第一六五話 船の手配
一行が商人ギルドに足を踏み入れると、彼らの存在に気づいた件の商人がやってきて満面の笑みで歓迎してくれた。
「いやぁその節はお世話になりました! 丁度いまギルド長と皆様のお話をしていたところなのですよ! そうだ! 折角ですから皆様を長にご紹介したく思います! 是非是非!」
上下に重ねた手を擦り合わせ、彼が一行を促してくる。
そこまで長居するつもりのなかった一行であったが、こういわれては断るのも申し訳がない。それに船の件もある。
仕方ないとお互いに顔を見合わせ微苦笑を浮かべた後、申し出を受け一緒に長の部屋に向かう事となった。
ギルドの役員でもある彼の後に付き従い、二階の応接室に通される。
部屋には高級そうな革製のソファに、同じく高級そうな装飾が脚や縁に施されたテーブルが設置されていた。
ただテーブルに関しては獅子の顔が飛び出るように施されていたりとあまり趣味がいいとは言えない。
一行は男に勧められ其々ソファに腰掛けた。ミャウの臀部がめり込むように沈んでいく。
かなり柔らかい作りのようである。
座り心地に関してはかなり良いのであろう。
彼らを案内した男がギルド長を呼びに出ていき、少ししてメイド服の女性が、失礼します、と入ってきた。
テーブルに紅茶の入ったポットを置き、其々の目の前にティーカップを準備してくれる。
「おほっ! 可愛らしいメイドしゃんじゃのう! よかったらスリーサイズなんかを――」
「お爺ちゃん!」
ジト目で咎められ、ゼンカイが面目ないと頭を掻いた。
ちなみにメイドは突然興奮しだした爺さんにたじろいでいたが、ミャウの、ごめんなさいね、の一言で笑顔を撮り直し、ごゆっくり、と恭しく頭を下げ数歩歩いた後、部屋を出ようと扉を開ける。
と、それとほぼ同時に相当に肥えたひとりの男が姿を見せた。メイドは慌てたように頭を下げた後、いそいそと部屋を出て行く。
「いやいや貴方方が今回の海賊の件を解決してくれた冒険者様ですかぁ! いや本当に助かったよ! ありがとう!」
一行も彼が入ってくると同時に立ち上がり、初めまして、と頭を下げ挨拶した。
男は頭にターバンを被り、真っ赤なカーディアンのようなものを背中から羽織っている。
勿論生地は上質なカシミヤ製で、中に着ているのも金糸や銀糸をふんだんに使用したトーガである。
太い指には一本に付き大きな貴石の嵌めこまれた指輪を三、四個身につけており、腕には金のブレスと成金という言葉がぴったり来るほどの出で立ちをしていた。
彼は自分の事をアラミンと名乗った。アラミンはこの商人ギルドの長であり、またポセイドンの管理を任された街の責任者でもある。
王国からは公爵の爵位も賜っているようだ。
そして改めてアラミン公は一行をソファに座らせ、自分も上座に当たる位置に腰を掛ける。
よく肥えた彼が座るとソファーは底なし沼の如く勢いで沈み込んだ。
そして一行の海での冒険譚に興味津々といった具合にあれやこれやと訪ねてくるのだ。
一行たちからしてみれば、さっさと要件をすましてギルドを後にしたいところであろうが、相手は仮にも今回の依頼主の代表のような人物で、更に街の管理者であり公爵の位も持つのだ。流石に無下には出来ないであろう。
仕方ないので一行は暫く話に付き合うこととした。だが公爵との話は中々終わりを見せなかった。
何せアラミンの話は途中から自分語りに入ってしまっているのだ。
しかし一行からすれば、彼が商人としてどうやって成り上がってきたかなどまるで興味が無い話である。
ゼンカイに関しては欠伸を噛み殺し眠そうな瞼をこすり始めたりもしている。
「あ、あの! も、申し訳ありません。大変ありがたいお話かとは思うのですが実は私達も――」
流石にこれ以上は聞いていられないとミャウが切り出した。
機嫌をそこねないかと心配そうにも思えたが。
「おお! いやいやすまないすまない。私はいつもつい調子にのって話しすぎてしまう」
後頭部を掻くようにしてアラミンが謝った。どうやら本人も話が長いのは自覚していたようだ。
「いえそんな!」
ミャウが遠慮がちにそういいつつ、ところで、と本題に入ろうとする。
「実はこの度こちらにお伺いさせて頂いのは、お願いしたいことがありまして――」
ミャウがアラミンの顔色を伺いならそう切りだすと、おお! と彼は両目を大きくさせ。
「わかってますぞ! 報酬の件ですな? 恐らく部下のものが既に手続きを済ませてると思うので、もうギルドの方に話はいっていると思いますぞ」
アラミンは笑顔を見せ身体を揺らすが。
「いえ。勿論報酬はとてもありがたいお話なのですが、実はひとつお願いしたいことがありまして」
おお! と今度は身を乗り出すようにしてテーブルの上で左右の手を組ませた。
「さてはアレですね! 何か気になる品があると? えぇえぇ! お任せください! でしたらこのアラミンの命で特別にお安くなるようにして差し上げますので!」
ひとり納得したように胸を叩くアラミン。この男どうも自分でかってに決めつけてしまうところがあるようだ。
「いえソレも違います。実はどうしても行きたいところがありまして、それで船の手配をお願いしたいのです」
このままでは埒が明かないと思ったのか、ミャウがはっきりと要件を言い切った。
するとアラミンが目を丸くさせ、船? とミャウに反問する。
「は、はい。あの駄目でしょうか? 勿論料金はお支払いいたしますが――」
アラミンの反応に若干不安を覚えたのか、ミャウが恐る恐る聞き返した。
が、アラミンは、ガハハ、と豪快に腹を揺らし立ち上がる。
「なんだそんな事でしたか。いやいやそんな今回の件で尤も活躍した皆様の頼みです! 勿論船のひとつやふたつ直ぐにでも手配してさしあげますよ! なんでしたがこの商人ギルドで一番の豪華客船を――」
「いえいえいえいえいえ! そんな! 大げさなのは! あ、ただ丈夫な物の方がいいとは思いますが」
「ほう、さすが冒険者様だ。きっとめくるめくロマンの旅に出られるのですな。いやはや海賊退治も終えたばかりだというのに勇ましいですな。それで一体どちらへ?」
「はい。あのドラゴエレメンタスまでなのですが――」
ミャウのその言葉でアラミンの動きが止まった。直立したまままるで凍りついたがごとく固まったのだ。
「……あ、あのアラミン公? ど、どうかされましたか?」
ミャウが尋ねると、あ、いや、と抑揚のない感じに言葉を返しゆっくりと、というよりはどこがぎこちない動きで一行を見回す。
「そ、その。ドラゴエレメンタスというのはやはりアレだろうか? マスタードラゴンの住む?」
「はい。そ、そのドラゴエレメンタスですが――」
「全く無駄な時間を過ごしてしまったのじゃ~~!」
商人ギルドを出るなりゼンカイをプンプンと怒りを露わにさせた。
その姿を見ながらミャウは、ふぅ、と溜息をつき。
「でも仕方ないわよ。それにアラミン公も本当に申し訳無さそうに謝ってきたしね。あれだけされたらこっちも無理してまでお願いとは言えないじゃない」
「でもやっぱり」「時期が悪かったよねぇ」
双子の兄弟はヤレヤレと肩をすくめた。
確かにふたりの口にした事と同じことをアラミンもいっていた。
彼がいうにはもしこの時期じゃなければ、引き受けてくれる船長もいるようなのだが、このマスタードラゴンの鱗の生え変わる時期だけは誰一人として島に近づこうとしないというのだ。
「この時期だけは島の周りに海の魔物がうじゃうじゃ寄ってくるから、どんなに頑強な船であっても島に近づくのなんて困難なのです、なんでね」
「ユニークが出た時と似てるね」「そうだね」「魔物が一斉にボスの守りに」「入るみたいなものだもんね」
「そうじゃ! 思い出したぞ! 転移の魔法があるではないかのう? それでゆけば船なんかよりはずっと早くつくのじゃ~~!」
ゼンカイにしてはなかなかまともなアイディアにも思える発言であったが。
「それが出来れば苦労しないんだけどね」
「ドラゴエレメンタスは」「精霊の強大な力が働いていて」「転移の魔法では」「行くことが出来ないんだよ」
その話に、なんじゃ、とゼンカイが肩を落とす。
「う~んでも船が出せないのは」「困っちゃったよねぇ」
双子の兄弟が顔を見合わせ眉を広げた。するとミャウが、仕方ない、と皆を振り向いて。
「ダメ元でギルの元に戻ってみましょう。もしかしたら何か知ってるかもしれないし」
そう提案するのであった――。
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同じく異世界ものですよろしければ少しでも覗いて頂けると嬉しく思います
新作タイトル
裸一貫どころか魂一つだけで異世界に来てしまったので取り敢えずコボルトに憑依しようと思う
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