第二〇四話 精霊王との契約
「あ、あの、貴方たちが精霊王、様なのですか?」
じっとミャウの顔をみやる四人の小人に、恐る恐ると彼女が尋ねる。
一応精霊王である場合を考え、敬意を表し様を付けている。
「うむ、まさしくその通りだ」
フレイムロードが皆を代表するようにそう返す。するとヒカルが首を傾げ。
「それにしてもなんでこんなに小さいの?」
「うむ、可愛らしいが強そうではないのう」
「お爺ちゃん失礼よ!」
ゼンカイの言葉に、ミャウが慌てて叱咤する。
「ふん、儂らとてなりたくてこんな姿になったわけではない」
「ラムゥールとかいうのにやられたのよ」
「妾ともあろうが本当に情けない。おかげで殆どの力を失ってしもうた」
三人の精霊王から続けられた話に、ミャウが、ラムゥールが! と目を見開き。
「やっぱりあいつここに来たんだ――」
胸の前で腕をくみ、右手を上げ爪を噛む。どうしようもない歯痒さが表情に滲みでていた。
「むっ! お主達あのラムゥールというのを知っておるのか!」
するとフレイムロードが頭の炎を勢い良く吹き上がらせ、問い詰めるように叫び上げた。
「え、えぇ。私達あの男とは――」
「待って!」
と、ミャウが説明しようとすると、アクアクィーンが口を塞ぐように声を上げ。
「態々いわなくても私が読んであげる。ちょっとそのままおとなしくしててね」
ミャウが、え? と戸惑いの色を滲ませてると、うふっ、と妖艶な笑みを浮かべ――なんとアクアクィーンの下半身の触手が一気に伸び、ミャウの身に絡まっていく。
身体が小さくなっている水の女王の触手は毛糸程度の太さでしかないが、それだけにミャウの装備の隙間に入り込み、肌に直接触れていった。
「ひゃっ! ちょ、ちょ! 何よこれ! いや、いやぁ、変なところ、ひゃん!」
「ウフッ、大丈夫よ別に痛くないから。私の触手は触れた相手の記憶をさぐれるの。だから大人しくしててね」
「大人しくって、き、記憶探るだけで、な、なんでこんなとこまで! い、いやだ! そんなとこ、はぁん!」
「みゃ、ミャウちゃん! 堪えるのじゃ! これも精霊王様に知ってもらうためなのじゃ!」
「そ、そうだよ! 何せ精霊王様のご希望だからね! 逆らっちゃダメだよ! 受け入れないとね!」
「あ、いや、ぅ、うぁ、あ、あんたらそんな事いって! お、おびょ! おぼえて、な、はぅん!」
「う~んその声そそられちゃう~さぁもっと! もっとあなたの全てを私にみせて!」
アクアクィーンが身を捩らせながら恍惚とした表情で声を上げると、それに呼応するように触手も激しく蠢きだし、ミャウの肌を撫でまわし――。
「い、いや、もう、きょんな、ら、らめぇええぇええ~~~~!」
「うふっ、すっごくよかったわ。いろいろ知ることが出来たしね」
「う、うぅ、色々って一体なんなのよ~~」
ミャウは完全に腰が砕けたように床の上に崩れ落ち、半泣きの状態で精霊王を睨めつける。
「ミャウちゃんよく頑張ったのじゃ!」
「うん! 凄かったよ! 凄い眼の保、いや! 勇敢だったと思う!」
今だ興奮冷めやまぬふたりの仲間を、後で覚えてなさいよ、という目で睨めつけるミャウ。
「アクアクィーンよ、その記憶を儂にも早く見せるのじゃ」
「うむお主だけ判ってても仕方ない!」
「妾は別にどちらで――」
「え~? 私の触手をあんたらみたいな汚らしい野郎に触ってもらうのはなんか嫌だな」
アクアクィーン、嫌悪感を顕に、あからさまな嫌な顔を見せる。
「いやそれじゃあ意味が無いだろ!」
「そうじゃ早く見せるのじゃ!」
「あ、じゃあ妾はいいからこのふたりに――」
「チッ、仕方ないわね、じゃあ触手一本だけ伸ばすけど軽く触れるぐらいにしてよね! 爪の先ぐらいで十分なんだから!」
「クッ! この女は――」
「まぁ仕方ないフレイムロード。こやつはいつもこうじゃしのう」
「妾は遠慮を――」
「あ、ウィンドちゃんは私から触手伸ばすから安心してね」
ふたりの男に対する態度から一変、ウィンドに対しては弾んだ声を発し、そして、じゅるり、と口元を拭いながら触手を伸ばす。
「いや、妾は、だから、そ、い、いやぁあぁああ!」
ミャウに続いて触手に塗れる風の女帝。その姿にゼンカイとヒカルの顔が好色に輝く。
「もしかしてあのアクアクィーンって……そっち系なわけ?」
「いやいやミャウちゃん、あれはもしかしたら触手が男のアレかもしれんぞ」
「りょ、両生類って奴かな」
やたら興奮するふたりにミャウは溜め息をつきつつ、
「嫌らしい目で見ない!」
と思いっきり殴りつけたのだった。
「うむ、なるほどのうよくわかったぞ」
「我もしっかりその記憶拝見させてもらった!」
「はぁ、はぁ、こんなの、うぅうう……」
涙目のウィンドに同情の目を向けながらも、ミャウは徐ろに立ち上がり。
「本当にいまので判っちゃうのね」
そのミャウの言葉にウィンド以外の精霊王達は、うんうん、と頷き。
「お主そんな可愛らしい顔をして意外と大胆な下着をはいとるのだな」
「なっ!?」
「ほっほ若いもんは色々と過激じゃな。あんなことやこんな事まで――」
「はい!?」
「まぁ私は記憶より、触手で喘ぐ姿が見れて幸せだけど、ウフッ」
「みゃっ!?」
「ね、猫耳立てて、こ、こんな格好、妾には、む、無理……」
「にゃんですと!?」
「まぁミャウちゃんの下着が大胆なのはわしも知ってるのじゃよ。The! HIMOPAN! じゃしのう」
「あんなことやこんなことってやっぱり二十歳超えた女性は不潔だよ! 嫌いじゃないけど!」
「…………」
「い、痛いのです……」
「なんじゃ冗談の通じんやつじゃのう」
「あ、でもこの痛みちょっと私気持ちいいかも……」
「てかお前! 仮にも精霊王と呼ばれる我らを殴るとは無礼にも程が!」
「うるさい! 精霊王だろうがなんだろうが殴るときには殴る!」
ミャウは握った拳を差し上げ、肩をプルプル震わせながら怒鳴り散らした。
相当に腹が立ってる様子である。
因みにゼンカイとヒカルに関しては地面に頭を埋め込まれている。
「まぁ儂らも少し悪乗りがすぎたのう。兎に角! お主たちがあのラムゥールと因縁があるのはわかったわい」
「うむ。そうなるとやはり――」
フレイムロードがそういうと、再び四人が一つに固まりだし、ごにょごにょと何かを話しだす。
「あの娘なら恐らく」
「儂も良いと思うぞ。それに武――」
「妾も依存はありません」
「私は寧ろ大歓迎! 猫耳とか最高だしぐふふぅ」
ミャウはとりあえず、アクアクィーンの言ってることだけに不安を覚えた。
「よし! 決めたぞ!」
「え? 決めたって?」
ミャウを振り返り叫び上げたフレイムロードに、ミャウが問いかける。
「決まっておる! 我ら四人! 貴様に手を貸してやろうというのだ!」
「…………いえ結構です」
「「「「えええええぇえええ!」」」」
精霊王全員が突っ込みに近い声を上げた。
「お主! ここはありがたくお受けいたします――じゃろうが普通は!」
「いや、寧ろ今の流れでよく私が受けると思ったわね」
指をつきつけながら喚くエンペラーアースに、ジト目で言い返すミャウ。
やはり先程の仕打ちに大分腹が立ってるのだろう。
「てか、そもそも協力するって何をどうするつもりなわけ?」
どこか疑るような表情でミャウは問いかける。腕を組み、当然だが既に精霊王を敬うという気持ちはどこか遠くへ消え去っている様子だ。
「それは、私達は既に力の殆どを失っているからね、だから私の場合はこの触手で貴方をたっぷりと楽しませて」
「断固お断りいたします」
ミャウもすっかりけんもほろろな態度である。
「ウィンドお前はちょっと黙ってろ。まぁ兎に角だ、我々の力が大分失われてるのは事実でな。このままだと正直いつ消えてしまっても可笑しくない」
「フレイムロードが少し偉そうに言ってしまったが、実際のところは儂らを助けてほしいという思いもある」
「そこで、妾達と契約を結び、お主の持つ武器に眷属として宿させて欲しいのだ」
精霊王達の話を聞き、ミャウが鞘から剣を抜き、この武器に? と尋ねる。
「そうだ。我の見立てではその武器はかなりの業物」
「そして強力な魔力も秘めておる」
「随分と手入れも行き届いてるみたいだしね」
「妾達が身を置くにはぴったりというわけである」
ミャウは、そう――といって己のヴァルーンソードと、四体の精霊を交互にみやる。
「この剣に宿れば貴方達の力が戻るの?」
「うむ、すぐに全開とはいかぬが、その剣を媒体に周囲の精霊力を使い力を取り戻すことが出来るはずだ。そうすれば我らの強力な精霊の力をお主が使うことも可能となる」
「正直いえば儂らは悔しいのじゃ。あのラムゥールとかいうものに手も足も出なかったのが」
「貴方についていれば、いずれあいまみえる事もありそうだし」
「妾達に汚名返上の機会を与えて欲しいのだ」
ミャウはそこまで聞くと無言で深く頷き。
「わかったわそれなら私と契約して、いずれラムゥールの奴をぶっ飛ばしてやりましょう!」




