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第十八話 新聞紙逆から呼んでも新聞紙

 ミャウの話をひと通り聞いたテンラクは、成る程ねぇ、と一人納得したように頷いた。


「それで依頼達成にも関わらず、表情が浮かなかったんだね」


 胸中お見通しといったテンラクの言葉に、ミャウは肩をすくめ眉を広げる。


「だって冗談じゃ無いわよ。あそこで横取りされなければお爺ちゃんのレベルも今の倍ぐらいまでは上げれたと思うし」


「まぁ確かにそうかも知れないけどね。しかし、あそこにユニークが出るとはねぇ。初めてじゃないかな? 今度から依頼の注意点としても明記しておかないとねぇ」


 そう言ってはいるが、ニコニコしてる感じから見るに、それほど深刻そうではない。


「ところで、結局レベルはいくつまで上がったのですか?」


「レベル3まで上がったぞい」

 その問いにはゼンカイが応えた。

 エッヘンっと胸を張って得意げである。


「あそこの洞窟でそれなら十分じゃないかな。確かにユニークは残念だったかもしれないけど、まぁそれは偶然の産物みたいなものだしね」

 

 テンラクの意見に、まぁそうなんだけど、とやはりどこか不満そうな口ぶりを見せる。


「でもやっぱり素性の判らない奴等に横から奪われるのは尺よね。どれだけ追いかけようと思ったか……ちょっと不気味だし何かされても嫌だからやめたけど」


「な、何かって何じゃろ?」

 ちょっとドキドキしてる感じに呟くゼンカイ。一体何を想像してるのやら。


「う~ん何も無いとは思うけどねぇ。彼、正規の冒険者だし」


 え!? とミャウが素っ頓狂な声を上げテンラクを問い質す。


「テンラクさんそいつの事知ってるの!?」


「あぁ。こんな頭した男と小さな女の子でしょう?」

 テンラクは自分の頭の上で、彼の髪型を身振り手振りで表現しながら応える。


「名前はプルーム・ヘッド。ここの登録者ではないけど、れっきとした正規冒険者だよ」


 テンラクがそう説明すると、ミャウは興奮気味にカウンターに両手を乗せ身を乗り出す。


「本当なの? 正規って……パッと見た感じではあるけどあの男の身のこなしはシーフ特有のものよ。それなのに正規・・だなんて」


 突っかかるように顔を近づけるミャウから上半身を少し反らせ、テンラクは苦笑いを浮かべる。


「シープが何か行けないのかのう? かっこいいじゃろシープ」

 微妙に言い間違えているがゼンカイはゲーム等のシーフを思い浮かべているようだ。


「シーフが格好いいわけ無いじゃない。ようは泥棒よ。最近はここ王都でも被害でてるって話だからね」


 ミャウの話では冒険者として登録するような職業ジョブを表とすると、シーフやローグといった類は裏にあたるらしく通常は冒険者ギルドなどではなく、シーフギルドや闇ギルドといったところに登録するらしい。


「でもミャウちゃんの言ってることはあながち間違ってるわけではないんだよ。彼は今でこそ正規冒険者として登録してるけど、一次職はシーフだし、盗賊ギルドにも所属していたみたいだしね」


 テンラクの回答に彼女の猫耳がぴくぴくと震える。


「そんな裏ギルドに所属してたような男が冒険者ギルドに登録なんて出来るの? 犯罪者は正規ギルドに属せない筈でしょう?」


 ちなみにここで言う正規ギルドというのは、冒険者ギルドや魔術師ギルドのように王国内で公に認められてる物の事をあらわす。


「それが彼は確かに盗賊ギルド出身だけど、犯罪履歴は一切なくてね。その上で二次職は神殿で契約し、今のジョブはハンターなんだよ。だからこそ冒険者ギルドに所属できたんだろうけどね。かなり珍しいパターンではあるけど」


「元がシーフって事はここや周辺の生まれじゃないわよね?」


「あぁ。何というかどうも出身地は西の『アルカトライズ』なんだよ。あそこの生まれはそのまま裏の職に属するのが大半なのに、全くもって珍しいよね」

 

 テンラクは楽しそうに笑うが、ミャウは顔を眇める。


「そんな顔しないしない。どっちにしても今回の事は規則上は問題ないしね。まぁしてやられたってところかな」


 ミャウはむぅうう、と腕を組み唸る。


「のう。のう」

 会話が一旦途切れたところでゼンカイがテンラクを見上げた。


「その盗賊ギルドとかにあの子もいたのかいのう?」

 あの子と言ってゼンカイが思い浮かべたのは、ヨイと呼ばれてた幼女の事であろう。


「いや。彼女はゼンカイさんと同じで最近やってきたトリッパーの子だね。彼女は丁度君たちが出て行った後に、ヘッドに連れられてここに登録に来たんだよ」


 テンラクの回答にほっとした表情を浮かべ、

「やっぱりのう。あんな可愛らしい子が罪など犯すわけないからのう」

と一人納得したように頷く。


「そういえば二人もあの依頼書の事は知っていて、元々はそれを受けるつもりだったらしいんだよ。ヘッドはともかくオオイ・ヨイちゃんという女の子はまだレベルも低かったからねぇ」


 そう言った後テンラクがミャウを指さし。


「つまり考えてることは君たちと一緒だったってわけだ」


 指を戻し腕組みし豪快に笑う。

 しかしミャウはやはりどこか釈然としない面持ちだ。


「のう。のう」

 再びテンラクが何かを聞きたげに言う。


「何だいゼンカイさん?」


「さっき読んでたのは何じゃ?」

 ゼンカイの問いかけに、これかい? と言ってテンラクが紙面を見せる。


 ゼンカイはコクリと顎を引いた。


「これは新聞だよ。確か君たちのいた世界にもあったんじゃ無かったかな?」


 彼等もニホンについてはトリッパーからよく話を聞いてるようだ。


「おお! 新聞か!」

 言ってぴょんぴょんと手を伸ばしながら跳ねてみるが全く届かない。


「のう」

 ミャウのスカートの裾を軽く引き、ゼンカイが声を掛ける。


「何?」

 猫耳を軽く左右に広げながら、ミャウが問い返す。


「抱いて」

「はったおすわよ」


 言下に握りこぶしを見せつけるミャウにゼンカイは、

「違うんじゃ! 違うんじゃ!」

と訴え。


「届かないんじゃ。届かないんじゃ」

と腕を振る。


 その身振りでミャウも察したのか、はぁ、と一つ息を吐き。


 しょうがないわね、とゼンカイを抱きかかえカウンターに向けた。


「それ読んでもいいかのう?」


「え? あぁどうぞどうぞ」

 言ってテンラクが新聞をカウンターに乗せた。


 紙面の上部にはネンキン新聞と明記されていた。

 その新聞をゼンカイはぺらぺらと捲っていく。


 しかしこの爺さん、生前は全く新聞に等興味もなかった筈だが一体どういう風の吹き回しか。


「ゼンカイさん読むの早いね」

 テンラクが感心したように言った。

 確かにゼンカイのめくりは早い。

 もしかしたら元々文字を読むのが早いのかもしれない。


 だがだとするなら知力がゴブリン以下というのは疑問が残る。

 ここは是が非でも正して貰う必要があるだろう。


「ふぅ……」

 ゼンカイが憂いの表情で溜息をついた。

 もしかしたら新聞に何か悲しいことが書いていたのかもしれない。


 だとしたらこのゼンカイ。なんと感受性の豊かなこ――。


「エッチなページが無いのう……」

とは無かった。全くそんな筈が無かった。

 当たり前である。そもそもゼンカイが新聞そのものに興味を持つわけがないのだ。

 そう、彼はいつだって夢の楽園と秘密の花園を追い求める探求者。


 その意志は揺るぎないこと山のごとしである。


「そ、それは流石に載ってないねぇ」

 若干表情を引く付かせながら応えるテンラクと、嘆息を一つ付くミャウ。


 だがミャウに関しては予想通りといった目つきで、抱きかかえたテンラクを見下ろしている。


「つまらんのう」

 

 心底残念そうなゼンカイを他所にミャウは別の話をテンラクに振る。


「今日は何か面白いこと書いてあった?」


「そうだね。東の都市から出てる船が海賊の被害にあってるみたいだ。それとさっきもミャウが言ってたように最近は金銭を何時の間にか盗られてるって事件が相次いてるみたいだね」


「それってシーフやローグが紛れてるって事?」

 ミャウの再度の問いかけにテンラクは首を捻り、

「どうだろうね。知ってると思うけど王都の入り口はどこもジョブのチェックが行われているから、簡単には侵入できない筈だけどねぇ」

と返した。

 

 テンラクの言うとおり王都は城壁で囲まれた街である。

 街から出るにしても入るにしても北門か南門のどちらかを通ることになり、そこには常時門番が二人張り付いていて、人の出入りを監視している。


 基本的に一般人であれば街の出入りに制限を受けることは無いが、二人が話していたシーフやローグ等といったジョブに就いていると門に仕掛けられた魔道具が反応するため、門番のチェックを受けるのだ。


 因みに例えシーフやローグ等といったジョブの者でも、犯罪履歴が無ければ一応は街なかにも入ることが出来る。

 但しその場合は当然街の警備兵による監視の目も厳しくなる上、何か問題が起きれば真っ先に疑われる可能性が高い。


「泥棒さんも大変じゃのう」

 ひと通り話を聞いていたゼンカイだがその口調はのんびりしている。


「あのね。冒険者になったんだからこういうのも他人事じゃないのよ。場合によってはこういう事件も依頼に繋がるんだから」


「まぁ確かにねぇ。この海賊騒ぎなんかも今後の状態によっては声が掛かるかもしれない。それなりのレベルは求められるだろうけどね」


「やっぱりあれかのう? 依頼によってはランクが高くないと駄目なのかのう?」

 ゼンカイの口調はそれが当たり前と言わんばかりのものだが、ランク? とミャウとテンラクが同時に発する。


「あるんじゃろ? ランク?」


「テンラクさん。ちゃんとお爺ちゃんに説明してくれた?」


「いやぁ一応はしたつもりだったんだけどねぇ」


 テンラクは苦笑いを浮かべ後頭部を掻いた。

 どうやらゼンカイは勘違い、というか飛んだ思い込みをしてるらしい。


 仕方がないのでと、ミャウとテンラクは物分かりの悪い爺さんに出来るだけ噛み砕いて説明した。

 

 対象の年齢を、相当引き下げたつもりで行われたような説明であった。

 そして、その話によって判明したのはランクというものは存在しないこと。


 但し依頼によっては条件が付くことがあり、その条件がジョブだったりレベルだったりすることがあること。


 そしてダンジョンの中には推奨レベルという物が存在してること。

 これはレベルが達してなくても挑戦は可能だか命の保証は出来ないという事のようだ。


 ゼンカイに改めて説明を終え、更に軽い雑談を交わしているとすっかり時間が過ぎてしまっていた。


 テンラクの話ではそろそろギルドも閉める時刻らしい。


 流石にあまり長居するのも気が引けると、ミャウとゼンカイの二人は、きりのいいところで暇を告げ、部屋を後にするのだった。

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