第一九四話 村への招待
「お前らは何者だ! さっさと妹から離れろ!」
抵抗すれば容赦なく撃つ! といった雰囲気を醸し出しながら、エルフの青年が叫んでくる。
その姿に一応は敵ではないという事をアピールするため、一行は両手を上げて無抵抗を決め込んだ。
すると、お兄ちゃん! という一声。声の主は可愛らしいエルフ少女。
「違うの! この人達は私を助けてくれたんだよ!」
「なるほど。確かにこの状況をみるに妹のエリンを助けてくれたというのは本当らしいな」
エルフの少女が兄に一行の事を説明した為、どうやら誤解は解けたようだ。
実際に魔物の死体があったことも彼が納得する手助けとなったのだろう。
「でもわかってもらえて良かったわ」
ミャウが薄い胸を撫で下ろしながらホッとした表情をみせる。
ただ、どういうわけかエルフの青年は彼らと一定の距離を保ったまま仏頂面を続けている。
そして冒険者全員を値踏みするようにジロジロとみやりだした。
「なんか感じ悪いのう」
ゼンカイの呟きにミャウがシッ! と人差し指を立てる。
「エリン。こっちへ」
え? と呼ばれた少女が小首を傾げた。
「だからこっちへ」
更に青年が手招きするがエリンは応じない。
「あの、もしかしてまだ信用してもらえてなかったりするのかな?」
ミャウが笑顔を貼り付けながら一歩近づこうとしたその時。
「寄るな! それ以上私に近づくな!」
エルフの青年が開いた右手を前に突き出し、制止の言葉を発する。
それに、え? とミャウが固まり。
「貴様らは大陸の人間だろ? だから寄るな! 人間菌が伝染る!」
酷い拒否感も感じられる青年の言葉に、はぁ? とミャウが顔を歪め。
「人間菌って……」「何言ってるのこいつ?」
双子の兄弟も不機嫌を露わにして声に出す。
「ふん。我々エルフ族の間では有名な話だ。大陸の人間に近づくと人間菌を伝染され、欲にまみれ年中交尾のことしか考えない欲深で愚かな生物に成り果てるとな!」
「どんな噂されてるのよそれ!」
「ミャウちゃんや人の噂も365日というのじゃよ」
「お爺ちゃん意味とか色々間違ってるから!」
「あ、あのごめんなさい! お兄ちゃんが失礼なことばかりいってごめんなさい! ごめんなさい!」
エリンが頭を何度も下げて必死に謝ってくる。
ゼンカイはこの娘と最初にあっていてよかったと薄く微笑んだ。
もし最初にあっていたのがこのお兄ちゃんの方であったならエルフに対するイメージは相当悪かったであろう。
「エリンそんな奴らに謝る必要はない。それにはやくこっちに来なさい。人間菌が伝染る」
「……さっきから聞いてると」「流石にそれは失礼じゃないかな?」
双子の兄弟も流石に黙っていられないのか、明らかな不機嫌を言葉にのせて言い放つ。
「ふんお前たち大陸の人間が汚れているのは確かだろ? その目をみてれば判る」
「何をいうんだい! 僕なんかさっきからエリンちゃんの事を目で愛でてるだけで、変なことなんか思ってないぞ!」
「ヒカルちょっと黙っててややこしくなる」
背後のヒカルに振り返ることなく、半目でミャウが注意する。
こと可愛らしい女の子に関しては彼はゼンカイよりも厄介である。
「もういい加減にしてお兄ちゃん! この方たちは私を助けてくれたのよ!」
エリンが兄を叱咤するように叫んだ。
すると青年は腕を組み、うむ、と唸る。
「確かにこの連中がお前を助けてくれたのは間違いがない。しかも相手はボークビッツ」
「こいつらボークビッツっていうんだ……」
「意外と可愛らしい名前だったのじゃのう」
「この魔物は獰猛で攻撃的だ。もしお前たちの助けがなかったら妹は酷い目にあっていたかもしれない」
「よかったやっと判ってくれたのね」
ミャウはホッとしたように頬を緩める。
「だが! それでも私の半径3メートル以内に近づかれるのは不快だ! ご遠慮願おう!」
「あんたなんかむかつくわね!」
言下にミャウが叫んだ、当然だろう。
「お主なんでそんなに我々を毛嫌いするのじゃ?」
「そうですよお兄ちゃん。ほらミャウさんなんてこんなに素敵な耳――」
エリンはミャウの猫耳を見上げながら瞳をキラキラさせている。どうやらかなり気に入ってるようだ。
「駄目だエリン、そんなものを見ては! 伝染る!」
「伝染らないわよ!」
ミャウがその猫耳を立てて怒鳴った。先程からミャウは声を張り上げっぱなしである。
「私、別に伝染ってもいいもん!」
エリンが反論する。ミャウが戸惑う。
「くっ、エリンなんて事を――それの恐ろしさを知らないのか」
「何をいうとるんじゃ? 猫耳は全然恐ろしくないぞい寧ろ愛らしいのじゃ」
ゼンカイが諭すように述べるが、青年はふんっ、と鼻を鳴らし。
「私が何も知らないと思ってるだろ? いいかエリン。その猫耳を持つような女は夜な夜な繁華街に繰り出しては道行く男性に、休憩代込みで1時間20,000エンでどう? 等と聞いてくる連中なんだ! 汚れきってるんだ!」
「どうでもいいがお主詳しいのう」
「生々しすぎだよ」「正直キモいよね」
皆が呆れたような言葉を口にし、妹のエリンに至っては汚物を見るような目を兄に向けている。
「ち、違うぞエリン! 私はあくまでそういう話を聞いたというだけで――」
「でもお兄ちゃん、年に数回村のみんなに頼まれて大陸に買い出しにいってるじゃない」
「そ、それはあくまで皆が人間菌に伝染らなようにと私が身を切ってだな!」
「てかあんだけ散々いっといてあんたが買い出しに言ってんのかい!」
ミャウの怒涛のツッコミは一瞬にして森中を駆け抜けたという――。
「とにかく折角助けてくれたのですし、ここは村に来て頂いて長老からもお礼を言ってもらわないと」
一旦話が落ち着いたとこでエリンが兄に提案する。
だが肝心の兄は気が進まない様子だ。
「村に人間菌を持ち込んで感染でもしたら偉いことだろ」
「だからその人間菌って何よ。そんなもの持ってないわよ」
ミャウがジト目で突っ込む。が、その後エリンの方に向き直り。
「でもごめんねエリンちゃん。折角そういってくれるのは有難いのだけど、私達もやらないといけないことがあって」
「え? 何かご用事が?」
「そうだよ」「とりあえず」「精霊神の神殿を」「見つけないとね」
ウンジュとウンシルがリズミカルに発言すると、少女の耳がぴくぴくと動き。
「精霊神の神殿ですか! それでしたら是非こそ村に! 神殿のことなら長老がよく知ってますので」
え? とミャウの耳もピクリと動き、双子の兄弟もその話に食いつく。
「エリン。その事はあまり外の連中に話しては――」
「別にいいじゃないですか。折角こうやって助けてくれたわけですし。それより早く皆さんと村に戻りましょうよ」
エリンは割りと強引に兄の手をとり、さぁ皆さんこっちです、と一行を促した。
エルフの青年も不承不承という感じではあるが、仕方がないと諦めた様子で先を歩き出す。
「ほら来るならさっさと来い。但し半径3メートル以内には――」
「はいはい判ったわよ」
ミャウは彼の言葉を軽くあしらいながらも、皆と一緒にその後を追いシルフィー村に向け歩き出したのだった――。




