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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第五章 ゼンカイの入れ歯編
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第二一三話 精霊神からの贈り物

 ミャウの靭やかな脚にシーキャンサーは踏み潰され、そしてその命を断った。


 ピクリとも動かない上、甲羅がバラバラ、鋏も地面に転がり変な味噌と汁が飛び散っている状況からしてもう復活する事がないのは間違いないだろう。


 そして一時、空洞内は静まり返るが――。


「……み、皆様のおかげで闇の精霊神の力を手にした巨大(・・)で凶悪なシーキャンサーは討ち滅ぼされました」


 精霊神はミャウの足元に転がる残骸を目にすることなく、どこか遠くをみるような瞳で巨大という部分を特に強調しいいきった。


「え? あれ? あの、私――」


「ミャウ様、あなたと精霊王の活躍があったからこそシーキャンサーを苦しめ、そして最後はゼンカイ様の剣で散ったのです。それにしても闇の精霊神の力を頼るとは愚かな真似をしたものです」


「あれ? もしかして今の出来事なかったことにされてる?」

 

 引き攣った顔でそう述べるミャウ。そんな彼女にゼンカイが近づき。


「愚かな蟹はわしの剣で滅びたのじゃ。勿論わしだけの力じゃない。みんなの力があってこそじゃがな」


「結構順応力高いわねお爺ちゃん」

「ハゲとるからのう」


 ハゲ関係ないだろう。


「てかこの鋏の部分結構いける」


 ヒカルは拾った鋏を割り、むき身に齧り付いて咀嚼していた。


「て、マジで食べてるのあんた!?」


「だってお腹減ったし」


「まあ――落ちてる只の蟹を拾って食べ、お腹を壊しては大変ですよ」


「只の蟹として処理する気か」


 踏みつぶした張本人とはいえ、ミャウはツッコミが忙しい。


「てか生で蟹を食って大丈夫かのう?」


 ゼンカイが心配そうに首を傾げるが。


「ちゃんと魔法で火は通してるよ。大丈夫大丈夫」


「おお! じゃったら平気じゃな!」

「そういう問題!?」


 そんなやり取りを一行がしていると、ミャウの剣から四大精霊王が姿を見せ精霊神に向かって口を開く。


「精霊神様、取り敢えずはここをでてしまいましょうぞ」

「そうね。こんな場所あまり長居したくないし」

「来るときに障害は排除してる上、帰りはそこまで時間はかからんであろうしな」

「うむ、今後の事はとりあえず戻ってから決めると致しませぬか? 精霊神様」


 精霊王達の進言に、小さな精霊神はひとつ頷いた。


「精霊神様、よければ私がお運びいたします」


 エロフがそういって腰を落とし、そして手のひらを精霊神に向けた。

 精霊神は、ありがとう、と優しい微笑みを返しその手に乗り、それを認めたあと一行はその場を後にする。




 行きと違い、やはりとくにこれといって邪魔をするものが無かっただけに、帰りはかなりの短時間で洞窟を抜けることが出来た。


 あの地底湖のような場所に辿り着いた後は、アクアクィーンの力で再び水と同化し、無事泉の前まで精霊神を送り届けることに成功する。


 そして送り届けた後は、精霊王達が改めて精霊神の無事を喜んだ。


 彼ら曰く、とりあえず最悪の自体は免れたとの事であった。


「でもラムゥールの奴はなんで精霊神を狙ったりしたんだろ……」


 精霊神を敬う姿勢を保ちつつ、ミャウが怪訝に呟いた。


「それはやっぱり闇の精霊神というのを復活させる為だったんじゃないの?」


「確かにその可能性が」「高そうだよね」


 ミャウに答えるように、ヒカルとウンジュにウンシルが口を開く。


「その件ですが、ラムゥールという古代の勇者は確かに誰かの命令で来た感じはあったのですが、他にも目的はあったようで……」


「目的? 一体何かのう? もしかして宝物のようなものがあったとかじゃろか?」


 ゼンカイの問うような言葉に、精霊神は首を横に振り否定を示し、それは、と口にした後。


「その、どうやら雷が最強であることを知らしめたかったようなのです」


 はぁ!? とミャウが素っ頓狂な声を発す。


「いってる意味が」「よくわからないんだけど……」


 双子の兄弟も小首を傾げながら発言するが。


「え~と、なんでも精霊に雷の精霊がいないのが気に食わない。そんな不完全な力より自分の力のほうが間違いなく強い! と、どうやら己の持つ雷の力に絶対的な自信があったようですね」


「そういえば、我らを倒す際も随分雷より弱いと拘ってたな」

「私も水なんかは雷のあいてにもならんって馬鹿にされたわね」

「雷の速さに比べたら、風は牛だと妾はコケにされました」

「土など雷にあっさり粉砕される程脆弱ともいっておったのう」


「子供か!」


 ミャウのここにきて一番のツッコミが辺りに木霊したのだった。


「クッ! まさかそんなくだらない理由であの男は村のエルフたちを手に掛けたというのか!」


 精霊神と精霊王達の話を黙って聞いていたエロフが、悔しそうに歯を噛み締め、そして握りしめた拳をプルプルと震わせた。


「手に掛けた……まさか神殿の護り人達の命が失われたというのですか!?」

 

 精霊神が信じられないといった表情で声を上げた。

 その言葉にエロフはひとつ頷き。


「ラムゥールは仲間の魔物と共に村を襲い、そしてひとり残らず――クッ!」


 地面を見下ろすようにしながら、思い出したように怒りの色を滲ませる。

 

 その姿に他の皆もその表情に暗い影をおとした。


「待ってください、ちょっとみてみます」


「いや、精霊神様、その状態であまり無茶は……」


「大丈夫です遠見の力ぐらいはまだ問題ありません」


 エンペラーアースが心配そうに述べるが、精霊神は凛とした声で言い放ち、そしてその瞼を閉じた。


 妙な緊張感が辺りに漂い、そして全員が沈黙する。


「――これは!? なるほど……」


 ピクリと精霊神の小さな瞼がゆれ、何かを納得したように呟くと、瞑目を解きその透明感のある瞳を全員に向けた。


「全てを確認しました少しお待ちください――」


 精霊神より清廉なる響きが発せられ、そして彼女は小さな手を上に掲げた。すると泉の水がその手の上空に集まりだし、更に水晶の木の残骸から一つの瓶が生みだされ、泉の水と同じように引き寄せられ精霊神の近くまで飛んできた。


 すると上空に浮かんだ泉の水が吸い込まれるように瓶の中に収まり、そしてそのままふわふわとエロフの前まで飛んで行く。


「え? あの精霊神様これは?」


「その水をどうぞお持ちください。恐らくその水を村のエルフたちにかけてあげれば、再び目を覚ます事でしょう」


 精霊神の言葉に、え!? とエロフが驚嘆する。

 周りの皆も同じように驚き目を丸くさせた。


「あぁ――なんて事だ! 流石精霊神様……失った命ですら蘇生させるなんて……」


 エロフはその瓶を受け取り、掻き抱きながら膝を地面につけ涙を流した。


「その事ですが、失った命というのは若干誤解があります。あの村の方々は今は恐らく仮死状態に近い形だからです」


「え? 仮死状態!?」


 ミャウが驚愕に目を見開いた。


「それはつまり……」「死んでないということ?」


 更に双子も訝しげに尋ねる。


「なんといって良いか少々難しいですが、限りなく死に近い生といったところでしょうか。なのでこのまま放っておいては死に至るのは確かですし、普通の回復魔法では効果もないでしょう。ですがこの泉の水であればまだ間に合うはずです」


 精霊神の説明に、ミャウが怪訝な表情を見せ顎に指を添えた。

 勿論エルフたちが生き返ることは喜ばしい事であるが、何故ラムゥールはそんな中途半端な事をしたのか? それが気になるのかもしれない。


「とにかくそうとわかれば早く戻ってこの水を飲ませねば! 精霊神様! 本当にありがとうございます!」

 

 エロフは立ち上がり、深々と精霊神に向かって頭を下げた。


「さぁ、ほらお前ら! さっさと戻るぞ!」


 そして全員を促すように声を張り上げるが。


「いやいや!」「ちょっと待ってよ僕達も」「精霊神様に願いがあって」「ここにきてるのに!」


 ウンジュとウンシルの慌てたような発言に、私にですか? と精霊神が可愛らしく首を曲げ尋ねた。


 すると双子の兄弟は、精霊神に自分達がここまできた理由を伝え。


「そういう事でしたか。判りました、皆様には命を救って頂いた御恩があります。それにおふたりなら使いこなすことも可能でしょう」


 精霊神がウンジュとウンシルに向かって小さな手を差し出した。

 そして顔を近づけてくださいという彼女の言葉に、ウンジュとウンシルが目一杯腰を落とし指示に従う。


 すると精霊神の手が光りだし、双子の額にルーンが刻まれた。


「これが……」「精霊神のルーン……」


「はい、ですが使うときはよく考えてお使いになってくださいね」


 ウンジュとウンシルにルーンを与え、言葉を紡いだ精霊神の表情は、とても真剣なものであった――




 

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