第一二四話 絶望と希望
2014/12/19 マイルドに修正しました
突然の億を超えるという借金の請求に、皆の顔色が変わった。
だがすぐに表情を戻し。
「ば、馬鹿言ってんじゃないわよ! そんなお金払うわけ無いじゃない!」
「全くだ。ゼンカイ様だってこんな男に支払う必要ないですわ!」
「わ、私、な、何も、か、かりてない、の、に……」
「えぇい! そんな出鱈目な真似許される筈が無いじゃろうが! 大体皆には関係ないことじゃ!」
ほぼ全員が怒気の篭った声をエビスにぶつける。
だが彼は顔を歪ませながら醜く口を開き。
「グフッ。お前たちの意志なんて関係が無いのさ。これは私のチート能力。だからね――リカバリー!」
エビスが叫びあげ、一行に指を突き刺す。
その行為に、一瞬身を捩る四人であったが、特に変化は見られず目を瞬かせる。
「何? 何が起きたっていうの?」
不思議そうに口にするミャウであったが、エビスは、アイテムボックスを見てみろ、と言い放ち。
「アイテム……あ! な、中身が全部なくなってる!」
「あ、あたしも……」
「わ、わたしも、で、です」
「本当じゃ! アイテムもお金も全てなくなってるのじゃ!」
そう、エビスのその力によって彼らのアイテムボックスの中身が全て消失してしまっているのだ。
「ぐふふ。これが私の力。貸したお金の分を強制的に徴収する。お金が無ければアイテムもね。因みに君たちの持ち物は全て私の無限ボックスに転送されたよ。でもね……当然これだけじゃ足りない。だから……リカバリー!」
再びエビスが指をさしチート能力を発動させる。
その言葉に、こ、今度は何を、と不安な表情を覗かせる四人であったが。
「う、うぉおおおぉおおお!」
「こりゃすげぇえぇえ!」
「ひゃっほぉおおおおう! たまんねぇぜ!」
周囲の男たちが突如色めきだった。そして彼女達の姿をみやったゼンカイの目も皿のように丸くなる。
「え? お爺ちゃんどうし、て! キャァアアァアア!」
「な、なんだよこれえぇえ!」
「い、いやですぅ、こ、こんなぁあぁ!」
ミャウ、ミルク、ヨイの三人がその身を腕で隠すようにしながら、勢い良く屈みこむ。
その姿は……装備品なども全て失われ、一糸纏わぬものに変わっていた――
「ぬほおおおぉおお! なんてことじゃ! なんてことじゃ! なんで! は、裸なのじゃあぁあぁあ!」
ゼンカイ興奮気味に叫ぶ。いやゼンカイだけではない、周囲の男共も涎を迸らせ、股間をふくらませている。
「あ~っはっは! どうだい! 言い様だねぇ? 君たちの装備も下着も全てまとめて回収させて貰ったよ」
「わ、わしの下着は無事じゃぞ!」
ちなみにゼンカイもしっかり防具などは盗られていた。
「ジジィの汚らしい下着に値がつくはずないだろうが」
エビスが吐き捨てるように返す。
「まぁとはいえね。何せ金額が金額だ。これでもまだ足りないから、残りの分は、しっかり身体で払ってもらうぞ! さぁお前たち、お膳立ては整った! そいつらは完全に無防備! 好きなだけ楽しむがいいさ!」
エビスの声に男共から、オオォオオオォオオ! と歓喜の声が上がった。
そして裸になった女達に容赦なく男共の魔の手が伸びる! が!
「ちょんわ!」
ゼンカイが速攻で女性陣の間に入ってその入れ歯を振るった。その連続攻撃で次々と男達が吹き飛んでいく。
「わしの大事な仲間には指一本ふれさせんぞ!」
「ゼ、ゼンカイ様……」
ミルクは感動のあまり瞳をうるうるとさせた。
「ふむ。そういえばジジィのチートは入れ歯って話だったか。だったらリカバリー《回収》!」
そう言って再びエビスがチート発動。すると、ふごぉ! とゼンカイの顔色が変わり。
「にゃ、にゃじゃ、わひゅにょ、うぃるぇびゃぎゃ……」
「そ、そんな! まさかお爺ちゃんの入れ歯が!」
その通りさ、とエビスが口にし。
「これがそのチートの入れ歯ねぇ? 只の小汚い入れ歯にしか見えないけどなぁ」
その手に入れ歯を持ち、汚らわしい物でもみるように眺める。
「!? きゃぃしぇ! わじゆいにょ、にゅりぇびゃ……」
「ふふ。悪いけど返さないよ。でもこんなもの金にもならないからね。おい、アンミ」
エビスが隣で立ち続ける人物に声を掛けた。するとその長い黒髪が前後に動き、かと思えば彼は入れ歯をアンミに向かって放り投げる。
「……ク・ホー――」
ブツブツと、恐らくは女であるアンミが何かを口にすると、その瞬間彼女の目の前にその身を包み込めそうなほどの大きさの黒い球体が現れ、ゼンカイの入れ歯を吸い込んでしまう。
「うぁぁがあぁあ!」
ゼンカイが声にならない声で叫んだ。長年連れ添った大事な入れ歯が消え去ったのだ。このショックは計り知れない。
「ぐふふ、言い忘れてたけどね。この娘も私と同じ転生者のチート持ちさ。まぁ今のは彼女のジョブである【ダークマジックセンス】のスキルだけどね。あの球体に吸われたアイテムは、もう二度と戻ってこないよ」
エビスが得々と話し、そして唇を歪める。
「さぁ! これでこいつは只の糞ジジィさ! 今度こそ邪魔者はいない! たっぷりとたのしめ――」
「あぎゃぁあぁ!」
エビスが両手を広げ、叫びあげようとした直後、彼女たちを取り囲んでいた男の一人が宙を舞った。
「ナメんじゃないよ! 例え装備が無くたって! 裸だからって! あんたらごときにあたしはヤラレはしないよ!」
男を打ちのめしたのはミルクであった。先ほどまで自らの身体を隠していたが、開き直った顔で立ち上がり、生まれたままの姿のまま仁王立ちしてみせる。
「ぶひっ!」「ぐひょ!」「けちょん!」
ミャウにその手を伸ばした三人が、彼女の掌打によって鼻を潰され、肘鉄で肋骨を折られ、そして蹴り上げられた事で大事な玉が潰された。
「ミルクの言うとおりね。こんな事で恥ずかしがってたら冒険者なんてやってられないわよ!」
そう言って、素手での構えを取り、ミャウが男共に睨みをきかせる。
「ビ、ビッグ!」
ヨイの体中が、恥ずかしさからか真っ赤に染まっていたが、それでも頑張って男共の手からこぼれ落ちたメイスを拾い、集団に向かって投げつけチートを発動させた。
「な! でか!」
「お、落ちて――」
「ヒッ、ビィイイイイイ!」
ソレに気づき逃げ惑う手下達。だが一歩遅く、巨大メイスの下敷きとなり何人かの男共が意識を失った。
「さぁお爺ちゃんもいつまでもしょげてないで! 確かに入れ歯は失ったかもしれないけど、これまでやってきた旅は無駄では無いはずよ!」
「そうですゼンカイ様! 戦いましょう!」
相棒の入れ歯を失った事に打ちひしがれていたゼンカイだが、二人の言葉が彼の闘争心を再び呼び覚ます。
「ひょんゅわ!」
ゼンカイが仲間に群がろうとする男の一人に飛び蹴りを放った。その蹴りが見事に敵の横面を捉え、ふがぁあ! と声を上げ相手は吹き飛んでいった。
「そうよ! お爺ちゃんだって、まだ戦える!」
「流石ですわゼンカイ様!」
「お、お爺ちゃん、す、凄いです!」
ゼンカイの復活もあって皆の顔に希望の光りが灯った。例え装備を失った状態でも、切り抜けられる! そう皆の顔に自信が満ち始めていた。が――。
「――クネス……ング」
エビスの隣に立ち続けるアンミが、蚊の鳴くような声で何かを口にした。
その瞬間、四人の周りに凶々しい黒色のリングが出現し、そして一気に締め上げた。
「え!?」
「な、なんだよこれ! クッ、これじゃあ自由が」
「な、なんですか、こ、これ、ち、力も、ぬけ……」
「うぎょおぉおおお、うりょぎぇんにょりゃぁああ!」
リングによる拘束で、四人が地べたに伏せた。
その姿を醜悪な笑みを浮かべエビスが見下ろし、口を開く。
「それはこの貧困な【ウエハラ アンミ】によって作り上げられたダークネスリング。相手を拘束し更に力を奪う。クククッ、いやぁしかし彼女はやっぱり使えるよ。貧乏であればあるほど強くなる彼女と、金を貸しひたすら不幸にさせることが可能な私はとても相性がいい」
そういいながらエビスが彼女の髪を思いっきり引っ張った。
「あぐぅううぅう」
アンミの呻き声に、ミャウの目が尖る。
「あんた! その娘は仲間じゃないの!」
「うん? 仲間さぁ。だからこうやって痛めつけてやってるのだよ。何せ彼女のジョブのダークネスセンスは、負の力を媒体にパワーアップするジョブでもある。貧乏な事が力に繋がるチートを持ち、負の感情を糧とするジョブを持つ彼女は、わたしにとっては最高の手駒であり、玩具なのさぁ」
そう言って、ゲヒャゲヒャゲヒャ! と胸糞の悪くなるような笑い声を上げる。
「ひ、酷い――」
「正直敵とはいえ同情するわね……」
「あの野郎! 絶対ぶっ飛ばしてやる!」
床に転げた状態のまま、怒気の篭った瞳で睨めつける四人。
だが――。
「ふん! そんなくだらない琴より少しは自分の心配をするんだね。流石にその状態じゃもう……抵抗は出来ないよ」
エビスが何かを暗示するように、舌で唇を舐めまわす。そして、彼女達の周りには、下衆な笑いを浮かべた男共の姿。
「ひゃ! ひゃめいりゅぎゅりょにゃ!」
入れ歯のない状態で叫びあげ、ゼンカイが必死に身体を動かす。しかし思ったように力が出ないのか、ひょこひょこと尺取り虫のような動きで進むことしか出来ず。更にその周りを屈強な男たちが取り囲んだ。
「ジジィ! てめぇは黙ってみてろ!」
「くけけけけ! 大切な仲間が蹂躙されるのをその眼に焼付けな!」
「だが! 死なない程度には痛めつけさせてもらうぜ!」
男共が身動きの取れないゼンカイに拳を振るい、蹴りを放つ。
「ぎゅふぇ! ひ、ひゅんな……」
男たちの脚の隙間から必死に手を伸ばし、皆を助けに向かおうとするゼンカイ。
だがその視界の先では。
「ぎゃはははぁ! この胸最高ぅうううぅ!」
「ちょう柔ケェしでけぇ! ほら挟み込んでやるぞ!」
熱り立った男共が、ミルクの大きな柔肉を乱雑に揉みしだいた。あまりの強さにその肌にくっきりと手の跡が滲む。
「い、痛い! や、やめろ! へ、変なとこさわるな! ち、くしょう……」
男勝りで女だてらに巨大な武器を振り回してきたミルク。ゼンカイ以外には決して弱さを見せない女戦士も、何も出来ず蹂躙され、その瞳を涙で濡らした。
(ミ、ミルクちゃんや……)
「さぁ、いつまでも抵抗してんじゃねぇぞ!」
「う、うぅうう、ちっくしょう……」
「あん? んだその眼は? 所詮ただのメス猫のくせによぉ!」
ミャウの顔に嫌らしい男の荒い息がかかる。
だがその直後ミャウがその薄汚い鼻っ柱に噛み付いてみせた。
だが――ニヤリと男が口角を吊り上げ。
「全然痛くねぇなぁ! てめぇを縛り付けてるスキルの効果で全く力が入ってないんだよ! へへっ? どうだ? 悔しいかよ! このメス猫がぁああぁあ!」
嬉しそうに舌なめずりをしてみせるその姿に、ミャウの顔が歪んだ。彼女の眼にも悔しさからか涙の膜が貼られている。
折角皆のおかげで、畜生扱いされていた環境から抜け出せたと思っていたのに。また汚らしい男共に嬲り、汚され、動物のように扱われ、それが悔しくて堪らないのだろう。
(ミャ、ミャウちゃんにまで!)
「ぐへへへぇ。いいねぇ~このツルペタ感。あぁ幼女さいこーーーーーー!」
「い、いやぁあああああ! た、助けて、ブ、ブルームさん、た、助けて――」
「おいおい、お兄さんたちが折角可愛がってやろうってのに、別の男の話かい?」
「まったくツレないねぇ。でもこの様子だと当然まだ経験ないだろ?」
男達の薄汚れた手が、ヨイのまだ未成熟な身体に伸ばされる。
「い、いやだぁ、そ、そんな放してぇ~~!」
「だいじょうぶだよぉ。ヨイちゃんみたいな可愛らしい子なら、おじさんいくらでも優しくしてあげるからねぇ~」
「ヒ、ヒック、い、いやだぁ、いや、だ、よぉ~」
ヨイの顔が涙でぐしゃぐしゃに濡れた。だが、その涙さえも男共はウマそうに飲み干していく。
(ヨ、ヨイちゃん。あ、あんな幼気な娘にまで……)
「あぁああ! もうボス! 俺らたまんねぇっすよ! あれっすよね! もうやっちゃっていいですよね!」
「ふん。そんなの断る必要もないさぁ。たっぷりとかわいがってやんな!」
よっしゃぁあぁあ! と一気に盛り上がりをみせる男共は、もはや発情期の野獣と変わらない。
「さぁ! 幼女のは俺が頂くぜ!」
「だったら俺はこの乳のでかい姉ちゃんだ!」
「い、いやだ! そ、そんなの、い、いやだ~~!」
「や、やめろ! やめてくれ。あたしはまだ、そこは大事な――」
「おいおいマジかよ! このおっぱいねぇちゃん初めてだってよ!」
「ソレ最高! 絶対俺が頂くぜ!」
「いや俺だ!」
「もう面倒クセェから全員で一緒に楽しもうぜ!」
「よっしゃ!」
「こっちの猫耳は随分と経験豊富そうだな!」
「全くだ。これは相当な男と経験してるぜ!」
「本当とんだ淫売だ! こんな顔してる癖によ!」
「な、何よ勝手なことばっかりいいやがって! 話せこ、グブォ!」
「だまれよ馬鹿。まだ殴っれてぇのか?」
「本当生意気だな。でもこいつもしかして痛いのがすきなんじゃねぇの?」
「おうだったら俺らでたっぷり傷めつけながら楽しもうぜ!」
「おいおいマジかよ! でも、それいいねぇ! 乗った!」
「く、くそう、くっそぉおおおおぉ!」
「あ~はっはっはっはっはぁあ! 言い様だねぇ! 最高だよ! 最高のショーだ! もっともっと絶望に満ちた顔を見せてくれよぉおおぉお!」
両手を広げ、狂気に満ちた声が眼下に広がる。
その声を聞き届け、未だ続くリンチのさなか、朦朧とした意識の中、ゼンカイは自らを悔やんだ。
わしはなぜこうも弱いのか? 入れ歯がない程度で仲間が今まさに愁いな目に合っているのに、助ける事もままならないのか? もっと自分に、もっと己に、力があれば。
そう、せめて自分に若さがあれば。70などではなく、血気盛んな精力の漲ったあの身体があれば――。
欲しい力が。欲しい若さが。皆を守れる強さが――欲しい。
「う、うぉおおぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ひっ!」
「な、なんだこのジジィから突然! ひ、光が!」
「な、何が一体、う、ぐわぁあぁあ!」
突如ゼンカイが蹶然と吠えあげ、その瞬間彼の身体から光の柱が出現し天井を打ち、強力な衝撃波が広がった。
そしてゼンカイの周りにいた男共は、一瞬にして部屋の端まで吹き飛ばされ、壁にぶち当たり人型にめり込む。
その光景に、女達に今まさに汚れたソレを突き立てようとしてた野獣共の動きも止まった。
一体何が起きたのか、エビスでさえも理解できていない。
「な、なんだと言うんだ! これは!」
エビスはその光景を視界に収めながら、ただ忌々しげに唇を噛むことしか出来なかった――。




