」


 いつの間にかゼンカイがタンショウと仲よさげに会話をしていた。


「え! お爺ちゃんわかるの?」

 これまたミャウが驚いたように聞く。


「うむ。わかるぞい何せ……」

 言ってゼンカイはタンショウを指さした。見るとタンショウ床に指で何かを書くようにしながら一生懸命説明しているようだ。


「そいつ文字を書いたりは普通にしてくるんだよなぁ」


「そ、そう……」


 ミャウが若干不思議そうな物を見る目に変えてタンショウを視界に収める。

 一体なぜ言葉を喋らないのか、という部分が少し気になってる様子も感じられた。


「どうやらこの男は一週間ぐらい前に、わしと同じような症状に気付いたようじゃのう」


「そうなんだ」

 タンショウを見ながらミャウが応える。


 更にやはり彼のジェスチャーによれば、あの幼女が何かをしている事に間違い無さそうであった。


「これは兎にも角にもあの幼女を見つけ出さねばいかんのう!」


 拳を強く握りしめ決意の色を見せるゼンカイ。その表情は……症状をなんとかしたいのか、ただもういちど幼女に会いたいのかが掴みづらくもあり。


 そんな二人に対しミャウが口を開き。


「でも、どうやって探す気なの?」


 ミャウの何気ない質問に、二人揃って頭を悩ます事となるのだった。



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