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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第五章 ゼンカイの入れ歯編
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第一七五話 迷宮へ――

 ミルクは一旦ロックと共に神殿に立ち寄り、そこでジョブチェンジを行った。


「これで無事ジョブチェンジが完了致しました。しかし四次職とは凄いですね。この町では随分と久しぶりですよ」


「そうなのかい? でもロックはマスタークラスだろ? それにあたしの相棒も同じくマスター級の男から鍛えてもらってるぜ?」


「はは。確かにそうですがおふたりとも四次職は随分前でしたしね。十年ぐらい前でしょうか? そしてそれ以降は貴方以外に誰もいませんでしたから」


 そういうことかい、とミルクが納得を示す。


「どちらにせよ、ミルク様はこれでもう神殿でとれるジョブは完了ですね。次はマスタークラス目指して頑張ってください」


 ありがとう、とミルクは素直にお礼を述べた。確かに神官のいうようにマスタークラスには神殿ではなる事ができない。

 

 というよりも自分で望んでなれるわけでもなく条件も不明だ。何かのタイミングで突然目覚めるのである。単純にレベルが高ければなれるというものでもない。


「ところでジョブはなんだったんだい?」


 ロックの質問にミルクが振り返り、あぁ、と応える。


「セミラミルだね。パワーと体力がかなり上がってる感じだよ」


 なるほどね、とロックがひとつ頷く。


「まぁとりあえず無事転職も済んだしな。それじゃあ迷宮の前にいくとするか~」


 そう言ってロックは踵を返し飄々と歩き出した。ミルクも、それじゃあ、と神官に挨拶しその場をあとにし再びロックの後に付いて歩いた。





 ミルクはロックと共に、迷宮入り口の手前に設けられている木造の小屋の中に来ていた。

 ここには迷宮の入り口を番する守衛が常駐している。


 勿論入り口の前にも番をするものが常に立っているが、迷宮に挑むための書類確認や手続きはこの守衛小屋の中で行っている。


 小屋の中はそれほど広くはなく、壁際にベットが一台と反対側の壁に本棚。

 そして長テーブルが一脚。


 そしてロックは小屋に入ると簡単に守衛と挨拶を済ませ、木製の丸椅子に腰を掛けた。

 ミルクも彼に促された為その隣に並んで座る。


「ほい、これが俺の推薦状。まぁ本人も来てるんだ問題ないだろ?」

 

 言ってロックが机の上に推薦状を置く。それを鋼の鎧を着た五十代ぐらいの男が手に取り、まじまじと眺めた。


「はい。確かに推薦状を頂きました。それにしても迷宮攻略の許可を出したのは半年ぶりですかな?」


 ひと通り内容を確認した守衛が目線を上げ、ロックに向かっていう。


「あぁ。最後に潜ったのはガイルのパーティーだったかな」


 ミルクは何を思い出したように天井を見上げ、

「あの男も迷宮に向かったことがあるのかい」

と意外そうに口にする。


「あぁ。あの時は五人パーティー分のを許可を出したんだったかな。あいつもアレでレベルは45だしな。まぁ無茶はするなって条件で推薦してやった」


「確かあの時は八層まで降りたんでしたかな。まぁ戻ってきた時は随分ボロボロでしたが……ミルク様はレベル55ですからかなりのものですが今回はおひとりで?」


「いやもうひとりアーマードのやつが推薦状持ってやってくるはずだぜ。それが彼女の相棒だ」


 ふむふむ成る程、と守衛が何度か頷いていると、入り口の扉が開く音が聞こえた。


「お、噂をすれば何とやらってね」


 ロックが振り返りミルクもソレに倣う。


「よぉ! もう来てたのかよ! ガッハッハ!」


 そこにぬっと顔を出したのはやたら声のデカイ男であった。何がおかしいのか大口開けて笑い出す。

 

 彼は声もデカイがその体躯も声に恥じない大きさを誇っていた。

 そしてその後ろからはミルクの相棒であるタンショウが姿を見せる。

 

 彼もかなりの巨漢であるせいか、一見するとまる兄弟かと見間違えるほどである。

 

「たく、あい変わらず声がでかいなアーマード」


 するとロックが肩を肩を竦めながらヤレヤレという。


「お前こそ相変わらず軽そうだなロック」


 そういって高台から見下ろすようにアーマードがロックをみやる。

 軽いというのは恐らくはその雰囲気の事について述べてるのだろう。


「それでタンショウ。少しは鍛え上がったのかい?」


 ミルクはタンショウに視線を移し、確認するように尋ねた。

 するとタンショウはひとつ頷き、そしてなぜか筋肉をアピールするポーズを次々と繰り広げていく。


「ガッハッハ! ねぇちゃん安心しな! この通りしっかりこのアーマードが鍛えなおしてやったからなガッハッハ!」


 腕を組み高笑いを決めるアーマード。その顔とタンショウを交互にみやりながら、冷ややかな表情を見せるミルク。

 


「しっかしこいつ本当にひとことも喋らねぇんだなガッハッハ!」


「お前とは相当に対照的だけどな」


 ロックは右手を差し上げながらそう告げ、眉を広げる。


「全くだ! だからつい筋肉での会話を教えてしまったぜ! ガッハッハ!」


 そういってアーマードは高笑いを決めながら上着を脱ぎ捨てマッチョなポーズを決め、隣のタンショウは黙ったまま真剣な表情で同じようにポーズを作り、ふたり仲良く筋肉を魅せあった。


 その様子をジト目でミルクがみやる。こんなんで本当に大丈夫か? という思いがその表情から感じられた。


「ところでアーマードさんも推薦状はおもちで?」


 ふと守衛の男が未だ筋肉を自慢する彼に尋ねる。


「おう! 持ってきたぜ! これだ! がっはっは!」


 アーマードは下の着衣からそれをゴソゴソと取り出した。思わずミルクが眉を顰める。

 一体どこから出しているのかといった具合だ。


「ふむふむ、はい確かにこちらも大丈夫なようですね」

 

 しかし守衛は顔色ひとつ変えずそれを受け取り中身を確認した。これがプロの仕事なのかと密かにミルクが尊敬の眼差しを向けた。


「それにしてもタンショウ殿はレベルが51ですか。今回はふたりともレベルが50超えとは凄いですな」


「がっはっは! この短期間でレベルを20以上あげたからな! 転職もバッチリだ! がっはっは!」

 

 感嘆の声を漏らす守衛にアーマードが返す。相当に自信がある様子だ。


「それで、新しいジョブは何なんだい?」


 転職という言葉でミルクが興味ありげに尋ねた。


「ガーディアンだぜネェちゃん。これで防御能力はよりアップしたからな! ガッハッハ!」


 喋れないタンショウの代わりにアーマードが応える。


「まぁ兎にも角にもこれで迷宮に行く準備は整ったってわけだな」


 ロックがそう言って席を立つ。ミルクも合わせるように腰を上げた。


「おお! 俺の役目もここまでだな! 卒業祝いにイージスの盾もくれてやったし、がんばれよタンショウ! ガッハッハ!」


 タンショウの肩や背中をバンバンと叩きながら、アーマードが発破を掛ける。

 そんな彼にタンショウは力強く頷いてみせた。


「皆様どうかお気をつけて無茶だけはされませんように」


 一行の様子を眺めながら、守衛を心配そうな目付きで声をかけてくる。

 迷宮に探索へ向かうふたりを、かなり気にかけてくれてるようだ。


「あぁ。でもあたしはバッカス装備をどうしても見つけたいからね。簡単には引き返さないつもりだよ」


「バッカス? バッカスシリーズですか!? いやはやこれはまた大きな目標を掲げましたな。ですが命は大事にしてください。死んでしまったら元も子もないですからな」


 守衛は一旦は眉を上げ驚いて見せたが、続く言葉には忠告のようなものも感じられた。


「全くだぜ、こんないいおっぱいが迷宮なんかで散ったら勿体なさすぎだからな」


 守衛に同意するように続けて語るロックだが、彼の言葉はやはりどこか軽く、ミルクは谷間を除きこむ彼に呆れたような視線を突き刺した。


 そしてミルクは改めて守衛に一揖し、そして四人はその場を辞去するのだった。






「よぉミルク!」


「これから迷宮にチャレンジするんだろ?」


「たく。絶対に死ぬんじゃねぇぞ」


 迷宮の前では、昨晩酒場で彼らの飲み比べを見ていた客達が顔を連ねていた。

 どうやらミルクとタンショウを激励にやってきたらしい。


 その中にはガイルの姿もあった。ミルクは昨晩のガイルは勿論の事、鍛錬が終わった後は毎晩のように彼らとも飲み比べを繰り広げていたので、彼らからもすっかり親しまれていたのである。


「当たり前だあたしがそう簡単に死ぬかよ」


 ミルクがニッと笑みを浮かべ、彼らに言葉を返した。


「そこのでっかいのもしっかりミルクちゃんを守ってやれよ。それが男ってもんだ!」


 集まった中のひとりがタンショウにも気合いの言葉を掛ける。

 

 そんな中、ガイルが大きく一歩前に出てミルクに向けて口を開いた。


「ミルク。出発前に俺から迷宮攻略で大事なことを教えておいてやるぜ!」


 自分を指さし、張り切った口調で述べる。


「う~ん、まぁ一応聞いておいてやるよ」


 ミルクは肩を竦めながら、聞く体制を取った。


「おう! いいか? 危ないと思ったらすぐ逃げろ! 忘れるなよ?」


 額に手を添え、ミルクが呆れたように溜め息を吐く。


「ははっ。でも間違っちゃいないよねぇ」


 頭を擦りながら薄い笑みを浮かべてロックが同意した。


「ガッハッハ! 確かにな! だがまぁこの迷宮の恐ろしさはそれだけじゃないけどな! ガッハッハ!」


 相変わらずの馬鹿でかい笑いを見せながら、少し意味深なことをアーマードが口にする。


「まぁでもそっちも大分鍛えられてるから大丈夫だと思うけどな。俺と飲み比べて引き分けられるぐらいだしなぁ」


「おお! お前とか? だったら大分いいとこまでいけそうだな! ガッハッハ!」


「どうもそれがよくわからないんだけどね。なんでここを攻略するのに酒が強いことが重要なんだい?」


 ミルクが怪訝な表情で尋ねる。するとガイルが割りこむように返答した。


「いちど入った俺から言わせればそれはアレだ! 酔うからだ!」


「酔う?」


 目を丸くしミルクが問い返す。


「おお! なんといっていいかわかんねぇがとにかく酔うんだ!」


 腕を組み、悩んでるような表情をミルクがみせる。


「まぁミルクちゃんも入ってみれば判るさ」


 そのロックの発言に彼女もひとつ頷くと。


「まぁそうだね。でもタンショウは本当に大丈夫なのかい?」

 

 そうアーマードとタンショウを交互に見やりながら、確認するように尋ねた。


「チートに加えてスキルの恩恵もあるから大丈夫だろうよ。ガッハッハ!」


「ふ~ん。それならまぁいいか。それじゃあタンショウ、行くとするよ!」


 とりあえずの納得を示したミルクは、タンショウに顔を向け、出発の意思を示した。

 タンショウも了解したと顎を引く。


「頑張れよミルクちゃん!」


「タンショウもしっかりな!」


「しっかりお宝ゲットしてくるんだぞ!」


 ふたりは背中に集まってくれた皆の声援を受け、そして入口の前の守衛が開けてくれた迷宮へと脚を踏み入れるのだった――。

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