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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第五章 ゼンカイの入れ歯編
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第一五八話 伝説の海賊

 海に消え行く船体を、一行は空中から見下ろしていた。

 船が大津波に飲み込まれる直前、咄嗟にミャウが風の付与の力を利用し、全員を風に乗せて上空へと浮上したのである。


 勿論そこにはチャラの姿もあった。七人全て無事である。

 ただ、ミャウの力は空中を飛び続けられるものではない。ある程度は制御できるが、このまま宙を漂ってもいられないのである。


 ミャウは仕方がないと残った海賊船に降り立とうと、背後に向けて刃を振るった。

 水の壁は今は消えている為、出来るだけ急いで飛び込まないといけない。


 次の魔導大砲の攻撃が来たら再び壁が築かれるかもしれないからだ。


 尤も、あの水壁をみてガーロックが更に攻撃を続けるかは不明である。

 オマケに一行が乗った船が沈められた状態では、ミャウからの合図を送らない限り、次の攻撃は無いとみてよいとも思うが――


 風は一行を乗せて、海賊船の甲板まで運んでいく。


 壁など阻害するものは現れなかった。一行は船の艫の真ん中付近に着地する。


 だが、そこでは手厚い歓迎が手ぐすね引いて待ち構えていた。


「やっぱり只では終わらないわよね」


「全く。まだこんなにアンデッドとやらがおるのかい」


 ミャウとゼンカイ、そして残りの面々もズラリと並ぶアンデッドの集団をみやる。

 勿論ほぼ全員これまでと同じように水夫の格好をした海賊たちだ。


 ただ、一人だけ違う風貌をした人物がいた。それがきっとこの集団のボスであることは一行も想像するに容易かった事であろう。


 男はこの闇に染め上げられた大海の如き色彩のロングコートを身に纏っている。裾は大きく外側に広がっており脚には先の尖ったロングブーツ。

 右の肩の辺りには水の中から飛び出した大蛇のデザインが施されていた。


 髪は黒く肩まで伸びており男にしては長いほうだ。手入れ無く垂らされた前髪によって、顔も幾分か隠れてしまっているが獲物を狙う蛇のような二つの炯眼は遠目にもしっかり確認できる。


 輪郭は縦に長めな形で、枝のように伸びた髭が左右に跳ねるように生えていた。


「あんたがあの壁を作ったのね」


 ミャウは確信を持ったように、剣先を男に向けた。他にいるのが明らかに雑魚ばかりであった為の所為であろう。


「そのとおりだ」

 

 男は片側の髭を手で伸ばしながら返す。どこか威圧感のある低い声であった。


「あの男……」「もしかして【キャプテン・ジャロック?】」


 双子の兄弟が交互に述べる。

するとムカイが首を巡らせ、知っているのかウンジュ? ウンシル? と尋ねた。


「確か数百年前に大海の八割を支配したと言われる大海賊」「ジャロック海賊団の船長」「前に肖像画で見た事があるよ」「たった一隻で2,000隻の船団を打ち破ったとも言われてる」「伝説の」「大海賊……」


「え? でもまさか。数百年前ってそんなの生きてるわけ無いだろ?」


 双子の兄弟にハゲールが、そんな馬鹿な、と言いたげな顔つきで問い返す。


「いや。十分ありえるわね。このアンデッドを生み出したのは、あの四大勇者を復活させた奴だもの」


「確かにのう。古代の勇者を復活させるぐらいならば、伝説の海賊とやらをよみがえらせることも可能というわけかい」


「え? いやいや、そんなバカな。数百年前だよ? それを復活って考えられないよ。アンデッドでもありえなうぃいいぃよねぇ!」


 皆の話を聞いていたチャラが、ありえないを強調しながら眉と両手を広げ叫ぶ。


 だがそれには誰も何も返さなかった。

 代わりにミャウがジャロックに向けて大きく口を広げる。


「あんたがキャプテン・ジャロックってのは確かなの?」


 真相を確かめるため、ミャウが朗々と相手に問い詰めた。


「そのとおりだ。ふん、聞いた話では随分時は経ってるという事だったがな。よもや俺を知っているのがいるとは俺も有名になったらしい」


「その話しぶりからして、あんたはやっぱりイシイってのに蘇生させて貰ったのね」


「ほう、あの方の事を知っているのか」


 ジャロックは人差し指で己の髭を弾きつつ興味深そうに一行をみやった。


「確かに俺を組成させたのはお前のいうイシイ様の事で間違いない」


「それでイシイにあんた何を命じられたわけ?」


 ジャロックはミャウを上から下まで値踏みするように見やった。そしてふむ、と顎を擦り。


「別に、基本的にはこの海で今までどおり好きしろと言われただけだ。それと手練は生け捕りにしておけともな。まぁ活動範囲は決められてしまったがな。それは気に入らないが主のいうことだ仕方がない」


 言うことを聞かされているのはあの勇者たちと同じね、とミャウが呟く。


「海賊たちを襲ったのも手練を捕まえるため

?」

「気に入らないからだ」


 言下にジャロックが返してくる。


「この海で俺の船以外が海賊旗を抱えて我が物顔で彷徨くのが気に入らなかった。だから襲ったのさ」


 なるほどね、と再度ミャウが呟いた。


「でも狙いは海賊だけじゃないんでしょ?」


「当然だ。丁度イシイ様から更に自由に動く許可を頂いたところだったしな。その為に手頃な獲物も見つかった」


 ミャウの眼が尖った。一行も身構えた状態から更に警戒心を強める。


「そう。でも残念ね、その獲物に随分といいようにやられて内心気が気じゃないでしょう?」


「問題ない。俺が生き残ってさえ入れば立て直すことは造作も無いことだしな」


 自信に漲ったその声と炯眼が、彼の言葉が只のハッタリでないことを証明していた。

 空気が次第に張り詰めていく。

 ビリビリとした殺気混じりの威圧にミャウの耳もピンッと立ち上がった。

 

 他の物も、何もしていなくても体中から汗が吹き出し、緊張感に鍔を飲み込む。


「キャプテン・ジャロック様! こんな奴ら態々ジャロック様が出るまでもありませんよ!」


 ふと海賊の誰かがジャロックを振り返り宣言した。するとそれに継いで次々と声を上げていく。


「そうでさぁ! 命じてくれりゃ今すぎ俺達がぶっ倒してやりますよ!」


「さぁジャロック様俺達早くやりたくてウズウズして――」

「無理だな」


 ジャロックが冷たい声音で言い放つ。

 その言葉に一行も怪訝に眉を顰めた。


「あいつらを見て、こんな奴ら等と舐めてかかるようじゃ話にならない。だったらせめて俺の糧になれ」


 静かな――それでいてよく通る声で言い放ち、ジャロックがコートを翻した。

 その所為で腰に吊るされた剣が現れ、かと思えば目にも留まらぬ速さで剣を抜き、刃を振るう。


 その瞬間、剣から何匹もの蛇が創造された。蛇と言っても只の蛇ではない。水で作られた蛇だ。細い体が大きく畝る。蛇は流れの速い奔流が如く勢いで進み、そしてアンデッドに向けて鎌首を擡げ喰らいついた。


 アンデッド達の両目が恐怖に見開かれる。何かがドクンドクンと蛇達の首を通り過ぎ、剣に向けて流れていく。


 あ"あ"と声にならない声がアンデッドの口から漏れた。

 その直後には次々とアンデッド達の身体が細く萎んでいった。まるで生気を吸われたが如く、最後には骨と皮だけになって、甲板に倒れ、ボロボロと古びた粘土細工のように朽ち果てていった。


「全く本当にこやつらは仲間をなんと思っておるのかのう」


 その光景に、ゼンカイが剣を握る手をプルプルと震わせる。


「仲間? こんな弱い奴らは仲間だなんて思っていない。只の使い捨てだ」


 ジャロックの言ってる言葉はフックとまるで一緒であった。

 海賊というのは誰彼もこんなものなのかもしれない。


「随分と珍しい武器を持っているのね」


 言ってミャウがジャロックの手に握られた剣を見た。刃が蛇のように畝っており、色は海の青。しかしそれから発せられるは不気味な闇の光である。


「ほう? 知っているのか?」


「名前だけはね。【魔剣レヴァイアタン】太古の時代一人の英雄によって斬り殺された海の大蛇の名前を銘とした呪いの魔剣」


 確かにな、とジャロックが刃を立て刀身を満足そうに眺める。


「その大蛇の血にそまり、英雄の持ちし剣は呪われ魔剣とまで呼ばれるようになった。だが俺にとっては良い相棒だ――かつての俺もこの剣があれば無敵だった」


 そこまで言うと鋒を見つめていたジャロックの顔が変わり、正しく伝説の海の化身が具現化したかのような様相でミャウ達に身体を向け剣を構える。


「そしてそれは今も変わらぬ! 俺は誰にも負けぬ海の支配者キャプテン・ジャロック。それをお前たちの身体に刻み込んでやろう!」

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