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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第五章 ゼンカイの入れ歯編
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第二二七話 裁判の行方

 ギルドを離れアマクダリ城へと訪れたゼンカイとミャウを、ラオンとエルミールは快く出迎えてくれた。

 

 お茶とケーキを振るまわれ、談笑を行う四人だが。


「全く勇者ヒロシ様が中々わらわの元を訪れにこなくて不愉快なのじゃ。城の者にどこにおるか即刻調べろいうとるのに梨の礫なのじゃ! 腹ただしいのじゃ! 皆死刑なのじゃ~~~~!」


 この発言にはふたりとも苦笑いを浮かべるしか無かった。エルミールは記憶を一部失っているため、勇者ヒロシが攫われた事は忘れてしまっている。


「我が言葉に死刑は無茶とあり!」


 それはそうだろうとふたりも同意する。

 そしてそんな話をしていると、王室に仕える侍女がやってきて深々と頭を下げエルミールに耳打ちする。


「なんじゃ……仕方ないのう。やれやれすまぬがわらわは一旦失礼させてもらうぞ」


 エルミールはふたりにそういって一揖すると、席を立ち侍女と共に部屋を出た。

 その時一瞬侍女がラオンに向けて顎を引き、ラオンも同じように返す。


 どうやらエルミールをこの場から離れさせるようラオンが指示していたようだ。

 ゼンカイとミャウがエルミールがいることで本題に入れないことをその様子から察したのだろう。


「わが言葉にもう大丈夫とあり!」

 

 ラオンの言葉でミャウとゼンカイは少し畏まった感じになりながらも、これまでの顛末をラオンに説明した。


「わが言葉に情報感謝とあり!」


「いえ、情報と言っても直接勇者の事がわかるものでもなかったので……」

「でも口惜しいのじゃ。あの時みすみす逃していなければ居場所を突き止めることも可能だったかもしれんのにのう」


 ゼンカイが肩を落とし口惜しそうに述べる。

 マスドラを助けた際は確かにその事に夢中になりすぎていて、あのふたりからは完全に意識が外れてしまっていた。


 その事にミャウも面目なさげに眉を落とすが。


「我が言葉に過ぎたことを悔やんでも仕方なしとあり!」


 ラオンが一段と語気を強めいう。そして真剣な表情でふたりを見据え。


「我が言葉に我こそ不甲斐なくもうしわけないとあり――」


 そういって頭を下げた。現状勇者ヒロシの件も新たな魔王や四大勇者そして七つの大罪と諸々の調査を王国総出で行っているが全く成果があがらず、ミャウとゼンカイの持ってきた情報で少しは進展があったという状況だ。

 

 それを情けなくおもっているのかもしれない。


「そんな頭をお上げ下さい! とにかく私達も引き続き勇者ヒロシの探索とそして連中が何を企んでいるのか調べてみますので」

「うむ! そして次こそは捕まえてギャフンと言わせてやるのじゃ!」

 

 ふたりの決意にラオンもコクリと頷き、頼もしそうに彼らを見やりながら。


「我が言葉によろしく頼むとあり!」





「よぉ。久しぶりだな」


 ラオンの元を辞去し、王宮内を歩くふたりにジンが声を掛けてきた。


「そういえば結構久しぶりな気もするわね。どう? アンミちゃんとは上手くやってるの?」


 振り向いて再会を喜びつつ、ミャウが彼女の事を尋ねた。

 アンミは元七つの大罪の仲間であったが、エルミール王女救出の際、自分が利用されていただけに過ぎないことをしり罪を償う決意をし、同じく七つの大罪であり元アルカトライズの首領であったエビスの捕縛に協力してくれた。


 そして自らも自主的に王国に服し、ジンの取り調べにも素直に応じていたようなのだが――その時にちゃっかり恋仲に陥ってしまったという形だ。


「ま、まぁなそれなりに――」


 目をそらし照れたようにジンが頬を掻く。


「全く上手くやったもんじゃのう。それでアンミちゃんは、あれからどうなったのじゃ?」

「そうね確かに気になるわ。罪は軽くなるのよね?」


「あぁそのことなんだが、アンミはもう開放されたんだ」


 ジンの返しにふたりが、え!? と目を丸くさせる。


「まぁ彼女の場合エビスの野郎が何をしてたかも正直に話してくれたし、捕まえるのにも協力してくれた形だしな。反省もしてるしということで条件付きでの釈放さ」


「条件付き?」

 

 ジンの言葉にミャウが首を傾げ訊く。


「あぁオダムドの教会で暫く奉仕活動に努める事がその条件だ。尤もアンミもシスターになりたいっていってたから丁度いいけどな」


「でも今のアンミちゃんならシスターにもぴったりね」

「うむ……あの顔でシスターの衣装は萌えポイント高いのじゃ!」


 腕を組み真剣な顔で不真面目な考えを語るゼンカイ。

 その姿にジト目を向けつつ、ジンに視線を戻し。


「でも私達がここを離れてる間に裁判は終わったのね」


「まぁな。証拠もあるしアンミの証言も決め手となってなすんなりと終わったよ」


「……そう、あのふたりはどうなるの?」


 ミャウの表情が曇り、少し落とした声でジンに尋ねる。


「あぁあれだけの事をしたからな。死刑に決定した」


「そっか……」


 ミャウはひとことだけ呟く。


「最初は抵抗して結構暴れた時もあったけどな。今は随分大人しくなった。神父が訪れた時の懺悔も進んで受けるようになったぐらいだ」


「ふむ……観念したってとこかのう。まぁいくら懺悔したからと、あやつらのやった事が許されるわけじゃないがのう」


 全くもってそのとおりだがな、とジンは肩を竦めた。


「ところでラオン王子殿下とも話をしたけれど、あれからあまり進展はなさそうね」


 ミャウが話題を逸らすように別の件を話しだす。ミャウから尋ねたことではあるが、それでもあまり長く話したいことではなかったのだろう。

 やはりレイド将軍から受けた心の傷は今もまだ深いようだ。


「情けない限りだぜ」


 するとジンが応え、大きく息を吐き出した。その様子から気苦労が伺える。


「ほんとこれっぽっちも情報が出てこねぇ。いい加減兵士達も疲れちまってるし、エルミール王女にもしょっちゅうヒロシの事を聞かれるしで、てんてこまいだ」


 両手を掲げお手上げのポーズを見せるジンに苦笑するふたり。


「とにかく、ラオン王子殿下にも伝えたけど私達も出来るだけ頑張るから」

「うむ、わしの入れ歯もそろそろできるからのう」


 ジンはふたりによろしく頼むぜ、と告げそれじゃあまだまだ仕事が残ってるから、と別れを言い残し駆け足で去っていった。


 その様子をみるに、やはり彼もかなり忙しい思いをしているのだろう。


 その後姿を眺めた後、ゼンカイとミャウも踵を返し、城を後にした。







「と、いうわけでまだヒロシの情報掴めてないのよごめんねセーラ!」

 

 城を離れた後、ふたりはゴンの店を訪れセーラに会うなりミャウが両手を合わせて謝罪した。


「いい意味で仕方ない。いい意味でヒロシシネ! が悪いいい意味で」


「なんか結構酷いいわれようね」

 

 半目になり、口端をひくつかせるミャウ。

 そしてセーラからビーフジャーキーを貰い犬のようにがっつくゼンカイ。


「あおん、あぉん、くぅうん!」


 ゼンカイ犬の如き勢いでセーラの胸元にダイブ! するが、グシャ! とミャウに踏みつけられた。


「全くこの爺ィは!」


 ぐりぐりと頭を踏みにじると、

「痛いのじゃミャウちゃん、あ、でも少し気持ちいいのじゃ!」

と頬を染めた。


「こいつ変態度が増してるわね……」


 そんなふたりのやり取りにセーラの口元が緩む。


「でもセーラも元気そうでよかった。腕はどう? 大丈夫?」


「ふむ、なんだかミャウはお姉ちゃんのようじゃのう」

「え? べ、別にそんなんじゃないわよ」


 ミャウが照れたように顔を赤らめると、セーラは腕を振り握る締めるを繰り返し。


「いい意味でもう全然大丈夫。いい意味でこれなら戦闘もいける」

「バカいってんじゃねぇよ」


 後ろからゴンの声が響いた。頭を擦り呆れたように溜め息を吐く。


「たくこいつは、少し自由が効くようになったと思えばすぐ無茶しやがる。めんどうだから今度こそ連れて帰ってくれ!」

 

 ゴンが以前と似たような言葉を口にした為、ふたりは思わずくすくすと笑みを零した。


「全く何がおもしろいってんだ」

 

 ふんっ! と鼻を鳴らしゴンが唇を曲げる。


「でもゴンさんのおかげで助かりました。おかげでお爺ちゃんの入れ歯も無事出来そうです」

「うむ! しかもふたつものう!」


「おお、そうかい。そりゃよかった。あいつは偏屈だが腕はいいからなぁ」


「いい意味でドンだってかなりの偏屈」


 誰が偏屈だ! とゴンが叫びあげ。


「たく、相変わらず名前も間違うしよう」


 そうブツブツと文句をいいながら、中断していた作業を再開する。


 その後ろ姿に口元を緩めつつ、ミャウがセーラに向き直り。


「でも入れ歯の件はセーラの情報も役に立ったのよね。ありがとうといっておくわ」

「……いい意味で意味がわからない」


 ミャウの言葉にセーラが不思議そうに首を傾げた。

 まさか自分の知らない間にクイズのネタにされてたとは思いもしないだろう。


 そしてそれから暫くセーラと談笑し、日も暮れてきた頃に別れを告げふたりは店を離れたのだった――。

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