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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第五章 ゼンカイの入れ歯編
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第一八九話 試練を終えて

 激しく顔面を打ち付ける雨弾の感触に、ゼンカイが眼を開け背中を起こした。


「お爺ちゃんも」「気がついたね」


 双子の声が雨と一緒になって降り注ぐ。ゼンカイの左右に彼らは立っていた。

 その姿を交互に眺め、ゼンカイはやれやれとため息をつく。


「わしまけてしもうたか」


 今回気を失っていた時間はそう長くもない。直前の記憶もはっきりしていて、改めて負けた事実を実感する。


(それにしても最近わしは気絶してばっかりじゃのう)


 そんな事を思いながらポリポリと濡れた後頭部を掻いていると、

「まぁ僕達も」「あっさりやられちゃったんだけどね」

とぎこちない笑顔を浮かべて口にする。


「てかこの雨いつになったら止むんだよ~。本当服もビショビショだし風邪引いちゃうよ!」


 甲板に尻を船縁には背を付けながら、ヒカルがうんざりだという表情で叫ぶ。

 あいかわらず堪え性がない様子だ。


「まぁまだミャウちゃんが」「戦ってるしね」


 そんな中、双子の返しに、おお! そうか! と改めてゼンカイも戦いの様子に目を向けた。





「へぇ、随分とこのじゃじゃ馬を乗りこなせるようになったじゃねぇか」


 顎を人差し指でなぞるように擦り、ガリマーが関心したように告げる。


 その見上げた視線の先では、空中を踊るように駆けるミャウの姿。


「伊達に鍛えたわけじゃないわよ!」

 

 雨まじりの風の猛獣が、容赦なくその牙をミャウに突き立てようと四方八方から迫り来るが、ミャウはその風を見事に手懐け、完全に自分の下僕と変えていた。


 以前のように暴風に戸惑い振り下ろされる事もない。寧ろ風を見極め完璧に乗りこなし、その動きを速めていく。


 雨は髪を濡らし、肌を水が滴るが、優雅にも見える彼女の所作で、妙な色香さえも感じさせた。


「なるほどな。随分とそそらせるようになったじゃねぇか! 結構結構! おかげで俺もより滾る!」


「なんかエロいこと考えておらんか? あのジジィは」


 ニヤリと口角を吊り上げるガリマーの姿に、ゼンカイは若干の不安を覚えたようだ。


「さぁ! 魅せるわよ! 【ウィンドラッシュ】!」


 風の力をその身に受け、ミャウの加速が頂点に達したその時、彼女のスキルが発動。

 

 刹那――風と一体化したその身がガリマーに向け空中から滑翔し銀閃が跡を残す。


 その強襲は既のところで彼に躱されてしまったが、ミャウの動きは止まらない。

 纏った暴風のようにその動きは激しさをます。


 荒れ狂う嵐の如き疾走。船上を縦横無尽に駆けまわり、次々と標的に斬撃を繰り返す。


「むぅ! まるでガリマーの回りを風が吹き抜けてるようにしかみえないのじゃ!」


 そう今のミャウの姿はまさしく風そのもの。動き続ける彼女の靭やかな肢体を、捉えきれるものなどそうはいないだろう――ガリマーを覗いては。


「そこだ!」

 

 言ってガリマーがある一点を指さした。その瞬間空が光り、激しい轟音と共に船上に巨大な雷が落ちる。


「きゃぁああぁあ!」


 雷槌が甲板に突き立てられ、ミャウの悲鳴が後を継いだ。


 その細身が浮き上がり、身体中に電撃を迸らせながらそのまま落下し甲板に叩きつけられる。


「ミャウちゃん!」


 ゼンカイが慌てた様子で駆け寄り、横向きに倒れてるミャウの姿を覗き見る。


 う、うぅん、という呻き声。猫耳はピンっと立ち毛も見事に逆立っているが、意識はありそうだ。


「大丈夫かのう?」


「う、うんなんとか――」


 心配ないよとその瞳で告げ、ミャウがゆっくりと身体を起こす。


「ふん! 風じゃ雷には勝てなかったみたいだな!」


 太い腕を組み、胸を張りながらガリマーが言い放つ。


 その姿に悔しそうにミャウが肩を落とした。


「結局私も倒せなかったわね――」


「ふん! 当然だ! てめぇらみたいなひよっこにまだまだ俺が負けるかよ!」


 鼻を鳴らし得意気に口にするガリマー。だがその直後、だがな、と付け足し。


「どうやら無傷ってわけにもいかなかったみたいだな」


 そういい、己の身体を改めてみる。確かにミャウの攻撃も何発かは喰らっているようだ。


「ふむ、前は全く手応えが感じられなかったがな、流石にあいつらに鍛えられりゃ全員少しはマシにもなるか。まぁこれなら島にいっても問題ねぇだろ」


 その言葉に一行が、え!? と同時に叫んだ。


「合格だ! ドラゴエレメンタスには連れて行ってやるよ」


 ガリマーが大きな声で叫びあげると、ゼンカイとミャウ、そしてウンジュとウンシルがお互いに顔を見合わせ。


「やったあぁあああああ!」


 両腕を曇天の空に向かって突き上げ、そして歓喜の声を上げはしゃいでみせた。


「全く。まだ行くって決めただけなのに気のはえぇ奴らだ」


 ガリマーは喜びまくっている冒険者達を眺めながら、後頭部を擦り、眉を落とす。


「まぁいい。よっし! それじゃあそうと決まったらさっさと向かうぞ! てめぇらも準備を手伝え!」


 ガリマーが一行に向け命じるように告げる。

 すると全員の動きがピタリと止まり、え? と疑問の眼を彼に向けた。


「さっさと向かうって――」

「これからかのう?」

「まさかこのまま」「出発するつもり?」


「当然だ! でねぇと目的のものなんて手に入らねぇぞ! おらさっさと帆の向きを変えろ! ぐずぐずするな!」


 鬼船長の激に、は、はいぃ! と思わず一行も返事をし、慌ただしく動き始め。


「ま、マジですか?」


 ヒカルはひとり唖然と立ち尽くす。


「おい! 肉団子! てめぇもさっさと動け!」


「ひ、ひぃいいぃいい!」


 こうして慌ただしさを増す中、船はドラゴエレメンタスに向けて航路を取り始めたのであった――。





「疲れたぁあぁあ」


 ヒカルが甲板の上にへたり込み、情けない声を上げた。

 船の上では客扱いしねぇ! という宣言通り。今さっきまで彼らはガリマーに働かされ続けたのである。


 とはいえ、その中でもやはりヒカルが一番疲弊してしまってるようだが。


「あ~ん、こんなことなら着替え準備してくるんだったーーーー!」


 そんな中、舷に立ったミャウが青空に向かって後悔の叫びを上げる。


 先ほどまでとは打って変わって嵐もやみ、中天には眩いばかりの太陽が船を見下ろしている。

 当然これはガリマーがスキルを解いた為であるが。


「確かにわしも何ももってきてないのう」

「正直いうと」「僕達もそうだね」


「ねぇ船長着替えとかないかなぁ?」


 ミャウは少しだけ甘えた声で、舵をとっているガリマーに話しかける。


「甘ったれてんじゃねぇ! 着替えぐらい自分でなんとかしろ!」


 しかしそんなミャウの願い虚しく、あっさりと否定された。


「自分でっていってもそもそも着替えがないし」


「ふん、海の上じゃそんなの自分で何とかするんだよ。洗濯もな。第一雨に濡れて汚れもとれただろ。太陽も出てる。脱いでそのへんで干しときゃ乾く!」


「いや……脱いでって下着もびしょびしょなんだけど――」


「それがどうした? 天気もいい。別にちょっとぐらい裸になっててもなんてことはねぇだろ」


「あるわよ! 私女よ!」


 思わずミャウの語気も強くなる。


「まぁまぁミャウちゃん」「郷に入っては郷に従えっていうしね」


「そうじゃぞ。わしらも一緒に裸になれば何も気にすることはないじゃろう」


「そうそう。それに濡れたままだと風邪をひくかもしれないしねぇ」


 ミャウが彼らを見回す。全員総じて頬が垂れ、明らかに下心見え見えの緩んだ笑みを覗かせていた。


「こんな中で裸になるなんて絶対に嫌!」


「おい嬢ちゃん船の上じゃ男も女も――」


「関係有るわよ! あるに決まってるでしょ!」


 流石のミャウもこればかりは譲れない。ガリマーの言葉を待たずに、絶対に譲れないと訴える。


 するとガリマーも一つ息を吐き出し、舵を取る手を一旦離して船橋から甲板に降り船内に引っ込んでいった。


「あれれ? もしかして怒らせちゃったんじゃない?」


 ヒカルが意地悪な目で口にし、ミャウが眉を落とす。


「そんなこと言われたって――」


 ミャウが困った顔でそう呟く。

 すると背後から、おい! と声が掛かり、ミャウが振り返るとバサバサと真っ白い布が飛んできてミャウを頭から包み込む。


「え? これって?」


 ミャウはその厚めの布をずらし、目の前に立つ船長の姿をみゃった。


「それは帆で使ってたもんの余りだ。それ使えば身体ぐらい隠せるだろ」


 言ってガリマーは再び船橋に戻り舵を取った。


 そんな彼に、あ、ありがとうございます! と素直にお礼を述べるミャウ。

 

 なんだかんだでいいとこあるな、と見なおした様子であった。


 が、ミャウ以外の男連中はとても残念そうな顔をしていたという――。

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