第二〇五話 契約で得た力
ミャウと四大精霊王の契約は問題なく終わった。
精霊王の前に剣を差し出し、ミャウが盟約の言葉を紡げることで、精霊王の四体がヴァルーンソードの中に吸い込まれていったのである。
「凄い――剣の性能もかなり上がってるのが触ってるだけでよく分かるわ。名称も四精剣ヴァルーンソードに変わってるし――」
「うむ、当然だ。我らの力がこの剣に上乗せされたのだからな」
突如剣の中から姿を現したフレイムロードに、ミャウがキャッ! と短い悲鳴を上げた。
「び、びっくりした……え? なんか大きくなってない?」
確かに剣の中から上半身を出したフレイムロードは、ミャウの上背ぐらいの高さがあり、逞しい身体も相まってか見た目にもかなり大きくみえた。
盟約を結ぶ前の状態とは比べるまでもなく、確実に巨大化している。
「これが盟約の力よ。まぁ今の状態でも全開には程遠いんだけどね」
アクアクィーンもフレイムロードの上から顔を出す。
「お、おま! 触手を頭に乗せるな!」
「うっさいわねあんたこそ引っ込みなさいよ。本来なら触手の一本たりとも触れてほしくないんだから」
そのやりとりにミャウが苦笑していると、いつの間にか復活していたゼンカイが近づき口を開いた。
「ふむ、どうやら上手くいったようじゃな」
そうね、とミャウが頷く。
「てか水の女王も大きくなったね。色々と」
ヒカルがアクアクィーンの貝殻を見つめ、鼻の下を伸ばした。
その様子にミャウが呆れたように目を細める。
「この剣やっぱり凄い。普通は妾達全員など宿せばとても保たぬが」
エンプレスウィンドまでもが現出し、剣の周りは相当に騒がしいことになってきた。
しかし彼女の言うとおりなら、ミャウの持っていたヴァルーンソードは相当協力な代物だったという事だろう。
勿論ミャウが手入れを怠らず、大事に扱っていたのも大きいのかもしれないが。
「そうじゃぁああぁああ!」
と、そこへ先に出ていた精霊王達を押しつぶすような勢いで、エンペラーアースが姿を現す。
「ちょ! もうなんなのよ突然!」
アクアクィーンが文句を述べるが、お構いなくといった具合に、土の精霊王は目を剥き、ミャウに顔を向ける。
「精霊神様じゃ! 精霊神様はどうなったか知らぬか娘!」
相当に慌てた口調で捲し立ててくるエンペラーアースは、四体の中では特にガタイが大きくなったようにみえる。
そして彼の言葉で、他の精霊王達も顔色を変えた。
その様子にただならぬ物を感じたミャウは、表情を引き締め。
「精霊神の事は私にも判らないわ。ただ私の仲間が先行して様子を見に向かっているわね」
「うむ、そういえばそうじゃったの。わしらも早く追わねば」
ゼンカイも頷きながら言を重ねるが。
「えぇ? 待ってればその内戻ってくるんじゃないの?」
ヒカルが呑気な事をいう。本当に動くのが億劫な様子だ。
「何を悠長な! それならば娘! 我らも急ぐのだ! さぁ! さぁ!」
フレイムロードの頭の炎が勢い良く吹き上がる。しかし、そもそもこの精霊王とのやり取りにもなかなか時間が掛かってしまったわけだが――。
「そうね急ぎましょう。精霊王達と話してたおかげで随分時間とられたし」
ミャウの皮肉にフレイムロードが黙りこくった。
「あ~ん、そういう意地悪なところも、た・ま・ら・な・い」
ミャウの背筋に悪寒が走る。剣の性能があがったのはいいが、余計な心配もひとつ増えた気がするのだ。
「ならば妾の風の力を使うが良い。それでかなり速く移動が出来るはず」
風の女帝からの助言にミャウは素直に頷き、そして風の付与を刃に宿す。
これまでと違って強力な風精霊の力も加わったことで、纏われた風の勢いも相当に上がっていた。
「確かに凄いわねこれ……よし! じゃあお爺ちゃんとヒカルも急ぐわよ!」
「いつでもこいなのじゃ!」
「え? いや、だから僕はここで待って――」
「行くわよ!」
ヒカルの言葉などには聞く耳も持たず、ミャウがその剣を一振りすると、吹き荒れた旋風に乗って門をくぐり、三人纏めて一気に空中へと舞い上がった――
「いた! ウンジュとウンシル!」
門を抜けた後、ミャウは精霊王の導きを受けながら、精霊神の宿る泉の真上まで飛んできた。
眼下には泉の近くに立ち、弱ったように二人一緒に頭を掻くウンジュとウンシルの姿がある。
そのふたりに上から声を掛けつつ、三人は泉の前にフワリと降り立った。
「あぁ」「ミャウか……」
「ふたりとも一体どうしたのよ?」
どこか元気なく言葉を返してきた双子をみて、ミャウが怪訝に尋ねる。
するとふたりは肩をすくめ。
「どうしたもなにも」「みてのとおりさ」
ウンジュとウンシルが其々左右に腕を振るようにしながら、周りをみてみなよと指し示す。
三人は改めて周囲を眺め、眉を顰めた。上からでも見て判ってたことだが、水晶のような木が数多くへし折れ、地面が何箇所も深く抉れてしまっている。
正直、泉が大した破損もなく、無事に残ってるのが不思議なぐらいの有り様だ。
「確かに酷いのう……」
「そうだね。でも……エロフはなんであんなところで膝抱えてるの?」
ヒカルが泉より更に先で膝を抱え、顔を埋めるようにしてるエロフを発見し尋ねた。
「……精霊神様の姿がないと知ってから」「ずっとあの調子だよ」「自分のせいで精霊神様が~」
「精霊神様が~」「そんなことをブツブツいってるんだよ」「相当落ち込んでるみたいだね」
「どんだけ心弱いのよ!」
ミャウが思わず突っ込みの声を上げた。しかし普段強気な男ほど、意外と心が折れやすかったりするのだ。
「でも……この感じだともしかして本当に精霊神様というのは――」
ミャウが眉根を落とし、不安の声を上げる。
「決めつけるのは気が早いぞ! 儂にはまだ感じる!」
「そうね精霊神様の力はまだ微かに残ってるわ」
「でも――このままじゃ危ない……」
「うむ! 娘! 急げ! 急いで精霊神様をお救いするのだ!」
全員纏めて姿をみせ、彼女の不安を払拭するように言い連ねていく精霊王達。
その様子にミャウが戸惑ったように口を開いた。
「えぇ! いや、でも探せと言っても……」
「娘よ我々は力の多くをこの剣に貸しておる。つまり、我らでも精霊神様の力を感じれるということは、この剣の所有者であるお主ならば、より深く知ることが出来るという事じゃ」
「うむ。娘よ心を落ち着けて集中してみるのだ。擦れば自然と道は開ける筈!」
「妾達は、お前にはこの力を使いこなす資質があると見込んで盟約を結ぶ決意をしたのだ。もっと自信を持つが良い」
「まぁどうしても難しければ、私がこの触手でサポー――」
「うん! わかったわ! やってみる!」
アクアクィーンの言葉を聞き届ける前に、ミャウが決然とした様子で瞼を閉じ、剣に意識を集中させた。
「よっぽど触手が嫌なのじゃな」
「なにその」「触手って?」
実はね、と説明しようとしたヒカルを片目だけこじ開けたミャウが鬼の目で睨めつけ、ヒカルの口が止まった。
そして更に少しの間を置き――
「わかる! 精霊神様の力の位置を感じるわ! その泉の下よ!」
そのミャウの言葉で、泉の下だと! とエンペラーアースが再び姿をみせ緊張の声を上げた。
「何? 泉の下だと何かマズイの?」
「えぇ、そうね。精霊神様の力が弱ってなければ問題ないけど」
「この泉の下には、闇に落ちた精霊の化身が封じられていた筈……」
「むぅ! その化身に、もしも精霊神様が取り込まれるような事があれば――この精霊界は終わりだ!」
精霊王の説明で、不穏な空気が辺りに込め始める。
「なんか物々しい話になってきたのう」
「全くだよ。てかそんな化身さっさと片付けておけばよかったのに!」
ヒカルのいってることも尤もなようにも思えるが。
「まぁそこが、精霊神様の心の優しさというかまぁいいとこでもあるのじゃが」
エンペラーアースは、どこか面目無さそうに後頭部を擦る。
「でも精霊神様が無事だというなら」「早く助けにいかないとね」
ウンジュとウンシルの言葉にミャウが深く頷く。すると。
「精霊神様がご無事というのは本当かぁああぁ!!」
叫び上げながらエロフが近づいてきた。流石エルフ族、離れていても耳は良い。
「むぅ、ならば! 早く助けにいかねば! どうすればよい!」
鼻息荒く問いかけてくるエロフに皆がジト目を向けていると、アクアクィーンが待ってましたと言わんばかりに飛び出し。
「泉から地下に通じる穴はとても小さいわ。多分精霊神様もさっきまでの私達と同じように、力を失い縮んでしまっていたから、飲み込まれたんだと思うけど」
「え? でもそれなら私達はどうしたら?」
「ふふん。このアクアクィーン様をなめないでね。ミャウが私の力を使えば、水と同化することが可能な筈よ。それで移動できる!」
おお~~、と皆が歓喜の声をあげ、アクアクィーンが得意気に胸を張った。
そして精霊王達を剣に戻し、ミャウが泉を睨めつけ鋒を向ける。
「よし! そうと決まればさっさと精霊神様を助けにいくわよ!」




