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老後転生~異世界でわしが最強なのじゃ!~  作者: 空地 大乃
第四章 アルカトライズ編
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第一三〇話 スペシャルメニュー

「ちなみに彼女の服や料理の材料は全部、君の持ってるものから使わせてもらったよ」


 ゼンカイは更にしれっと言い放った。その言葉にエビスが指をプルプルと震わせている。


「クッ! 勝手なことばかりいいやがって!」


「君がこれまでやった事を考えれば、これぐらい安いものだと思うよ。あ、1,000,000エンもお支払いありがとうね」


 ウィンクを決めながら何気に料金をゲットするゼンカイ。勿論その分、さらにエビスのステータスは下がる事になる。


「す、ステータスがまた……」


「まぁそろそろ本当に覚悟決めた方が良さそうね」


「散々あたし達を辱めてくれたお礼はしないとな」


「あ、あんな事して、ぜ、絶対に、ゆ、許しません!」


 ゼンカイの横にミャウ、ミルク、ヨイの三人が並んだ。

 当然だが女性陣の怒りは相当なものである。


「さて。どうするのかな? と言っても。流石にもう運命は決まってるとは思うけどね」


 髪を優雅に掻き揚げキラキラエフェクトをまき散らしながら、余裕の笑みで白歯がキラリ。


「ぐ、ぐふっ! ぐふふっ! 甘い甘い甘い甘い甘~~~~いぃいい!」


「うん? 君にはデザートは出してないと思うけどね?」


「はっ! 下らない事言ってるけどね! 切り札は最後までとっておくものなのさ!」


 そういうが早いか、エビスはエルミール王女に腕を伸ばした。


「イケメンパスタ!」


 だが、エビスの手が、エルミールの身体を掴むその前に、ゼンカイのスキルが発動。左右の手からロープのように長く丈夫なパスタが飛び出し、エビスの身体にくるくると巻きつき縛り上げた。

 

 そしてもう一方のパスタもエルミール王女に巻き付く。しかしこちらに関しては熟れに熟れたマンゴーに手を掛けるが如く、優しくそれでいてしっかりとその身を包み込み、ゼンカイ達の前まで引き寄せられていく。


「君のような、下衆な人間の考えることは本当に判りやすいね」


 ため息混じりにゼンカイが言う。


 だが当のエビスは、巻き付いたソレを何とかしようと必死なようだ。


「ちっ、畜生が! な、なんだこの鬱陶しいものは! くそ! くそ!」


「悪いけど特殊な小麦粉と、究極の捏ね方で創りあげたパスタさ。そう簡単に千切れやしないよ」


 エビスは、ムギィ! グギィイ! と顔を真っ赤にさせて抜けだそうと試みてるが、確かにパスタはびくともしない。


「さぁ、それじゃあ君専用に決めるよ! イケメンフルコース!」

 

 そう叫びあげ、藻掻くエビスに駆け寄り、オードブル! とフォークをぶっ刺し、スープ! と巨大スプーンで頭を殴りつけ、メインデッシュ! とナイフで斬りつけた。と、同時にパスタも切れエビスが吹き飛ぶ。


「ぐ、がぁ、い、イテェ、畜生!」


 腹部を押さえながら憎々しげにゼンカイを睨むエビス。


「中々しぶといね! でもこれで決める! 本日のスペシャル!」


 そう言ってゼンカイが、パチン、と指を鳴らした。その瞬間、エビスが泡の中に閉じ込められる。


「こ、今度は何だ!」


 慌てた様子で泡を叩くエビスだが、弾力性に富んでおり、全く割れそうにない。


 そして、その泡の中に、ゼンカイが何気に現出させた袋の中身をぶち撒けた。


「ゴホッ! ゴホッ! な、なんだこれ! 白い粉?」


「パスタといえば小麦粉!」


 朗々とゼンカイが発言し、エビスが目を丸くさせる。


「そしてイケメンと言えばキャンドル――」


 髪を掻き揚げながら、ゼンカイがこれまたどこからともなく、炎の灯ったキャンドルを取り出してみせる。


「な!? 貴様何をする気だ!」


「……判らないかな? その泡の中は非常に密閉された空間。そして大量の小麦粉とキャンドルとくれば?」


「く、くれば?」


 そう! とゼンカイがクルリと回転し。


「これがイケメンスペシャルメニュー!」


 語気を強め、そして――その手のキャンドルを泡の中へ。

 その瞬間泡の中に舞う小麦粉が燃焼し、そして――。


「華麗なる小麦粉()()聖炎の輪舞曲(爆発)――」

 

 静かに呟き、軽やかな動きで身を翻したその瞬間、その背後で大爆発が起き、轟音と衝撃波が彼の横を突き抜けた。


「やったわ!」

「あぁ――流石ゼンカイ様! これなら流石に無事じゃすみませんわ!」

「あ、悪は滅びる、の、のです……」

「汚らしい屑の肉片なんか拝みたくありませんけどね」

「ゆ、勇者、さ、ま?」


 ミャウ、ミルク、ヨイ、そしてちゃっかりアンミも、エビスに決められた大技に感嘆と喜びの声を漏らす。

 エルミールに関しては少しだけ光の戻った瞳でゼンカイを見据え、疑問符混じりの声を発す。もしかしたら誰かと勘違いしてるのかもしれない。


 そしてゼンカイは、彼女たちに応えるように、笑顔を覗かせるが――その額にはかなり汗が滲んでいた。

 

「ぐひゅ! ぐひゅ、ひゅぐうぅうう!」


 え? とゼンカイが後ろを振り返り、彼女たちも目を見張る。


「ク、ククッ、どうしたのかな? そんな顔して……?」


 煙が掻き消え、中から姿を現し声を発したのはエビスであった。

 身体のあちこちに出来た痣や焦げ跡が、爆発の爪痕を感じはさせるも、両の脚に根を張り、しっかり立ち続けている。


「くそ! なんてしぶとい奴だい!」

「エビス――ゴキブリみたいな奴!」


「まさ、か、まだ立ってられる、なんて、ね……」


「……何か様子がおかしい?」


 どうやらミャウは、ゼンカイの変化にいち早く気がついたようだ。

 そう、彼の声はどこか辿々しく、圧倒的に有利な状態の筈なのに息も荒い。


「くひぃ! あの時拘束を解いたままだったのがまずかったねぇ。おかげでギリギリのところでデポジット(預金)して、ステータスを底上げしたよ」


 エビスが口端をいやらしく歪めた。


「そ、そっかぁ。でも、アノ技は消費が激しくてね……パスタとの併用は、む、り――」


 そこまで口にすると、ゼンカイがドサリと床に倒れてしまう。


「え? そんな! どうしちゃったのよ!」


「ゼ、ゼンカイ様!」


「か、回復、ま。魔法を――」


「そ、そんな、まさかアンミを助けたから?」


 四人が倒れたゼンカイに駆け寄り、心配そうにその顔を覗きこむ。


「アハッ。どうやらちょっと無理しすぎたみたいだね。参ったなぁ。こんなとこで、ご、めん、ね」


 最後にそう言い残し、ゼンカイがそっと目を閉じる。


「え? やだ、嘘でしょう!」

「そんな! ゼンカイ様!」

 

 ミャウとミルクの二人が慌ててその身を起こそうとするが、次の瞬間、ゼンカイの身が淡い光に包まれた。かと思えば段々と彼の身体が縮み……。


 遂には元のゼンカイの姿に戻ってしまうのだった――。

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