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第十ニ話 あぁ勘違い、て何でやねん!

「ふふん。どうじゃいミャウちゃん!」

 ゼンカイは入れ歯をはめなおし得意気にミャウを振り返る。


「うん。凄い凄い」

 軽く手を叩きながらミャウが微笑む。

 しかしあまり感動はないようだ。


 尤も事前にゼンカイの入れ歯の力は知っているので、これぐらいの実力は想定の範囲内なのであろう。

 この二体の魔物相手に某社長のような想定外があるはずもない。


「まぁわしからしてみればこんなスライム一匹如き楽勝じゃがな」

 言って高笑いを決めるゼンカイ。


「え? お爺ちゃんそれスダイムじゃなくてゴブリンよ」

 爺さんの動きがピタリと止まった。


 そしてミャウを再度振り返り。


「ゴブリン?」

と聞き返す。


「うん。ゴブリン」


「……じゃあ。あれは何じゃ?」

 ゼンカイ。完全にビビって身動き取れずにいる残党を指さし尋ねる。


「あれはスダイムね」

「スライム?」

「ス"ダ"イム」

 

 ミャウがダを強調して言った。

 どうやら言い間違いというわけでは無かったようだ。


「……」「……」

 巡る沈黙。


 すると爺さん、ズダダダダダダダダダッと猛烈な勢いで洞窟を駆けていき、

「紛らわしいんじゃ!」

と一猛し入れ歯でゴブ、もといスダイムを殴りつけた。


 こうしてスダイムは哀れ何も出来ないまま洞窟の奥へと消えていき、ゼンカイの最初の戦いは終わった。





「全くややこしいのう」

 一人ぶつぶつ愚痴を言うゼンカイだが、ミャウは不思議そうな表情でそれを見ていた。


 彼女からしてみれば長年見てきたスダイムとゴブリンなだけに、ゼンカイが文句を言う理由が判らないのだろう。

 

「まぁとにかくここの魔物は大丈夫そうね。でもさっきのスダイムへの攻撃みたいなのは褒められないかな」

 

 ミャウはそう言ってスダイムの飛んでいった方を指さし、

「あれじゃあ倒した相手がアイテムを持っていても取りにいくの大変でしょ? 出来るだけ後々の回収も考えて行動してね」

とチクリと刺をさした。


 厳しいようだが、ゼンカイが少しでも早く冒険者として成長できるように考えてくれているのかもしれない。


「な、成る程のう。おお! ならこのベタベタしとるのからも、何か手に入るのかのう?」


 ゼンカイは壁に残された染みを指さし尋ねるが、ミャウは首を横に振って応えた。


「残念だけどそいつは何も持ってないのよ。ストロボゴブリンなら、光る体液が重宝されてるけどね」


 ゼンカイは残念そうに眉を落とす。


「何じゃ、がっかりじゃのう」


「あ、でも経験値は手に入った筈よ。ステータス確認してみたら」


「おお! 経験値か!」

 ゼンカイは顔を綻ばせステータス(日本語)を唱えた。


 浮かび上がったステータスを見ると経験値が47&に増えている。


「これが100%になったらレベルがあがるから頑張ってね」

 ミャウが発破をかけるように言う。

 気持ちの現れか、頑張ってねの部分は特に語気が強まっていた。

 

 その眼差しには彼への期待も込められてるようである。……のだが、当の本人は目をぱちくりさせたままステータスを凝視し固まっている。


 彼が時折固まるのは今に始まった事では無いのだが、ぼそぼそと何か聞こえてくる。

 ゼンカイが一人何かを喋っているのは間違いないが、あまりに小さいのでミャウもゆっくりとゼンカイに耳を近づけた。


「ゴブリン……以下って……ゴブリン……」


 成る程。

 どうやらゼンカイは改めてゴブリンの正体を知ったことで、かなりのショックを受けたようだ。

 なんとも今更の話ではあるが、一応は人間タイプの魔物と、単細胞のような姿の生物とでは味わう屈辱も一味違うのかも知れない。


「だ、大丈夫よゴブリンにも知能はあるんだし」


 ミャウはフォローしてるつもりのようだが、全く慰めになっていない。


「そ、そうじゃ! 判ったぞ! わし判っちゃったぞ!」

 急に声を上げ、ゼンカイはミャウの前で興奮したように両手を上下に振る。


「判ったって何が?」


「ふふん。それは後のお楽しみじゃ」

 フレミングの右手の法則宜しくな形にした手で顎を擦り、得意気な顔をゼンカイが見せる。


「とにかく狩りの再開じゃ! 倒して倒して倒しまくるぞい!」

 

 その意気は良し。ミャウもそれに納得し更に奥へと脚を踏み入れていく。


 ミャウの言うとおり洞窟は基本一本道であった。

 ただ段々と幅が膨らんでいる感があり、ある程度進んだところではそこそこの広さになっていた。


 そしてそこで再び魔物が現れる。先ほどと同じゴブリンとスダイムである。

 但し今度は数がゴブリン三体とスダイム三体に一気に数が増えていた。


「これもいけるよね?」

 ミャウの確認に、任せんしゃい! と張り切る爺さん。


 彼女が後ろで見守るなか、魔物の群れに単身突っ込み、入れ歯殺法で次々と仕留めていく。


 ゼンカイの攻撃力にかかれば皆一撃で倒れていくので、これぐらいの数は全く問題ない。

 

 いやそれどころか爺さんはさっきミャウに言われた事をしっかり覚えていたようだ。


 殴りつけた相手が吹っ飛ばないよう地面や近くの壁に向かって叩きつけたりと工夫して戦っていたのだ。

 

 おかげで戦利品の回収も問題無さそうである。


「どうじゃ。今度はバッチリじゃろう!」

 ゼンカイは得意気に胸を叩く。


「そうね。これなら戦利品もバッチリだしOKよ。ただちょっと考えずに突っ込みすぎ。相手が弱いのは判るけど少しは考えないと」


「なんか、厳しいのう」

 少しすね気味にゼンカイが言う。


「さて、じゃあアイテム回収といきますか」

 腰に手をあてミャウが張り切った感じで言うが、ゼンカイの頭に疑問符が浮かぶ。


「しかし、回収と言ってものう。何を持っていけばいいのじゃ?」

 ゼンカイがそう思うのも仕方ないだろう。

 先程の話でゴブリンが何も持っていないのは判っているが、かと言って数体転がるスダイムを見ても特別な物を持ってるとは思えない。


「もしかしてこの服を引っぺがすのかいのぅ?」


「違うわよ。そんなの持っていっても何の価値もないし。そっちじゃなくてそ・れ」


 言ってミャウが指さしたのはスダイムの手に握られた岩の斧である。


「これかいのぅ? こんなのにそんな価値があるのかのう?」

 一つ岩斧を拾い上げ眺めるが、一見すると何も変わったところのない只の岩である。


「ぱっと見は何も無さそうだけど、その中にお金になる鉱石が紛れてる事があるのよ。必ずとは言えないけど持ってさえいけば鑑定してくれるしね」


 それを聞き、ほぉ、と感心するゼンカイ。


「さぁそれじゃあアイテムの回収の仕方教えるわね。と言っても難しくないわ、回収したいアイテムを手に持つか触れるかして【ストーレジ】って唱えるだけよ」


 ゼンカイは早速スダイムの斧を回収し、教わった魔法を唱えていく。

 因みにこれは回収するだけの魔法なので日本語と付ける必要は無い。


「全て終わったのじゃ~」

 嬉しそうにゼンカイが言う。


「そう。じゃあ今度はちゃんと送れてるか確認ね。やり方は【アイテムボックス】て唱えればステータスみたいに見えるわよ。あ、お爺ちゃんの場合は横にアレを付けても多分大丈夫ね」


 ゼンカイは言われるまま、【アイテムボックス(日本語)】と唱えた。


アイテムボックス[6/250]

スダイムの斧×3


「うん大丈夫みたいね」

「バッチリみたいじゃな。しかしこの横の数字は何じゃろか?」


 ミャウは満足そうにアイテムボックスを眺める中、ゼンカイが疑問を投げかける。


「それは容量ね。アイテムボックスも無制限ってわけじゃないのよ。容量はレベルやジョブで変わるけどね」


 その返答にゼンカイが、ほぉ~、と声を漏らす。


「因みにアイテムがどれぐらいの容量をとるかは重さや大きさで変わるから注意してね」


「了解じゃ!」

 理解したとゼンカイが自分の胸を叩いた。


「じゃあ次はアイテムの出し方を説明するわね」


 これに関してはゼンカイも何度か見ていたので何となく理解はしていたようで、ミャウの説明後直ぐに自分で試して見せる。


「【アイテム:スダイムの斧】!」


 ゼンカイが力強く唱えると右手の中にアイテムが出現する。

 ちなみにアイテム名は日本語で見たものでも問題ないようである。


「これはわしにも使えそうじゃのう」

 言って斧をぶんぶん振り回してみせる。

 ゼンカイもかなり小柄なせいか、武器のサイズにも違和感が無い。


「使えるとは思うけど入れ歯よりは弱いわよ」


 そうは言われたものの、一度気になると確かめずにいられないのがゼンカイである。


 そこで【イクイップ】で確認してみるも……攻撃力は42に下がっていた。


「しょっぱいのう……」


「だから言ったじゃない」


 仕方ないのでゼンカイは斧をアイテムボックスに戻し、ついでだからとステータスを確認した。

 すると経験値は68%まで上がっていた。初のレベルアップまでもう少しである。


「あ、そうだ言い忘れてたんだけど」

 ミャウが思い出したように視線を上げ話を紡ぐ。


「ステータスにしろアイテムボックスにしろ、心で念じる分には自分にしか見えないからね」


 にっこりと微笑んで見せるミャウ。

 だがこれは中々重要だ。

 なにせ基本知力で笑われる爺さんだ。

 出来ればステータスはあまり見せないほうが精神衛生上いいであろう。


「……見えとるかのう?」

「ううん。何も」


 どうやらゼンカイは早速試しているようだ。

 ステータスを開いているのだが確かにミャウには確認できていないようである。


 ゼンカイは納得したように頷くとミャウと二人先を急いだ。

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