第一七〇話 スガモンの提案
「で、どうだったのじゃ?」
スガモンとヒカルに再開した四人は、件の報酬を受け取った後、ギルド内の空いている席に座り、ふたりと対面していた。
スガモンはマスターという事もあり、ギルド職員もどこか緊張した様子であり、席も別室を用意しましょうか? とさえ言ってくれていたが、スガモンは構わんといって、近くの席についた形である。
そして若い女性職員が気を利かして運んできたお茶に口をつけながら、一向に質問を投げかけてきたわけだが。
スガモンをズズっとカップの中身を啜りながら、覗きこむように一行を見つめていた。
しかしその表情からは、すでに色々とお見通しといった空気も感じさせる。
「なんかもう大体の事はわかってるって感じですね」
ミャウが半目でひとつため息を吐いた。その様子に髭を擦りながら、ほっほ、と軽く笑いあげる。
「まぁわしの占いは万能じゃからのう」
「とかいって、前もってギルという鍛冶師に話を聞いてたくせに」
じと~っとした目付きで隣のヒカルが茶々を入れた。だが師匠の炯眼で一瞥され慌てたように首をすくませる。
「なんじゃ爺さんはギルとも知り合いなのかのう」
「……全く相変わらず失礼な奴じゃのう」
言下に不機嫌な言葉を返され、ミャウがゼンカイの口を押さえ、ごめんなさい! と失礼を詫びた。
「全くお爺ちゃんは」「誰が相手でも動じないね」
肩をすくめ呆れたように双子が呟く。
「まぁわしは寛大じゃからそんな事でいちいち腹を立てたりせんがのう」
「僕の頭はすぐに小突く癖に……イタッ!」
「お前は弟子の癖に一言多いんじゃ」
ポカリと言葉通りにひとつ小突く。
「……まぁでもそうじゃな。ギルはわしらの間では有名じゃよ。あの腕じゃからのうマスタークラスの連中もよく武器をみてもらいにいっとるしな」
その言葉にミャウと双子の兄弟は驚きを隠せないようであった。
「まさかそんなに凄い人だったなんて……でもだったらなんて――」
言って考察するように顎を押さえる。
「まぁあの男は変わり者じゃからのう。どんなお客が来てるかなんて一切言わない上、マスタークラスの連中もたいていは目立たないようにしてくるからのう。じゃから商人ギルドでも奴の相手してる顧客情報は知らん。その上で気に入らん相手の仕事は一切しない頑固者だからのう」
ミャウの心を見透かしたようにスガモンが告げ、楽しそうに髭を揺らした。
「まぁ確かに」「あんなところに」
「そんな凄腕の」「鍛冶屋があるなんて思わないよね」
苦笑交じりに、確かにそうね、とミャウも同意する。
「で、まぁそのギルとはわしも知らない仲じゃないからのう。久しぶりに遊びにいったついでにお主たちのことも聞いたのじゃ」
そこまでいって再度お茶を啜り。
「まぁそうはいっても、前もって占いでお前たちの事を知ったのも事実じゃぞ」
そう付け加える。
「で、改めて聞くがどうじゃった?」
「全然でした。あのガリマーさんという船乗りの方、強すぎて手も足も出なかった形です」
ふぅ、と溜息混じりにミャウが回答する。その戦いを思い出した為か、左右の猫耳もぺたりと力なく寝てしまった。
「ふむ。まぁ予想通りじゃな。なにせ相手は【ヴァイキングロード】のガリマーじゃ。突如勝手に引退宣言して引っ込んでしもうたが、かつては海の覇者とまで言われた男じゃからのう。マスタークラスは伊達じゃないわい」
その言葉に再び一行があんぐりと驚いてみせた。
「マスタークラス……どうりで――」
「おまけにそれで船の上じゃ」「どうあったって勝てないわけだね」
ゼンカイ以外の三人の表情が暗く沈んだ。すると未だミャウに口を押さえられているゼンカイが、モゴモゴとなにか訴えた。
「あ、忘れてた~ごめんねお爺ちゃん」
パッと手を放す。どうやらミャウは本気で忘れていたようだ。
「あう、ミャウちゃん酷いのじゃ……でも、駄目なのじゃ! また暗くなってるのじゃ~~そんな弱気じゃだめなのじゃ~~」
ゼンカイは鼻息荒く、ぶんぶん腕を振って訴える。
「お爺ちゃんのいってることはよくわかるし何とかしたいけど、二週間でマスタークラスを納得できる強さは――」
「なんじゃ二週間も猶予を与えるとは優しいところがあるのう」
割りこむようにいい告げたスガモンに、え? と皆の視線が集まった。
「まぁわしがここまで来たのも、お前たちの目的を達成する手助けが出来ればと思ってのことじゃからのう。じゃが流石に一日、二日という話ならどうしようかと思ったが、二週間あるなら大丈夫じゃろう」
「大丈夫って……それはもしかして二週間で私達がガリマーに納得してもらうぐらいの力を付ける術があるとう事ですか?」
「その通りじゃ。まぁお前たち次第ってとこもあるがのう。勿論楽ではないが、わしに従うというなら二週間で劇的にパワーアップさせてやるが……どうするかのう?」
スガモンの確認に、一行は一度お互いかおを見合わせるが――勿論その答えは決まっていた。
「勿論やります!」
「やらない理由がないよね!」「絶対にやるしかないよね!」
「やってやるのじゃ~! そしてあのガリマーというジジィに一泡吹かせてやるのじゃ~~!」
こうして一行は決意を新たに、スガモンの話を受ける事となった。そしてスガモンがいうには、その為には一旦王都ネンキンへと戻る必要があるとの事であり――そこで一行はスガモンの転移魔法の力で一瞬で王都ネンキンに足を進めた。
「ここにその力を付けるための場所があるのですか?」
転移魔法でスガモンの住む屋敷に移動した一行。すると先ずミャウが怪訝な表情でスガモンを問う。
「そうじゃ。まぁとりあえず付いてまいれ」
言われるがまま一行はスガモンの後につき従う。すると彼は裏口の扉を抜け、少し広めの庭に出た。
そしてその庭の真中には一部草が完全に抜かれ土が顕になった箇所があり、そこに一行が入れるぐらいの魔法陣が記述されている。
「さぁ二週間あるとはいえ無駄にしてる余裕まではないからのう。みなその魔法陣の中に入るのじゃ」
スガモンに促され、四人が魔法陣の中に足を踏み入れる。
「みんな頑張ってねぇ~」
魔法陣を外側から眺めながら呑気に手を振るヒカルだが。
「このバカモンが!」
スガモンの激が飛び、そして杖がその頭を打つ。
「痛! な、何するんですか師匠~」
「何するんですかじゃないわい。お前も一緒に入るんじゃよ!」
えぇえええええ! と声を上げて驚くヒカル。だが、はよせい! と杖を振り回す姿に、渋々と皆と一緒の魔法陣の中に入っていく。
それを確認してから最後にスガモンが陣に足を踏み入れた。
「なんで僕まで……」
ブツブツと不満気に呟くヒカルにため息を付きつつ、スガモンが、
「それではゆくが、いいかのう?」
と確認を取る。
「勿論ょ」
「そのために」「来たんだしね」
「うむ! いったい何が待っておるのかワクワクじゃのう!」
「いくないよ全然!」
未だにダダを超えるヒカルにやはりスガモンの杖が飛び――
そして、彼の行う詠唱が終わると魔法陣が青白い輝きを発し、かと思えばその瞬間には庭から全員の姿が消え失せていた――




