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第十三話 ゼンカイ試練の時

 ゼンカイとミャウの二人は、途中、件のスダイムの遺体から斧を回収したりしながら、その歩みを進めていた。


 ミャウの話では現在の位置で洞窟の半ばぐらいとの事だ。

 時間は戦闘も含めて一時間程過ぎた感じである。


「のうミャウちゃんや。折角の洞窟じゃ宝箱とかないもんかのう」


「宝箱?」


「そうじゃよ。定番じゃろ? 洞窟といえば宝じゃ!」


 ゼンカイは前方を注視しながら声だけでミャウに問いかける。

 すると彼女が目を瞬かせ。

「誰がこんな洞窟に宝箱設置するの?」

と逆に質問してみせる。


「……スダイム……とかかのう?」


「スダイムにそんな知識は無いわねぇ」


 ゼンカイを言下に否定する。

 ミャウ、中々冷静な猫耳である。


 なお、宝箱という物が全く存在してないわけではなく、古代のダンジョン等に行けばあったりするらしい。


 だがゼンカイのレベルでは、それに挑戦するのはまだ早いようだ。


 とりあえず現段階ではゼンカイにとってはレベル上げの方が先決であろう。


「おお! なんかいるぞい!」


 ゼンカイが何かを見つけたようだ。

 確かにミャウのもつランタンに照らされて黒い塊が天井でもぞもぞ動いている。


「何かきもいのぅ」


 ゼンカイは厭わしげに眉根を下げる。

 天井で多量に光る双眸は、二人を捉えて放さない。


 異常に鋭いソレからは、はっきりとした敵意が読み取れる。

 生物は逆さまになるような格好で天井からぶら下がっていた。


 翼があるようだが現状は折り畳まれているようである。

 この生物が蝙蝠の類であることはゼンカイにもすぐに判った。

 体長はミャウの頭とくらべて一回りほど大きい。


「あれはね……」

「待った!」


 ミャウが説明しようとするのをゼンカイが止めた。

 そして両眉をひくひくと上下させ、自信満々に口を広げる。


「あれの名前はきっと! そうじゃ! きっとセバスチャンじゃ!」


 何故そうなった。


「いや、バットコミュニケーションだけど」

 ミャウが残念そうに眉を落とす。

 だが流石にそれはわかりっこない。


「まぁ長いからバットと略す人のほうが多いけどね」


 補足されたおかげで大分普通な感じになってしまった。


「自信あったのにのぅ」

 ゼンカイが淋しげに肩を落とす。

 何故あれで自信持てたのかはさっぱり謎だ。


「しかし結構おるのぅ」


 改めてバットへと身体を向け、ゼンカイは多量の瞳を見上げる。


 黒目の無いソレはランタンの光も相まってよりギラギラと輝いて見える。

 数は八匹程度。現状動きは見せてこない。


「恐らく、あともう少し踏み込んだら、一斉に襲ってくるわよ」

 

 ミャウがゼンカイに注意を促す。

 勿論それはちかづくなという意味ではない。

 依頼内容が魔物の駆除である以上、ここでおめおめと逃げ帰るわけには行かないのだ。

 

 しかしかと言ってミャウも手伝う様子は見せない。

 あくまでゼンカイ一人に片を付けさせるつもりなのだろう。


 ゼンカイはうむぅ、と唸りながら髪の無い頭を擦った。

 ランタンに照らされ、バットの瞳に負けないぐらいギラギラしている。


「そうじゃ」


 ピシッと何かを思いついたように側頭部を叩く。


「【アイテム:スダイムの斧】!」


 ゼンカイが唱えると右手に斧が出現する。

 だがそれでは入れ歯より攻撃力が弱くなってしまう。


「いくぞい」

 言ってゼンカイが大きく振りかぶる。

 成る程、どうやら投擲によって先制攻撃を決めるつもりのようだ。


 その様子を見ていたミャウが、ゼンカイを視界に収めたまま後方へと飛び跳ねた。その表情も堅い。


「いくぞい!」

 気合を込め、黒い塊目掛け投げつける。


 だがゼンカイの手を離れた斧はバットに当たる事叶わず、山型の軌道を描きながら暗闇の中へと消えていく。


 ゼンカイのコントロールが悪かった等という事ではない。

 斧が飛んできた事でいち早くバットがその場から飛散したのだ。


 閉じていた飛膜を開き、敵意を殺気に変貌させ、黒の集団が四方八方からゼンカイへ襲い来る。


「むむむぅ! 小癪な!」


 声を上げ入れ歯を右手に持ち構えを取る。


 数匹のバットがゼンカイに迫った。

 飛膜から飛び出た爪は薄くそれでいて刃のように鋭い。


 どうやら敵は、滑翔しながら獲物を切り刻む戦法をとるようだ。


 ゼンカイはよくその動きを見ながら、向かってきたバットに入れ歯による右ストレートを重ねた。が、しかし歯がその身を捉える寸前に軌道を変え、避けると同時にその腕に傷を残す。

 

 いぬぁ! と思わずゼンカイが怯む。

 すると更に別のバットがすれ違いざまに肌を斬り裂いていく。


「うぬぉ! ぐぃ、ぐぁいのう! どうあにふりゅんずぁ!」


 どうやら口を継ぐは相手に対する抗議のようだが、当然魔物がそれで容赦するわけもない。


 ここにきて初めてダメージという物を受けたゼンカイだが、それは更に手痛い物となった。

 

 バットは単独では動かず常に何匹かに纏まって攻撃を仕掛けてくる。

 革の装備に身を包まれているゼンカイだが、庇いきれてない箇所も当然ある。腕や顔がそうだ。


 そしてバットの鋭利な爪は防具に守られていない肉肌を的確に狙ってくる。

 ゼンカイは何とか一撃を叩き込もうと入れ歯を持った右手をぶんぶんと振り回した。


 攻撃力で考えれば、一発でも当たれば確実に撃破出来るはずなのである。

 だが当たらない。

 かすりもしないのだ。


「く、何でじゃ! 何で当たらんのじゃ!」

 一旦入れ歯を戻し魔物たちの動きに着目する。

 ゼンカイの表情に焦りが見える。

 喰らい続けた傷も段々と深くなっていてかなりまずい状況だろう。


「仕方ないかな……」

 大きく息を吐き、ミャウが一歩動いた。

 右手は剣の柄に掛けられている。が、しかし――。


「ミャウちゃんストップじゃ! もう少し、もう少しで何かが閃きそうなんじゃ!」


 ゼンカイが手を後ろへ振り上げミャウの行動を止めた。

 言葉からは覇気のような物も感じられ、大真面目に何かを考えめぐらせているのが判る。


 一旦反撃の手を止め、回避に専念しながらも、ぐむむ、と唸り上げ、ゴブリン以下と評価されている頭をゼンカイは必死に振り絞った。


「確かあの斧も……あの攻撃もタイミングは、蝙蝠――動物ランドで確か……」


 ゼンカイは生前新聞こそ全く読んでいなかったが、テレビは大好きだった。

 そしてその中の記憶の一部が彼に光明を照らす。


「そうじゃ! これならば!」

 言ってゼンカイはバットの攻撃の波を駆け抜けた。

 その先は――洞窟の端。その壁際に背中を預けたのだ。


 バットが一斉にゼンカイの周りを取り囲んむように集まる。

 言葉こそ話さないものの、馬鹿め! とでも言っているような雰囲気が感じられた。


 当然だがこれで逃げ場は無い。

 バットはゼンカイの頭より少し上方で飛膜をバタバタと前後に動かしながら、中空から俯瞰している。

 

 ただ勿論そんな状況を作り出したのはゼンカイ本人であり、まるで敢えて死中に活を見出そうとしているようでもある。


「ふん!」

 ゼンカイは、勢い良く一つ鼻を鳴らした。

 そして顔をもたげ、左の掌を天井に向けた常態からクイクイッと指を数度曲げた。


 完全に相手を挑発している。


 果たしてバット相手にその挑発が通じたのかは定かではないが、ゼンカイの所為とほぼ同時に今度は五匹のバットが同時に仕掛けてきた。

 一匹は正面から、残りの四匹は左右半々に判れ、内側に抉りこむように向かってくる。


 その動きを見るやゼンカイも口元に右手を添え、半身の構えで迎える。


 そして五匹のバットが今まさにゼンカイの身体を切り刻もうとした瞬間、風切り音が外側へと弾けた。


 バットの爪がゼンカイの身を斬り裂いた音であろうか。いや違う。

 それはゼンカイが入れ歯を抜いた音だった。


 そうして放たれた一閃は、ゼンカイに肉薄していたバットの内の四匹を巻き込み薙ぎ払い右の壁へと叩きつける。


 強烈な一撃によって、飛膜を広げたまま、一時的に壁画と化したバット達。

 だがすぐに四匹同時に地面へと落下していく。


 ポトンという情けない音だけゼンカイの耳殻を打つ。そして地に落ちた哀れな魔物は、そのまま動かなくなった。


 ゼンカイが、ふぅ、と一つ息を吐き出した。

 口にはしっかり入れ歯がはめられている。

 一撃を終えたと同時にすぐに戻したからだ。

 おかげか右手は少し湿っている。


「これぞ新技【ぜいい(ゼンカイ入れ歯居合)】じゃ」

 静かにそう述べ瞳を光らせる。


 よもやここに来て新たな必殺技を編み出すとはゼンカイ見事である。

 因みに唾液の作用で入れ歯の抜き具合は上々だったようで、その抜きの鋭さこそがバットを倒す鍵でもあった。


 バットは敵の位置や動きを超音波を使って知る魔物である。

 これはゼンカイのいた世界の蝙蝠の性質と殆ど一緒だ。


 その為、入れ歯を抜いて構えていた状態では動きを気取られ、攻撃を当てることが出来なかったのだ。


 ゼンカイはその性質を、以前見た番組の内容を何とか引き出し思い出した。


 その結果考えついたのが、居合による攻撃。

 これによってゼンカイは、バットを十分に引きつけた上で、超音波による反応を凌駕する一撃を叩き込んだのだった。


「おお! なんか身体がうずうずするぞい!」


 ゼンカイが興奮したように声を上げ、L型に両腕を曲げ拳を握る。

 まるで若返ったような、そんな躍動感が内と外を駆け巡っていた。


「お爺ちゃん、レベルアップしたのよ!」

 ミャウがゼンカイの疑問に応えるように言を発した。


 声の鳴る方を一瞥し、

「これがレベルアップかい」

と掌を開けて閉めてと繰り返す。

 

「これならもう問題無さそうじゃわい」

 一人呟きその身を俯瞰してくるバットの群れを見上げた。残った数は後四匹。


 残党は、先ほどよりも更に高い位置からゼンカイを見下ろしている。

 その位置も、より近づいてきているようだ。


「キィイィ!」

 甲高い鳴き声を発すと、四匹が一斉に襲いかかる。

 

 先程よりも速度を上げ、ゼンカイの斜め上からの急降下。

 だが攻撃を仕掛けたその瞬間には既にゼンカイは地上に居なかった。


「上じゃよ」

 若干の嗄れた声にハット達の耳が大きく揺れ動く。

 

 直後に訪れる衝撃。背後を狙われたバットにはもう超音波も役に立たない。

 

 ゼンカイは先ず居合で一匹を仕留め、後は抜いた状態のまま歯を振り回し、残りの四匹も地面へと叩き落とした。


 それがレベルアップの恩恵なのか、最初の苦戦が何だったのかと思えるほどの快勝。

 中空で一回転し着地する爺さんは、どこか頼りがいのある風格まで感じさせた。


「やったぞい!」

 ミャウを振り返りピースを決めるゼンカイ。

 その姿にミャウが微笑み返すと、ゼンカイが猛ダッシュで駆け寄り、

「ミャウちゃ~ん。わしやったぞぉぉおい!」

とその胸まっしぐらに飛び込んだ。が――。


「調子に乗らない!」

 

 あっさりその拳に打ちのめされるのだった。


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