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第二二九話 再びアルカトライズへ

「あなた確かえ~とキンコック?」


「そうですミャウの姐さん! お久しぶりです!」


 キンコック。彼は今はブルームが統治するアルカトライズで彼の右腕(自称)として働いていた男である。


「それにしても姐さんとは一体何かのう?」


 ゼンカイが腕を組み小首を傾げた。

 するとキンコックが喜色を浮かべながら口を開き。


「へい! 何せ姐さんや皆さんはアルカトライズの救世主ですから! 敬意を込めて姐さんと呼ばさせて頂きやす!」


「ミャウも随分えらくなっちゃったんだね~」


「や、やめてよアネゴさん」


 目を細めてからかうように口にするアネゴに、ミャウが照れたように返す。

 そしてキンコックに顔を戻し。


「それでここまで来たって事は私達に何か?」


 ミャウがそう問いかけると、へい! とキンコックが声を大にして返し。


「ブルームの頭に頼まれたんでさぁ。実はあのマオって娘の記憶がはっきりしてきたみたいなんです」


「なんと! あの幼女がかのう!」


 ゼンカイが目を剥き鼻息荒くキンコックに迫った。

 血走った瞳に思わずキンコックもたじろぐ。


「幼女――その娘はかわいいのかい? だったらここに連れてきなよ。私が可愛がって――」

「ま、まぁとにかくそういう事なら行ったほうが良さそうね」


 アネゴの発言を遮るようにミャウが言葉を重ねた。

 カウンターではアネゴがにへらぁっと表情を崩しまくって妄想の世界に入ってしまっている。


「うむ! 記憶が戻ったならわしの息子を何とかする事がついにできるかもしれん!」


 張り切った声で叫ぶゼンカイを、冷ややかな目でみやるミャウ。


「そういえば最初はそれが目的だったわね……」


 思い出したように呟きつつ、それじゃあ早速とふたりはキンコックとギルドを出て、アルカトライズの街に向かうのだった。




「誰かと思えばあんたらかいな」


 キンコックと共にアルカトライズ手前の迷いの森に訪れたふたりであったが、それを出迎えたのは以前戦いを演じた幼女ダークエルフであった。

 

 しかしその組まれた腕に乗せられた二つの果実はドサッ! という感じの相変わらずの見事さである。


「巨乳幼女ダークエロフちゃんじ――」


 一足早くミャウの足がゼンカイを踏みつけた。

 流石にこれだけわかりやすい相手ならば、ゼンカイが暴走する事など予想できるというものなのだ。


「てかなんで貴方が?」


「ふん。アルカトライズの頭が変わって、新たに里で契約を交わしなおしたんや。今は私も、その、あ、あの男の下僕みたいなものやねん!」


 顔を逸し頬を染め幼女ダークエルフがいう。

 その姿にミャウは何かを思い出したように半目で彼女をみた。


 確かこの幼女、薬を飲ませるためとはいえ、一度ブルームにその唇を奪われているのである。


「下僕といっても、今は普通に取引相手といった感じなんですがね。この森は今もダークエルフの結界が残ってるので、ガイド役をお願いしてるんでさぁ。勿論その分報酬も払ってるんですぜ」


 ふ~ん、とミャウが返事し。


「まぁとにかく急がないとね」


「うむ。そうじゃのう案内の方よろしく頼むのじゃ」


 立ち直りの早いゼンカイの言葉に、

「ま、まぁブルームの頼みやしな。しゃあないわ。しっかりついてくるんやよ」

 

 そういいながらダークエルフが前を歩き始め、三人もその後に従い森のなかを抜けていく。




「ぶ、ブルームにあったら私の事も宜しく言うておいてなぁ」


 森を抜けた後は、そんな言葉を言い残しダークエルフは森へと帰っていった。


「ところでガイドって事は結構ここまで来る人が多いの?」


「へい。正式に自治区として認められたおかげで王国側からも沢山の人がやってきておりやす。今は歩きできましたが、普段はもっと早い時間なら馬車なんかも結構走ってますぜ」


 道すがらキンコックとそんな事を話しながらアルカトライズを目指す。

 その時にわかったが、前は無かった街道が森から街に向かって敷設されていた。

 

 おかげで道程も大分楽であったが――更にふたりは街の前まできて驚いた。

 前は隠れ里のようになっていたアルカトライズだが、その様相はすっかり様変わりし、寧ろ見よ! と言わんばかりに綺羅びやかなネオンで飾り立てられている。


「これはまたえらく変わったわね……」

「以前来た時は下水を通ったのが嘘みたいなのじゃ~」


「へい。ブルームの頭が予算からやり繰りして腕利きの魔術師を集め、街道の敷設、水道と下水道の整備、魔灯を街全体に設置しての暗い雰囲気の払拭、とにかくあらゆる手で外から人がやってこれるよう大改造したんですわ」


 キンコックのいうように、街に入るなり、そのかわりようにふたりも何度も驚きの声を上げた。

 綺麗な街路が街中に伸び、道の両脇に洒落たデザインの魔灯が並ぶ。


 そして街はとても活気があり往来は人で溢れていた。

 以前にはなかったような店舗も街路沿いに並び、店員が軒に立ち呼び込みの声を上げている。


 そんなすっかり変わった街並みを見渡しながら、ミャウとゼンカイはキンコックに案内されブルームの待つ建物に向かった。






「街も変わったかと思えば、あんたも随分偉くなったものね」


「なんやねんやぶからぼうに」


「これはあれじゃのう。お主相当悪いことしとるな!」

「だからなんなんや一体!」


 街から少し外れた場所にブルームの所在する建物はあった。

 流石に管理者となっただけに、下水の地下で活動するわけにもいかなくなったのだろう。


 とはいえ、建物はちょっとした城のような立派な作りであり、以前のアジトのイメージとは明らかにかけ離れてしまっていた。


 その為キンコックと共に部屋に訪れブルームに再会したふたりは、喜ぶ事もなく悪徳政治家でもみるような目でブルームをみやり、軽蔑の言葉を贈り届けたのである。


「たくっ、しゃあないやろ。このたてもんはあのラオンとかいう王子がわざわざ業者手配して作ってくれたもんや。無下には出来んわ」


 ふ~ん、と気のない返事を見せるミャウ。


「それでダークエルフの女の子にも手を出してるわけ? なんかほんとあんた変わったわね」


「だからなんの話しやねん!」


「全くヨイちゃんが可愛そうなのじゃ! こうなったらわしが慰めるのじゃ! さぁヨイちゃんを呼ぶのじゃ!」


 ふたりと同じように再会を喜ぶこともなく突っ込みまくりのブルームである。

 そしてゼンカイの言葉に意味が判らん、と眉を顰め。


「ヨイちゃんならおらへんわ。神官の心得を学ぶために今はオダムドに滞在しとる」


「え? ヨイちゃんも?」


「うん? なんや、も、て?」


「あぁ、いや別にこっちの話しよ」


 ミャウの返しに怪訝に眉を顰めるが。


「まぁ何はともあれこっちも中々忙しいんや。別に遊んどるわけやない。まだまだ街の整備やあからさまな違法業者のチェック。暗殺ギルドや闇ギルドの残党の処理も残っとるからのう」


「なんかこの街もすっかり健全な街に変わったみたいね」


 ブルームの説明を聞きミャウがそう零すと。


「健全? 何いうてんのや。確かに法はできたがのう、法なんてもんは必ず抜け道があるんや。そういった穴を探してぎりぎりのところで攻める。そういった手合はわいかて大歓迎なんやで? 実際稼ぎの主はカジノや金貸しやからのう」


 言って大口開けてブルームが笑い声を上げた。

 どうやら見た目にはまっとうに生まれ変わったように見えるこの街も、その影で裏家業ともいえるものはまだまだ残ってるようでそれを無理やり規制しようという気もないらしい。


 だがそれこそがここアルカトライズの売りとも言えるのだろう。清濁を併せ持ったある意味でとても自由な街が作り上げられようとしているのだ。


「ま、それを聞くと少し安心するわね」


「うむ、綺麗なブルームなんて似合わんのじゃ」


「頭はアウトローに生きてこそですからね!」


「なんか微妙に馬鹿にされてるような気もしないでもないがのう」


 彼の主張でもあるほうき頭を擦りながら、不満そうに言葉を返す。


「ところで本題だけど、マオちゃんの記憶が戻ったって?」


「あぁそうやったな。それで呼んだのやった。まぁわいも詳しいことは聞いてても判らんが、なんかそんな感じなんや。とりあえず一緒にきてもらえるかいな」


 ブルームはそういってふたりを促し、部屋を出た。

 キンコックとは、彼がなにか雑務があるという事で一旦分かれる。


 そしてふたりはブルームの後を追い、ゼンカイの息子を封印したマオの下へ向かうのだった――。

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