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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第四章 アルカトライズ編
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第一三二話 牢屋の中にいる

「――ぐむぅうう。う、う~ん、……ひょ? ひょひょうゎ?」


 ゼンカイの瞼が開かれた時、そこにあったのはミルクの顔と、彼を覗きこむミャウの猫耳。


「ゼンカイ様……良かった!」


「ふぎょぉおおぉおお!」


 力強く掻き抱くミルクの力で、ゼンカイの絶叫がこだまする。


「ちょ! ミルク抑えて! 流石に今それは洒落にならないわ!」


 ミャウが、ギリギリと背中を締め付けるミルクに待ったを掛けた。

 その言葉で彼女もハッとした表情になり、折角目覚めたというのに、再び意識を失ったゼンカイにオロオロする。


 その姿に額を押さえ嘆息を付くミャウであった。





「ひゃったく、みゃた、てゅんぎょくにゅい、にゅひゅきゃとひみょうたひゃい」


「え? ゼンカイ様え~と……」


「全く。また天国にいくかと思うたわい、って言ってるわね」


「ミャウわかるの!?」


 驚くミルクに、何となくね、とミャウが応える。

 それにミルクは軽くショックを受けたみたいである。


「りぇ? ひょひょひゃ、りょこひゃんりゃひょう?」


「え~と」

「待った! あ、あたしにだって愛するゼンカイ様の言葉ぐらい!」


 どうやらミルクは妙な対抗心を持ってしまったようだ。


「きっと、そう! お腹が減ったのですねゼンカイ様!」


「ごめん。ぜんぜん違う。てか、そんな事いってる場合でもないし」


 ミルク。ず~んと肩を落として落ち込む。


「ふぇ?」


「あ、うん。……実はね。ここはアマクダリ城の地下牢なのよ――」


 ミャウがそう説明すると、ひゃ、ひゃんひゃりょ~~~~! とゼンカイが驚いてみせた。


「ま、目覚めて牢の中やったらそら驚くやろな」


 牢屋の端で壁に背中を付け、話を聞いていたブルームが口を挟む。その隣では、彼の肩に寄り添ってヨイがすやすやと眠りこけていた。


「ひゃきゃし、ひゃひは、りょうにゃったのりゃ?」


 ゼンカイは自分が一体どういう状態にあったのか、判っていないようだ。


「もしかしてお爺ちゃん覚えてないの?」


 ミャウが尋ねると、ゼンカイが直前の記憶までを思い出しながら応えた。

 どうやらエビスに襲われているミャウ達を、助けたいと思ったところからは記憶が曖昧らしい。


 そこでミャウは、ゼンカイが変身した後の事を掻い摘んで説明し、更になぜその後、地下牢に入れられる事になったのかを、思い浮かべながら説明していく――。





「わいらも捕まえるやて?」


「ちょ! どういう事よそれ! 私達は王国の命でここまで来たのよ! エビスだってこの通り私達が――」

「その説明は私からしてやろう」

 

 納得がいかないと、王国軍の兵士に食いかかるミャウ達の耳に聞き覚えのある声が飛び込んでくる。


「てめぇは……」


「レ、レイド、しょ、将軍?」


「久しぶりだな。城では随分と手厚い歓迎を受けたものだが」


 そう言って口元に笑みを浮かべる彼だが、眼は全く笑っていない。


「な、なんであんたがこんなとこに――」


「あんた? ふん、全く随分な言い草だなミャウ」


 言ってレイドがミャウを睨めつける。


「なんや、王女救出はわいらに任されたいうのに、わざわざ軍なんか引き連れてあらわれおって、手柄でも奪いにきたんかい?」


「貴様! 罪人が将軍になんて口の――」


 怒鳴りだした兵士の口を、レイドが右手を差し上げ制止した。


「だから罪人って何の話だよ!」


 しかしミルクは納得がいかないと噛み付く。すると、フッ、と将軍がほくそ笑み。


「とぼけたところで無駄なことよ。此度のエルミール王女誘拐の件。お前たちがこのエビスに加担し手引きした事は調べが付いている!」


 朗々と言い放たれたその話に、ミャウとミルクが眼を丸くさせる。


「はぁ? あんた! ちょ何言ってんのよ!」

「ふざけた事ぬかしてんじゃねぇぞテメェ!」


 語気を強めるミャウとミルク。だがレイド将軍の瞳は冷たい。


「……成る程のう。そういうシナリオかい」


 ブルームが何かを知ったかのように口にする。

 だが、レイドはまるで聞こえてないかのように、その言葉を無視し、救出され兵士に支えられた王女に近づいた。


 彼女は未だ茫然自失といったかんじであり、兵士の呼びかけにもはっきりした返答を示さなかったのだが――。


「全く。このような者達のせいで……よほど怖い目にあられたのであろう。可哀想に――」


 そう言ってレイド将軍が、王女の右頬に手を添える。すると――。


「……な!? こ、この無礼者が! 妾に汚らしい手で触るなど! 死刑じゃ! 死刑なのじゃぁあぁ!」


 突如目を剥き、王女が例のごとく叫びあげる。


「え? お、王女!」

「良かった正気を取り戻されたぞ!」


 ガルルと獣のように歯をむき出しレイドを睨みつけるその姿に、周りの兵士たちも色めき立った。


「……うん? なんじゃ? 一体妾は……」


 訳がわからないといった具合に、王女が辺りをキョロキョロと見回し始めた。


「……お前たち、王女はどうもまだ混乱されてるようだ。あまり刺激しないよう丁重に連れ出して差し上げろ」


 レイド将軍にそう言われ、ハイッ! と兵士が敬礼したあと、さぁこちらへ、と王女を連れその場を離れる。


「なんやあんさん。偉く王女に嫌われとるんやなぁ」


 嘲るようなブルームの言葉に、レイドがギリリと唇を噛んだ。


「罪人が調子に乗りおって……」


「わ、私達は、そ、そんな事、し、してません! しょ、証拠は、あ、あるのですか!」


 ヨイが勇気を振り絞るように、レイドに訴えた。納得が行かないと挑むような目つきで彼をみやる。


 するとレイドは一旦瞼を閉じその口を開く。


「証拠? 勿論あるさ。それにな」


 レイド将軍がすっと両の目をこじ開け、その顔を、兵士に捕らえられているエビスに向けた。


「おいエビス。ここまできたらお前も無駄なあがきはやめておいたほうが懸命だぞ。この者達に話を持ちかけられてこの計画を思いついたのであろう? 素直に話せば多少は罪も軽くなるというものだ」


 その言葉に、エビスの口角が僅かに吊り上がる。


「ここまできたら仕方無いねぇ。確かに私は、そいつらにそそのかされて今回の計画を思い立ったのさぁ。今思えば馬鹿な事をしたと思うよ」


 レイドの意志を汲み取ったかのように、エビスは躊躇いなくデマカセを言う。


「いけしゃあしゃあと――」


「ふざけんなよテメェ!」


 叫ぶ二人に、フンッ、とエビスが鼻を鳴らして返した。


「認めたな。これでもう疑いの余地なしだぞ」


 勝ち誇ったような笑みをレイドが浮かべる。


「冗談じゃないわよ! だったらこの状況をどう説明するつもり!」

 

 ミャウが右手を振り上げるようにしながら、部屋の状況を訴えた。

 壁に空いた穴などが激しい戦いの爪痕を色濃く残している。


「どうせ報酬の件あたりで揉め、決裂したのだろう。所詮悪党の関係などそんなものだ」


「あぁ、そのとおりだよ。こいつら、いざその話をすると、これじゃあ足りない等とゴネ始めてね。後はまぁ見ての通りさ」


 そのエビスの二枚舌に、二人は肩を震わせた。


「だろうな。さぁこれでもう十分だろ。いい加減大人しくするんだな。貴様らはこれから王都へ誤送され、後に裁判に掛けられる事になるだろう。まぁこれだけの事をしたのだ、重罪は免れぬと思うがな」


 その言葉に、冗談じゃないわよ! とミャウとミルクが身構え始めるが。


「ま、ここはとりあえず素直に従ったほうが良さそうやな」


 後ろからブルームがそんな事をいい、ヨイともどもあっさりと身柄を拘束された。


 その態度にミャウとミルクも目を丸くさせるも、お互い頷き合い、抵抗を止め彼らに従ったのだった――。





「ひゃんひょ。わひゅひゃ、きゅいひょうひゅにゃっひゃりゅひゃいたひゅい、ひょんふぁ、ひょとひゃ……」


 ミャウの話を聞き終え、ゼンカイが腕組みし、真剣な面持ちで何かを言うが、歯のない状態だとなんとも締りが悪い。


「……な、なんと、わしが、き、気を失って、え~と、そんな事が、そ、そう言ってますわね!」


「あ、凄い。大体合ってるわよ」


 ミャウがそう言うと、ミルクが祈るように両手を握りしめ、やたっ! と顔を綻ばせた。


「おい! お前ら騒がしいぞ! 罪人は罪人らしく大人しくしてろ!」


 恰幅の良い看守が、鉄格子まで近づき怒鳴り上げる。


「罪人って……あんたねぇ! こっちはそんな事認めてないんだからね! 少しは態度に気をつけなさいよ!」


 牢屋に閉じ込められている状態でも、ミャウはなかなか強気である。


「ふん! レイド将軍閣下自らが乗り出しお前たちを捕えたのだ。間違いなどあるはずがないだろう」


「だから! その将軍閣下様が口からでまかせ言ってんのよ! あんたらも可笑しいとか思わないわけ?」

「無駄やで」


 騒ぐミャウに、ブルームが突っ込む。


「あの腹黒なおっさんが、わいらを見張る看守に、何の関係もない者を置くわけがないやろ。きっとそいつもアレの息の掛かったもんやろが」


 その言葉にミャウの瞳が尖る。

 すると看守が醜く口端を歪めた。


「チッ、どいつもこいつも」


 ミルクが吐き捨てるように言うと、ギィッ、と何かの開く音が聞こえ、階段を下る音が地下牢に響き渡る。


「レイド将軍閣下! お務めご苦労様です!」


 そして入り口にいた看守の声が牢屋にいた一行の耳朶を打った――。



 


 

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