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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第五章 ゼンカイの入れ歯編
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第一七七話 深く深く……

 ガイルが断念したという八層までやってきたふたりであったが、より深い層に足を踏み入れるたびに、ミルクにもそのわけが如実に理解できるようになってきていた。


「深くなるごとに、アルコール濃度が大分こくなってきたね――」


 そう、ここバッカスの迷宮はより深い層に行くほど大気中に含まれるアルコール分が高くなっているのである。

 恐らく最初の一層では精々1%か2%程度だったのが、ここ八層では40%は軽く超えているだろう。


 しかもこの現象はただ匂いがキツくなるというだけではなく、冒険者の体にも支障をきたすようにできている。


 どうやらこの大気中に充満しているアルコールは、毛穴を通して体内に取り込まれているようであった。


 その為、ミルクも平然な顔はしているが、ひとりごとのように、

「酒が回ってなかなかいい気分だね」

と呟いていたりもする。


 とはいえ、ミルクはロックに言われるがまま、町の連中と酒飲み勝負に興じていたのは無駄ではなかったと感じ始めてもいるようであった。


 ロックは最初からこのことも計算していたのだろう。


 今のミルクからしたら確かに酔いは回ってはいるが、それが探索に直接影響を及ぼすことはない。

 実際ここに至るまでに相当数の魔物を刈ってもいるが、たとえ酔っていても平常時と全く変わらない動きを見せ、ふたりに牙を向けた相手を次々と薙ぎ倒していったのだ。


 以前であれば酔って我を忘れることも多々あった為、それを考えれば大した進歩である。


 一方タンショウも今のところ全く変わりない動きをみせている。


 彼に関しては酒に弱いという部分は特に変わりはないのだが、元々もっているチートの効果が大きいため、比較的影響は受けにくい。


 あらゆる攻撃効果を95%カットするチートは、直接摂取した場合などは効果がないが、大気中のアルコールに関してはしっかり効果分吸収を防いでくれているようなのである。


 とはいえどうしても呼吸はしてしまうため、そこから取り入れた分は処理しきれない。


 その為、ガーディアンになったことで得られた状態異常の効果半減のスキルも併用している。


 師匠から譲り受けたイージスの盾の恩恵も大きい。ユニーク装備であるこの盾にはあらゆる属性の攻撃から身を守り、状態異常の効果も二割減となる優れものだ。


 勿論それを左右の手にふたつ持つことでその効果も上がっている。


 これらの要素が重なることで、酒に強くないタンショウでもミルクと共に迷宮を潜ることができている。


「それにしても、視界が悪くなってきてるほうがどっちかというと厄介かもね」


 迷宮内はより深層へと足を進めるにつれ、アルコール濃度が高くなった影響なのか、靄のようなものも発生してきている。

 

 ふたりの頭上では魔道具が回り続けあたりを照らし続けてくれているが、この靄の中ではその光の効果も完全には及ばない。


「まぁ文句を言っても仕方ないけどね」


 やれやれと首を竦めながらミルクが先を急ぎ、タンショウが後を追う。


 その時だ、キシャァアア――、という不気味な響きがふたりの耳に届いた。


 ミルクとタンショウは即座に脚を止め、身構えてあたりを見回す。

 しかし視界を遮る靄のせいで、はっきりとした位置はつかめない。


 だが声はミルクよりも下。床側の方から聞こえてきているようである。


 そして声は段々とその数を増していく。合唱のように響き渡る鳴き声に、ミルクはあからさまな不快な色を滲ませた。


「声はこっちの方だね。だったらアナライズ!」

 

 指輪を向け敵の鑑定を行う。


「レベル43のテキーラリザート? 肉肌が柔くて美味しい。その肌から滲み出る体液は上等なテキー――へぇ……」


 ミルクはその情報を得て怯むどころか口角を緩め、更に口元を腕で拭ってみせる。先ほどの不快さが嘘のようだ。


「タンショウ。丁度腹も減ってきてたし、良い材料――みっけたよ!」


 


 

「うん、この肉は生でもまぁまぁいけるな」


 片付けたテキーラリザートの肉を頬張りながらミルクが舌鼓を打つ。

 ふたりは通路の途中で見つけた比較的広めの空間で、一旦休息を取っていた。


 結局現れたテキーラリザートの数は全部で五体であった。勿論一体も取り逃がすことなく倒すことに成功している。


 結局ただの餌と化したこの魔物は、見た目はトカゲといってもかなり巨体で丸々と太っているので相当に食べごたえがある。


 ふたりで食す分には十分すぎるといえるだろう。

 ただ本当は火を通したいところではあるが、濃度の高いアルコールに包まれたこの状況では火を起こすわけにもいかない。


 タンショウも通路の壁によりかかって生肉に歯を食い込ませている。


 ただ肉に含まれてるアルコール分も多いため、比較的アルコール部分の少ない箇所だけを選んで食べている。


 いくらスキルの効果があるとはいえ、大量に摂取すると影響が出ないとは限らないからだ。


「ふぅ食った食った。それにしてもこの肉だけで水分もとれるとはね。見た目はともかく食べる分には優れものだね」


 お腹を擦りながら満たされた表情でミルクがいう。

 

 それをみながら、タンショウが水分といっても酒ですが! とジェスチャーで突っ込んだ。


 だがミルクからしたら酒も水も大してかわらない。


「さて、一息ついたらいくよ。この八層も大した事なさそうだしね」


 暫しの休息も終え、ふたりは再び立ち上がり更に奥へと進んでいく。

 途中の魔物も難なく片付け、更に下へ下へと迷宮を踏破していった。


 そして――いよいよ十二層。ここまでくると大気中のアルコール濃度も100%近くなり、例え手練の冒険者といえど、少し歩くだけで毛穴から染み込んでいくアルコールの影響でフラフラになることだろう。


 その上、魔物の力もこの辺りからは軽くレベル50を超える。


 ふたりもここにくるまえに更なるレベルアップを重ねてはいるが、それでもここまでくると、一瞬足りとも油断できない状態が続くようになる。


 特に靄が更に濃くなっているのが厄介でもあった。魔道具の力を利用しても視界はあのダークエルフのいた迷いの森なみに狭い。


「チッ! ショットガンナーかい! 厄介だね!」


 ショットガンナーは見た目が琥珀色の毛並みをもったゴリラといった感じの魔物である。

 その背中からは蝙蝠のような飛膜も生やしていて自由に飛び回ることも可能だ。


 特徴的なのはその両手で、人と同じく十本はえた指には先端がなく、筒のように抉られた形状をしている。


 そしてこの魔物はそれぞれの指から魔法の弾丸を発射して攻撃してくるのである。おまけにその弾丸は発射直後に細かく分裂し効果範囲を広げる。


 その魔物がいままさに空中からふたりを狙い撃ちにしているのである。

 どうやらここは通路の中でも天井が高い位置にあたる場所のようだ。


「チッ! 視界の外からネチっこいね!」


 弾丸の雨を浴びながら、忌々しげにミルクが口元を歪ませる。

 ここに来て視界の悪さが影響を及ぼしてるのだ。


 だが蝙蝠の性質ももっているらしいショットガンナーは、この靄の中でも的確にふたりを狙い撃ちしてくる。


「チッ!」

 

 二体の攻撃をすでにミルクは何発か被弾してしまっている。

 とはいえダメージ自体はそこまで大きいものではない。


 ロックに鍛えてもらった成果がでているのだろう。この王国に来たばかりの自分であったなら、この弾丸ひとつ喰らうだけで致命傷になりかねなかったが。


 だが、だからといって防戦一方では何も進展しないのも確かである。

 何か策を興じねばならないだろう。


 と、その時、タンショウがミルクの前に躍り出て手持ちのスキルであるデコイを発動させた。

 

 だがこのスキルはターゲットとなる相手との距離がある程度近くないと意味がない。

 天井近くから射撃を続けている二体には効き目がないはずであるが――。


 しかしその瞬間、タンショウの右足が床にめり込み、石の破砕する音があたりに響いた。

 と、同時に城のような巨体が大きく跳躍した。


「あいつ自分から動いて的になる気だね!」


 ミルクの想像通り、タンショウが天井近くまで跳躍したことで、二体のショットガンナーは一瞬動きをとめ、巨大な的に向かって魔法の弾丸を連写した。


 だがタンショウは両手に持った盾を左右に広げ、元のチートの効果も相まって全くダメージを受けていない。


「動きさえ止まってしまえば音で位置は大体わかんだよ!」


 声を滾らせ、ミルクが両手の得物を目標めがけ投げつけた。大気中のアルコールをかき回すように回転しながら、巨大な斧と槌が淀みなく魔物の身体を一撃のもとに破壊した。


 二体のショットガンナーは絶命の鳴き声を上げ、そして翼の動きもとめ、あっさりと地面に落下した。


 そして魔物の落下とほぼ同時にタンショウも着地する。巨体ゆえが重苦しい音がミルクの耳に響いた。


 ミルクは同じく地面に落ちた二本の武器を拾い上げると、タンショウへと身体を向き直す。


「あんたのスキルも結構役に立つもんだね」


 それはミルクなりの褒め言葉であった。

 タンショウもそれを理解したのか、後頭部を擦りながら若干の照れた笑みを浮かべている。


「ま、だからってあまり調子にのって油断するんじゃないよ」

 

 褒め言葉の中にもひとつ刺を残すのを忘れない。

 そしてミルクは再び先を急ぎだす。


「それにしても臭うね。いい酒の匂いだよ。最深部は――近いかもね!」


 張り切った声を発したミルクの顔には、どこか期待の色が滲んできたのだった。


  

 


 

 


  


 

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