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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第四章 アルカトライズ編
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第一三一話 投降

「ゼ、ゼンカイ様、そんな!」


 ミルクが青ざめた表情で取り乱し始めた。先ほどまで若々しいイケメンシェフの姿に変化していたゼンカイは、元の姿に戻ってしまうも、全く起き上がる様子が無いからだ。


 しかし、ミャウが口元に耳をつけ、そして心臓にあたる位置にも手を添え、生存確認を取る。


 すると一人納得したように頷き、頭を上げミルクに目を向け、安心して、と口元を緩めながら伝える。


「息はあるし心臓も動いてる。気を失ってるだけみたいね。変身系は負担も大きいからその影響かも」


 その回答にミルクや、また他の二人もホッと胸を撫で下ろした。


「クッ、クカッ! ぎゃはははっは! 馬鹿が! 変身が解けるとはねぇ! 年寄りの癖に無茶し過ぎなんだよ! ば~~~~か!」


 大口をあけ、下品な笑いを発し、侮辱の言葉を述べるエビスに、残った面々が立ち上がり、怒りを露わにして睨めつける。


「あんたこそちょっと調子に乗り過ぎなんじゃないの?」


「そうだぜ。ステータスががっくり減ってピンチなのは変わりねぇだろうが。正直あたし達は今のあんたになら負ける気がしないよ」


「はん、愚か者どもが! 見ろコレを!」

 言ってエビスが一枚の紙を懐から取り出した。


「そ、それは?」


「クキャッ! 知っての通りさっきの借用書さ! 言っておくがまだ借金は全て回収してないからねぇ! 残った分を今からしっかり徴収する! つまりお前らの装備やアイテムは、すぐにでも奪うことが可能というわけさ!」


 得意気に紙を前に突き出しながら、ギャハハッ、と勝ち誇ったように笑い飛ばす。


「あんたこそアンミの事忘れてるんじゃないの? その借用書はアンミには効果が無いのよ!」


「それこそ馬鹿の考えだ! お前は所詮不幸と貧乏が重なってるからこそ実力が発揮できるタイプ! そのどちらかでも失えば、てめぇなんてお荷物以外のなんでもないんだよ!」


 その返しに、アンミは悔しそうに唇を噛み締めた。


「まぁでも、この私を裏切ったお礼は後でしっかりさせてもらうがな。今までと違って今度は容赦なく! 死んだ方がマシと思えるぐらいの方法でたっぷりとお仕置きしてやる! だがなぁ! その前にまずお前らさぁ!」


 眉間に深い皺を刻みながら、ミャウ、ミルク、ヨイを見回す。


 だが、ふとミャウの目がエビスの手にある紙に向き、じっと確認するように凝視する。

 そして、はっ、とした表情に変わり、頬を緩めて皆にもソレを指さして示す。


「うん? あ、あは! 成る程ね。ははっ、こりゃいいや」


「ほ、本当に、お、お馬鹿さんですね」


 ミルクとヨイが一緒になってクスクスと笑い出す。

 その態度が癇に障ったのか、何が可笑しい! と怒鳴りだすエビス。


「別に。まぁ装備を奪えるというなら奪ってみたら?」


「……はぁ? 馬鹿か貴様らは! まぁいい、言われなくたってやるさ! リカバリー(回収)!」


 朗々と述べ、皆に指を突きつける。だが、え? と戸惑い混じりの一声を発し、エビスは片眉を吊り上げた。


「ば、馬鹿な! どうして、どうして何も起きない!」


 確かにエビスの言うとおり、彼女たちの装備は剥ぎ取られること無く、一ミリも変化が見られない。


「あのさぁ、自分の持ってるソレがどうなってるかぐらい見なおしておいた方がいいんじゃない?」


 その言葉に、何かを感づいたような面持ちで、即座に腕を折り曲げ、エビスが紙の内容を確認した。


「な、なんだ、と? 何故だ! 何故借用書のはずのコレが白紙なんだぁあぁあ!」


 エビスは驚愕の色を顔に浮かべ、叫び上げる。


「きっとお爺ちゃんの力の影響ね」


「……え、影響だ、と?」


「そうよ。お爺ちゃんが変身中に使った請求書とあんたの借用書は効果が似ている。そしてお爺ちゃんの請求とあんたの言う借金の効果が私達の知らない間にぶつかりあっていたのよ。そして同じような能力同士がぶつかり合った場合どうなるか?」


 そこまで言ってミャウが腕を組み得々と続きを述べる。


「その答えは、より力の強いほうが勝つ、そして敗れたほうが能力の効果自体が消える。その結果が、あんたの持ってる白紙よ!」


 ドーン! という効果音が付きそうな程の勢いで、ミャウがエビスに指を突きつける。

 するとエビスの顔が悔しさに歪み、その身をプルプルと震わせた。


「まぁつまり簡単に言えば」


「てめぇは絶体絶命ってわけだな」


「わ、悪いことは。つ、続かないのです!」


「吠え面書くのはあんたの方だったわね!」


 四人の反撃の言葉に、エビスは強く奥歯を噛みしめるが。


「ちょ! 調子に乗りやがって! だったらまた何度でもステータスを上げるだけなんだよ!」


「だったらなんで、さっさとしないんだい?」

 ミルクが意地悪く尋ねる。


「やらないんじゃない。出来ないんでしょ? あんたの能力はバッグを出現させ、さらに引き出して預ける必要がある。それを同時にやる事は不可能」


「と、とても、さ、作業に、じ、時間がかかるのです」


「エビス。一応は仲間だった身としてアンミが教えてあげるけど。あんた調子にのって自分の力見せすぎなのよ。あんたのは本来前もって準備しておくからこそ効果が発揮できるのに、知られちゃったら意味無いじゃん。ばっかじゃないの?」


 畳み掛けるような口撃の追撃に、エビスの顔色が更に変わった。


「言っておくけど、ウィズドロー(引き出し)をさせる暇すらこっちは与える気ないからね」


 ミャウが刃をエビスに向け、ミルクも取り出した両武器を左右の肩に担ぐ。


「くっ! だったらこれだ! 召還!」


 エビスが吠え上げると、彼女たちの周りにあの魔法陣が浮かび上がる。


「ガハハ! 今の私の力でも、この屋敷周辺の仲間を呼び戻すことは可能なんだよ!」


「……全く往生際が悪いね。今更雑魚がなんぼ現れたって一緒だろうに」


 ミルクが吐き捨てるように言う。

 しかしエビスは不敵な笑みを浮かべている。きっとエビスは、ほんの少しの時間稼ぎでもいいという考えなのだろう。


 そう、少しでも時間があれば、デポジット(預金)まで持って行くことが可能だと。例えそれで十分な力を得られるまでに行かなくても、最低でも逃げることは可能ではないかと――だが。


「待って! これ、何も現れない……」


 ミャウの言うように、魔法陣は浮かび上がるも、そこからは誰も姿を現さない。


「何! そ、そんな馬鹿な! 屋敷にはまだまだ私の部下が――」

「無駄やで」


 狼狽するエビスに向かって、聞き覚えのある声がぶつけられる。


「え?」


「あんた!」


「ブ、ブルームさん!」


 声のする方に全員が振り返る。すると入り口の前では確かにあのホウキ頭がそそり立っていた。


「全く厄介な鍵をかけよるのう。解除にちょい手間取ってもうたわ。でもまぁ、皆無事そうで何より……」


 そう言いながら、皆に向かって歩みを進めるブルーム。

 するとその身に、勢い良く駆け寄った白い塊が飛び込んでいく。


「ブ、ブルームさん、ヒック、うぇぇえ~ん」


「な、なんやヨイちゃん。突然どないしたんや?」


 ヨイの大きな瞳からは堰を切ったように大量の涙が溢れていた。

 平気そうな顔はみせていても、あんな目にあったのだ。ブルームの顔を見たことでプッツリと緊張の糸が切れてしまったのだろう。


「全く。あんたも呑気ね。言っておくけど、ヨイちゃん、あいつに相当ひどい目に合わされてるんだから、きっちりケアして上げなさいよ」


 顔を眇めながら、ミャウが命じるように言う。


「はぁ? 呑気って……なんやようわからんが。ヨイちゃん辛くても頑張ったんやな。偉いで」

 言ってブルームがフードの上からその小さな頭を撫でる。


 そして、顔をエビスに向け、細い目をこじ開けた。その瞳に宿る光は、狼のソレである。


「クッ! き、貴様ぁ! 無駄とは一体どう意味だよ!」


 エビスが指を突きつけ叫びあげる。だが顔中から玉のような汗が吹き出し、正直余裕が感じられない。


「あん? 言うた通りや。屋敷のあんさんの手のもんは、ほぼ全員わいの仲間が倒したで。まぁさっさと諦めて降伏したのもおるがのう」


「な!? クッ! こ、こんな事して只ですむと思ってるのかなぁ? この街は実質私の物! あとから必ず――」


「何言うとんのや? 只ですまんのはあんたの方やで? 隠しとった資料は全て回収させてもろたし、今頃わいの仲間やあんさんに手ひどい目にあった下のもんが内容を吹聴して回っとるわ」


 その言葉に、あがっ!? とエビスが絶句してみせた。


「しかしあんさん少々派手にやりすぎやで。この街は確かに表の法とは無縁の裏の街や。やが、それでも裏には裏で守らなあかんルールもある。やのに――」


 その小さな双眸に怒気が篭もる。


「街の人間に高い借金背負わせ、実験体にするための薬を掴ませるとはのう。騙し騙されが当たり前の世界とはいえ、このやり方は流石に度が過ぎとるわ。街のもんも黙っとらへんで? 残念やったのう。これであんさん街中を敵に回してもうたで?」


 ブルームの言葉が終わると、ヴぁ、ヴぁ、と声にならない声を発しながら、エビスが力なく膝から崩れ落ちた。


「ふん。いよいよ観念しおったかい。けどなぁ、わいの大事なパートナーであるヨイちゃんにまで随分酷い事してくれたようやし、無事に済むだなんて思わんほうがえぇで?」


 エビスがそっと頭を上げると、そこには珍しく感情をむき出しに鬼の形相を浮かべたブルームの姿。

 すると、ひぃ! とエビスの情けない悲鳴。そして、同時にバタバタと多くの足音が近づいてくる。


「え? 誰か来たの?」


「あぁきっとわいの仲間や。屋敷を制圧し終えたから手助けに――」


「そこまでだ! この街と屋敷は我ら王国軍が完全に包囲した! 全員無駄な抵抗は止め武器をすてて大人しく投降しろ!」


 部屋中に響き渡る予想外のその声に、ブルームは思わず眉を顰め、他の面々も唖然とその場に立ち尽くすのだった――。

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