第二一四話 村人を連れて……
ウンジュとウンシルも無事ルーンの授受を終え、一行は精霊神に別れを告げた。
するとミャウの剣より精霊王達が抜け出し、精霊神の前に並み立った。
「え? これって?」
「悪いがミャウ。我らはここでお別れた」
「本当はもっといたいけどね」
「ミャウのおかげで妾達の力も回復した」
「まぁ全快とまではいかんがのう。それでも精霊神様を助け支えるぐらいは可能じゃ」
「フレイムロード、アクアクィーン、エンプレスウィンド、エンペラーアース――」
精霊神が感慨深い表情でそう呟く。
「精霊神様はこれから力を回復させる為に暫くの眠りに疲れる事だろう。その間の守りはやはり我らでないと出来ない」
「それにこの精霊界の復興もしないといけないしね」
「本来なら一緒にラムゥールへ借りを返したい所であったのだが――」
「まぁそれはお嬢ちゃんに任せるとしようかのう」
「わ、私に?」
ミャウが目を瞬かせそう問い返すと、精霊王達はそろって顎を引き更に言を続ける。
「我らが抜けてもその剣に加護は残る。精霊王の力はそのまま使用が可能な筈だ。勿論使い手の能力にもよるがな」
「まぁそれは嬢ちゃんなら大丈夫と信じているぞい」
「妾も手を貸してよくわかった。ミャウの力はまだまだ伸びる」
「まぁそれでも、もし寂しくなったならいつでも私の触手で慰めてあげるけどね」
「皆……そう、うん! 判った短い間だったけど本当にありがとう。この力は絶対に使いこなしてみせるわ! そして触手は結構です」
ミャウが精霊王の顔を其々見つめながら決意の言葉を述べた。ただアクアクィーンにだけは右手を振ってあっさり断った。
「精霊神様どうかお身体は大事にしてください。あと変な奴に騙されないようお気をつけを」
「うふ、ありがとうエロフ。騙されるというのがよく判りませんが皆様のご武運をお祈りしております」
自分の事を理解していない精霊神はやはりどこか心配である。
そして一行は精霊神に手を振りながらその場を辞去した。
「いってしまいましたね」
精霊神が少し寂しげに呟いた。その目は彼らの姿が見えなくなるまで向けられて続けていた。
そしてそんな精霊神に、また出会えることもあるでしょう、と告げる精霊王達であった。
精霊神と精霊王の見送りをうけたあと、駆けるエロフを追いかけ精霊界の出口へ向かう一行。
後はとりあえず村のエルフを助け、そしていよいよマスタードラゴンのいる山に向かうだけなのである。
「それにしてもさ、確かマスタードラゴンの山って精霊神の封印がかかってるんじゃなかったっけ?」
「…………」
全員が一斉に口にしたヒカルに顔を向け――。
「精霊神様~~~~!」
「戻ってきた!」
「「「「はや!」」」」
驚く精霊神と精霊王にワケを話し、封印を解く鍵を受けとった一行なのであった。
「う、う~ん、あれ? お前はエロフ?」
「どういうことだ? 我らは確かラムゥールという男に――」
精霊界を後にし神殿まで戻ってきたエロフは、早速精霊神から譲り受けた泉の水を一滴ずつ倒れていた門番のエルフにかけてやった。
するとどうだろう、死んだと思われていたエルフが精霊神のいうように息を吹き返したのだ。
この事にエロフは喜び、彼らに抱きつき涙した。
それをみていた一行も一緒になって安堵する。
そしてその後は門番と一度村にもどり、村のエルフ達にも泉の水を掛け次々と復活させていき――とにかく損壊の激しい村の事は後で考えるとして、一度復活した村人全員をシルフィー村に連れて行くこととなったのだが。
「村に連れて行くのはお前達にお願いしたい。俺は暫くここに残ることにする」
エロフの発言に皆が驚いた。どういうことかと尋ねると。
「神殿を守る門番が必要だ。しかし泉の力で意識を取り戻したとはいえ、ふたりはまだ疲労も激しいだろう。私ならまだまだ動けるしな。だから神殿の事は暫くは私がみておきたいんだ」
その発言に元の門番のふたりは申し訳無さそうな顔を見せたが、エロフは気にするなと述べ。
「精霊神様に直にお会いした身としても、神殿はしっかり守っておきたい」
エロフの意思の堅さをその表情から汲み取り、一行は必ず村人を送り届ける約束を交わし、そしてエロフに一旦の別れを告げ、シルフィー村に向かったのだった。
一行がシルフィー村に辿り着いた時には、既に太陽も登り始め、薄明かりが森を優しく包み込み始めていた。
一行は結局一睡もしなかった事になるが、そこまで疲れはみえない(但しヒカルを覗いてだが)。
これも事前の修行の賜物なのだろう。
「皆様には感謝してもしつくせません――本当にありがとうございます」
エルフたちを連れて村に戻った一行を、エルフの長は暖かく迎えてくれた。
「でもみなさんが無事で本当に良かったですぅ……」
エリンも泣きそうな表情で姿をみせる。
どうやらかなり心配をしてくれていたみたいだ。
「うむ心配かけて悪かったのうエリンちゃん。さぁわしの胸に飛び込んでくるのじゃ」
するとゼンカイが手を広げエリンに一歩一歩にじり寄り、え? え? とエリンが戸惑いの表情をみせる。
「何ちゃっかり馬鹿な事をいってるのよ!」
そんなゼンカイに見事な拳骨を決めるミャウ。痛いのじゃ~、と抗議するゼンカイと叱るミャウのやりとりにエリンの顔にも笑顔が溢れる。
「やっぱり女の子は」「笑顔が一番だよね」
「皆さん……はい、ありがとうございます。それに皆さんが無事戻ってきて私も嬉しいです!」
エリンは泣き顔から一転、花が咲いたように顔を綻ばす。
「はぅん。やっぱり幼女エルフの笑顔には癒やされるなぁ」
そこへヒカルが口を開き――え? とエリンがたじろいた。
「えぇ! 僕なんか変なこといった?」
「てかあんたの場合、お爺ちゃんと違ってリアルに気持ち悪いのよね」
「リアル変態だよね」「笑えないキモさだよね」
「酷い!」
項垂れるヒカルをぽんぽんと慰めるように叩くゼンカイ。しかし振り返ったヒカルの瞳に映るゼンカイの勝ち誇ったような顔に、ピクピクとヒカルの蟀谷に浮き出た血管が波打った。
「それにしてもそうですか、エロフは神殿を……いやあいつらしいですな。あぁみえて責任感の強い男ですから」
そういってから、ほっほっほ、と笑い。
「とにかく皆さんもお疲れでしょう。とりあえず一旦お休みをとって山にはそれから出られてはいかがですかな?」
長老の提案に、皆が顔を見合わせる。どうしようか? という迷いも感じられたが。
「いやいや! 当然ここは休むよね! そんな無理して踏破してもいいことないってば! かえって非効率だよ!」
ヒカルの必死の訴え。とにかく今すぐにでも休みたいという思いが、その顔にありありとあらわれていた。
その様子にミャウが溜め息を付き、そうね、と口にしたその瞬間――。
『グウウゥウウゥウウウオオオオォオオオオ!』
突然どこかから発せられた咆哮――そして揺れる大地。村全体から聞こえる悲鳴。
巨大な地震が島全体を襲う。
そして更に咆哮は立て続けに複数回起こり、その間揺れは続き――全てを破壊するのでは? とさえ思われた揺れは、漸く収まった咆哮と同時にピタリと止んだ。
「い、いまのは一体……」
「ひ、酷い揺れじゃったのじゃ! 震度6は間違いなく超えてたのじゃ!」
「何か声も」「凄かったけどね……」
「こ、腰が……腰が――」
突然の出来事に驚きを隠せない一行。ヒカルに至っては腰を抜かし地面にへたり込んでる始末。
そして村人達も不安の色を滲ませ、ざわめきも広がり――。
そんな中、長老はある一点を見つめ、そして怯えたような顔でゆっくりと呟いた。
「この声はまさか、マスタードラゴン様――」




