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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第五章 ゼンカイの入れ歯編
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第一七六話 バッカスの迷宮

 入り口から暫く続いている螺旋状の階段を下り、平坦になっている床に脚を付ける。階段はそこで終わっているようで、ふたりの正面には暗い闇が続いていた。


「いよいよだね」


 言ってミルクがアイテムを現出させる。片手ですっぽり収まる程度の青白く光る球だ。

 それを空中に放り投げると更に光は強まった。

 

 そして珠はふたりの頭上を浮遊しながら回り始め、辺りを淡く照らす。


「これで視界は確保できたね。この指輪といい最低限必要なものは用意してくれたってわけかい」


 右手の人差し指に嵌めたリングを眺めながら、ミルクが呟く。


 このふたつはどちらもロックが何かの役にたてばと渡してくれた魔道具である。

 ミルクとタンショウの頭上を回り、光源を提供してくれているのはライトサークルボール、指に嵌めているのはアライズリングである。


 その中でもライトサークルボールは早速役に立ってくれた魔道具といえよう。

 お互い戦士系といえるふたりは、松明やランタンなどを持っていては戦うときに不便な部分が大きい。


 特にこのふたりは揃って両手持ちで戦うスタイルを取ってるだけに殊更である。

 だがこのように勝手に動いて照らしてくれるタイプであればその心配もない。


「さてっと――」

 

 ミルクは改めて迷宮の様子を確認する。

 通路の幅は、タンショウとミルクがふたり並んで歩いて少し余裕がある程度のものだ。

 天井に関しては高さは3メートルほどか。

 

 通路内は壁や床、天井に至るまですべて石造りの物であり、壁は長方形の石材が互い違いに積み上げられている形である。


 それを確認したふたりは、入り口から迷宮内をひた進む。

 とりあえずこれといった勾配もなく、平坦な道が続いた。


 タンショウが喋れないというのもあって特に会話もないふたりだが、途中、酒臭いね、それに少し蒸し暑いかも、とミルクが誰にともなくもらした。


 タンショウも同意するように頷く。確かに迷宮内は蒸し暑く、アルコールの匂いも充満していた。

 迷宮に入る直前、ガイルが酔うのが厄介といっていたが、この匂いによる影響をいっていたのかもしれない。


「ふん、なるほどね。でもこの程度じゃあたしは平気だよ」


 鼻を鳴らし強気な発言をしたあと、タンショウをみやり、あんたは大丈夫かい? 酒強くないだろ? と尋ねた。


 するとタンショウは力強く頷き、両腕を90度に曲げ、上腕二頭筋を強調した。

 どうやら全然平気であることをアピールしたかったようだが。


「鍛えてくれたのはいいけど、変なことまで教えんなよな……」


 額を押さえげんなりした様子でミルクが呟く。新たな領域に脚を踏みいれたタンショウを、あまり快くは思ってないようだ。


「まぁとにかく、大丈夫なら先を急ぐよ」


 ふたりは引き続き迷宮を突き進む。すると暫く歩いた先で道が二手にわかれていた。

 ひとつは左に進む道で、曲がった先は緩やかな下り坂になっているようだ。

 そしてもう一方のそのまま正面に続く道は変わらず平坦な道が続いている。


「この迷宮は地下へ地下へと進んでいくタイプだから、恐らくこっちだね」


 ミルクは至極単純な考えで、左に続いてる緩やかな下り坂の道を選んだ。

 考えるのがあまり得意ではない彼女らしい選択といえるだろう。


「……タンショウ、ストップだ」


 下り道をある程度進んだところで、ふとミルクが隣を歩くタンショウに注意を促した。

 タンショウはすぐに脚を止め、ミルクの見ている方向に視線を移す。


 彼女の瞳は数メートル先の床に向けられていた。青白い光源に照らされて、はっきりとした形を有していない粘液状の生物が蠢いている。

 

 数は全部で四体。どれも色は白濁色である。


「ちょっと調べてみるかい」


 ミルクは嵌めてある指輪をその生物に向け、精神を集中させる。


 すると空中にソレの情報が出現する。どうやら相手を調べるために使う魔道具だったようだ。


「ドブロクジェル、レベルは32かい。まぁ今のあたしにとっては大したことないねぇ」


 相手の能力を確認し終え、ミルクはその両手に武器を現出させた。

 それに倣うようにタンショウも、アーマードから譲り受けたイージスの盾をふたつ取り出し、両手で持ち構える。


 その瞬間、先手とばかりに二体のジェルが、勢い良く身体をバネのように伸縮させ飛びかかってきた。


 だが、同時にタンショウが前に躍り出て、二体のジェルの軌道上で脚を止めた。

 そして獲物が己の制空圏に入った瞬間、両手の盾で思いっきり挟み込む。


 盾と盾のぶつかり合う鈍い音が迷宮内にこだまし、同時にベチャッという情けない音も僅かに響いた。


 タンショウは、暫く両方の盾を思いっきりプレスさせたあと、その腕を開いた。

 再び、べチャリ、と分散された液状の塊がその床を汚す。


 そして二度と動き出すことはなかった。


「ふ~ん、なるほどね。ちょっとはやるようになったじゃん」


 ミルクはタンショウを軽く褒めつつ、残った二体に目をやった。


「さて、それじゃあ今度はあたしの番だね!」


 眉を引き締め、警戒してるのか仲間がやられてから動こうとしないドブロクジェルに、一気に突進した。


 左右の手に斧と槌を握ったまま、両手を翼のように広げ、来るなら来いといわんばかりに攻めていく。


 すると大きく震えたジェルは、一体ずつ左右に分かれるように飛び跳ね、一旦壁に引っ付いた。


 そして壁にへばり付いたまま、粘体の真ん中が盛り上がり、更に槍のように頭を突起させ向かってくるミルクめがけ、二体同時に先端を伸ばした。


 己の体を槍に見立て、ミルクの肉体を貫くつもりなのだろう。


「そんなんであたしをどうにかできると思ったら大間違いだよ!」


 ミルクは左右の武器を大きく振り上げ、向かってきた槍に向けて力強く振り下ろす。

 その所為で右手側は先端から拳三つ分ほどまでが切断され、左手側はその勢いに逆らえきれず床へと叩きつけられた。


 べチャリという気色悪い音が耳朶を打つ。だが、その程度で死ぬ相手ではない。

 本体を叩かなければ意味が無いのだ。


「やっぱ一体ずつ片すのはめんどいね! タンショウ耳を塞ぎな!」


 恐れを知らない女戦士の命令に、慌ててタンショウが耳を塞いだ。


「【ブレイクハウリング】!」


 ミルクが大きく息を吸い込み、見事に割れた腹筋を大きな窪みが出来るほどまで引っ込めると、直後左右の石壁が激しく振動するほどの叫声を上げた。


 強烈な衝撃波が通路を駆け抜け、その人間離れした音撃によって、壁にへばり付いていたドブロクジェルは二体とも、限界まで膨れ上がった後の水疱の如くパンッ! と破裂し、壁と床を白濁したドロドロの液で汚した。


「ふぅ。まぁレベル32程度が相手じゃこんなもんかな」


 敵の残骸を眺めながら、ミルクが片目を瞑り言い放つ。


 その後ろではタンショウが後頭部を擦りながら、感心したようにその有り様を見回していた。


「さて、それじゃあさっさと進むかなっと。こんなところでボヤボヤしてたら、いつになったら最下層までいけるか判ったもんじゃないよ」


 言ってミルクが通路を歩き出すと、タンショウも慌てて後を追った。


 しかし、その先では直前のミルクのハウリングにより、数多くの魔物が集まってしまっていた。


 あれだけ大きく叫べばそれはそうか、と若干呆れ顔見せるタンショウであったが。


「ま、いっぺんにやってきてもらったほうが手間とらなくていいってことさ」


 あっけらかんと言いのけるミルクに、これだから、と言わんばかりに肩を落とすタンショウ。


 とは言え、この階層の魔物のレベルはどれも30代前半程度であり――当然ふたりにとっては恐れるに足らず。


 百選練磨の豪傑をも思わせる手腕で群がる敵をバッタバッタとなぎ倒し、あっさりと一層を制覇してしまった。


 もちろん途中で宝を見つけることも忘れない。迷宮だけにトラップの仕掛けられたものも多かったが、どれもふたりにダメージを与えるには威力が足りなすぎた。


 つまりは罠の解除などこれっぽっちも考えていないとも言えるが――。


 結局ふたりはその勢いのまま、二層三層と次々と制覇し、そして気づけばガイルが辿り着いたという八層までやってきていたのだった――。

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