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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第五章 ゼンカイの入れ歯編
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第一五九話 圧倒的な差

「なっ!?」


 ミャウの両目が見開かれた。ジャロックのあまりの動きの速さに顔がこわばり驚愕といった表情を見せている。


 ジャロックの長身は腰を落とした状態で限界まで下げられている。右手に握られた魔剣は、逆腰の辺りに構えられ、その蛇のような目が光ると同時に、ミャウの細身目掛けて斬り上げられる。


 空間に瞬間的に斜めの剣閃が刻まれた。そこには僅かな赤味も滲んでいる。

 仰け反るようにして恐怖の斬撃を躱したミャウであったが。

 完全には避けきれず、右の肩口に僅かに傷を残したのである。


 だが、これが普通の剣であったなら特に問題としない怪我である。

 しかし相手の持ちしは魔剣。しかも相手から何かを吸い取る魔剣だ。


 ミャウの膝がガクリと崩れた。まるで唐突に力が抜けたように。


「そ、そんな――」


 狼狽し呟くが、相手は容赦などするはずもない。

 ジャロックは振り上げた直後手首を返し、ミャウの首目掛け二撃目を振るった。

 無慈悲な刃がその首と胴体を切り放しにかかる。


 ミャウはその動きに反応できていない。だがその間に一本の剣が割って入った。

 ゼンカイのプラチナソードである。


 歪めた音叉を打つような不気味な音が広がる。


「ほぅ……」


 一言呟き、眼下のゼンカイに纏わりつくような視線を向けた。


「俺もいることを忘れてもらっちゃ困るぜ!」


 一猛し、ジャロックの左横に移動していたムカイが拳を構える。


「いくぜ! 内破掌鬼連!」


 ムカイの掌底による乱打が獲物の脇腹を捉えた。その衝撃でジャロックの身体が甲板を滑るように移動する。


 だが直後着ているコートをパンパンと空いた方の手で払い、悠々とした表情でムカイをみやる。


「だ、ダメージねぇのかよ!」


「……面白い技だな。内側から肉体を破壊する、か。しかし残念だったな俺はこの剣の力で水を自在に操る事ができる」


 水だと? とムカイが顔を眇めた。


「そうだ。自分自身のもな。お前の攻撃は波紋のように広げた水の効果で衝撃を分散させた」


 その言葉にムカイは愕然と立ち尽くす。それが事実であれば彼の攻撃は一切ジャロックに通じない事になる。


「私の力が抜けたのもその効果ってわけね……」


 ミャウが若干のフラつきを見せながらも立ち上がる。

 その姿を心配そうに見上げるゼンカイだが、ミャウの眼はまだ闘志を残している。


「そのとおりだ。この魔剣は生物の水分も吸い取る。掠っただけでも相当にな。水は生命の命の源だ。それを吸われるということはどういう事か……敢えて説明するまでもあるまい」


 そう言って再び剣を構える。


「だったらその剣ごとふっ飛ばしてやるよ!」

「ウンシル、僕の事はいいから皆に協力してやって」


 ハゲールがクロスボウを構え、ウンシルはひとつ頷くとウンジュを縁に寄りかからせ、そしてステップを踏み攻撃力の上がる効果を皆に与える。


「エクスプロージョンアロー!」


 放たれた矢がジャロックを狙う。が、その矢は彼の正面に展開された水の膜によって防がれ何もない空間を爆破させるに留まった。


「剣の舞!」


 爆発の収まった直後、ウンシルは両手に構えた曲刀で突っかかり、まるで嵐のような連撃を繰り出していく。

 だがそれらの攻撃も一切ジャロックにはあたらない。紙一重のところで全てを躱している。


「中々の動きだが俺には通用しないな」


 魔剣を抉るように振り上げ、ウンシルの右手の曲刀が弾かれた。

 宙を舞った得物は回転しながら後方の甲板に突き刺さる。


 そしてジャロックは振り上げた勢いをそのままに、畝るような腰の回転と共に、ウンシルの腹部目掛け、横薙ぎに刃を振るう。


 ウンシルはそれをバックステップで避けようとするが間に合わない。

 衣服がパックリと裂け、一文字の大きな傷を残す。

 出血はそうでもないが、かなり深い。血が出ないのは水分として持っていかれたからなのであろう。


 その証拠に彼の顔から血の気が失せ、立っていられないのか甲板に片膝を付いてしまっている。


「嘘だろ? こいつ強すぎだぜ――」


 ハゲールから落胆の声が漏れる。その表情もどこか絶望に満ちていた。

 その斜め後ろではガリガが一生懸命何かを詠唱している。


「う、うわぁぁあぁあああ!」

 

 何とチャラが槍を両手で持ってジャロックに突撃した。

 まるで捨て身の戦法にも感じられるが、しかしその絞り出した勇気をあざ笑うように、ジャロックは軽々とそれを躱した。


「何だこの雑魚は?」


 侮蔑の瞳で見下ろして、蝿でも追い払うように剣を振る。


「ひ、ひぃいい!」


「チッ!」


 ムカイがギリギリのところで体当りし、チャラを助けた。

 だがそれと引き換えに肩に深い傷を負ってしまう。


「ぐぅうう!」


 肩を押さえ呻くムカイ。痛みだけではなく水分も奪われた事で力をなくし甲板に倒れこむ。


「こんな雑魚を庇うなど理解できんな」


「勝手なこと言ってんじゃないわよ!」


 ミャウが弾けたように叫ぶ。


「彼だって今はあたし達の仲間なのよ! 平気で使い捨てるあんたなんかと一緒にされたくないわね!」


 その手に握られたヴァルーンソードの刀身から、稲妻が迸っていた。


「雷の力か……」


「そうよ! 雷の付与! あんたの水の力でもこれは防げないでしょう!」


 はぁ! と気合の声を上げ、ミャウがジャロックに斬りかかった。

 刃に宿りし雷は効果範囲が広く、躱されたとしても放電によってダメージを与えることが可能だ。


 頭蓋を狙った振り落とし。だがそれを彼は何の躊躇いもなく、水の膜で受け止めた。


 だがミャウに付与された力で剣は雷の属性に変化している。

 当然電撃は水を伝わり膜全体にまで雷槌が行き届き、ビリビリとした光が一行を照らした。


 しかしその膜がグニャリと変化し粘着上の触手をミャウの細身に伸ばす。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」


 猫耳がピンッと伸び、全身の毛を逆立てながら、ミャウの身が激しく震えた。

 自分が放った雷の力を自身が受けてしまい感電してしまったのだ。


 それをみているジャロックの顔は余裕で満ちていた。彼自身はまったく電撃を帯びていない。


 プスプスと煙を上げながら、ミャウの膝がガクリと崩れた。そしてそのまま前のめりに倒れる。


「悪くない考えだったかもしれないがこの程度ではな」


 ミャウちゃんや! ミャウちゃんや! と心配そうに彼女の身体を揺するゼンカイと合わせて、冷たい目でふたりを見下ろす。


「どうやら思ったほどではなかったようだな。つまらん。まぁ俺が強すぎるのか」


 クククッ、と含み笑いを見せた後、ジャロックは少し後ろに下がり、全員をその視界に収めるように見据える。


「もうこれで終わらせてやる。お前らも俺の糧となれ!」


 語気を強め、剣を振るう。その瞬間なかまのアンデッドを屠ったのと同じ、水の蛇が人数分現出し空中を畝りながら、獲物を狙い襲いかかる。


「生まれしは全てを喰らい焼きつくす八首の火龍なり! フレイムヒュドラー!」


 ガリガの詠唱が発動し、水蛇の行く手を遮るように、杖から八匹の火龍が生まれその牙に己の牙を重ねた。


 蛇のように長い尾を持った火龍と魔剣より生まれし水の大蛇が激しくぶつかり合い鬩ぎ合う。


「す、凄いこんな魔法が使えたなんて……でも――」


 ゼンカイの声が届いたのか、息も絶え絶えにミャウが上半身を起こし、ガリガを見やる。多量の汗が額から滲み出ていた。

 一方のジャロックにはまだ余裕がある。このままではどちらに軍配が上がるかなど火を見るより明らかである。


 だが、そこでジャロック目掛け突撃するひとつの影――


「わしがやらずに誰がやる!」


 ゼンカイである。彼がプラチナソード片手にジャロックへと特攻を仕掛けたのである。


「お爺ちゃん! 無理よそいつに攻撃は――」

「為せば成るじゃ!」


 ミャウの忠告を無視し、ゼンカイが振り上げた刃で斬りかかる。が、ジャロックはそれを後ろに飛び跳ねるようにして避けてみせた。


 すると水の蛇の力が弱まり、ガリガの生み出した火龍に押し負けその身を消滅させた。

 そして八匹の火龍は目標を水蛇を生み出した本人に代え、唸りを上げながら一斉に襲いかかる。


「あの状況で避けた? そうか! あいつふたつの効果を同時には操れないんだ! ナイスよお爺ちゃん!」


 嬉々とした声を上げるミャウ。そしてジャロックに迫る火龍達。しかし――直後ジャロックの腕から青白い光の帯が船体を駆け抜け、火龍もそれをその身に受け霧のように消えてしまう。


「ひ! ひぃいい!」

 

 咄嗟にチャラが横に飛び退け甲板を転げるようにしながら情けない声を上げた。なんとか無事だったようだが完全に腰が抜けたようで、これ以上戦えそうにない。


 そして光の帯が消えた後、そこには甲板に倒れこむガリガとハゲールの姿――。


「ガ、ガリガ! ハゲール! ち、ちくしょぉおおおお!」


 ムカイが怒りの声を上げ立ち上がり、ジャロックへと突進した。


 だが、そのジャロックの左腕から伸びるは鉄の砲身。腕は肘のあたりで外れ甲板に向かって折れ曲がっている。


「危ないのじゃ!」


 頭に血が登り避けようともしないムカイをゼンカイが横から体当りし、その二撃目から守った。

 彼の背中側を、激しい轟音と共に光の波が通り過ぎて行く。


 正しく危機一髪であった。


「あれは」「魔導砲……」


「こいつ、右腕にそんなものまで仕込んでるなんて……」


「じ、爺さんすまねぇ……」

「な~に気にするでない。わしらは仲間……ガハッ!」


 お爺ちゃん! とミャウの絶叫が響き渡る。その光景に彼女は手で口元を覆うようにし、顔は完全に血の気が失せ青ざめていた。

 勿論これは己が受けたダメージによるものではなく――


「じ、爺さん! おい!」


「ふん。全くチョロチョロと鬱陶しい爺ぃだ。気はすすまないが、お前の命から先に吸い上げてやろう」


 いつの間にか距離を詰めていたジャロックの刃は、無情にもゼンカイの脇腹を貫き反対側まで達していた。


 そして更にその剣の呪いにより、彼の体中の水分はドクドクと吸い上げられていき――

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